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日下部保雄の「Audi Sport Days 2017」でアウディ「R8」と「TT RS」をドライブしてみた

富士スピードウェイ 国際レーシングコースなどを使って開催された「Audi Sport Days 2017」

 アウディは8月7日、前日にSUPER GT第5戦「FUJI GT 300km RACE」を終えたばかりの富士スピードウェイにおいて、ユーザー向けイベント「Audi Sport Days 2017」を開催した。このイベントは、富士スピードウェイの国際レーシングコースやショートコースを使用して、Audi Sportを代表するアウディ「R8」や「TT RS」をユーザーに体感してもらおうというもの。

 R8は約1.5kmのメインストレートを持つ国際レーシングコースで試乗でき、TT RSはテクニカルなショートコースで試乗できるようになっていたほか、アウディの先進安全技術なども体験できるようになっており、Audi Sportの持つスポーツ性能を理解できるようになっていた。本記事ではイベントのハイライトとなっていた国際レーシングコースでのR8試乗、ショートコースでのTT RS試乗の模様をモータージャーナリスト日下部保雄氏のレポートによってお届けする。

ピットにずらりと並ぶR8。本イベントのためにドイツから空輸されたもの
ドイツ本国仕様ということで左ハンドル車

富士スピードウェイ 国際レーシングコース R8試乗

国際レーシングコースをR8で走る

 シンプルなコックピットドリルを受けた後、スタッフがエスコートしてくれたアウディR8 Plusのドライバーズシートに滑り込む。大きなドアは乗降性がよく、低いシートにも入りやすい。各種スイッチの確認をし、ステアリングスポーク右に装着された赤いスイッチでエンジンを始動し、軽く暖気をしてからペースカーに続いて雲が低くなってきた富士スピードウェイの国際レーシングコースに乗り入れる。

 背中側で粛々と回る自然吸気 5.2リッターV型10気筒エンジンは、滑らかに中速回転域を保つ。高い静粛性と振動の小ささでなかなか心地よい。とてもこれが610PS/560Nmのパンチを秘めたモンスターエンジンだとは信じられない。90度のVバンクを持つドライサンプエンジンはリアエンジン車のハンドリングに大きな影響を与える重心高の位置を極力下げることに成功して、極めて高い安定性に寄与している。アルミとカーボンで構成されたR8の頑強なフレームは僅か200kgに抑えられており、極めてガッチリしていながら軽量の車体で0-100km/hをわずかに3.2秒で走り切る。

コクピットへ乗り込み、多機能なステアリングホイールを操作

 最初の1周目は軽くR8と富士スピードウェイの相性を見ながらラップし、次第に上がるペースカーの速度についていく。許されている都合4ラップの周回は貴重だ。

 ステアリングスポーク左に付いているマルチファンクションスイッチはドライブセレクトやパフォーマンスモードを選べる。今回はESCをOFFにするパフォーマンスモードは禁止されていたので、こちらには触らないことにする。もっともOKと言われてもOFFにして全開で走らせる勇気はないが……。

 最初はコンフォートで走るものの、結構早いペースでラップを重ねるペースカーについていく限りはコンフォートモードで不足はない。R8は気持ちよく100Rやストレートをグングンと駆け抜ける。ステアリングギヤレシオは早く、少ない操舵量でタイトターンもスッと旋回していく。

 R8はアウディの生産車技術の頂点に立つモデル。当然駆動方式はクワトロ、4輪駆動システムだ。駆動力配分は0:100から必要に応じてフロントに駆動力を配分するシステム。R8は極めて素直なハンドリングを持ち、フロントが引っ張れるようなFF的な動きを感じることはほとんどない。かといってミッドシップのカミソリの歯の上を渡るような緊張感も皆無で、いたってイージードライブが可能だ。タイトコーナーの出口でアクセルを強めに踏んでも後輪が滑り出す気配は微塵もなく、かといってフロントがアウトに押し出されるような感触もなく、ニュートラルな姿勢のオン・ザ・レール感覚でラインをトレースする。

 ドライブセレクトをダイナミックにするとダンパーが一段と硬くなり、シートとハンドルを通じて路面からのフィードバックがダイレクトになる。かなりレーシーな感覚になり、ロール姿勢も一層フラットに近い。やはりサーキットではダイナミックモードが相応しく、ちょっと嬉しくなる。

 ちなみにR8のスタビリティは極めて高く、ESCのインジケータが激しく点滅することはなかったし、4輪はしっかりとグリップ力を失わない。100Rはもちろん、300Rの超高速コーナーもパフォーマンスの高いR8ではチャンとした“コーナー”として認識される。ピタリと路面に吸い付くというよりも“クルマ”らしく、若干のヨーイングを伴う挙動を示し、最小限の緊張感は必要だが、とてもリラックスしてサーキットドライブを楽しめる充分な余裕がある。

 どこまでも伸びていくストレートは250km/h程度でアクセルを戻すよう無線で指示が飛ぶ。1コーナーはカーボンメタルの強力なブレーキでしっかり減速する。約1.7tのR8は確実に正確に減速することができる。高速ではもう少しフロントのダウンフォースが欲しくなるが、不安定になる兆候はない。ちなみにセンターコンソールにあるスポーツに入れると、エキゾーストノートが変わり、レスポンスもシャープになる。このくらいのパフォーマンスになると2ペダルの7速Sトロニックはステアリング操作に集中できるのでありがたい。あちこちスイッチを触っているうちにあっという間に4ラップは終了してしまった。

アウディ ジャパン株式会社 代表取締役 斎藤徹氏からの挨拶
インストラクターの説明
レジェンドドライバーであるエマニュエル・ピロ氏も登場

 ピットに帰ってきたら、アウディにとってもレジェンドドライバー、エマニュエル・ピロ氏が人懐っこい笑顔で待っていた。ル・マン・ウィナーであるだけでなく、数々の世界選手権に優勝したまさにヒーロードライバーだ。アウディがいかにAudi Sportというブランドに力を入れているか分かるというものだ。

 ピットにはS耐などのカスタマーチームに販売される「Audi R8 LMS GT4」も展示されており、モータースポーツでのプライベートサポートを鮮明にしている。

ピットに展示されていたAudi R8 LMS GT4。SUPER GT 第5戦富士に合わせて日本で発表された
Audi Sport performance partsを装着したR8。各種パーツによってR8 LMS GT4の同様のパフォーマンスイメージを市販のR8に加えることができる

富士スピードウェイ ショートコース TT RS試乗

ショートコースを走行するTT RS

 さて、ショートサーキットでTT RSを堪能した。約10分間のペースカー付きのドライブだが、それなりに速いペースを維持されており、こちらもサーキットドライブを楽しめた。R8同様、各コーナーを全開で攻めることなどできないし、そんな意思もないが、TT RSの一端を味わうには十分だ。

Audi Sportを代表する車種となるTT RS
400PS/480Nmを発生する2.5リッターの直列5気筒TFSIエンジンを搭載。RS専用機能が追加された最新のバーチャルコックピットを装備する

 こちらでもドライブセレクトはオート、コンフォート、ダイナミック、インディビジュアルと選択でき、それぞれに違いをトライしてみた。コンフォートとダイナミックとは明らかに異なり、前者でもTT RSらしいアグレッシブな走りとクワトロの安定性を感じながらコーナーをクリアできたが、ダイナミックではメリハリの効いたドライブが可能で、レスポンス、ギヤセレクトなどサーキットに相応しいカッチリ感があって楽しい。ダイナミックではトランスミッションはマニュアルセレクトになるが、タイトコーナーではパドル操作がややこしくなる。シフトレバーで操作すればよいのだが、つい慣れたパドルに手が行く。もし面倒ならオートモードがよい。シャープではないが適時合わせてくれるイージーモードは守備範囲が広い。TT RSはR8ほどの回頭性は持たないが、クワトロのグリップ力と“ハコ”の面白さを堪能できた。

 この日はほかに安全体験コースなども用意されており、ダイナミックな安全性とパッシブな安全性を体験させてくれるプログラムも用意されていた。

 これまでアウディのパフォーマンスカーブランドを引っ張ってきた「quattro GmbH」は2016年12月1日に社名を「Audi Sport GmbH」に変更。Audi Sportの躍進は当分続きそうだ。