試乗インプレッション
ニュル市販車最速を樹立したランボルギーニ「アヴェンタドールSVJ」をエストリルサーキットで試す!!
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2018年10月19日 00:00
ランボルギーニ「アヴェンタドール」の追加モデルで、900台限定生産の「アヴェンタドールSVJ」が発表された。現在アヴェンタドールの車種展開には、「アヴェンタドール S クーペ」「アヴェンタドール S ロードスター」がラインアップされている。そこに新しくアヴェンタドールSVJクーペが加わったわけだ。
アヴェンタドールの初期モデル「LP700-4」は、V型12気筒エンジンを搭載した「ムルシエラゴ」の後継車として2011年に発表された。ハイライトはフルカーボンコンポジットの軽量で強固なモノコックだ。その翌年の2012年に袖ヶ浦フォレストレースウェイでの試乗会に参加した。
まず目についたのがF1マシンと同じ前後プッシュロッド式のダブルウィッシュボーン式サスペンション。プッシュロッド式とは車輪の上下動(トラベル)を1本のロッド(棒)を介してスプリング&ダンパーユニットに伝達するシステム。メリットはスプリング&ダンパーユニットが車体内に納められるのでサスペンションまわりがスッキリし、ホイールハウス内の空力がよくなる。アヴェンタドールではアンダートレイやフェンダーサイドの空力を整えるのに大きく貢献しているわけだ。また、プッシュロッドはスプリングレートやダンパー減衰をそのままに、車高を変更することが容易というメリットもあり、レーシングカーに多く採用されている。アヴェンタドールにその機能は持たせていないが、オプションであってもいいように思う。サーキットでのセットアップに幅ができるからだ。
このとき試乗したアヴェンタドールの初期モデルは、サスペンションのフィーリングが思いのほかソフトでストロークを重視したセッティングだった。ソフトだけれどもS字コーナーのような切り返しでは遅れもなく、次のコーナーアプローチへの姿勢ができあがっていた。しかも、ブレーキングで車体がしっかりと沈み込み、袖ヶ浦フォレストレースウエイの短いストレートで200km/h近くをあっさり記録するV12の加速力と自然吸気エンジンのサウンドに酔いしれながら、その速度からのブレーキングがとても安定していたことが印象的。サスペンションがソフトでもグリップ感が高く、思い通りのライントレース性があることにも感心した。
その後、「LP720-4 50°アニヴェルサリオ」「LP700-4 ピレリ・エディション」「LP740-4 スーパーヴェローチェ」「LP700-4 ミウラ・オマージュ」とスペシャルモデルがリリースされ、2016年に新世代モデルの「LP740-4 アヴェンタドール S」が発表された。
アヴェンタドール Sをサーキット試乗したのが2017年。こちらはメルボルン(オーストラリア)から2時間ほどのフィリップアイランドサーキットだった。アヴェンタドール Sのトピックは今回も採用されている後輪ステア(操舵)の「LRS(Lamborghini Rear-wheel Steering)」が採用されたことだ。つまり4輪駆動+4輪操舵になったということ。サーキット走行とは別に、パイロンで仕切られたカートが走るようなコースを切り返すことなくスイスイと曲がるアヴェンタドール Sの運転しやすさが印象的だった。また、V型12気筒 6.5リッターエンジンは、レブリミットが+150rpmの8500rpmとなり、+40PSの740PSにパワーアップ。最大トルクはそのままの690Nmだ。ハルデックス電子制御式の4WDシステムのトラクションにより、0-100km/h加速はなんと2.9秒。驚くほどの加速力だ。
ニュルブルクリンク市販車最速記録は伊達じゃない!
さて、本題のアヴェンタドールSVJだ。ニュルブルクリンク(北コース)のラップタイムで市販車最速となる6分44秒97を打ち立てたことはご存知の方も多いと思う。まず、エンジンが強化されてさらに加速力が増し、0-100km/h加速は2.8秒に進化。そのパワーはチタン製インテークバルブなどの採用で770HP/8500rpm、720Nm/6750rpmに高められた。乾燥車重はモノコックを含めたフルカーボンゆえの1525kg。パワーウェイトレシオはなんと2.0を切る1.98kg/HP。凄まじいのは0-200km/h加速が8.6秒で、0-300km/h加速は24.0秒なのだ。トランスミッションは乾式ダブルプレートクラッチの7速。よくあるツインクラッチ式ではなく、シンプルなシングル式だ。このため、シフトショックは若干大きい。それでもこの加速タイムを記録するのだから、パフォーマーとして強烈だ。前後重量配分は43:57と理想的。
試乗会場となったのはポルトガルのエストリルサーキット。過去にF1スペイングランプリが開催されたサーキットだ。では、走り出そう。シートはリクライニング可能なスポーツシートと、サーキット用のバケットタイプの2通りがチョイスできる。今回ボクが試乗したモデルはカーボンのバケットタイプ。小柄なボクにはやや大きめだが、剛性が高くサポート性はよい。インテリア全体と同じで表皮の素材を含めた質感が高く、座り心地がサーキット用バケットとは思えないほど。
試乗は、同じアヴェンタドールSVJを駆るインストラクター車によるマンツーマンの引っ張り。追従のペースを上げればインストラクターもレベルを上げてくれる。まず3つあるドライビングモードの「ストラーダ(ノーマル)」のATモードで走る。シフトのアップダウンには少し間があるが、全体的にスムーズで気になるほどではない。これは市街地モードなのだから。
走り始めて感じるのはサスペンションがハードになったこと。アヴェンタドール Sでもそれは感じていたが、より足まわりに剛性感がある。アンチロールバーの剛性がアヴェンタドール スーパーヴェローチェよりも50%上げられているのだ。また、オイルに金属粉を混ぜて電気磁石のオリフィスでコントロールするダンパーの「磁気レオロジーサスペンション(LMS)」は、その減衰力範囲を15%向上しているとのこと。さらに、タイヤは専用開発されたピレリ製「P ゼロ コルサ」(フロント255/30 ZR20、リア355/35 ZR21)が装着されている。
続けて、残り2つの走行モードである「スポーツ」「コルサ」を使って2回目を走ることにした。まず、スポーツモードでは「ウラカン」ほど“リアハッピー”にはならないが、4WDの前後コントロールがややリア寄りになり、サスペンションも締まったフィーリングに変化。ただし、ここエストリルサーキットは数日前に路面を敷きなおしており、スムーズでフラットな路面だが新舗装路面にありがちなオイリーで滑りやすい状態。このため各コーナーでアンダーステアが多発。
そこで、サーキットモードともいえるコルサモードに切り替える。モードの切り替えは走行中も可能。スポーツとコルサの違いの1つにギヤシフトがある。スポーツモードはレブリミットまで回すとオートシフトアップするが、コルサは全てドライバーの動作を優先するので、ドライバーがシフト操作をする必要がある。また、シフトチェンジそのものも若干速くなる。意外なことにこのエストリルの路面では、コルサモードの方が走りやすい。意外というのは、ランボルギーニのスポーツモードはドリフトなどファンツードライブを楽しむモードで、レスアンダーステアなセットなのだ。
これに対してコルサモードはサーキットでタイムを出すことを目的としているため、スポーツモードに比べてアンダーステア寄りのはず。しかし、実際は違った。コルサモードの方がレスアンダーステアでターンイン(コーナー進入)でのフロントの追従性が高い。どんどん加速してクリアする高速の最終コーナーでは、アクセルを踏みすぎてアンダーステアになっても、少し戻してやるとリアがスライドして狙ったラインに戻してくれる。そのスライドは、オーバーステアになっているのだが、実にグリップ感のあるスライドで、安心してコントロールができる。だから、高速コーナーに気持ちよく飛び込めるのだ。
このコーナリングの妙を支えているのが「ALA(アエロダイナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ)」だ。これは前後に装着したフラップを開閉して空気の流れをコントロールし、高ダウンフォースと低ドラッグを切り変えることのできるランボルギーニが特許を持つエアロシステム。
ALAは「ウラカン ペルフォルマンテ」で初めて採用された。ウラカン ペルフォルマンテはイタリアのイモラサーキットで試乗したので感覚は残っている。その時のシステムよりも進化して、今はALA 2.0となっている。ペルフォルマンテとの大きな違いは、リアエンジンフード上に開けられたリアウィング用の空気吸入口がペルフォルマンテでは左右に1つずつ開けられていたが、アヴェンタドールSVJではセンターに1つ、しかも大きな吸入口となっている。これによってエアをホールドするボックスを大きくでき、ラム圧を含めたエアボリュームが40%増えている。では、このボックスは何のためか? これは、リアウィング下面にスリット状の隙間があり、ここから取り込んだエアを放出するのだ。スリットは左右に分かれていて、左右両方からとどちらか片側だけ、あるいは全く放出しないというコントロールができるようになっている。
また、フロントエアロにはフラップがこれも左右にあり、閉じたり開いたりする。よく見ると、フロントエアロはこれまでにないアグレッシブな形状で、このフラップが閉じた状態だと強いダウンフォースを発生する。しかし、ALAが作動するとこのフラップが開き、ため込んでいたエアが下面へと流される。同時にリアウィングからもボックス内のフラップが開きエアが放出。これによってダウンフォースは減るが、ドラッグ(抵抗)が減少して加速がよくなるのだ。このシステムは、ダウンフォースの必要なブレーキングでは作動せず、コーナー立ち上がりやストレートでは作動して加速力を手助けする。システムは異なるが、ちょうどF1のDRS(ドラッグ・リダクション・システム)を思い浮かべていただきたい。
ただし、DRSにもできないギミックがALAにはある。それがエアロベクタリングだ。リアウィングの左右のスリットから放出されるエアを、左右別々にコントロールできるのだ。つまり、リアウィングの半分には高ダウンフォースを発生させ、残りの半分は低ダウンフォースにする。例えば左コーナーを旋回しているときにはリアウィングの右側からエアを放出して低ダウンフォースに。逆に左側を高ダウンフォースにして、よりコーナリングのイン側となる左リアタイヤに荷重を掛けることができ、次元の高いコーナリングを達成するというもの。ボクが過去に戦った左回りのインディ500では、左側のフロンウィングを立てて左フロントのタイヤグリップを上げたりもした。
ALAではこれらを自動で行ない、前後フラップの開閉は500mm/sec以下という速さで作動する。ALAの動作状況はメータパネル左下の表示モードを変更することでリアルタイムで確認できるが、とても見ている暇はなかったので、車載カメラで撮影した。
これらのALA、LRS、4WD、LMSなどのを制御するシステムが「LDVA2.0(ランボルギーニ・ダイナミカ・ヴィーコロ・アッティーバ)」で、こちらの進化も見逃せない。
改めてエクステリアを眺めると、フロントエアロは堀が深くエアを溜め込むデザインで、ALAが閉じているときには上方へ抜ける大きめのスリットが左右に2つ。リアエンドはエキゾーストが高い位置にセットされ、これもエンジンに近づいたぶん軽量化に貢献。アンダーパネルにボーテックスジェネレーターを配すなど、相当空力に拘ったディティールだ。
ほかに、エクステリアではマットカラーが追加され、ホイールやブレーキキャリパー(フロント6ピストン、リア4ピストン)は2色から選べる。特にインテリアではさまざまな組み合わせが可能で、イタリア国旗の3色の糸を使ったクロスステッチは、アヴェンタドールSVJだけのオプションでとてもお洒落。カスタマイズレベルはSVJがランボルギーニ車の中でイチバン高いのだという。
値段は高いが、その高次元なパフォーマンスとクオリティ。このクルマのオーナーになれる900人(+スペシャルモデルの63人)とは、どのような人なのだろう?