試乗インプレッション

「欲しい」と思わせる要素で敵うモデルなし!? スズキ新型「ハスラー」の進化点をチェック

自然吸気の2WD、ターボの4WD。どちらが魅力?

絶妙な外観デザイン

 最近、軽自動車のニューモデルに試乗して、その完成度の高さに驚かされることが多いのだが、新型「ハスラー」もまぎれもなくそうだったことを、あらかじめお伝えしておこう。

 思えば6年前、初代ハスラーの登場は衝撃的だった。ハイトワゴンにSUVテイストを融合させ、かわいらしくまとめたルックスを目にして、この手があったか! これは売れそうだ! と思ったら、まさしくそのとおり。発売後それなりに時間が経過しても、まだこんなに売れているのかと何度も驚かされたことを思い出す。そして、モデル末期まで息の長い人気を持続させた。

 そして迎えた初のフルモデルチェンジ。文字どおりすべてが刷新されているが、外観は変わらなさすぎるとつまらないし、あまり変えるとハスラーらしさがなくなるところ、ひと目でハスラーと分かるアイコンを残しつつも、ニューモデルらしい新鮮味も感じさせる絶妙なデザインとされたことに感心。また、初代に比べてフードを持ち上げたりウィンドウを立てたりしたことで、新型のほうが大きく見える。

今回の試乗会では1月20日に発売されたばかりの新型軽クロスオーバーワゴン「ハスラー」に試乗。写真はターボ/4WDモデルの「HYBRID X ターボ」(174万6800円)で、ボディサイズは3395×1475×1680mm(全長×全幅×全高)と、先代モデルから全高を15mm拡大。ホイールベースも35mm延長されて2460mmとなっている
新型ハスラーでは軽量化と高剛性を両立させた新プラットフォーム「ハーテクト」を採用するとともに、「環状骨格構造」として快適さと心地よさを追求。また、スズキ初の「構造用接着剤」の採用によって操縦安定性や乗り心地を向上。さらに軽自動車として初採用の「高減衰マスチックシーラー」により不快な音や振動を軽減することに成功している
新型ハスラーのエクステリアでは、アウトドアアイテムが持つ「タフ」で「力強い」デザイン要素を取り入れるとともに、従来のハスラーに比べてルーフを後方に延長し、バックドアも垂直にするなど、力強いスクエアな骨格を強調するデザインとした。さらにクォーターガラスを追加し、従来はブラックアウトされていたピラーをボディ同色に仕上げている。Xグレードの足下は15インチアルミホイールにダンロップ「エナセーブ EC300+」(165/60R15)の組み合わせ
HYBRID X ターボのインテリア。インパネはカラー液晶を使ったメーターパネル、センターコンソールの9インチ大型高精細ディスプレイ、インパネアッパーボックスで構成される
新型ハスラーでは「夜間歩行者検知機能」をはじめ、一時停止、進入禁止といった標識を認識してドライバーに知らせる「標識認識機能」など、より進化した「デュアルカメラブレーキサポート」を搭載(スズキセーフティサポート非装着車以外の全車に標準装備)。ターボモデルではスズキの軽初となる「アダプティブクルーズコントロール(ACC)[全車速追従機能付]」や、車線を認識して逸脱しそうになるとステアリング操作を促す「車線逸脱抑制機能」もスズキの軽として初採用している
従来はベンチシートだったフロントシートが左右独立式となり、その中央には500mlの紙パックなどが置けるフロアコンソールトレーをレイアウト
4WDモデルでは新たに「スノーモード」を搭載し、雪道など滑りやすい路面においてエンジンの出力を抑えるとともにブレーキも併用して制御することが可能。「グリップコントロール」「ヒルディセントコントロール」「パワーモード」といったドライブモードも用意される
ステアリング右側にレイアウトされるスイッチでACCのON/OFF操作などを行なえる
センターコンソールのディスプレイには、スズキ初の9インチ大画面新型スマートフォン連携メモリーナビゲーションを全グレード(除くスズキセーフティサポート非装着車)にオプション設定。エネルギーフローの表示なども可能になっている
運転席メーターには「4.2インチカラー液晶メーター」をスズキ軽として初採用。立体的なリング形状とグラフィックでアウトドアアイテムの楽しさを表現したスピードメーターをはじめ、タコメーターや車速のデジタル表示、平均燃費/航続可能距離表示、ハイブリッドのエネルギーフロー表示、燃費履歴表示、ナビ表示や走行モードの表示などが可能

 一方でインテリアはガラリと変って、かなり奇抜なデザインになった。インパネに3つ並ぶ丸型のモチーフも斬新そのもの。しかもいろいろなアイデアを満載していて収納スペースなどの使い勝手も格段に向上している。新感覚のカーナビゲーションもよくできていて目を見張る。短時間の試乗ながらスグレモノであることは十分伝わってきた。

 新型では前席の左右乗員間距離が30mmも拡大したとのことで、たしかに広い。後席も35mm延長されたホイールベースによりさらにレッグスペースの余裕が増した。ヒップポイントを高めながらヘッドクリアランスも確保されている上、シートを荷室側から前後スライドさせることが可能で、前倒しすると荷室フロアとフラットにつながるようになったのも重宝する。荷室下には防汚タイプのラゲッジアンダーボックスを設定するなど、もはや突っ込みどころがないほどあらゆる部分が進化している。

こちらは自然吸気/2WD仕様の「HYBRID X」(151万8000円)
インパネアッパーボックスは収納として使え、蓋を開くとテーブルとして利用できる。前席シートヒーターは全グレードに標準装備
多彩なシートレイアウトが可能なほか、ラゲッジルームは荷室側から後席のスライド調整が可能。後席を倒すことでフラットな荷室空間が生み出される
新型ハスラーでは従来モデルから前後乗員間距離を35mm、頭上高では前席で29mm、後席で18mmそれぞれ拡大するなど、居住性が高められた。後席は前後スライドとともにリクライニング機構も備わる

操縦安定性と快適性の両立

 試乗したのは自然吸気の2WDとターボの4WDで、印象はそれなりに違うものの、いずれも完成度の高さをヒシヒシと感じさせる点では共通していた。

「HEARTECT(ハーテクト)」と呼ぶ新世代プラットフォームは、すでにスズキのいくつかの車種にも採用されているが、新たに採用した環状骨格構造や構造用接着剤、高減衰マスチックシーラーなどにより、「別物」と呼べるレベルまで進化している。そんな強い味方を得て実現した走りは、操縦安定性と乗り心地の快適性を見事に両立している。

 操舵に対する動きが穏やかでどこにも角がなく、いたって素直に応答する。ストローク感のある足まわりとハイトのある大径タイヤが相まって、軽自動車ではおざなりにされがちな後席も含め、乗り心地は軽自動車の既成概念を打破するほど快適に仕上がっている。すべての根底にあるのは、軽量で剛性の高い新しい車体が大きい。おかげで足まわりがより理想に近い形で動いていることが伝わってくる。

 思えば初代はアウトドア向けというクルマの性格に合わせて、あえてゆったりとした乗り味とされていたのだが、ゆったりしすぎて不規則な揺れが生じやすく、ロングドライブでは疲れやすいように感じていた。そこを、実際にはハスラーを使う人の大半が市街地をコミューター的に使っていることを受けて、新型では快適性とともにキビキビと走れることにも配慮したらしく、そのよさが出ている。

 両モデルの違いは、車両重量が大きい影響かターボ+4WDの方が微妙にしなやかで、高速巡行時のフラット感もあり、一方でリアサスがトーションビーム式の2WDの方がストローク感では上まわる印象。欲をいうと、もう少しタイヤのロードノイズが抑えられ、車速を高めたときの走りに一体感があるとなおよい。

数値が下がっても実力は上がった

 パワートレーンについて、エンジンは自然吸気が新開発のR06D型エンジンと、ターボは従来のR06A型の改良版となり、副変速機を廃するなどした新開発CVTが組み合わされる。出力向上したISG(モーター機能付発電機)が全車に搭載されたのもポイントだ。

ターボモデルが搭載する直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ「R06A」型エンジンは、最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98Nm(10.0kgfm)/3000rpmを発生。WLTCモード燃費の最良値は22.6km/L(2WD)
自然吸気モデルが搭載する直列3気筒DOHC 0.66リッター「R06D」型エンジンは新開発のもので、スズキ軽初となるデュアルインジェクションシステムやクールドEGRを採用。最高出力は36kW(49PS)/6500rpm、最大トルクは58Nm(5.9kgfm)/5000rpmで、WLTCモード燃費の最良値は25.0km/L(2WD)
試乗会会場に展示された「R06D」型エンジン

 乗り比べると、やはりターボの方が全域でパワフルなことには違いないのだが、自然吸気の走りっぷりもなかなか好印象だった。諸元の数値が従来よりも3PSばかり低くなったことに驚いたのだが、体感する性能は確実に向上している。エンジン回転が高めでやや音が大きい点は今後の課題ではあるが、至って軽快かつスムーズに加速していき、タウンスピード領域ではなんらストレスを感じることなくスイスイと走れる。どちらが好きかと聞かれればやはりターボだが、自然吸気も「これで十分」と感じさせる実力を持っている。これには従来よりも出力が増し、高い車速域までアシストできるようになったというマイルドハイブリッドも効いていることに違いない。

 安全面では、すでに初代の途中から採用していた「デュアルカメラブレーキサポート」の衝突被害軽減ブレーキには、夜間の歩行者検知機能や後退時ブレーキサポート機能も付くなど、こちらもいろいろ進化している。さらにターボ車には、いずれもスズキ軽初となる全車速での追従機能を備えたACCや車線逸脱抑制機能を装備した。これがターボ車以外でも選べるようになることに期待したい。

 もう1つハスラーで特徴的なのが、驚くほどのアクセサリーの豊富さだ。初代もそうだったが、2代目もそこはしっかり受け継いでいて、自分好みに仕立てることができるのもハスラーならではの楽しさだ。

 持ち前のキャラクターだけでも十分に魅力的なところに、さらにコンセプトの「もっと遊べる!もっとワクワク!!もっとアクティブな軽クロスオーバー」のとおり、基本性能まで大幅に高め、機能性や装備等すべてをアップデートさせた2代目は、すべてが「もっと」引き上げられたのだから、まさに鬼に金棒。このところライバルたちもめきめきと実力を高めているが、「欲しい!」と思わせる要素の多さではハスラーに敵う車種はそうそうない。きっと2代目も初代にも増して人気を博することに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛