試乗インプレッション

マツダ「泥の陣」でi-ACTIV AWDの新機能「オフロード・トラクション・アシスト」を体感

CX-5、CX-8、CX-30に装備

新機能の「オフロード・トラクション・アシスト」を装備するマツダ CX-5

「雪の陣」に変え「泥の陣」だそうだ。マツダは例年、北海道上川郡剣淵町にある冬季試験場をベースに雪上試乗会を開催するのが恒例だった。「i-ACTIV AWD」や「GVC(Gベクタリングコントロール)」などの作動、効果を分かりやすい走行環境で体感してもらうといった目的に加えて、新型車や、時にはプロトタイプなどで、それらを含めた進化の確認を行なえる場ともなっていた。

 今期はそれが雪上ではなく、オフロードでの開催となった。場所は山梨県にある富士ヶ峰オフロードで、ここはジープやランドローバーといった、いわゆる本格的なオフロード性能を備えた4WD車の試乗会場としても使われたことのあるコース。マツダは初の試みだそうだが、たしかに、マツダ車とオフロードとはイメージは結びつきにくい。だが、実は、そうした市場のイメージを少し変えていきたいというのが、今回のオフロード試乗会の目的の1つであったようだ。

 というのも、近年のアウトドアブームもあり、日本でもごく短距離とはいえ荒れた未舗装路を走行する機会が増えていたり、とくに北米ではシティ派とかアーバンとか呼ばれるようなSUVの販売台数が明確に落ち込んできていて、代わりにオフロードを走れるイメージを備えたSUVに人気が移っていることなども、CX-5を中心に、SUVが主力となってきたマツダにとって見逃せない市場変化になってきたらしい。

新機能の「オフロード・トラクション・アシスト」を装備するSUV 3車

CX-8も「オフロード・トラクション・アシスト」を装備

 試乗会に用意されたのは、最新のCX-30とCX-5、CX-8の3車種。CX-30が「i-ACTIV AWD」に「オフロード・トラクション・アシスト」が新採用されたのに続き、2020年1月に発売のCX-5、CX-8の商品改良版に、同システムが与えられたことによる。

「i-ACTIV AWD」は、電子制御油圧カップリングを用い、ドライビングと走行状況から前後駆動力の最適制御を目指した4WDである。前後駆動力は100:0から50:50までの中で可変するが、設計思想として、4WDであっても実用燃費への影響を可能な限り小さくし、重量増も抑えたものとしている。「i-ACTIV AWD」がもたらす性能、能力を語るにあたっては、これを念頭に置いておかなければならない。なぜなら、このために、油圧多板クラッチによるカップリングの容量(サイズ)も、リアデフのサイズも、さらにはデフオイルの容量さえも、そしてリアドライブシャフト径も必要最小限に抑えられているからだ。つまり、後輪の駆動力も、それらが耐えられる負荷の中で決まってくる。今回の試乗の中でも、そこが少なからず影響をもたらしていたが、一方で、最大限の能力を発揮させる機会が多いということも知れた。

「i-ACTIV AWD」は2012年に初代CX-5で初採用となったが、それ以降、着実に進化を遂げてきている。初期のものは前後駆動トルク制御が適切ではない状況にも遭遇し、とくに雪路など路面ミューの低い状況でのコーナー進入では、操舵に対して旋回に必要なだけのヨーレイトが発生する前に後輪への駆動力増加がなされるといったこともあって、予想できないアンダーステアの発生に悩まされたりもしたこともあった。それが最新版では、制御の緻密さと繊細度が進んだAWDと、GVCのコンビネーションによって、好ハンドリングに寄与しているものと思えるまでになってきているのだ。

 そのGVCは、操舵に対して瞬時のエンジントルクダウンによる前輪接地荷重増加の発想は素晴らしいものだが、採用当時のものは、障害物の回避など素早い操舵で位相を反転させる状況などで、最初の操舵でオーバーシュート傾向が生じ、むしろ戻しに遅れをもたらしがちといった難も感じられたものだった。「そこは次の課題」と述べていた開発陣は、GVC Plus(プラス)で、ごく弱いブレーキを介入させることで解決を図ってきた。「なんだ、結局はブレーキ制御に頼るのか」と思ったものの、作動は巧みで効果も大きく、操舵初期から旋回挙動の収束までの動きの面倒をしっかりみる陰の立役者として極めて有用で、マツダの説明を素直に受け入れられるまでになったことに感心している。

いざ「泥の陣」へ

マツダ株式会社 車両性能開発本部 操安開発本部 主幹 梅津大輔氏

 といったことを前提として、マツダのSUV 3モデルのオフロードでの性能、能力を確かめさせてもらった。ちなみに、この試乗会の企画、試乗会場選定からコースの設定まで強く関わったのが、車両性能開発本部 操安開発本部 主幹の梅津大輔氏。梅津氏とは、これまでも話をうかがう機会は多かったが、加えて実験部出身でCX-30の主査である佐賀尚人氏からも話をうかがうことができ、疑問点から車両や諸性能への理解を深めることができた。

 1週間にわたる試乗会開催の中、私が参加したのは初日で、この日が唯一の雨天だったそうだ。それも前夜からの豪雨が続く悪天候でのスタートとなり、クルマに乗り込むまでの路面を歩くだけでも「泥の陣」そのもの。こうしたコース内で走路設定がなされる試乗会では、試乗車種の不得意なところがなるべく現れにくい走行環境となるようにするのは当然で、とくに開発部署が主導の場合は、事前に綿密な走行テストを行なった上でコースは決められるものだ。だが、この日の雨量は、想定を越えた路面の泥濘化をもたらしてしまい、走路の短縮や、予定の周回方向を設定とは逆周りとして、登坂の傾斜角を少し緩やかにするといった策も採られることになった。つまり、マツダが考えていた以上のシビアコンディションとなってしまったわけだが、試す側にとってはこれ幸いで、「i-ACTIV AWD」と「オフロード・トラクション・アシスト」の性能限界域までを知れる格好の場となったのだった。

オフロード・トラクション・アシストのプレゼンテーション

 こうしたオフロードをこなせる車両条件として、AWDの性能の前に最低地上高とともにアプローチアングル、デバーチャーアングルも重要な要素となる。CX-8の最低地上高は200mm、CX-5は210mm、CX-30が175mmとある。AWD乗用車のパイオニアであるスバルでは、最低地上高に関しては200mm以上を確保できれば、実用面からは相当なラフロードでも大丈夫、と説明していたことを記憶しているが、その点からするとCX-8、CX-5は十分なのに対し、CX-30は少し足りないかも、ということになる。

 アプローチアングルに関しては、3車とも元来がオフロード走行を強く意識した上でのエクステリアデザインではないし、オンロードで重要な空力性能を重視すればフロントスカート部は低くしたいのは道理だ。さらにフロントオーバーハングも長めでは不利なのは否めない。梅津氏も、ラフロードでタフな路面環境になるほど、そこがキツくなってしまうと認めていた。

 もう1つ重要なのがサスペンションストロークだ。リアサスペンションがAWDでもトーションビームアクスルを採用するCX-30は、さすがにリア側はバンプ、リバンプ側ともに短いのは仕方ないところだが、マルチリンク式を採用するCX-8、CX-5は、国産乗用AWD性能におけるベンチマーク的存在といってもいいスバル「フォレスター」や「XV」の現行モデル(いずれもスバルの新世代プラットフォームであるSGPをベースとする)と比べても、リアサスはとくにリバンプ側のストロークで勝っている。リバンプ側ストロークは接地性と、ラフロードにおけるトラクションにも大きく影響するだけに、意外に思う人も少なくないのではないだろうか。

 これらの要素が整った上で、エンジン性能及び特性に、そして優れたトラクション性能が備わっての勝負どころとなる。今回、私が乗った試乗車はCX-8、CX-5ともに、エンジンはSKYACTIV-D 2.2で6速AT仕様のAWD。CX-30がSKYACTIV-D 1.8 6速AT仕様のAWDだが、試乗車のラインアップには3車ともにSKYACTIV-Gも用意されていたので、たまたますべてがディーゼルエンジンとの組み合わせとなったものだった。

CX-5から試乗開始。泥道の急勾配に挑む

 それぞれの車種ごとにコースが設定されていたが、いわば車両性能特性を考えた上での選定であろうことは先に記したとおり。最初に乗ったのがCX-5で、急勾配にはじまり大きなうねりある段差、その路面にところどころに岩というよりは大きな石が路面から顔を覗かせるといったヒルクライムの周回コースからだった。指示された周回方向に走り出してすぐに、30~35度に及ぶ急勾配が待ち構える。指示は勾配の始まる数十m手前でいったん停止し、マニュアルモードの1速固定のまま、30km/hを超えるまで加速して進入、速度を維持したまま駆け上がってほしいという。

 そんな走らせ方であれば、そこそこの最低地上高をもった4WD車なら、どれでも登れてしまうのでは、と思ったのだが、イザ走り出してみれば、水をたっぷりと含んだ土の表層はシャレにならないくらいにぬかるんでおり、かつ石もゴロゴロしており、少なくとも坂の途中からの発進は到底無理であるだろうことはすぐに理解できた。

 こうした路面ではタイヤ性能、特性で大きく走破能力に差が生じるが、マツダSUV各モデルは、日本向けはすべてサマータイヤが標準装備だ。これが北米向けには設定されるオールシーズンタイヤになるだけで、雪路はもちろん、今回のようなダートやぬかるんだ路面でのグリップは確実に向上する。この件で梅津氏は、たとえば、もう少しオフロード指向のグレードを用意して、それにはオールシーズンタイヤを標準装備とすることも考えていくべきかもしれない、と述べていた。たしかに、スバル フォレスターのX-BREAKやトヨタ RAV4のAdventureなどのように、日本仕様でもオールシーズンタイヤを標準装着するグレードの設定があってもいいと思う。

非常に厳しい路面を登っていくCX-5

 この登坂を何度か繰り返す中で、25km/h程度まで速度を落としてみたが、この時の路面コンデションでは、おそらくこれが登れるだけのトラクションを維持できる限界に近かった。ちなみに、マツダがテストのために持ってきていたというジープ「ラングラー アンリミテッド サハラ」でも、最低でも10km/h超の維持をしていないと登り切れなかったそうだ。つまり、この路面コンデションでは、ラングラー アンリミテッド サハラでも坂の途中からの再発進は厳しかったということ。ラングラーの中でもサハラは、2019年発売の新型からAWD機構に油圧カップリングを採用しているというのが持ってきていた理由のようだが、いずれにしても、ラングラーほどのクロカン指向の4WD車で、かつタイヤの特性差までを考えた走破性を考慮するなら、この路面状況でのCX-5の能力は決して侮れない。

 また、こうした負荷の大きな路面での安定した駆動力維持の要ともなる速度コントロール性は、エンジン特性に左右されるもので、ターボディーゼルの場合は渦給特性も影響が大きい。そうした中で、2188ccという排気量の余裕とツインスクロールターボ、アクセルワークに対する繊細度の高い燃料噴射制御等によって、ほとんど気を使わないですむ。

 加えて感心したのは、30km/h超でイッキに上り詰める際には、ひどく荒れた路面からの激しい入力で、とくにバンプ側はバンプラバーを限界まで押しつぶして、ちょっとクルマが可哀想になるくらい車体に強く衝撃が伝わってくる中で、車体の微小変形感を、動きからも、いわゆる小さなキシミ音などからも、ほとんど意識させない剛性を備えていたことだった。通常の試乗では、車体にこれほど強い入力を与えられる走行環境には遭遇しないので、なかなか知れないところである。

CX-5の優秀なトラクション性能を改めて感じた

 この悪コンディションでも、CX-5にとって難関度が高いのは急勾配の登坂だけで、この坂の途中から発進・減速しての再加速を避けたシーンでは、オフロード・トラクション・アシストの出番はなかった。逆に言えば、従来の「i-ACTIV AWD」のままでも、それくらいの能力は備えているということだ。

 注意を要したのは、大きく盛り上がったコブ面を乗り越える際に、地上高がギリギリで、ホイールベースのセンターあたりでステップを軽く擦ってしまうことくらいだが、CX-5よりホイールベースが230mm長いCX-8はランプブレークオーバーアングルの点から、CX-30では最低地上高が30mm低いことから、ここをスムーズに乗り越えるのは厳しくなりそうだ。こうした面からしても、車種ごとのコース設定は意味があるわけだ。

CX-8+オフロード・トラクション・アシストの実力

モーグル路を走破するCX-8

 CX-8の試乗コースでは、いよいよオフロード・トラクション・アシストの出番である。走路の中にモーグルとも呼ばれる、こぶが左右交互に現れる路面で、左右片輪が対角線上に完全に浮いた状況が生じる。この状況では従来の「i-ACTIV AWD」でも、浮いた車輪側をトラクション・コントロール・システム(TCS)を使いブレーキ制御はするものの、これはオンロードやμの低い路面の安定性を主に考えた制御レベルで、接地輪に強い駆動力を与えるには至らない。加えて、スリップ率からエンジン出力を絞る方向の制御を行うため、とくにスタックの際には脱出に必要な駆動トルクまでも削がれることになる。

 それを、オフロード用に、状況に応じた強いブレーキ制御でブレーキLSD効果を最大限に高め、エンジン出力を絞る制御もなくしているのがオフロード・トラクション・アシストだ。さらに、発進時から前後駆動力配分を50:50まで引き上げた状態となる。

 繰り返すが、この日は路面コンディションが極めて厳しく、モーグル表面は泥に近く、サマータイヤではトレッドに泥が詰まり、ただでさえグリップが得られにくい。モーグルにさしかかると、「i-ACTIV AWD」にTCSの作動で前後接地輪に弱い駆動力が伝わっているものの、空転するだけでこぶを乗り越えるだけのトラクションは得られない。

 そこで初めてオフロード・トラクション・アシストのスイッチをONにする。すると、対角線上に前後輪が浮いた状況でも、接地輪には力強い駆動力が与えられるようになったことが、空転しながらも少しずつ前に押し出そうとする動きから知れる。とはいえ、なにしろタイヤのグリップ能力を超えた路面のため、空転を結構激しく繰り返しながら、泥の下の少し締まった土にトレッドが接して進むといった状況だった。とにもかくにも、スタックせず進んでいけることが心強い。

右上にあるのがオフロード・トラクション・アシストのスイッチ

 ただ、スイッチは目につかないインパネ右下部にある上に、そこに描かれた絵柄もダートを示したものとはいえ分かりにくく、一般ユーザーでは、説明書を熟読でもしておかないと、とっさの際に使えないのではないかと思う。スタックを避ける緊急脱出用のものであっても、分かりやすいにこしたことはない。

 本来、走行状況により自動でオフロード・トラクション・アシストが作動することが理想だが、梅津氏はそうしていない理由を正直に、現状のシステムの中ではスリップ検知が遅く、モード切り替えに求められるレベルの正確な状況判定が難しいこと。このため低μ路での意図しない飛び出しなどの可能性が排除できないこと、それにハイドロニックユニットのバルブのシャット音やプランジャの音が突然響きだすと、ユーザーには故障や異音として心配をかけてしまう可能性があることなどを理由として挙げた。

 また、こうした駆動システムへの負荷が大きな状況では、「i-ACTIV AWD」の弱点も垣間見せることになった。容量の小さな油圧カップリングは耐熱容量も小さく、後輪への駆動配分が増す状況ではリアデフとともに、油温上昇を招きやすい。今回もモーグルと格闘している際に、メーター内に「AWDシステム高負荷 警告灯が消灯するまでゆっくり走行してください」との表示がなされた。

システム高負荷のメッセージ。泥のモーグル路を何度も走行したため、システムの耐熱容量近くになったことを警告している

 スタート地点に戻ってしばらく休んでいたら消灯したのだが、その後、バケツと呼ばれるすり鉢上の急坂のダートの途中であえて停止させて、再発進を試みていたところ、前輪の空転が増すとともに、また同じ表示がなされた。その際は、再発進は諦め、平坦部までバックのまま下がって、再発進し勢いをつけて登り切り、正規の走路のままスタート地点に問題なく戻ってくることはできたが、厳しい走行環境では短時間勝負の感もある。

 一方、CX-8は長いホイールベースが効いて、ダート走行においても挙動が安定していることや、揺れ自体も少ないなど、荒れた路面においての快適性は3車中一番だった。

CX-30+オフロード・トラクション・アシストの実力

 CX-30では、まず最低地上高を心配したのだが、設定された周回コースではそこはさすがに問題なかった。かといって決してラクラクと走れるようなコースではなかった。それが証拠に、泥土に埋もれた石がゴロゴロとした30度を越えるような急坂が待ち構えており、前輪がその石を一つ一つ乗り越えていくような走行抵抗の大きな坂の途中でスタックを喫した。もちろんオフロード・トラクション・アシスト ONでの走行でだ。

 ちなみに、ここを逆回りで走る際に、ゆっくりゆっくり降りていても、途中では静止できずに下まで滑り落ちてしまうほど滑りやすい急斜面なので、ある程度勢いをつけて登りきってしまうべきところなのだが、速度を落とし過ぎて途中で登れなくなった状態からの再発進を試みていたのだった。前輪はブレーキLSDをしても空転するばかりで、石との摩擦でタイヤスモークが出るほど。

 すると、CX-8の時と同様に、メーター内に「AWDシステム高負荷」の表示が出た後、ついにAWDがキャンセルされ2WD状態になった。この際は「2WDで走行しています」の表示がメーター内になされる。こうなると平坦部まで下がるしか手だてはない。仕方なく、2WD状態のまま、逆走してスタート地点に戻った。テストとはいえ、いささか意地悪に過ぎたかと反省しているが、逆に言えば、それほど過酷な路面状況の急坂を、手前から少し勢いをつけて発進して25km/h程度の速度を維持していれば登り切れてしまったことのほうが、むしろ驚きであった。

 以前に北海道の雪の一般道でデミオを試乗した時、ちょっとした雪の吹きだまりを乗り越えようと苦戦していたら、やはり「i-ACTIV AWD」のシステムと油温上昇により2WDモードとなってしまったのだが、こうした経験とも照らし合わせ、必要に応じ発進の一瞬に後輪からのもう少し強い押し出しが得られれば、動き出しがだいぶラクになるはずで、スタックに陥る恐れも減らせる。梅津氏も佐賀氏も、もちろん可能ならそうしたい思いはお持ちのようだった。燃費重視の現システムのままでは難しいとしても、梅津氏は、後輪側は電動駆動とするのも1つの在り方と、一例にボルボのPHEVのAWD仕様を挙げられていたのが印象に残っている。

一般道でFFより好印象のi-ACTIV AWD

CX-30はFFよりi-ACTIV AWDのほうが好印象

 CX-30では、短距離ながらも一般道の試乗コースも設定されており、オンロードにおけるハンドリングでも、FFよりも「i-ACTIV AWD」のほうが、車両挙動としても素直であることを知った。以前に試乗したFFでは、操舵に対してヨーレイトの立ち上がりが先行し、ロール追従がやや遅れるために、時にだがライントレースにも気を使わせることがあった。AWDではこの傾向もほとんど感じさせなくなる。佐賀氏も、FFにはそのフシはあると認識されていたが、マツダ3に始まったばかりの新開発プラットフォーム採用故に、細部に及ぶ煮詰めには少なからず時間を要するのは、むしろ当然とも理解している。

 こうしたことを除けば、このクラスのSUVでは、ロードノイズ、ガラス越しに伝わる車外騒音、そしてエンジンノイズなどに対する遮音性能に優れ、音の面でも快適な車内空間をもたらしている。室内の見た目や触感のよさなどとともに高品質感を生み出していた。

 今回のオフロード試乗では、たまたま路面状況が相当にシビアな日となったので「i-ACTIVAWD」+オフロード・トラクション・アシストの能力限界を超えるようところまで追い込むことにもなったが、このことでマツダSUV 3モデルのオフロード性能にダメ出しをする気はまったくない。冒頭でも述べたように、まず前提の、2WDに対して可能な限り燃費の低下を抑えた上で、扱い易く実用性能の高いAWDを目指したという目標は、大部分で果たしてきているからだ。

 その上での、今回のような本格的なオフロードモデルが挑むほどのコースを、それも過酷な路面状況の中で、マツダSUVの美しい佇まいや雰囲気からも、またオンロードでの走りからも、想像できなかったほどの高い走破性を見せたのは紛れも無い事実で、評価をいまいちど見直す機会ともなった。

 持てる機能を最大限に活かし、潜在能力を引き出して、車両性能や使い勝手を高める技術の在り方は、価格への影響を抑えたままにユーザーに高い価値を提供する。そうした姿勢で真摯に深化と進化を求めるマツダに、こちらも関心と感心も抱き続けられればと思う。

斎藤慎輔

Photo:高橋 学