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【インタビュー】スズキ「ハスラー」の内装テーマは“プロテクションガーニッシュ”。インテリアデザイナーの2人に聞いた
見た目のインパクトに加え、機能性やユーティリティにもこだわった
2020年4月23日 08:03
スズキ「ハスラー」のインテリアは3つのゾーニングを行なったインパネが特徴だ。メーター、モニター、そして収納と分けられ、ほぼ同じような形が反復されている。なぜこのようなデザインが採用されたのか。インテリアデザイナーのお2人に話を聞いた。
ハスラーのキャラクターにあったインテリアデザイン案
最初にお話を伺ったのは、主にインテリアデザイン全体の取りまとめを行なっているスズキ 四輪技術本部 四輪デザイン部 インテリア課長の村上俊一氏だ。
――エクステリアと比較して、インテリアはかなり変わった印象ですね。
村上氏:インテリアは先代の造形カラーパネルを通すというテーマから一新しました。これは、変えたくて変えたという意図は特にありませんでした。フルモデルチェンジですから、当然さまざまなスケッチをデザイナーは提案します。その時に、アウトドア用品が持つタフさや力強さ、機能性をうまくデザインのモチーフに使いたいという話をしていたのです。そこがハスラーの独自で他のクルマとは一線を画すところです。そのアウトドア用品が持つポイントがタフさとプロテクト感ですので、それらをスタイリングのモチーフの1つの柱にしました。
インパネにはメーター、ナビ、収納と大きく3つの機能があります。それらをゾーニングしてそれぞれをプロテクトしていることをモチーフに挙げているのですが、それをバラバラにしてしまうと煩雑になってしまうので、しっかり上下2本のバーで貫いて挟み込みました。
実はそのスケッチを見た時に、最初は奇抜な絵にしか見えなかったのです。しかし、そのアイデアの裏にある考え方を聞いてなるほどと納得し、しかもパッと見た時のインパクトもありましたので、このアイデアは面白いという話になったのです。ハスラーというキャラクターに対して理にかなったテーマだったということですね。もちろん、先代のようにカラーパネルをドンと通す案も並行して開発していましたが、それと見比べた時にこちらのアイデアのポテンシャルが非常に高かったので、これでいってみようという話になりました。
シンプルだからこそ難しい
――この3つのゾーニングをプロテクトして見せるというアイデアは非常に面白いのですが、まとめるのがすごく難しそうですね。
村上氏:はい、すごく大変でした(笑)。テーマとしてはシンプルなのですが、だからこそとてもまとめにくかったのです。よく見てもらうと分かるのですが、この3つの形は同じようで実は少しずつ大きさや形が違っているのです。メーターは下側が違いますし、収納側はリッドとして開くのでよく見ると形が違っています。
しかし、なるべく同じように見せるような調整や、さらにこの3つを配置したうえで縦のベンチレーションを4つきれいに並べて見せ、そのうえでそれらを挟み込むように2本のパイプを通して見せたいというレイアウトなのです。ただ、カップホルダーなどじゃまをする要素も出てきました。そのパイプと相関して切り欠いてしまう部分も、ただ単にスパッと切ってしまうと、本当は貫きたかったのに切り欠いてしまったと見えてしまうので、そうならないように工夫するなど、造形的なまとめ方はすごく難易度が高かったのです。
――聞くだけでとても大変そうですが、一番苦労したのはどのあたりですか。
村上氏:特に苦労したのは真ん中のナビをまとめるところです。スズキとしては初の9インチを標準ナビゲーションとして開発しました。これが大きいのです。四隅がハードポイントとなりますから、そうすると必然的に〇の大きさが決まります。しかし、それを本当の真円でまとめてしまうと、なかなか上下の位置が厳しくなりますので、実は円ではなくカーブでまとめました。それと残りの2つを反復して見せるというバランスが、デザイナーが苦労したところです。
――では、最初は9インチナビのところからデザインを始めたのですか。
村上氏:アイデアスケッチの段階ではそこまで深くは考えていなかったのですが、1分の1でまとめていこうとすると、一番ハードになるのは9インチの部分でしたので、そこを置いた後にメーターや収納に置き換え、均などに見えるかどうかを見ていきました。またベンチレーションを入れると軽の幅で収まるかの検証も同時に始めました。
色とモチーフで遊ぼう
――ドアまわりのカラーコーディネートも凝っていますね。
村上氏:ハスラーといえば色で遊べる、色の楽しさがアピールできる車種ですから、内装もインパネだけではなく、いろいろなところに色を散りばめています。そのほかにもインパネのカラーのパーツとドアトリムのカラーのパーツは、よく見るとハスラーの“H”もモチーフにしています。また、シートのアクセント材とシフトコンソールのカップホルダーあたりの色はすべて統一してコーディネートしています。
このように、ワクワクしてほしいとか遊び心を感じてほしいというのがハスラーのポイントなのです。
機能性は高く、遊び心は豊富に
――そのほかにインテリアデザインでこだわったところはありますか。
村上氏:どうしてもこのデザインを見ると、奇抜な形や見たことがないというインパクトの方に目がいってしまいがちです。しかし、機能性やユーティリティで、日常で便利に使ってほしいとユーティリティにはすごくこだわっています。例えばアッパーボックスはテーブルになりますが、容量も先代よりかなりアップさせており、テーブルとしてもしっかりと使えます。隣のカップホルダーは引き出し式にして、必要に応じて簡単な食事もできるように追求しています。
一方、運転席のカップホルダーは、運転中にスマホを置きたい時や、ポケットとしても使いやすいので据置式を採用しました。実はそのカップホルダーにはスリットを入れており、例えばG-SHOCKなどをここを通して時計を置いたり、カラビナなどをひっかけたりと、そういうちょっとしたユーザーの工夫で自由に使ってもらいたいという想いも込めています。このように、結構細かいところまで考えてユーティリティ面ではこだわっているのです。
シートまわりでは、先代はベンチシートでしたが、今回は廃止しました。その代わりにセンター部分のユーティリティを高めて、紙パックまで対応できるカップホルダーを、運転席と助手席の両方から使える位置に置いたり、トレーを置いて、用品でいろいろなモノをセットできるパックも用意しました。このように実用的な部分を追求していますので、そのあたりも見てほしいですね。
キャラモノ好き
次にお話を伺ったスズキ 四輪商品・原価企画本部 四輪デザイン部 四輪インテリア課 係長の粒来広氏は、実際にハスラーのインテリアデザインを手がけた人物だ。キースケッチから最後までデザインを担当したとのことなので、そのこだわりなども含めて聞いてみた。
――これまでにどんなクルマのデザインを担当されましたか。
粒来氏:先代「スペーシア」や先代「ラパン」も担当しました。自分としてはキャラモノが好きなので、このクルマもやりがいがありました。まさに自分にうってつけの企画が来たなと、とてもワクワクして開発に参加しました。そして、どうやって楽しくワクワクするような表情を造形で表現するか、その1点に絞って考えました。
――その時にはどのようなデザインの方向性を考えていたのでしょう。
粒来氏:先代も多少開発に参加していましたので、大体の内容は把握していました。その中で先代のテーマを少し引き継ぎたいと考えていたのですが、実際にはまったく違うものになりました。ただ、先代もインパネの上下に2本のパイプを通していました。このパイプは助手席とナビとメーターの部品をつなげる役目で作っていましたので、その考え方は踏襲していきたいと取り入れました。ですから、今回も3つの部品をパイプでつないだような、そんなイメージにしたいと思いデザインしているのです。
――このパイプは長く見せるほど、室内の広さ感を表現できますが、いろいろと遮るものがあり、その断面処理がとても難しかったと村上さんから聞きました。
粒来氏:はい、広さ感を表現する上下のバーを横に通したようなイメージで、お客さまに訴求していきたいと考えて取り入れています。
カットの形状については、断面を見せてタフに感じられるようにしています。また、カップホルダーのところはカップとして独立して見える形状にすることで、それぞれ1つひとつの機能を形で明確に表現できますので、それぞれが別々に見えるようにしています。
――このまま上級のSUVに採用してもおかしくないと思います。その理由は、作り込みがすごく上手なので、遊び心がありながらもおもちゃっぽくないと感じたからです。
粒来氏:そこはものすごくこだわったところで、モデラーとじっくり話をしながら進めました。こういった、ともするとシンプルで単純なテーマですと、モノにした時に安っぽく見えてしまうことがつきまとうのですが、細かいところの部品の合わせや、1つひとつの丸い断面の取り方などをかなり吟味しています。実は面の数が非常に多く、しかも、面と面の合わせの部分から出てくる線などもコントロールしなければいけません。本当にこれだけ手間のかかるデータを作りながらモデラーがまとめてくれましたので、ここまで作り込めたのです。
――しかも、この3つの形がそれぞれ微妙に違うのですからね。
粒来氏:その通りです。やはり9インチのナビが非常に大きいので、まずはそこからサイズを決めました。そして今回はメーターのサイズも見やすいように大きくしましたので、そこのサイズも決まります。その後、アッパーボックスには何を入れるかで、目標としてボックスティッシュを入れる人が非常に多かったことから、それを想定したサイズとして、なおかつこの車幅に収まるようにしていったのです。
その結果、エアコンのルーバーの正面に向いている面はミリ単位で詰めています。それにしても、本当にこのデザインが(車幅内に)入るかどうかは最後まで心配しました。これが入らないとテーマが崩れてしまいますので、シンプルなテーマなのですが、そのサイズというところがネックになりました。
――なぜ間にルーバーを入れようとしたのですか。
粒来氏:通常、ルーバーの位置はバラバラで、高さの違うところについているものです。しかし、シンプルに見せるためにはルーバーを同じような高さですっきりと揃えたい。そうすることで、これも1つのテーマとして見えてくるのではないかと思ったのです。ともすると複雑な造形になりがちなのですが、そういったところをシンプルに構成することで全体に明快なテーマになるよう造形しているのです。
形の目標は明快だったので、その分設計も検討しやすかったと思うのですが、とても難しい課題でしたね。
アウトドアグッズをモチーフに
――今回は粒来さんのキーデザインが採用されたのですが、他に考えはなかったのでしょうか。
粒来氏:もちろん、さまざまなワクワクするようなアイデアはありましたが、やはりこの3連フレームのインパクトとアウトドアテイスト、そして今回はSUVのカラーをもう少し濃くしたいということで、このアイデアが採用されました。他にもいろいろいいデザインはあったのですが、このデザインはハスラーでしか採用できないし、ハスラーならこのデザインはいけるだろうと採用されたのです。
――この3連のインパネなどを含め、インテリアデザインを思いついたきっかけは何だったのですか。
粒来氏:このクルマがアウトドアで使われるということを念頭において考えました。ユーザーから見てアウトドアをイメージできるようなものというと、例えば身近にあるアウトドアグッズなどでしょう。そういったものを課内で1度持ち寄り、アウトドアグッズの魅力はなんだろうといろいろ話したことがあったのです。そこでちょっと見えてきたものが、例えば時計などの精密機器はタフでプロテクトされたような形状になっています。そこにヒントを得て、クルマでいえばメーターがそういった精密機器であり、センターのインフォメーションまわりもそう。そのあたりを気にしながら3連のフレームという考え方を作っていきました。
――確かにメーターやインフォメーションディスプレイはそう考えやすいとも言えますが、グローブボックスに関しては、単に物が置けるなどで特にこだわらなかったりしがちです。それをきちんと3つ独立して、しかも間にエアアウトレットも入れながらバランスを取ってデザインするのはすごいことだと思います。そこまでよくサイズを守りながらデザインできましたね。
粒来氏:その通りです。9インチのナビとメーターの表示も結構大きく見やすくなっていますので、その上でクルマの横の寸法の中で、ルーバーも入れていきましたので、正直ギリギリ入ったというところです。そのため設計と何度も打ち合わせをしてミリ単位で詰めてやっと入ったのです。
――その3つをそれぞれ独立させてプロテクトするという考え方ということですが、それをなぜ行なったのでしょうか。もう少し具体的に教えてください。
粒来氏:アウトドアのアイテムやツールを見てみると、まずそれぞれの機能エリアをはっきり決めることで、機能としての分かりやすさをしっかりと作り上げていました。それをクルマにあてはめたのです。したがって、それぞれのゾーニング。メーター、ナビ、収納がはっきりと分かるようなデザインにしたかったのです。そこから見える機能感というものがスタイリングに結び付けばいいなと考えてデザインしました。
――それは最初からそう思っていたのですか。
粒来氏:はい。アウトドアアイテムの魅力や特徴を見ていくと、そういった表現がされていることが分かったのです。これまでクルマではここまで強調した手法はなかったので、それが1つの楽しさにつながると考えて採用しました。
――キースケッチの段階では、グローブボックスの部分に電子レンジが入っていたそうですね。
粒来氏:助手席前のフレームに囲まれたアッパーボックスは非常に魅力的な部分で、先代ではテーブルにもなりました。それも好評でしたので、まずテーブルありきで考えたのです。テーブルとフレームのデザインをまず合体させて、そこからどんな収納を持っていったらワクワクするだろうと考えました。
つまりは使用シーンを考えていったのですが、例えば寒い冬にいい景色を見に行って、そこで温かいものが飲みたいというシチュエーションは多分あるでしょう。その時の例として電子レンジのようなものがあれば、そこでさっと温かいコーヒーが飲めたりしますよね。そういったものをいろいろトライして、ほかにもフレームの中が巾着袋になっていて、ぎゅっと紐で縛れるようにして自由に物が入れられるイメージなど、いろいろアイデアを考えていきました。
最終的には“見せる収納”として、お気に入りのアイテムを少し飾りたい、クルマの中で展示できるようなスペースができないかと考え、用品で「カラーコード」と呼んでいるゴム紐を用意して、そこにお気に入りのグローブなどを挟んで、インパネ自体にお客さまの好みを入れて楽しめる。そういったワクワクを入れたいと考えました。そのカラーコードもガーニッシュに合わせたカラーを設定しています。
“H”のモチーフを探せ
――インテリアでは、ドアのところにカラーでハスラーの“H形”をデザインしていますね。これは面白いアイデアで、すごく遊び心を感じさせます。知らないとそのままで終わってしまうでしょうが、知っていればクスッと笑ってしまうようなものですね。
粒来氏:まさにその通りです。実は先代のハスラーもそうだったのですが、ヘッドライトまわりのキャラクターとインパネのサイドルーバーのところのキャラクターをリンクさせて、内外装で1つのキャラクターを持たせることを目的にデザインしていました。今回も外のエンブレムと統一感を持たせてより楽しい世界観を作りたいと、H型を作ったのです。本当に遊びの部分で、気づいてもらえる方にはふふっと笑ってもらえるようなものだと思います。
――他にインテリアでこだわったところはありますか。
粒来氏:今のハスラーのH型に関連していうと、ラゲッジのクォータートリムの所にも実はH型のマークが入っています。クォータートリムには用品のフック2個が付けられるようになっているのですが、そのまわりにH型のキャラクターを設けて少し囲みました。ここもドアと同じようにワクワクする遊び心を入れているのです。
そのほかには、ラゲッジスペースの下にボックスを採用したのですが、そこには縞鋼板の柄を入れて少しタフに見せています。しかも滑り止め効果も少し狙いました。実際には開けないと見えないのですが、そのあたりも気をつけてデザインしています。
――ハスラーだからこそできるデザインですね。
粒来氏:はい、このインパネのテーマもハスラーならではの世界観だと思っています。
“プロテクションガーニッシュ”がテーマ
――さて、いろいろとお話を伺ってきましたが、新型ハスラーのインテリアデザインのコンセプトは何でしょうか。
粒来氏:タフでプロテクトされたところがスタイリングのテーマです。今、これを“プロテクションガーニッシュ”と呼んでいるのですが、まさにその通り、プロテクションしたというところが大きいですね。
インパネ正面のキャラクターが強いので、運転する時のノイズにならないようすごく気をつけました。通常のインパネであれば、上面はメーターのあたりに凹凸ができたりしますよね。そのインパネ上面をフラットにしました。また、助手席前もいろいろな面があって凸凹しているクルマが多いですよね。しかし、座って景色がきれいに見えることを考え、全体にフラットになるよう気を遣ってデザインしています。また、上下にバーを通しているのも効果的です。インテリアの骨格という意味でも、上下にバーが通ることでしっかり見せてもいるのです。
遊び心ではないのですが、メーター内に表示する絵柄も、われわれのデザイナーがハスラーのちょっと愛嬌があるようなものを描いています。アイドルストップでは卵が産まれたり。クルマが止まって待っている間はイライラする時間になりがちです。そこで、ふっと笑えるようなものを入れたいと考えてデザインしています。