試乗インプレッション

アウディの生まれたドイツで、日本未導入の「RS 4 アバント」「R8 V10 RWS クーペ」を堪能

アウディ スポーツが手掛けた、ハイパフォーマンスでも乗りやすい2台

2018年初頭にドイツで発売された「RS 4 アバント」

見るからに速そうなRS 4 アバント

 お伝えしたマン島での「TT」のフェイスリフトモデルに続いて、ドイツに渡りドライブしたのは、いずれも日本にまだ導入されていない、クワトロ社の後継となるアウディ スポーツが手掛ける珠玉のハイパフォーマンスモデルである。

 うち1台は「RS 4 アバント」だ。ベースとなる「A4 アバント」が現行のB9型に移行したことを受けてのもので、RS 4 アバントとしては4世代目となる。本国では2018年初頭より販売されており、日本への導入は2019年の第1四半期を予定しているという。なお、RS 4のセダンは本記事掲載時点ではまだ本国でも設定されていないというのも興味深い。

 RS 4 アバントは、まず見た目からして特別感に満ちている。いかにも効きそうな各種エアロパーツはもちろん、30mmワイド化されたブリスターフェンダーは、ノーマルながら見事にツライチで、クリアランスがつめられていることも印象的だ。現行A4 アバントはもともとシャープに見えるところ、よりシャープさが強調され、スポーティかつ精悍なイメージを見せていて、各部に配されたカーボンパーツもよりそれを引き立てている。ワゴンながらタダモノではない雰囲気をプンプン漂わせ、見るからに速さを想起させるその姿は遠目にも存在感がある。

RS 4 アバントのボディサイズは4781×1866×1404mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2826mm。数値はいずれも欧州仕様。標準のホイールサイズは19インチ(タイヤサイズは265/35)となり、オプションで20インチ(タイヤサイズは275/30)にも変更可能
水平基調のインテリアでは、ステアリングホイールとシフトゲートに「RS」のオーナメントを装着。メーターパネル部分には、カラーディスプレイに各種情報を表示可能な12.3インチの「アウディ バーチャルコクピット」を採用

 そして、エンジンフードを開けると、エンジンルームの中まで見栄えよくしっかりデザインされていることにも驚いた。インテリアもいわずもがな。これまたカーボンパネルを随所にあしらった、上質でスポーティな空間が構築されている。バケット形状のシートの着座感も申し分ない。

最高出力331kW(450HP)/5700-6700rpm、最大トルク600Nm(442.5lb-ft)/1900-5000rpmを発生するV型6気筒DOHC 2.9リッターツインターボエンジンを搭載。トランスミッションは8速AT(8速ティプトロニック)を組み合わせる

格段に向上した快適性

 エンジンが、これまで2世代にわたり搭載されていた自然吸気のV型8気筒 4.2リッターから、新たにV型6気筒 2.9リッターツインターボへと変更されたのが4代目RS 4 アバントの大きなポイントだ。組み合わせられるトランスミッションはティプトロニック、すなわちトルコン8速ATで、試乗車にはリアにスポーツデファレンシャルが装備されていた。

 最高出力は450HPに達しており、600Nmの最大トルクを1900-5000rpmというワイドな回転域で発生するだけあって、その瞬発力は相当なものだ。どこから踏んでもついてくるリニアなレスポンスが気持ちよく、そのままトップエンドまで勢いをまったく衰えさせることなく吹け上がる。さすがは0-100km/h加速が4.1秒というだけのことはある。それでいて平均燃費は従来比で17%向上し、100kmあたり8.8Lを達成しているのもたいしたものだ。

 さらに印象的なのが、走行性能はもちろん快適性がかなり高いことだ。今回はアウトバーンとドイツのカントリーロードをそれなりに長い距離を走ったのだが、正確無比なハンドリングと速度感がマヒするかのようなスタビリティの高さは、さすがはアウディのRSモデルというほかない。従来のRSモデルは性能が高い半面、快適性がいささか損なわれている感があったのは否めないところ、4代目は両方を見事に両立していることに大いに感心させられた。

 ドライブモードを変更するとクルマの性格は激変し、いざとなればサーキットを本気で攻めるような走り方にも十分に応えてくれる。もともと迫力あるエキゾーストサウンドも、さらに猛々しいものとなる。

 もちろん、アウディのアバントとしての優れた利便性を身に着けていることはいうまでもない。そんな日常から非日常まで、どんなシチュエーションでも理想的なパフォーマンスを発揮する柔軟性をも身に着けているのが、最新のRS 4 アバントである。

アウディの市販車初の後輪駆動車

4輪駆動の「R8」を後輪駆動にした「R8 V10 RWS クーペ」

 もう1台ドライブしたのは、クワトロであることが大きな特徴の1つである「R8」をあえて後輪駆動化した「R8 V10 RWS クーペ」だ。ただし、「R8 V10 RWS スパイダー」ともども、それぞれ999台が限定生産される予定となっているが、残念ながら日本への導入予定はないようだ。

 同モデルは、スポーツドライビングの楽しさを追求するユーザーに向けて、ミッドマウントされたエンジンと後輪駆動を組み合わせることで、レーシングカーのドライビングコンセプトを移植したロードカーとして企画されたものとなる。前輪を駆動させるための機構を廃したことで、車両重量は通常のクワトロのR8 V10 クーペに対し、50kgの軽量化を実現している。

 マットブラックでペイントされたシングルフレームグリルや前後のエアアパーチャーのほか、オプションの赤いフィルムがレーシーなムードを強調している。

 最高出力は「PLUS」ではないクワトロモデルと同じ540HPを発生し、0-100km/h加速は3.7秒と、クワトロモデルの0.2秒増となり、最高速は320km/hを誇る。

R8 V10 RWS クーペのボディサイズは4426×1940×1240mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2650mm。数値はいずれも欧州仕様。ホイールは5スポークのVデザインを採用したブラック仕上げの19インチ鍛造タイプを標準装備して、フロントには245/35サイズのタイヤを、リアには295/35サイズのタイヤをそれぞれ組み合わせる
R8 V10 RWS クーペは「R8 V10 RWS スパイダー」とともに999台限定の生産となり、ダッシュボードにはシリアルナンバーを刻印したエンブレムを装着。シートはレザー/アルカンターラを組み合わせたスポーツシートのほか、オプションでバケットシートも用意される
ミッドマウントされるV型10気筒DOHC 5.2リッター直噴エンジンは、最高出力397kW(540HP)/7800rpm、最大トルク540Nm(398.3lb-ft)/6500rpmを発生。トランスミッションには7速AT(7速Sトロニック)を組み合わせる

 R8はこれまでたびたびドライブしているが、ドイツ本国で乗るのは初めて。アウトバーンで全開加速を試みると、R8 V10 RWS クーペでもやはり、その目の覚めるような強力な加速感がまず印象的だ。そしてクワトロモデルに比べると、やはり軽さを感じる。後輪駆動化によりトルクステアとは無縁となったステアリングは、より軽快な回頭性をもたらしている。

 今回は公道のみで試乗したが、特別にチューニングされたシャシーセットアップにより、ドリフトコントロールもより容易になっているとのことで、機会があればぜひクローズドコースで思いっきり振り回してみたいものだ。

 そんなアウディ スポーツが手がけた2台は、ハイパフォーマンスを誇りながらも極めて乗りやすく、快適にドライブできたことも印象的だった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。