試乗インプレッション

“安全、簡単、速い”。ランボルギーニの新型「ウラカン EVO」を富士スピードウェイでチェック

空力性能の向上、4輪操舵投入など「ペルフォルマンテ」からさらに進化

ウラカン ペルフォルマンテからどう進化した?

 ドライビング・エモーションへの進歩をリードするために全力を注いだというランボルギーニ「ウラカン EVO」が登場した。2014年の登場以来、4輪駆動の「LP610-4」では安定して速く、2輪駆動の「LP580-2」ではドライバー依存の作りをすることで操る楽しみを提供してきたウラカン。2017年にはパワーアップを実現すると同時に40kgの軽量化を施すことで、4駆の安定感がありつつも、軽快さを得ることで操る楽しみを提供した「LP640-4 ペルフォルマンテ」を登場させた。独ニュルブルクリンク 北コース6分52秒という記録も話題になった。

 このように、ウラカンの潜在能力を年々引き出し、着実に性能向上させてくる姿勢は、さすがはスーパースポーツを造り続けるメーカーだけのことはある。ならばEVOが行なう次の一手は何か? それは空力性能の向上とビークルダイナミクス制御に予想ロジックを備えたこと、そして遂に4輪操舵を盛り込んだところにある。

 空力については新たなフロントバンパー、テール上端にあるスロットを備えた一体型スポイラー、そしてアンダーボディについても変化があるようだ。エクステリアについては写真をご覧いただければ以前との違いが理解できるだろう。アンダーボディについては寝そべってペルフォルマンテと比べてみたが、形状はかなり異なっていた。ウラカン最速のペルフォルマンテでは満足せず、地道に改良を施していることがそこを見て伝わってきた。これによりダウンフォースと空気力学効率は、初期のウラカンの5倍以上に成長したという。

今回試乗したのは今春からデリバリーを開始した「ウラカン EVO」(2984万3274円[税別])。ボディサイズは4520×1933×1165mm(全長×全幅×全高。全幅はドアミラーを除く)、ホイールベースは2620mm
フロントマスクでは空力効率を確保する一体型ウイングを備えたフロントスプリッター、イプシロン形状の大型エアインテークなどを採用。リアまわりでは車両後方にスロットを備えた一体型スポイラーが与えられ、空気力学効率を最大化するアンダーボディ形状を採用。ダウンフォースと空気力学効率は“第1世代ウラカン”から5倍以上に向上しているという。足下は20インチアルミホイールにピレリ「P ZERO CORSA」(フロント:245/30R20、リア:305/30R20)の組み合わせ
V型10気筒5.2リッターエンジンは最高出力470kW(640HP)/8000rpm、最大トルク600Nm/6500rpmを発生。乾燥重量は1422kg、パワーウエイトレシオは2.22kg/HP。7速DCTのトランスミッションから4輪にパワーを伝えて最高速325km/h、0-100km/h加速2.9秒、0-200km/h加速9.0秒を実現する

 新たに搭載されることになったビークルダイナミクス制御は、「ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ(LDVI)」と名付けられたもので、車両の動的挙動の全側面を制御する中央処理装置なのだとか。クルマから得られた240ものシグナルを得て、340ものアウトプットを行なうこのシステムにより、車両のダイナミック・システムと設定のすべてを完全に統合し、ドライバーの次の動きとニーズを予想して制御するそうだ。すなわち、これまでのフィードバック制御からフィードフォワード制御へと生まれ変わったのだ。

 それにはバージョン2.0にアップグレードされた磁性流体サスペンションが繋がっている。このサスペンションは前後左右垂直方向の加速度と、横揺れ、上下動、ヨーレイトをリアルタイムでモニタリングし、それに対応した減衰力を発生。一方でトラクション・コントロール・システムは、トルクベクタリングも可能にしているという。そこにさらに後輪操舵が加わるのだ。低速での機敏な動きを得るだけでなく、高速コーナーやブレーキング時には安定感も与えるらしい。

車内ではセンターコンソールのスタートボタンのすぐ上に新しい8.4インチ HMI容量性タッチスクリーンをレイアウト。Apple CarPlayなどでスマートフォンと連携するほか、「マルチフィンガージェスチャーコントロール」にも対応し、ドライバーの手元でコネクティビティ機能を利用できる。さらにシートポジションやエアコン設定、LDVIの状態など車両の機能までリアルタイムで制御できるという

スーパースポーツを誰にでも

 早速そんなEVOに乗り、広場でスラロームや定常円旋回を試みる。すると、以前のウラカンよりもかなり機敏にパイロンを次々にこなしていくから驚くばかり。アルミニウムとカーボンファイバー製のハイブリッドシャシーを与えることで、そもそも1422kgに留められているクルマだが、その動きはもっと軽量なクルマであると勘違いするほどキビキビとした身のこなし。これは4輪操舵ならではの世界観だ。狙ったラインよりもインに素直すぎるくらいに張り付くような動きのため、それに慣れるのに時間がかかったが、感覚とリンクしてくれば軽快な動きが楽しめる。

 その後行なった定常円旋回では、テールが出そうになったところでリアステアが絶妙にニュートラル方向に戻って軌道を修正しているような動きを展開しており、安定方向に引き戻してくれることが伝わってきた。今回はスタビリティコントロールをすべて解除して試すことは許されなかったが、もしすべてを解放したとしても、手の内には収めやすいだろう。

広場でスラロームや定常円旋回を試す

 それを確認した後、富士スピードウェイの本コースにコースインした。今回は先導走行付きということで、全開走行とはならなかった。だが、コースイン時にフル加速を試みれば、やはりウラカン EVOのパワーユニットはかなり刺激的だった。ペルフォルマンテと同様のユニットを搭載し、640HPを発生するV10ユニットは、6500rpm時に600Nmのトルクを発生して8000rpmまで許容するのだ。自然吸気ならではの爽快な吹け上がりと官能的なサウンドは、ターボが全盛となるこの時代にあってかなり刺激的。これだけでもウラカンの価値があるというものだ。0-100km/h加速が2.9秒の実力は、脳ミソが後ろに持っていかれるかのような感覚さえ残してくれる。

 そんな刺激的なユニットを搭載しながらも、乗りこなすのはたやすい。100-0km/hの制動距離が31.9mというブレーキは確実な減速を約束してくれるし、旋回性は4輪操舵のおかげもあって、いとも簡単に行なえてしまう。ステアリングを切り込んだ瞬間からリアが即座に追従。その感覚は明らかに以前と違うものなのだが、違和感もさほどなく、扱いやすいところが印象的。低速ターンから高速コーナーまで危うい動きをすることなくこなしていたことも感心するばかりだった。

 はじめは電子制御をふんだんに盛り込んで登場ということで、気持ち的には遠慮しておきたい部類のクルマだったのだが、実際に走ってみて感じたことは、その動きのどれもが自然だったところにホッとした。これなら、ビギナーからエキスパートまでスーパースポーツを気軽に楽しめるだろう。速さだけを追っただけでも、操る楽しさだけを追っただけでも終わらなかった、それがウラカン EVOということだろう。安全で簡単で速く、そして操って楽しい……。スーパースポーツを誰にでも、そんなキャッチを与えたくなる1台だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学