試乗インプレッション

ホンダの新型「アコード」初乗り。日本仕様にだけ用意されるコンフォートモードも試した

10代目アコードは“最先端セダン”の呼び名にふさわしい仕上がり

プラットフォームを刷新し、軽量化と剛性を高めた「新世代プラットフォーム」が採用された新型「アコード」の乗り味を早速チェックしてみた

 セダンという言葉が死語になるかもしれない、このようなクルマが出るとこんなニュアンスの記事をよく目にする。SUVやハッチバック、ミニバンが席巻する世の中だから仕方がないとはいうものの、セダンはセダンとしてちゃんと存在感を放っている。それはクラウンの販売台数を見ても分かるはず。まだまだセダン市場はあるのだ。そして、セダンというモデルがクルマ造りの基本にあることを覚えておきたい。理由はセダンほどパッケージの重要性がモノを言うからだ。

 2019年のロサンゼルスモーターショーで、たまたま元日産デザイナーの中村史郎氏にお話を伺った際に「EV(電気自動車)にSUVなど背の高いモデルが多いのは、パッケージングがイージーだから」という答えが返ってきた。EVは部品点数も少なくその辺り、つまりコンパクト化することが楽なのだろうと予想していたのだがまったく違い、セダンなど背の低いモデルになればなるほどデザイン性が問われるのだという。大きなバッテリーを搭載し、コンバーターやモーターなど、特にPCU(パワーコントロールユニット)にはその補器類の相互搭載位置関係も重要になるためレイアウトに制限が発生する。

ハイブリッドセダンの新型「アコード」は「EX」のみのワングレード展開で、価格は465万円。すでに北米では発売されているが、2月に日本での販売を開始した。ボディサイズは4900×1860×1450mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2830mm
ワイド&ローなシルエットはセダンとは思えないほどスタイリッシュ。リアのコンビネーションランプはホンダ共通のCラインが採用される
フロントグリルは絶壁のような断面で、ホンダセダン共通モチーフのクロームバーが配され、対してF1マシンを思わせるような複雑な造形のスポイラーが新鮮
ルーフサイドの溶接にレーザーブレースを採用してモールをなくし滑らかなルーフラインを実現。剛性アップとCd(空気抵抗)値低減の効果が望める

 新型アコードのシルエットは低くどっしりと地に足を着けたようなエクステリア。スタイリッシュであり車格に似合う落ち着きも感じる。EVのように床下に大型バッテリーこそ搭載していないが、2018年5月にホンダはFCV(燃料電池車)の「クラリティ」に1.5リッターのガソリンエンジンを搭載したPHEV(プラグインハイブリッド)を追加した。

 実は新型アコードを見た瞬間に筆者の目に浮かんだのが「クラリティPHEV」だ。その理由は、先代アコードのデビューが2013年で、このときアコードにはハイブリッドモデルのほかにPHEVモデルが存在した。したがって、クラリティPHEVの登場はこのアコードPHEVの新型といってもよいほどの内容だったのだ。つまり、これまでで一番新しいホンダのセダンであるクラリティPHEVと比較してみようと思い始めたのである。

 このクラリティPHEVのインプレッションも書いているので、「クラリティ PHEVの高速EV走行をクローズドコースで試す」「クラリティ PHEVの実EV走行距離はいくつ?」も、合わせてご覧いただきたい。

2018年5月に登場したクラリティPHEV。ボディサイズは4915×1875×1480mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2750mm。車両重量は1850kg

 クラリティPHEVと新型アコードのディメンションを比べると、新型アコードの全長は-15mmの4900mm、全幅は-15mmの1860mm、全高は-30mmの1450mm。ホイールベースは+80mmの2830mm、トランク容量は+61Lの573Lとなっている。このことから新型アコードはクラリティPHEVよりもひと回りコンパクトとなる。とはいえ、先代アコードからは幅と高さが少しだけ大きい(全長のみ-45mm)。また、先代に対して50kgの軽量化と-15mmの低重心化を達成し、低重心・低慣性プラットフォームを謳っている。興味深いのは、クラリティPHEVよりもホイールベースが長くトランク容量も大きいことだ。実際に後席の余裕はかなりのもの。しかもエンジンはより余裕のある2.0リッターアトキンソンサイクルエンジンが採用されている。

その走りはどうだろうか?

高速道路と一般道で試乗。速度域によって旋回性が変化し、低速ではキビキビ、高速ではスローで安定したハンドリングが楽しめる

 e:HEV(イーエイチイーブイ)という呼称になったパワートレーン。これは新型「フィット」にも共通するホンダのハイブリッドシステムの新しい呼び方だ。中低速域ではEVと同じようにモーターで走り、そのエネルギーは後席下に2段積みされた72個のリチウムイオン・バッテリーセルからの電力。さらに2.0リッターアトキンソンサイクルエンジンが発電する電力の2通り。バッテリーに十分な電池があればモーターのみのEV走行をし、パワーが必要になったり充電量が少なかったりする時にはエンジンが発電を行ない、電力を供給してモーターで走る。そして高速域ではモーターではなくエンジンが直接駆動するのだ。このエンジン直接駆動の有無が日産の「e-Power」シリーズと異なるところ。

最高出力107kW(145PS)/6200rpm、最大トルク175Nm/3500rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジン(LFB型)と、最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmを発生する走行用モーターを組み合わせる。WLTCモード燃費は22.8km/L
右後テールランプの下にはハイブリッドの「e:HEV」のエンブレムが付く

 なぜエンジンが直接駆動を行なうかというと、モーター駆動にはトランスミッションもクラッチも必要としない。停止してもアイドリングの必要がない。その理由はゼロ回転から最大トルクが出せるから。そのため、停止から動き始めるのに電気を流せば強大なトルクで駆動するから、エンジンのように空転させてクラッチを繋ぐというプロセスを必要としないのだ。そのため、5速ギヤぐらいの減速比さえあれば実用速度域をカバーできる。ギヤも1つでクラッチもないから軽量化に貢献する。ただし、速度が100km/h以上の高速域になるとモーターの回転数が上がりすぎ、逆にエンジンの方の効率がよくなるのだ。つまり高速ではエンジン駆動の方が燃費がよくなるということ。

シンメトリーにこだわったという水平基調のインストルメントパネルは、上質で落ち着きのあり、使いやすさだけでなく操作感に至るまで、ひとクラス上の質感がある
IPU(インテリジェントパワーユニット)を32%小型化(前モデル比)したことでリアシート下へ移動でき、トランクスペースが573Lに拡大。後席を倒せばさらに大きな荷物でも積載できる
ホイールベースが延長されたことで、後部席の膝前にも余裕のある広々とした空間が確保される
インテリアは画像の「ブラック」と「アイボリー」の2色が設定され、どちらも本革シートとなる

 走り出して感じるのは室内が静かだ。発砲ウレタンフォームを遮音のためにピラー内部を含めて隅々まで行き渡らせ、さらに逆異相の音をスピーカーから出すノイズキャンセルシステムも採用している。また、中空構造のレゾネーター(消音装置)を装着したホイールを採用している。室内の静粛性が高いから、高速での遠出も苦にならない。高速ではホンダセンシングによるADAS(運転支援機能)があるので、ACCとLKAによって高速巡行時のストレスを軽減してくれる。ホンダの場合、ACCをOFFにしてLKAだけONという個別設定ができるので、アクセルとブレーキは自分でコントロールしたいドライバーには喜ばれるだろう。

ステアリングシステムは「デュアルピニオン式EPS構造」と、舵角に応じて切れ角を変化させる「VGR」を採用。舵角の少ない高速道路などではスムーズな走行ができ、舵角の大きい駐車場などでは取りまわしが向上する

 ボディの剛性感が高く、高速での安定性、振動感が優れている。ドライブモードには「スポーツ」「ノーマル」「コンフォート」の3モードがあり、ステアリングフィールやアクセル反応、そしてサスペンションの硬さが変わる。これは1/500秒単位で走行状況やドライバー操作を検知し、ダンパーの減衰力を自動調整するもので、アダプティブ・ダンパー・システムと呼ばれる。アコードでは初の採用である。

 この中でコンフォートモードだけは輸出仕様には設定されておらず、日本仕様だけの特別装備だ。そのコンフォートモードはやはり乗り心地がソフトで他の2モードに比べて突き上げ感が少ない。ステアリングフィールは軽くなり、アクセルの踏み込み量に対しての対応も加速が穏やかになる。サスペンションの反応だけでなく、加速そのものもなだらかになる印象だ。

車輪速信号、前後左右の加速度、ステアリングの舵角といったセンシング情報を用いて、電子制御によって適切な減衰力制御を可能としたホンダ独自の「アダプティブ・ダンパー・システム」とも連動する走行モードの切り替えはセンターコンソールに配置される
フルカラー液晶メーターの右側はスピードメーター、左側は車両の情報などを表示させるマルチインフォメーション・ディスプレーとなる
日本仕様のみに搭載されるコンフォートモードでは、サスペンションが黄色く光り、コンピュータの介入する領域がひと目で分かる
ノーマルモード
スポーツモードでは、サスペンションだけでなくエンジン出力特性にも介入するのでエンジンも赤色に光る

 ただ、後席試乗ではコンフォートでもある程度の打振感があったことは残念だった。そこには構造用接着剤を延べ43mも使ったというボディの強固な剛性感も影響しているのかもしれない。それゆえハンドリングはこのサイズを感じさせないほどにシャープ。ボディがしっかりしているからサスペンションによるホイールトラベルに無駄な動きを感じない。電動パワーステアリングもアシストモーターをステアリングホイール軸から切り離したデュアルピニオンアシストEPSとして、これに加えてVGR(可変ステアリングギヤレシオ)を採用。速度域によってステアリング操作による旋回性が変わり、低速ではキビキビ、高速ではスローで安定したハンドリングが楽しめる。

普段はほとんどステアリングを握っているが、今回は編集者に運転してもらいリアシートの乗り心地もチェックしてみた
内部に消音機構を内蔵する切削スポークの18インチアルミホイールを採用。タイヤサイズは前後とも235/45R18。後部席における打振感に関しては、タイヤチョイスで変化するかもしれない

 クラリティPHEVの試乗会では、開発者からPCUをエンジンルーム内に納めるためのコンパクト化にかなり苦労した話を伺ったのだが、新型となった今回のアコードでも同じくエンジンルーム内にレイアウトされている。本格EVではないにしろ、新型アコードのパッケージングはこのサイズの本格的ハイブリッドモデルとして世界の最先端といっても過言ではないだろう。

先代アコードはもちろん、クラリティFCV、クラリティPHEVなど、歴代のホンダセダンを試乗してきただけに違いがよく分かる

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:高橋 学