インタビュー

GT500 19号車「TGR TEAM Weds Sport BANDOH」の坂東正敬監督にオンラインインタビュー

新車GRスープラの印象や今シーズンの見どころは?

TGR TEAM Weds Sport BANDOHの坂東正敬監督

 4月も半ばを過ぎ、Car WatchにはSUPER GT 2020開幕戦の記事がすでに掲載されているはずだったが、新型コロナウイルスの影響によって開幕戦は順延。仕切り直しのスタートは7月11日~12日の岡山国際サーキット(4月23日時点)となった。

 そんな状況の中、GT500クラスの人気チームである19号車「TGR TEAM Weds Sport BANDOH」の坂東正敬監督にレーシングチームの現在の状況、そして2020年にデビューとなる「GRスープラ」の印象などいろいろうかがってみた。なお、インタビューはビデオ会議アプリ「Zoom」を利用して行なった。

SUPER GT GT500クラス 19号車「Weds Sport ADVAN GR Supra」を走らせるTGR TEAM Weds Sport BANDOHの坂東正敬監督に、ビデオ会議ツール「Zoom」を使いオンラインでインタビューを行なった

 インタビュー時刻になってPCの画面に坂東監督が登場。東京 町田市にあるレーシングプロジェクトバンドウのオフィスからの映像だ。モニタに映った坂東監督は写真のとおりの「らしい」スタイルだけに、ちょっと怖いイメージ(?)を持っている人はいるかもしれないが、実際は笑顔でいることも多い気さくな方である。

 そんな坂東監督から、インタビューに入る前にCar Watch読者に向けてメッセージをいただいた。

「今はすべての人が大変な時期だと思っています。だけどこの状態が明ける日も来ます。そしてSUPER GTも再開されるでしょうが、そのときに面白いレースをお見せできるよう僕らは今のこの時期に、身を守りつつやれることを目一杯やっていきます。皆さんもできる限りご自宅で過ごすなど、自分や家族、ご友人のことを守りながらこの時期を乗り越えてください」と語ってくれた。

新車となるGRスープラの印象

GT500クラス 19号車「Weds Sport ADVAN GR Supra」

 それでは本題。坂東監督にはいろいろと話をしてもらったのだが、やはり最初は読者も気になっているであろうGRスープラの話から紹介しよう。

 坂東監督いわく「まだ1回しかテストを行なっていない状態なのでハッキリとは言えませんが、足まわりやダウンフォースのバランスは昨年までのレクサスLCより明らかに進化しているので、期待できる仕上がりだと思いました。実は昨年までのクルマは操縦性に多少ピーキーなところがありまして、とくにコーナーのミッドから立ち上がりにかけて反応が鈍かったりトラクション不足を感じることがあったのですが、GRスープラはそれらが改善されていて、データを見る限りではマイルドな特性を持ったクルマという印象です」。

「エンジンに関してもいくつかの変更がありますが、その1つにレブリミットの引き下げがあります。去年まではターボエンジンながら1万500rpmまで回していたのですが、今年は9500rpmが上限になりました。そのため、ブーストの掛かり方やトルクの出し方に特徴があります。また、コスト削減の観点からシリンダーヘッドやブロックにおいては3年間は同じ素材を使用するという項目も追加されているので、素材選びも今までよりシビアになっているものと思われます。まあ、エンジンの詳細については僕らにも分からない部分が多いのですが、色々変わった最初の走行だっただけに、岡山テストで本来の性能は出していなかったかもしれません。本当なら富士スピードウェイでのテストもあったので段階的に考えていたとも考えられます。ただ、このことは3メーカーすべてに言えることだと思うので、今シーズンのエンジンに関してはまだ何とも言えないです」と、かなり詳しいことまで教えていただいた。

3月に行なわれた岡山国際サーキットでの公式テストには19号車も参加していたが、雨の影響が出た2日目にミスとはいえないミスでクラッシュ。前後カウルに足まわりも壊れてしまったので、テストを途中で切り上げることになった。ちなみにこのときの修理代を聞いてみたら「保険に入る前だったので2500万円くらいの出費でした」とのことだった

 続いてもGRスープラの話をお伝えしよう。Car Watchでも記事にしたように、今年のレギュレーションではGT500マシンの全車がクラス1規則に沿ったものになったのだが、この規定がレース展開やマシンの性能にどう影響するのかいまひとつ分からない。そこで坂東監督に、クラス1規則が導入されたことで状況がどうなっているかをうかがってみた。

 すると坂東監督は、「今年はトヨタ、日産、ホンダの全車に共通部品が多く使われていますが、その状況でも例えばサスペンションブラケットなどの一部の小物パーツを別途作ることは許されています。しかし、その変更はチーム単位ではなくて車両ごとでの変更に限定されているんですよね。つまり、ウチが何かを作ったとしてもそれをGRスープラを使うチームすべてがOKと言わないと採用されないのです。だけどGRスープラ勢は僕らのほかは全車ブリヂストンタイヤを履いているので、横浜ゴムでのテスト結果が受け容れられるかは難しいですよねぇ。この点については何ともいえないところです。とはいえ、開幕に備えてやれることはやっておきます。近々予定しているのが“ポストリグ”というトラックシミュレータを使ったテストです。これを使うと、実際のコースを走ったときにクルマが受ける振動やブレーキングしたときの車体の状況がチェックできるので、このあたりから始めていくつもりです」と答えてくれた。

GRスープラ勢では唯一、横浜ゴムのADVANレーシングタイヤを装着する19号車

レースがないときは何をしている?

 TGR TEAM Weds Sport BANDOHは本来なら1シーズンに公式練習やレースのほか、タイヤテストなど多くの走行をこなしているのだが、何度も書いているように今年は岡山テストしか走れていない。つまり、チームとしての活動がないわけだが、SUPER GTのレーシングチームはプロチームである。それだけに「ただのお休み」というわけにはいかないと思う。この辺は込み入った部分だと思うが、そんな話も聞いてみた。

 この問に対して坂東監督は、「どう説明すればいいか難しいのですが、同じようなことを聞かれることも多いでこの機会に書いてもらうのもいいかもしれません」と前置きしたあと、「まずはお金についてです。GT500は億の単位のお金が動くところで、レーシングチームはスポンサーさまの協力で運営をしていて、うちのチームでは1月末までにそのシーズンの契約が結ばれます。そして3月末ごろにはスポンサー料の半分くらいはいただけている状態ですが、レースがなければ宣伝効果はありません。そこで契約にはレースが成立しない場合、いただいたスポンサー料のいくらかを返金するようなことについての決めごともあるのです。だから、レースがないのはチームにとって厳しい状況なんです」というちょっとシビアな話だった。

GT500クラスは億の単位のお金が動く世界なので契約もシビア。坂東監督はチームオーナーでもあるので、そういった部分も自身でこなしている

 現状についての話は続き、「今はレースだけでなくて各種テストもすべて止まっているので、メカニックは本来の仕事がありません。僕のチームでは協力メカニックは2名のみで、あとは社員のメカニックなので仕事がないという状況はまずいです。そこで、工場には例年なら協力会社に依頼するようなボンネットスタンドやサインボート、ピットテントなどの小物類の製作をやってもらいました。今シーズンはチーム名も変わるため新しくするものが多いですからね。それに夏からレースが開催となるとスケジュールがタイトになるので、使用頻度の高いインパクトレンチや給油タワーなど主要な道具のメンテナンスも徹底的にやってます」。

「さらにサーキットへクルマや道具を運ぶトレーラーも、内装などのメンテナンスもやりました。このように、こまごまとやることはあったのですがそこはGT500のメカニック、大抵の作業はすぐに終わらせてしまいます。そこである企業さんのデモカー製作の仕事をいただいてきて工場に渡したのですが、朝の10時ごろに入庫したのに13時ごろには完成しているんですよ。作業箇所が結構あったのにすぐに終わらせるのは流石なんですが、続く仕事がないのが困りものですね」とリアルな状況を教えてくれた。

レーシングプロジェクトバンドウの工場での1カット

7月の開幕戦、どんな展開になる?

 さて、予定どおり5月に非常事態宣言が解消されれば、7月の岡山国際サーキットからSUPER GTが始まるのだが、坂東監督いわく「暑い時期の岡山はどのチームも経験したことがないし、テストもできません。それだけ誰にも展開が読めないです。それに、岡山だけでなくほかのレースも開催時期がずれているので、すべてにおいてデータ不足だと思います。また、夏以降はSUPER GTだけでなくスーパーフォーミュラなども始まりますが、両方のレースをやっているチームのスケジュールはかなり大変なことになるでしょう。エンジニアはレースが終わったあとにじっくりデータを分析したいでしょうが、時間の余裕はないと思います。マシンや機材もトレーラーから積んだり降ろしたりの繰り返しになるでしょう。まあ、ウチはウチで大変なところもありますが、ほかのチームもそれぞれに大変だと思うので、そんな中でどう戦っていくのかを見ることも面白いシーズンになると思いますよ」とのことだ。

今年のSUPER GTは展開が読めないという。チームやドライバーにとっては相当厳しくなるが、ファンには見応えのあるシーズンになりそうだ

 また、まだ確定ではないがSUPER GTの海外戦がカレンダーの最後に設定されていることについては、「いや、これも難しいです。寒くなるほどエンジンパワーが出せるようになるので11月のもてぎに向けて仕上げも進むでしょうが、そのあと暑い国でのレースです。これをどうするかですね。それにレギュレーションでは年間に2基のエンジンを使えるのですが、どこで2機目を投入するかの判断も難しいです。あと、海外が後半に来るということは、もてぎはウエイトを積んでレースすることになって、最後のセパンがノーウエイトと言うことですよね、しかもナイトレース。そんなのどうなるかまったく分かりません」とコメント。チーム関係者にとっては頭の痛い問題だろうが、われわれファンにとっては“楽しみが増えた”と思わせる状況を語っていただいた。

クルマ趣味を盛り上げることが「バンドウ」の役目

 シーズン中のイベントスペースで開催されている監督トークショーでも人気の坂東監督だけに、話を聞いていると時間が経つのを忘れてしまうが、そろそろ締めに入ろう。

 坂東監督と言えばレースだけでなく市販車カスタマイズの世界でも有名な存在で、もう1つの会社である坂東商会では86のチューニングカーを作ってタイムアタックなども行なっているし、スープラ(市販車)のカスタマイズも始めているが、これは商売目線からのことではない。

 坂東監督は「アフターパーツを使ってストリートカスタム(チューニング)を楽しんでいる人にもSUPER GTの世界を知ってもらいたいし、SUPER GTファンにもアフターパーツを使うカスタマイズの魅力を知ってほしい」という想いを以前から持っている。そんな坂東監督がいるから、19号車には幅広い層のファンがいるのだろう。

自動車部品の卸業をメインとする有限会社坂東商会も坂東監督の会社だ。アフターパーツを使ったクルマ趣味を盛り上げるため、デモカーを製作して情報発信やタイムアタックなども行なっている

 さて、SUPER GT関連の記事としてはかなり異色の内容になったが、ここまでのことを教えてもらえるとレースに詳しくない方でも興味を持って読んでもらえたと思うし、SUPER GTファンの方にも「濃い話」がお届けできたと思う。そしてなにより、これからスタートする2020年のSUPER GTが今まで以上に楽しみなものになったのではないだろうか。冒頭にも書いたように「開幕まではもう少しの辛抱を」である。そして開幕したときには、坂東監督が率いる「TGR TEAM Weds Sport BANDOH」の19号車にもぜひ熱い声援を送っていただきたい。