試乗インプレッション
“プロ仕様”のラグジュアリーミニバン、トヨタ「グランエース」。運転して分かったクルマのよさとは
後席は最高にくつろいで移動を味わえる
2020年2月14日 07:00
全長5300mm、全幅1970mm、全高1990mm……。東京ディズニーランドの駐車場じゃ、全長が5mを超えるために料金が2000円も跳ね上がるサイズである。とにかく長く、とにかく幅広く、そしてその割には全高が抑えられて登場したトヨタ自動車「グランエース」は、メルセデス・ベンツ「Vクラス」をターゲットに置いて開発が行なわれた1台。Vクラスには3種類のボディラインアップがあるが、その中間であるロングボディがライバルと言っていいだろう。
実は個人的にVクラスを所有していることもあって(ショートボディですが)、ライバル登場と聞けばかなり興味深い。これは次期愛車候補となるのか!? とはいえ実はこのクルマ、ハッキリ言えば一般ユースをあまり想定していない。ターゲットとなるのはVIPをはじめとするショーファーニーズ、高級リゾートなどの送迎ニーズ、そして最後にビッグサイズを求める個人の“スキモノ”たちを満足させようとトヨタは考えているらしい。
それを象徴するかのような仕様が、なんと8人乗り4列シートのグレードを展開したことだ。2列目はエグゼクティブパワーシート、3列目はマニュアルで調整する小ぶりなシート、そして4列目はチップアップベンチシートとなり、後ろへ行けば行くほどにユッタリとした感覚は少なくなる。足下のスペースもそれほど広くない。3列目、4列目の膝から前席までの空間は拳1つ分といったところだった。けれどもスクエアなボディ形状をしているために頭上空間が窮屈にならないというところは、さすがは大柄なボディサイズが成せる技である。
一方で6人乗りの3列シート車は、2列目も3列目もエグゼクティブパワーシートを奢ったところがかなりのインパクトだった。アルファード&ヴェルファイア用を改良したシートを3列目にまで奢ったことで、運転席&助手席以外のどこに座ってもくつろぎの空間を得られるところはありがたい。ハッキリ言って、こんな3列目は初めてだ。足下のスペースもオットマンを出して足を放り出せるほどの空間がそこには存在するから、最後列に座っている感覚はほとんどないのだ。
特徴的に感じたのは、そんな最後尾における乗り心地がかなりユッタリとしていたことだった。特に日常域における感覚に特化。トレーリングリンク車軸式サスペンション、そして周波数感応ショックアブソーバーの採用など、その理由はさまざまのようだが、そのユッタリとした感覚を生み出す要因は重さではないかと感じる。車両重量は6人乗りのプレミアムで2740kg、8人乗りのGで2770kgにも達するのだ。今はそれに耐えられる乗用タイヤが存在しないため、トラック・バス向けのタイヤを採用する必要があり、正直に言えばザラザラゴロゴロする感覚をタイヤは発しているのだが、それがさほど気にならないレベルに抑えられていたところに感心する。目指したのはアルファード&ヴェルファイア並の乗り心地だったというから十分だろう。Vクラスよりもタウンスピードにおける乗り心地ははるかに上だと感じる。
一方で運転席まわりはかなり仕事感というか、プロ仕様な雰囲気が漂ってくる。それを象徴するのが、ミニバンでは久々に見たハンドブレーキである。フロアから生えるそれを下ろした瞬間、白手袋でもして指さし確認したくなるのはボクだけだろうか?(笑) 大きめのステアリングを切り始めれば、ロックtoロックで4回転弱にまで切れ込むおかげで、これまたバスの運転手さんが頭に浮かんでしまう。FRでありフロントタイヤがシッカリと切れることもあって、アルファードやVクラスを上まわる最小回転半径5.6mを実現。おかげで大柄なボディは意外にも扱いやすい。助手席の向こう側を見ると、まるでセーフティローダーでも扱っているかと思うほどに幅広な感覚があるにも関わらず、スイスイと街中を駆け抜けることを可能にする。一般的な駐車スペースにも入れてみたが、割と簡単にその中に収めることができた。スクエアなボディで見切りがしやすく、車両感覚が掴みやすい。ただ、そのスペースに入れると、前後左右は余白がほとんどなかった。乗用車として日常使いをするなら、それは覚悟したおいたほうがいいだろう。
エンジンは2.8リッターのディーゼルターボで、力強いというほどではないが過不足なく要求通りに動いてくれるイメージ。ガラガラとした音や振動も少なく、商用車っぽさがまったく伝わってこない。さすがはショーファーニーズも考えただけのことはある。ただ、運転する上で1つだけ気になったのは、高速走行時における直進安定性が若干劣っていたことだった。微操舵で常に修正することを強いられたのが気になるところ。ラダーフレームならではの乗り味とトラック・バス用タイヤの採用、そしてリアサスペンションを豊かに動かしすぎていることがその要因ではないだろうか? このあたりはライバルに想定しているVクラスの方が優れているように思えた。タイヤの改良、そしてサスペンションの可変などができれば面白いかもしれない。
このように、運転すると若干気になるところも見えたグランエース。だが、2列目以降に座ってしまえば、それはすべてにおいて快適へと導かれていたことは明らか。ショーファーニーズや送迎ニーズを満たそうという目標は見事に達成している。そしてビッグサイズミニバンを求める人も、プロ仕様を手にしたいと考える本格派なら満足できるだろう。ただ、これまでのように、乗用感覚のミニバンを求めるユーザーはやめておいたほうがいい。安易に手を出したら痛い目を見る、それがプロ御用達ってもんだろう。