試乗インプレッション

“プロ仕様”のラグジュアリーミニバン、トヨタ「グランエース」。運転して分かったクルマのよさとは

後席は最高にくつろいで移動を味わえる

 全長5300mm、全幅1970mm、全高1990mm……。東京ディズニーランドの駐車場じゃ、全長が5mを超えるために料金が2000円も跳ね上がるサイズである。とにかく長く、とにかく幅広く、そしてその割には全高が抑えられて登場したトヨタ自動車「グランエース」は、メルセデス・ベンツ「Vクラス」をターゲットに置いて開発が行なわれた1台。Vクラスには3種類のボディラインアップがあるが、その中間であるロングボディがライバルと言っていいだろう。

 実は個人的にVクラスを所有していることもあって(ショートボディですが)、ライバル登場と聞けばかなり興味深い。これは次期愛車候補となるのか!? とはいえ実はこのクルマ、ハッキリ言えば一般ユースをあまり想定していない。ターゲットとなるのはVIPをはじめとするショーファーニーズ、高級リゾートなどの送迎ニーズ、そして最後にビッグサイズを求める個人の“スキモノ”たちを満足させようとトヨタは考えているらしい。

トヨタ自動車「グランエース」に橋本洋平が乗った

 それを象徴するかのような仕様が、なんと8人乗り4列シートのグレードを展開したことだ。2列目はエグゼクティブパワーシート、3列目はマニュアルで調整する小ぶりなシート、そして4列目はチップアップベンチシートとなり、後ろへ行けば行くほどにユッタリとした感覚は少なくなる。足下のスペースもそれほど広くない。3列目、4列目の膝から前席までの空間は拳1つ分といったところだった。けれどもスクエアなボディ形状をしているために頭上空間が窮屈にならないというところは、さすがは大柄なボディサイズが成せる技である。

手前のグランエースの奥に見えるのは、同じミニバンシリーズの「ノア」(左)と「アルファード」(右)。ノアがコンパクトミニバンに、アルファードがよくあるミニバンサイズのように見えるのは、遠近法の効果だけではない

 一方で6人乗りの3列シート車は、2列目も3列目もエグゼクティブパワーシートを奢ったところがかなりのインパクトだった。アルファード&ヴェルファイア用を改良したシートを3列目にまで奢ったことで、運転席&助手席以外のどこに座ってもくつろぎの空間を得られるところはありがたい。ハッキリ言って、こんな3列目は初めてだ。足下のスペースもオットマンを出して足を放り出せるほどの空間がそこには存在するから、最後列に座っている感覚はほとんどないのだ。

撮影車両はグランエースの8人乗りモデル「G」(620万円)。ボディカラーはホワイトパールクリスタルシャイン
ボディサイズは5300×1970×1990mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3210mm。最小回転半径は5.6m。車両重量は8人乗りのGが2770kg、6人乗りの「Premium」が2740kg
フロントフェイスはヘッドライトと融合した金属調加飾の大型アッパーグリルを採用し、ロアグリルの開口部を左右まで広げて横方向のバーとフォグランプベゼルの金属調加飾で強調することで、ワイド&ローの踏ん張り感を表現
金属調加飾を用いることで迫力や高級感を演出している
フロントグリルの金属調加飾から連続しているように見えるLEDデイタイムランニングライトを採用したヘッドライトユニット。クローム調のフレームで取り囲むようにハイ/ロービームを配置する
上を指し示すようなデザインのLEDリアコンビネーションランプと、メッキガーニッシュを高い位置に配したデザインのリアビュー
高級感あるデザインのホイールに組み合わせるのは、ダンロップ製のトラック・バス用タイヤ「SP LT30A」(サイズ:235/60R17)
屋根にはアンテナ類を配置。全高が2m以下になるよう、少し低い車両前方に設置されている
4列シート8人乗り仕様のインテリア
4列目の6:4分割チップアップシートに座ったところ。足下スペースはそれほど広くない
3列目のリラックスキャプテンシートに座ったところ
2列目のエグゼクティブパワーシートに座ったところ。4列目までしっかり乗車すると、オットマンは出せそうにない
4列目シートを一番後ろにしたところ
4列目シートをチップアップして、前方に動かしたところ
4列目は室内からだけでなく、荷室側からもシート下部のレバーで簡単に操作できるようになっている
4列目をチップアップして最後方に移動させ、3列目も後方に移動して、2列目のオットマンを出したところ
エグゼクティブパワーシートの手元にはシートヒーターやリクライニング、オットマンの操作スイッチを配置
リアヒーターコントロールパネルと一体になったデジタルクロックは全車標準装備
こちらは3列シート6人乗り仕様となるPremiumのリアシート配置
スライドドアトリムにシルフィー表皮・ステッチ付のオーナメントが追加される
PremiumのみLEDランプ照明付きのリア席バニティミラーを標準装備
6人乗り仕様ではスーツケースを4つ積載可能

 特徴的に感じたのは、そんな最後尾における乗り心地がかなりユッタリとしていたことだった。特に日常域における感覚に特化。トレーリングリンク車軸式サスペンション、そして周波数感応ショックアブソーバーの採用など、その理由はさまざまのようだが、そのユッタリとした感覚を生み出す要因は重さではないかと感じる。車両重量は6人乗りのプレミアムで2740kg、8人乗りのGで2770kgにも達するのだ。今はそれに耐えられる乗用タイヤが存在しないため、トラック・バス向けのタイヤを採用する必要があり、正直に言えばザラザラゴロゴロする感覚をタイヤは発しているのだが、それがさほど気にならないレベルに抑えられていたところに感心する。目指したのはアルファード&ヴェルファイア並の乗り心地だったというから十分だろう。Vクラスよりもタウンスピードにおける乗り心地ははるかに上だと感じる。

 一方で運転席まわりはかなり仕事感というか、プロ仕様な雰囲気が漂ってくる。それを象徴するのが、ミニバンでは久々に見たハンドブレーキである。フロアから生えるそれを下ろした瞬間、白手袋でもして指さし確認したくなるのはボクだけだろうか?(笑) 大きめのステアリングを切り始めれば、ロックtoロックで4回転弱にまで切れ込むおかげで、これまたバスの運転手さんが頭に浮かんでしまう。FRでありフロントタイヤがシッカリと切れることもあって、アルファードやVクラスを上まわる最小回転半径5.6mを実現。おかげで大柄なボディは意外にも扱いやすい。助手席の向こう側を見ると、まるでセーフティローダーでも扱っているかと思うほどに幅広な感覚があるにも関わらず、スイスイと街中を駆け抜けることを可能にする。一般的な駐車スペースにも入れてみたが、割と簡単にその中に収めることができた。スクエアなボディで見切りがしやすく、車両感覚が掴みやすい。ただ、そのスペースに入れると、前後左右は余白がほとんどなかった。乗用車として日常使いをするなら、それは覚悟したおいたほうがいいだろう。

グランエース Gのインパネ。Premiumも装備は共通
厚みのある運転席シート
ステアリングは少し大ぶり
メーター
メーター中央のマルチインフォメーションディスプレイの表示は切り替え可能
シフトゲートはストレートタイプ
シフトノブ左側のスイッチ類。シートヒータースイッチの間には、リア席シートベルト非着用警告灯を備える
ミニバンでは珍しくなったハンドブレーキ
全車にデジタルインナーミラーを標準装備。こちらはOFFの状態
デジタルインナーミラーをONにすると、リアシートに乗員がいたり荷物を積載したりしていても、安全に後方を確認できるようになる
運転席頭上にはT-Connectのヘルプネットボタンを備える

 エンジンは2.8リッターのディーゼルターボで、力強いというほどではないが過不足なく要求通りに動いてくれるイメージ。ガラガラとした音や振動も少なく、商用車っぽさがまったく伝わってこない。さすがはショーファーニーズも考えただけのことはある。ただ、運転する上で1つだけ気になったのは、高速走行時における直進安定性が若干劣っていたことだった。微操舵で常に修正することを強いられたのが気になるところ。ラダーフレームならではの乗り味とトラック・バス用タイヤの採用、そしてリアサスペンションを豊かに動かしすぎていることがその要因ではないだろうか? このあたりはライバルに想定しているVクラスの方が優れているように思えた。タイヤの改良、そしてサスペンションの可変などができれば面白いかもしれない。

エンジンは最高出力130kW(177PS)/3400rpm、最大トルク450Nm(46.1kgfm)/1600-2400rpmを発生する直列4気筒 2.8リッターディーゼルターボ「1GD-FTV」型エンジンのみの設定。トランスミッションには6速ATを組み合わせ、後輪を駆動する。WLTCモード燃費は10.0km/L

 このように、運転すると若干気になるところも見えたグランエース。だが、2列目以降に座ってしまえば、それはすべてにおいて快適へと導かれていたことは明らか。ショーファーニーズや送迎ニーズを満たそうという目標は見事に達成している。そしてビッグサイズミニバンを求める人も、プロ仕様を手にしたいと考える本格派なら満足できるだろう。ただ、これまでのように、乗用感覚のミニバンを求めるユーザーはやめておいたほうがいい。安易に手を出したら痛い目を見る、それがプロ御用達ってもんだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛