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【インタビュー】スズキ「ハスラー」と「ジムニー」の関係は? 新型「ハスラー」の変化を用品企画課の高橋修司氏に聞いた

新型「ハスラー」についてスズキ 四輪商品・原価企画部製品 用品企画課の高橋修司氏に、商品企画の立場からの話を聞いた

 スズキの新型「ハスラー」のエクステリアデザインはキープコンセプトでありながら、SUVテイストが盛り込まれた。その一方で、インテリアは大きく印象が変わった。そこで、スズキ 四輪商品・原価企画部製品 用品企画課の高橋修司氏に、商品企画の立場からどのような方向性を考え、これらの採用に至ったのか。直接話を聞いてみた。

キャラクターをキープすること

――新型ハスラーは一見、先代から大きく変化しておらず、キープコンセプトなデザインという感じがします。まずはその方向性にした理由から教えてください。

高橋氏:明確な狙いとして、ハスラーのフロントマスクは絶対にキープしようということがありました。

 その理由は、ハスラーのすごさにあります。小さい子供でもこのハスラーを見て駆け寄っていく、年配の人もまるで孫に近いようなイメージで、愛着を持ってもらっています。これだけ子供から年配の方まで幅広く愛してくれる、一種のキャラクターが確立できていますので、それであればこのキャラクターで“スズキの物語”を作っていこうということでキープしたのです。

 また、もう1つハスラーがヒットした理由として、トレンドやライフスタイルにしっかりとはまったということがありました。2014年にたまたまアウトドアブームの再燃という金脈にうまく当たったのです。

 しかし、トレンドなどの変化に応じて新しい価値を軽自動車ユーザーに見せていく必要がありますが、デザインのやり直し前のモデルではそこができていませんでした。つまり、行動力や想像力がかきたてられるようなところが足りなかったのです。つまりハスラーの肝ともなるワクワク感が、キャラクターが立ち過ぎていたがゆえに、少し足りなかったのが反省点としてありました。

ハスラーの初期デザイン案の1つ(提供:スズキ)

商品企画担当の意識を変えたハスラー

――2代目となるハスラーを担当することが決まった時にどう思いましたか?

高橋:正直「やった!」という気持ちではありませんでした。実は自分はアウトドアなどの趣味もなく、どちらかといえば家で読書をすることが好きなインドア派なのです。ですから、これまで担当した「ラパン」の世界観の方が近いような趣味でした。そういうこともあり、ハスラーの担当像を勝手に作って、平日は仕事をバリバリこなし、同僚や後輩から信頼され、週末はキャンプに出かけ、DIYをやり、料理を振る舞うような、趣味が豊富な担当がやる車種だろうと勝手に想像していたのです。

 ただ担当してみて、やればやるほどそうじゃないということに気付き始めたのです。ユーザーやオーナーズミーティングなどで、色々と気付かされる部分もありました。ハスラーの一番の強さは何かというと、私のようなアウトドアや趣味を始めたい、アウトドアライフのおしゃれな生活をしたい、多趣味になりたいと思うような人の背中を押すパワーがあるクルマだったのです。バリバリアウトドアをしている人ではなく、なんとなく「やりたいな」と思っている人の背中を押すようなクルマ。そしてその世界に入ったら、そこでみんながウエルカム状態で受け入れてくれて、皆で楽しむというそんなクルマだったのです。インドアな私もどんどん目覚めていって、ドラマの「ゆるキャン△」の世界、自らキャンプもするようになりました。

 お客さまからもマインドが変わったなどの声も聞かれます。例えばハスラーを買ってから、朝の通勤前に1時間早く出てドライブして海を見てから出社するなど、積極的なマインドになって行動に移すといった、その週末のレジャーが待ち遠しくて毎日ウキウキするようなパワーがあるクルマだったのです。

遊びのリミットレス

――そこまで大きく高橋さんの意識を変えたハスラーですが、この2代目をどのようなクルマにしていきたいと考えたのでしょう。これだけ強い個性や熱い思いをユーザーに抱かせる初代でしたから、その2代目の企画はとても大変だと想像します。

高橋氏:まだこの楽しい世界に入れない人たちもいますので、もっと入れるようにしよう、この1台があれば生活や趣味が変わるという気持ちをもっと掻き立てていこうと考えました。つまり、まだまだハスラーの魅力を多くの方に伝えられていないというところもありますので、ハスラーワールドを広げたいと考えました。

“遊びのリミットレス”と言っているのですが、初代がどちらかというとキャンプやスノーボード、スキーやサーフィンなどへの使い方を、われわれメーカー側が発信していた部分もありました。そこを2代目は思い切って使い方の提案をするのではなく、ハスラーという土台を用意しましたので、あとはお客さまが十人十色で楽しんでほしい、メーカー側のお仕着せではなく自由に使ってアイディアがあったら逆に教えてください、というイメージにしました。そしてお客さまの“こういう使い方をした”ということに対し、それを上まわるような提案をしていきたい。そのようにお客さまと会話しながら、ハスラーの物語を作っていきたいと思っています。

使う人が自由に使い方を想像して、メーカーとユーザーが一緒に“ハスラーの物語”を作れるよう願いが込められている

ジムニーとハスラーの関係

――さて、新型ハスラーはSUVテイストをより強調しようというデザインコンセプトがあり、その結果、ピラーを起こしたりルーフを伸ばしたりしてボクシーに見せたりしています。しかし、やりようによってはもっとSUVテイストを強調することもできたとも思いますがいかがでしょう。

高橋氏:結果的にいうと、スズキのアイデンティティの1つとしてジムニーという存在があります。そのジムニーを意識してデザインしているわけではありませんが、ポジショニングとしてジムニーはプロユース、そこから自然と絶妙なポジショニングをデザイナーが探っていった結果だと捉えています。デザインのやり直しの前後もずっと見てきましたが、その辺りは絶妙のさじ加減でした。スズキのSUVクロカンのDNAをデザイナーたちが受け継いで、見事なポジショニングをしているところは自然と出てきた感じがしています。

――ハスラーはこの世界観(SUVライクなテイスト)を演出する先駆けに近い存在です。その後いろいろなクルマがこういった世界観を演出してきていますが、その中で2代目ハスラーは、どのようなポジショニングを考えたのでしょう。

高橋氏:ハスラーの個性をより伸ばしていくイメージです。ジムニーがフルモデルチェンジして、よりハードなクロカン方向に行ったこともありましたから、デザイナーにお願いしたのは、そのあたりのバランスを考えてほしいということ。それと同時に、ハスラーは楽しさやワクワクもある一方で、週末にこのクルマがあればアウトドアが楽しめる気がして買ったものの、日常使いが大半だったとも聞かれますので、やはり実用性や使い勝手はスポイルしてはだめなのです。使い勝手はおろそかにしないでSUVテイストを増したいということを伝えました。

――ジムニーは新型になってさらにクロカン方向に振っていますので、先代ハスラーとのポジショニングにより差ができたことになります。そこで新型では少しジムニー側に近づけようという考えもあったのではないでしょうか。

高橋氏:そういう解釈もあります。そうなるように意図的にしたわけではありませんが、市場調査などをした結果、都市においてボクシーなSUVが走破性や機能性だけを求めるのではなく、スタイルとして認められているところにヒントがありました。そういうところを強めていこうとすると、結果的にジムニーがいて、新型ハスラーが絶妙の距離感としてポジショニングできたのです。

 まだ旧型のジムニー時代に、先代ハスラーは旧型ジムニーとワゴンRの中間のポジショニングとよく言われました。元々ワゴンRベースだったこともありますが、オフの頂点のジムニーと、オンの頂点みたいワゴンR。その中間がハスラーじゃないかと。ジムニーの新型はかなりオフロードに振ったこともありますが、結果的に見ると新型ハスラーはこれまで同様のポジショニングを守ったのかなと思います。また「スペーシア ギア」があることも、ここまで割り切ることができたと思っています。

強みと弱み

――新型ハスラーを開発するにあたり、初代ハスラーユーザーの声も聞いていると思います。その振り返りにおいて、ハスラーの強みと弱みはどういったものでしたか。

高橋氏:購入理由でデザインが気に入ったということが9割でした。ワゴンRの究極の使い方を持っており、ワゴンRでできることは全てできて、ワゴンRでできない楽しみ方もあるところが強みですね。

 一方で強いて挙げるならば、後席の乗り心地や、SUVというと登録車を想像してしまうようで、それに比べると荷室の広さがもう少しあるといいという声も聞かれました。それも荷室の容量を求めているのではなく、よくよく聞くと使い勝手のようでした。これは、色々な趣味や日常生活の荷物がありますので、それを便利に使い勝手よくということを求められていたわけです。そこはこの新型でかなりやりくりをして、収納関係や荷室をフラットにするなどいろいろトライをしました。このあたりは手を抜けないところです。このクルマで幸運だったのは開発トップの竹中(スズキ 四輪商品第一部課長の竹中秀昭氏)が、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)のスペシャリストでしたので、(音振などのレベルは向上させつつこの課題を解決できるので)神様の巡り合わせのような気がします。

趣味でも日常生活でも便利に使えるような荷室をデザインするなど、開発において収納に関するさまざまな工夫が用いられた

肩の力がなかなか抜けない

高橋氏:このクルマの始まりはその竹中と2人でした。竹中はNVH専門家である一方、私はラパンをひと通りやっていましたので、まずは調査から始めようと話をしました。

 竹中が今回辛かったのは、初めて開発責任者を任されたということ以上に、初代ハスラーは肩の力が抜けたクルマだったのに対し、今度はみんな、肩の力がバリバリ入って、国内営業もスズキの存亡を懸けてぐらいの勢いだったことです。

 自由な移動と楽しさ、ワクワクみたいなキーワードをハスラーは全て背負っていますので、まさにイメージリーダーになってしまっていました。そこで社内の注目度は半端ではなかった。本当は少し外れたところでもう少し遊びに振りたいところでした。そういうこともあり、デザインのやり直しにつながったのだと思います。力が入り過ぎて、皆ハスラーはこうあるべきというイメージがありすぎた。その結果、自然にワクワクが影を潜めてしまったのでしょう。

 実は、デザインがやり直しになった時、エクステリアのクレイモデラーだけは初代の経験者だったのですが、「こんなにゆるくてかわいいクルマなのに、担当者たちはしかめっ面でドキドキして手が縮こまって何をやっているんだ」と言われました。これでハッとしたのです。また、「たまたま金脈に当たっただけ」とも言われました(笑)。

 とにかく初代はお客さまに楽しんでもらいたいという純粋な気持ちで、開発者たちも楽しんで作っていました。そこでもう一度初心に立ち返りワクワクしよう、肩の力を抜いてと、時には真夏の渋谷を1日歩いて色々見つけてみようとか、楽しくやりました。自分が若いころは原宿などはちょっと敷居が高くて、センスがないと入店拒否されるのではないかというお店ばかりでしたが、いまは本当に綺麗なアウトドアショップがたくさんあって、入りやすい店舗になっていました。そういうパワーがアウトドアにはあるんだなと思ったのです。

ビビビときたインテリアデザイン

――エクステリアはもちろんのことですが、インテリアもすごく遊んでいて、それとエクステリアのイメージがすごく合っていると感じました。

高橋氏:ハスラーでそういうところができたと思うのは、エクステリアもインテリアも結局キースケッチを描いた担当がそのままデザイン開発を進めていったところにあると思います。機種によってはキースケッチだけ描いて、そのまま別の人に変わることもあるのです。

 このインテリアはハスラーでしか実現できないデザインで、最初のキースケッチには、3連リングの左側に電子レンジが入っていました。キースケッチはかなり初期段階ですから自由に描かせています。そこで、なぜ電子レンジを入れたのか聞いたところ、キャンプして朝起きた時に温かいコーヒーを飲みたい。そこで電子レンジがあればすぐにできると考えたとのことでした。そのほかいろいろな案があったのですが、チーフエンジニアの竹中と2人で見て、何案かあった中で、このデザインにビビビと来たのです。そんなことはなかなかないのですが、これはすごい、開発は大変だがこれはビビビときたのでやろうということになったのです。

3連リングを用いたハスラーのインパネ。左からストレージボックス、ナビゲーション、スピードメーターを配置
キースケッチではボックスの自由な活用が描かれた