試乗インプレッション

ランボルギーニ「ウラカン EVO」。自然吸気のV10エンジンで至高のドライビングプレジャーを味わえる1台

理想のウラカンか

 ランボルギーニ「ウラカン」にはなにかと縁がある。日本上陸1号車をいち早く試乗する機会を得たのが2014年の秋のこと。ドーハのロサイル・インターナショナル・サーキットで開催された国際試乗会でワールドプレミアしたばかりの2WDモデルを全開で走らせたのが2015年の冬。その後は国内でもペルフォルマンテを駆り、鈴鹿や富士など国際規格のサーキットで何度かドライブする機会に恵まれた。豪雨の中で走ったこともある。

 叶わぬ夢とは思いながらも、初めて触れたときからすっかり気に入ってしまい、もし宝クジで高額当選とか大金を手にしたらまっ先に手に入れたい1台として、常に脳内リストの最上段にある。他にも高性能なスーパースポーツはいくつもあるが、筆者にとってはウラカンがイチバン。「アヴェンタドール」よりもウラカンだ。まあ、なかなかその日はやって来ないわけだが……(苦笑)。

 筆者の思いをよそに、ランボルギーニの業績は好調で新記録を更新。2019年の世界販売台数は9年連続増加で、しかも43%増というからたいしたもの。それにはSUVの「ウルス」が効いていて約5000台にものぼるようだが、ウラカンも2014年の発売から1万台デリバリーするのに約4年という、「ガヤルド」を大きくしのぐペースで好調な売れゆきを見せている。

 そんなウラカンにもいまやいくつかのバリエーションがあるが、もしこんなウラカンがあったら欲しいと、ずっと前から思い描いていた仕様を具現化し、それ以上のものまで身につけて現れた最新のウラカン EVOは、現時点で筆者にとって理想のウラカンだ。

「ウラカン EVO」(税別2984万3274円)。ボディサイズは4520×2236×1165mm(全長×全幅×全高。全幅はミラーを除く)、ホイールベースは2620mm。乾燥重量は1422kg

空力と後輪操舵と「LDVI」

 ウラカンにはレース仕様以外に前出のペルフォルマンテという走りに特化した高性能版が存在する。そしてウラカン EVOは、そのエンジンを受け継ぎつつ、あくまでロードゴーイングモデルとしてさらに空力性能を高め、最新の車両挙動制御技術を採用したという成り立ちとなる。

 エンジンには、ランボルギーニがこれまでに開発した最高のV10エンジンでペルフォルマンテに搭載されるものと同じ、最高出力640HP/8000rpm、最大トルク600Nm/6500rpmを発生する5.2リッターV10自然給気エンジンを搭載する。停止状態から2.9秒で100km/hに達し、最高速は325km/h超という実力の持ち主だ。

最高出力470kW(640HP)/8000rpm、最大トルク600Nm/6500rpmを発生するV型10気筒 5.2リッターエンジンを搭載。トランスミッションには7速DCTを組み合わせ、4輪を駆動。0-100km/h加速は2.9秒、最高速は325km/hに達する

 空力については、細部にいたるまで着目して空気の流れを最適化すべく取り組んだ。具体的にはフロントバンパーに一体型ウイングを備えたスプリッターや、スロットル付きリアスポイラーの採用、アンダーボディの整流などを実施。これらによりダウンフォースで7倍、空力効率は6倍にも改善したという。

エクステリアは空力性能の向上も踏まえてデザインされ、一体型ウイングを備えるフロントスプリッターや、リアバンパーの高い位置にレースカーモデルにも見られる新スポーツエキゾーストシステムのツインアウトレットなどを配置。新デザインの20インチホイールには、ピレリ製「P ZERO」(フロント:245/30R20、リア:305/30R20)を組み合わせる

 運動性能については、トルクベクタリングと後輪操舵を新たに加えるとともに、「LDVI」(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)と名付けられた車両の挙動を制御するダイナミックヴィークルマネジメントシステムを採用。既存のシステムのほとんどが“フィードバックロジック”のためタイムラグが生じるのに対し、LDVIは“フィードフォワードロジック”すなわち次に何が起こるかを予想して対応する機能を採用したことで、ドライバーの意図と状況から車両のさまざまな挙動を総合的に制御して最高のレスポンスを提供するとしている。

 もう1つが一新されたインフォテインメントだ。センターコンソールに新設された8.4インチのフルタッチスクリーンパネルで、前出のLDVIやナビゲーション、空調、エンタテイメント系などさまざまな機能を操作できるようになった。

ホールド性の高いスポーツシートを備えるインテリア。「Arancio Dryope」と呼ばれるオレンジ色が差し色として随所に用いられる。センターコンソールのスタートボタンのすぐ上には新しい8.4インチ HMI 容量性タッチスクリーンを配置。ナビゲーションや音楽などのエンタテインメントに加え、エアコンの温度調節やLDVIなどの車両機能も制御可能
シフトまわり。プッシュスタートスタートボタンはカバーを上げて操作するタイプ
メーターの表示も好みに応じて変更可能

この上ないドライビングプレジャー

 そんなわけで、久々のウラカン。いつもながらただならぬ空気を放つその姿は、JAIA試乗会に用意されたクルマがズラリ並ぶ中でもひときわ異彩を放っている。フロントの形状もかなり変わったことも一目瞭然。上方排気とされたエキゾーストパイプも目を引く。

 前身のガヤルドがシンプルなラインで構成されていたのに対し、ウラカンはディテールの造形がとても凝っているとあらためて思う。全体のシルエットがあまりに美しく洗練されているのはもちろんとして、とくに感心するのがリアフェンダーまわり。絶妙な膨らみを持ち、薄くラインを配したフェンダーに収まるリアタイヤに向けて力がみなぎり、短いオーバーハングがよりそれを強調している。試乗車の価格はオプション含め3600万円近い。インパクト満点のボディカラーだけで約145万円かかっている。

試乗車のオプションを含む価格は税別3572万2574円だった

 5.2リッターV10の刺激的なエンジンフィールはさすがというほかない。どこから踏んでもついてくる俊敏なレスポンスと痛快な吹け上がりがたまらない。当初のエンジンもよかったが、高出力化されてより抜けた感じになっている。いまやスーパースポーツの世界もターボエンジンが増えた中で、大排気量の自然吸気エンジンとはよいものだとあらためてつくづく思う。ランボルギーニらしい猛々しいエキゾーストサウンドもゴキゲンだ。

 ハンドリングの仕上がりも素晴らしい。シャープかつ正確で、しかも極めて扱いやすく、まさしく意のままに操ることができる。もっとも、この日は公道を控えめに走るにとどまるので、ウラカン EVOに新たに与えられたLDVIや空力の向上がその本領を発揮するには至らないまでも、少なからず走りに寄与しているはずだ。

 1時間足らずのドライブではあったが、キャッチコピーの“Every Day Amplified”のとおり、ウラカン EVOはこの上ないドラビングプレジャーを味わわせてくれた。もしもなんでも欲しいクルマが手に入るとしたら、一番欲しいのはこのクルマだとあらためて思った次第である。見ても乗っても最高のロードゴーイングスーパースポーツに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛