試乗インプレッション

純正アクセサリーメーカーらしい高い完成度でファニーな世界観を表現したホンダアクセス「S660 Neo Classic」

 本田技研工業のマイクロスポーツカー「S660」をベースにした楽しいスポーツカ―が誕生した。作り上げたのはホンダの純正アクセサリーを一手に引き受けるホンダアクセス。主としてカーナビなどで有名だが、モデューロなどのクオリティの高い機能部品を組み込んだコンプリートカーやサスペンション、エアロなどのパーツ類も販売している会社である。

 今回紹介するのは、ホンダアクセスとしては初めてS660の外装に大幅に手を入れた「S660 Neo Classic」。2016年の東京オートサロンでコンセプトカーとして発表され、カスタムカー部門のグランプリを獲得した「S660 Neo Classic Concept」を量産化したものだ。発表されるや強い反響があり、社内でも実車化への検討が進み、2017年の東京オートサロンではその量産試作車「S660 Neo Classic Prototype」が展示された。

 カスタマイズ化は社内の若手を中心に、デザインは山田デザイナーの手により進められた。山田デザイナーは、東京オートサロンでホンダアクセスのブースに展示されたヴェゼルのショーモデルも手掛けている。

 S660 Neo Classicの開発理由は「最近丸目ヘッドライトのホッとするクルマがないネ」ということから始まり、シャープなS660をベースにして自分たちの思い描くスポーツカーを作ってみようということだった。

 オートサロンで展示された最初の試作車は、フレームまで切った張ったの世界だったので、これをボルトオンで可能にするまで1年半の歳月が必要だった。実際の販売はホンダの中古車販売を手掛けるホンダユーテックが全国に展開するオートテラス店の3店舗で行なわれる。

 基本的にはユーテックに入庫してくるユーズドカーのS660をベースにして、S660 Neo Classicの外装パーツ「S660 Neo Classic KIT」を組み込んで販売されるが、もちろん自分のクルマをユーテックに持ち込んでNeo Claasic仕様に仕上げることも可能だ。

 実際のパーツは樹脂にガラス繊維を練り込んだFRPで製作され、フロントマスク、前後バンパー、ボンネットフード、ヘッドライト、左右フロントフェンダー、左右リアフェンダー、リアコンビランプ、エンジンフード、ルーフスポイラーで構成されている。ドアとガラス類を除いてオリジナルの外装パーツは使わない。購入できるS660 Neo Classic KITはコンプリートパッケージのみとなり(修復時は別だが)、部品ごとのバラ売りは行なわれない。

 メカニズム部分の変更はなく、機能的にはまったくノーマルのS660とは変わらないので、保証内容は純正に則ることになる。S660 Neo Classic KITの外装パーツに関する保証はホンダアクセスで行なう。

「S660 Neo Classic」。外装パーツのキット販売価格は129万6000円

どこか懐かしく、そして新しい第一印象

 以前、東京オートサロンで見たS660 Neo Classic同様に輝くばかりのレッドに塗装されてやってきたそのクルマは、やはり新鮮で心動かされる。第一印象はどこか懐かしく、そして新しい。1960年代のスポーツカーをイメージさせるようなところもあり、遠目に見ても存在感がある。クオリティはさすがに純正アクセサリーメーカーだけのことはあり、高い完成度を持っている。パネルの合わせ目やFRP型の正確さは群を抜く。

 テストドライブは好天に恵まれたので、ロールトップは畳んでフロントフード下の収納箱に納めて、オープンドライブを楽しむことにする。

 パワートレーン系、サスペンション系はノーマルのままなのでS660の信頼性をそのまま受け継いでおり、コックピットに入ってしまうと景色はまったく変わらない。インテリアのコーディネートパーツもあると面白いと思ったが、先鋭的なS660のコックピットもS660 Neo Classicのエクステリアを見てから乗り込むと、なんとなく柔らかい雰囲気になるから不思議なものだ。

今回の「S660 Neo Classic KIT」は外装パーツのみで、インテリアはベース車から変更なしだが、一新された外観のイメージから柔らかい雰囲気を感じさせる。試乗車に装着されているシートはデビュー限定車「S660 CONCEPT EDITION」で採用された「アシンメトリーカラー」で、そのほかにもメーカーオプションの「センターディスプレイ(スマートフォン連携ナビ対応オーディオ)」やホンダアクセス製の「スカイサウンドスピーカーシステム」などを装着している

 3気筒の0.66リッターターボはホンダ・スポーツカーのエンジンらしく7500rpmのレッドゾーンまできれいに回り、トルクもたっぷりして街乗りでも乗りやすい。試乗車は節度感のある気持ちのよい6速MTだが、ベース車にATを選ぶこともでき、その場合はダイレクト感のあるCVTで、7速の仮想ギヤが設けられたイージーなドライブを楽しめる。

 クラッチのミートタイミングも広く、スタートに神経を使うこともない、さらにステップ比の優れた6速MTはつながりもよく、やはり運転して楽しいクルマだ。シフトすることにも喜びが感じられるのはオリジナルのS660同様で、つい無用にシフトしてみたくなる。

パワートレーンにも変更はなく、直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク104Nm(10.6kgfm)/2600rpmを発生

 オープンカーで風を切ってのドライブは、見上げると青い空、それがもたらしてくれる解放感、そして走り去るごとに変わる風の匂いなど、至福のひと時を与えてくれる。少し風切り音が大きいような気もするが、もともとオープンカーで音を言うのは無粋というもの。それでも耳元から発するスピーカーのおかげで、速度を上げてもオーディオの音を楽しむことができる。

 風の巻き込みはあるが、その流れがよくコントロールされているので、室内で渦を巻くことはないし、ドアウィンドウを上げてしまえば、頭の上を風が通り過ぎるだけとなる。リアにある小さな可動式ウィンドウも風の巻き込みに効果を発揮する。

ユニークさの際立つファニーなデザイン

 東京ゲートブリッジを通過した際は海風が強かったが、外装パーツのガタツキなどは一切なく、余計なことは気にせずにドライブを楽しめる。コーナーもきびきびとダイレクト。オートバイ感覚で駆け抜けることができるのもS660譲りだ。軽自動車規格のS660は狭い日本の道でも幅を気にすることなく走れるし、エンジンも回すことができてパフォーマンスの一部を味わえる。

 S660 Neo Classicもピッタリ軽規格に収まるので特に改造申請などは必要なく、また重量もオリジナルと数百gしか変わらない。

 洗練されたS660の空力性能はオリジナルでかなり突き詰められたもので、同じホンダアクセスのコンプリートカー「S660 Modulo X」はさらに細部まで磨きがかけられ、感動したものだが、S660 Neo Classicではそこまで追及されていない。それでもこのクルマのドライブを楽しむには十分で、むしろ存在感の高さが際立つ。感覚的にはフロントのダウンフォースがもう少し欲しいが、これで折角のファニーなデザインが崩されるならこのままのほうがよい。それぐらいS660 Neo Classicのユニークさは際立っている。

専用品のヘッドライトを中心に、フロントマスクは全面的に刷新されている。とくに丸形ヘッドライトが生み出すファニーな雰囲気は、オリジナルのシャープな印象とは対照的だ

 ちなみにリアウィンドウは本来の小窓(パワーリアウインドー)と新しいリアウィンドウの二重構造になっており、リアゲートを開くには本来の電動ウィンドウを下げてから、ラッチを操作して開けることになる。

 さて、この魅力的なS660 Neo Classic KITのパーツ価格は129万6000円だ。塗装は無塗装でオーナーに引き渡されることになるので、好みの色を塗ることになるが、ユーテックにコンプリートで依頼する場合は、パーツの組み付けとカラーリング(全塗装になる)で100万円ぐらいの予算を見ておく必要がある。

 オリジナルのカスタマイズとして一緒にいると楽しい時間に違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛