試乗インプレッション
ホンダの新型「アコード」初乗り。日本仕様にだけ用意されるコンフォートモードも試した
10代目アコードは“最先端セダン”の呼び名にふさわしい仕上がり
2020年3月31日 00:00
セダンという言葉が死語になるかもしれない、このようなクルマが出るとこんなニュアンスの記事をよく目にする。SUVやハッチバック、ミニバンが席巻する世の中だから仕方がないとはいうものの、セダンはセダンとしてちゃんと存在感を放っている。それはクラウンの販売台数を見ても分かるはず。まだまだセダン市場はあるのだ。そして、セダンというモデルがクルマ造りの基本にあることを覚えておきたい。理由はセダンほどパッケージの重要性がモノを言うからだ。
2019年のロサンゼルスモーターショーで、たまたま元日産デザイナーの中村史郎氏にお話を伺った際に「EV(電気自動車)にSUVなど背の高いモデルが多いのは、パッケージングがイージーだから」という答えが返ってきた。EVは部品点数も少なくその辺り、つまりコンパクト化することが楽なのだろうと予想していたのだがまったく違い、セダンなど背の低いモデルになればなるほどデザイン性が問われるのだという。大きなバッテリーを搭載し、コンバーターやモーターなど、特にPCU(パワーコントロールユニット)にはその補器類の相互搭載位置関係も重要になるためレイアウトに制限が発生する。
新型アコードのシルエットは低くどっしりと地に足を着けたようなエクステリア。スタイリッシュであり車格に似合う落ち着きも感じる。EVのように床下に大型バッテリーこそ搭載していないが、2018年5月にホンダはFCV(燃料電池車)の「クラリティ」に1.5リッターのガソリンエンジンを搭載したPHEV(プラグインハイブリッド)を追加した。
実は新型アコードを見た瞬間に筆者の目に浮かんだのが「クラリティPHEV」だ。その理由は、先代アコードのデビューが2013年で、このときアコードにはハイブリッドモデルのほかにPHEVモデルが存在した。したがって、クラリティPHEVの登場はこのアコードPHEVの新型といってもよいほどの内容だったのだ。つまり、これまでで一番新しいホンダのセダンであるクラリティPHEVと比較してみようと思い始めたのである。
このクラリティPHEVのインプレッションも書いているので、「クラリティ PHEVの高速EV走行をクローズドコースで試す」と「クラリティ PHEVの実EV走行距離はいくつ?」も、合わせてご覧いただきたい。
クラリティPHEVと新型アコードのディメンションを比べると、新型アコードの全長は-15mmの4900mm、全幅は-15mmの1860mm、全高は-30mmの1450mm。ホイールベースは+80mmの2830mm、トランク容量は+61Lの573Lとなっている。このことから新型アコードはクラリティPHEVよりもひと回りコンパクトとなる。とはいえ、先代アコードからは幅と高さが少しだけ大きい(全長のみ-45mm)。また、先代に対して50kgの軽量化と-15mmの低重心化を達成し、低重心・低慣性プラットフォームを謳っている。興味深いのは、クラリティPHEVよりもホイールベースが長くトランク容量も大きいことだ。実際に後席の余裕はかなりのもの。しかもエンジンはより余裕のある2.0リッターアトキンソンサイクルエンジンが採用されている。
その走りはどうだろうか?
e:HEV(イーエイチイーブイ)という呼称になったパワートレーン。これは新型「フィット」にも共通するホンダのハイブリッドシステムの新しい呼び方だ。中低速域ではEVと同じようにモーターで走り、そのエネルギーは後席下に2段積みされた72個のリチウムイオン・バッテリーセルからの電力。さらに2.0リッターアトキンソンサイクルエンジンが発電する電力の2通り。バッテリーに十分な電池があればモーターのみのEV走行をし、パワーが必要になったり充電量が少なかったりする時にはエンジンが発電を行ない、電力を供給してモーターで走る。そして高速域ではモーターではなくエンジンが直接駆動するのだ。このエンジン直接駆動の有無が日産の「e-Power」シリーズと異なるところ。
なぜエンジンが直接駆動を行なうかというと、モーター駆動にはトランスミッションもクラッチも必要としない。停止してもアイドリングの必要がない。その理由はゼロ回転から最大トルクが出せるから。そのため、停止から動き始めるのに電気を流せば強大なトルクで駆動するから、エンジンのように空転させてクラッチを繋ぐというプロセスを必要としないのだ。そのため、5速ギヤぐらいの減速比さえあれば実用速度域をカバーできる。ギヤも1つでクラッチもないから軽量化に貢献する。ただし、速度が100km/h以上の高速域になるとモーターの回転数が上がりすぎ、逆にエンジンの方の効率がよくなるのだ。つまり高速ではエンジン駆動の方が燃費がよくなるということ。
走り出して感じるのは室内が静かだ。発砲ウレタンフォームを遮音のためにピラー内部を含めて隅々まで行き渡らせ、さらに逆異相の音をスピーカーから出すノイズキャンセルシステムも採用している。また、中空構造のレゾネーター(消音装置)を装着したホイールを採用している。室内の静粛性が高いから、高速での遠出も苦にならない。高速ではホンダセンシングによるADAS(運転支援機能)があるので、ACCとLKAによって高速巡行時のストレスを軽減してくれる。ホンダの場合、ACCをOFFにしてLKAだけONという個別設定ができるので、アクセルとブレーキは自分でコントロールしたいドライバーには喜ばれるだろう。
ボディの剛性感が高く、高速での安定性、振動感が優れている。ドライブモードには「スポーツ」「ノーマル」「コンフォート」の3モードがあり、ステアリングフィールやアクセル反応、そしてサスペンションの硬さが変わる。これは1/500秒単位で走行状況やドライバー操作を検知し、ダンパーの減衰力を自動調整するもので、アダプティブ・ダンパー・システムと呼ばれる。アコードでは初の採用である。
この中でコンフォートモードだけは輸出仕様には設定されておらず、日本仕様だけの特別装備だ。そのコンフォートモードはやはり乗り心地がソフトで他の2モードに比べて突き上げ感が少ない。ステアリングフィールは軽くなり、アクセルの踏み込み量に対しての対応も加速が穏やかになる。サスペンションの反応だけでなく、加速そのものもなだらかになる印象だ。
ただ、後席試乗ではコンフォートでもある程度の打振感があったことは残念だった。そこには構造用接着剤を延べ43mも使ったというボディの強固な剛性感も影響しているのかもしれない。それゆえハンドリングはこのサイズを感じさせないほどにシャープ。ボディがしっかりしているからサスペンションによるホイールトラベルに無駄な動きを感じない。電動パワーステアリングもアシストモーターをステアリングホイール軸から切り離したデュアルピニオンアシストEPSとして、これに加えてVGR(可変ステアリングギヤレシオ)を採用。速度域によってステアリング操作による旋回性が変わり、低速ではキビキビ、高速ではスローで安定したハンドリングが楽しめる。
クラリティPHEVの試乗会では、開発者からPCUをエンジンルーム内に納めるためのコンパクト化にかなり苦労した話を伺ったのだが、新型となった今回のアコードでも同じくエンジンルーム内にレイアウトされている。本格EVではないにしろ、新型アコードのパッケージングはこのサイズの本格的ハイブリッドモデルとして世界の最先端といっても過言ではないだろう。