インタビュー
新型4ドアスポーツカー「AMG GT 4ドアクーペ」について独メルセデスAMG サイモン・トムス氏に聞く
Eクラスでも使うMRAプラットフォームにスポーツカーの要素を落とし込むのが課題だった
2019年2月18日 12:42
- 2019年2月14日 開催
メルセデス・ベンツ日本は、2月14日に受注を開始した新型4ドアスポーツカー「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」の発表会を、メルセデスAMG専売拠点「AMG 東京世田谷」(東京都世田谷区上野毛)で開催した。
その模様は「メルセデス・ベンツ、新型4ドアスポーツカー『AMG GT 4ドアクーペ』発表会」でレポートしているが、本稿では発表会後に行なわれた独メルセデスAMG 商品企画統括 サイモン・トムス氏のグループインタビューをレポートする。
メルセデスAMG GT 4ドアクーペは4ドアの利便性、高い居住性と、高いパフォーマンス性能を両立したハイパフォーマンスセダン。直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ターボ「M256」型エンジンにISG(インテグレーテッド・スターター・モーター)を組み合わせる「メルセデスAMG GT43 4MATIC+」「メルセデスAMG GT53 4MATIC+」と、V型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボ「M177」型エンジンを搭載する「メルセデスAMG GT63 S 4MATIC+」の計3モデルを展開。
この新しいモデルの魅力や特徴などについて、トムス氏に聞いた。
われわれはヒーローのようなクルマを作りたい
――今回のメルセデスAMG GT 4ドアクーペを開発して販売するに際し、GT63 SのほかにGT43、GT53も加わっていますが、その目的や理由について教えてください。
トムス氏:アップエンドのセグメントでフルレンジの製品を紹介したというのが1つ。私たちのモデルが属する市場を見てみると、トップエンドで500PS、600PSのモデルもありますが、エントリーレベルのところも入れたいということで今回の組み合わせになっています。
DNAという面ではスポーツカーなのですが、スポーツカーを表現するのはエンジンだけではないと思います。それ以外にもさまざまな技術を加えて、本当のスポーツカーらしい振る舞いができる走行性能を提供したいと考えました。
――メルセデスAMG GT 4ドアクーペでは後席もあるということで、日常性もあるのでエントリーモデルをしっかり設けたいという解釈でよろしいですか?
トムス氏:おっしゃる通りです。
――メルセデスAMG GT 4ドアクーペで想定されているライバルと、ライバルに対してどのようなアドバンテージがあるのか教えてください。
トムス氏:4ドアスポーツカーということで、もちろんマセラティやポルシェ「パナメーラ」といったところがライバルになるかと思います。それらに対し、私たちがどのようなアドバンテージを持っているかということですが、これについては最終的にはお客さまが決めることだと思います。お客さまが自分たちに最もフィットしているものは何か、それを考えてチョイスすると思いますが、私たちには自信があります。
――今回初めて(メルセデスAMGとして)オリジナルの4ドアモデルを出したということですが、こうした商品を作るにあたって社内で議論はなかったのでしょうか。
トムス氏:われわれにはCLSというモデルがあります。このCLSですが、メルセデスAMG GT 4ドアクーペとは別のセグメントに属していると思います。GTシリーズは“真のスポーツカー”セグメントに提供するモデルで、CLSもスポーティではありますが、どちらかと言うとライフスタイルをより強調したモデルだと思います。
確かに社内でも議論はありました。メルセデスAMG GT 4ドアクーペ、CLSともに4ドアではありますが、セグメント的には間にかなり距離がある。違うところを目指しているモデルということです。
――発表会を開催した「AMG 東京世田谷」は世界初のAMG専売店ですが、この日本の拠点からAMG本社にフィードバックがあり、それが商品開発に活かされるなど、エピソードは何かありますか?
トムス氏:お客さまからのフィードバックですが、AMG 東京世田谷だけでなく世界中からいただいています。特にメルセデスAMG GT 4ドアクーペの開発にあたっては市場調査を広範囲にわたって行ないました。市場調査を行なうとともに、お客さまとフェイス・トゥ・フェイスでお話しをしてフィードバックを吸い上げました。
――今回のメルセデスAMG GT 4ドアクーペではレーシングトラックのイメージを取り入れていますが、メインとなるターゲット層について教えてください。
トムス氏:モータースポーツやスポーツカーが大好きな人、そういったものに依存していると言っても過言ではない人でしょうか。メルセデスAMG GT 4ドアクーペではドライビング性能を追求しつつ、日常の使い勝手も求めました。長距離走行が可能で、しかも1人だけでなく家族も乗せることになるので、後席で5~6時間はゆうにいられる性能を目指したのです。
メルセデスAMG GT 4ドアクーペをレーストラックで運転される方もそういらっしゃらないかと思いますが、まるでレーストラックにいるような気分になれる、そんな点を尊重しています。
――欧州などのマーケットと日本のマーケットで、メルセデスAMGに望むものやイメージというものに何か違いを感じることはありますか?
トムス氏:残念なことに日本市場にそれほど明るくないのですが、ヨーロッパやドイツにおいてメルセデスAMGは「最高のスポーツカーで成功を収める」ことを目指しています。そのイメージをお客さまも持っていただいているので、そのイメージを崩さぬことを念頭に置いて2015年のメルセデスAMG GT、今回のメルセデスAMG GT 4ドアクーペの発表をしています。
最も成功を収めるには、1つの要素として公道でメルセデスAMGのモデルを見てもらいたいというのがあります。そこを目指したから53シリーズ、43シリーズ、そして35シリーズというのがあります。競合他社ではジャガーやポルシェ、マセラティといったブランドがありますが、われわれはヒーローのようなクルマを作りたいと考えています。それがメルセデスAMG GTシリーズであり、メルセデスAMG Project ONEなのです。
――メルセデスAMG GTの2ドアと4ドアでコンポーネントが違うとのことですが、開発に際して4ドアのスポーツカーを作る難しさがあったかと思います。苦労した点や時間をかけた点などを教えてください。
トムス氏:メルセデスAMG GT 4ドアクーペはMRA(メルセデス・リアホイール・アーキテクチャ)プラットフォームを元に開発をしました。このMRAはEクラスでも使っているものなのですが、どうやってメルセデスAMG GT 4ドアクーペにスポーツカーで必要な要素を落とし込むかが課題でした。
ボディというのはドライビングダイナミクスにおいて一番重要で、強靭性を保つ必要があります。多くのブレースを入れることで強靭性が増しますが、それだけでは足りません。そのいい例がスーパーマーケットのショッピングカートで、前方に重量を集中させると動かしにくいですよね。同じ原理がクルマにも通用するのです。メルセデスAMG GT 4ドアクーペではフロント、センター、リアで使う材料が違います。フロント部では強靭性を保ちながら軽量化が必要なのでアルミを、リアのトランク部はさらに強靭性、軽量化が必要なのでカーボンファイバーを使っています。そしてセンター部には高張力鋼板を用いています。その上でさまざまなブレースを使っています。これらは3年から3年半を費やして開発を行なっています。さまざまな課題がありましたがすべて解決し、われわれは自信を持っています。
2ドアの技術を4ドアに移行するのも難しかったです。例えば「AMGリア・アクスルステアリング」(速度が100km/h以下のときは電動アクチュエーターモーターの働きでリアホイールをフロントホイールとは逆方向に最大1.3度操舵し、100km/hを超えるとリアホイールをフロントホイールと同じ方向に最大0.5度操舵)はAMGの中で4ドアに採用する予定がなかったので、2ドアからこの技術を4ドアに移行するのは大変でした。
――メルセデスAMG GT 4ドアクーペの開発にあたり、F1やDTMなど御社のワークスドライバーがテストしたりしているのでしょうか。しているとしたら、完成した車両にどのようなコメントをしていたか教えてください。
トムス氏:メルセデスAMGのスポーツカーにはレースドライバーが何かしらに関わっています。なぜならばスポーツカーがどのような感触を持つべきなのか、どのようにドライバーに反応するべきなのか、どれほどの精密性を持ったステアリングを持つべきなのか、このあたりを一番よく理解しているのはレーシングドライバーの皆さんです。
実際にドイツで有名な2つのトラックでレーシングドライバーに運転をしてもらいましたが、残念なことに私は常にその場所にいるわけではないのです。ただ非常にポジティブでいい感触のフィードバックはいただいていて、ドライビングダイナミクスという面では「とても感心した」という答えが返ってきています。
こういったレーストラックでプロドライバーたちにもちろん参加いただくのですが、すべてのメルセデスAMGモデルに対してテストするチームがあります。このチームには常に社員でありながら元プロのレースドライバーの方々が参加しています。元DTMチャンピオンのベルント・シュナイダーもメルセデスAMG GT 4ドアクーペのテストにかなり参加いただきました。