インタビュー

【インタビュー】10代目の新型「アコード」について、エクステリアデザイナーに聞く

クルマの内なる性能が目に見えるデザインを目指した

新型アコード 後期のデザインスケッチ

 本田技研工業は10代目となる「アコード」の日本導入を開始した。そのエクステリアは、ぱっと見た瞬間に走りや運転のしやすさなど、クルマの内なる性能が目に見えるデザインを目指したという。

 そこでエクステリアデザインを担当した广汽本田汽車研究開発有限会社 商品企画室 企画造形科科長兼造形係係長 森川鉄司氏とデザイン全体を取りまとめた本田技術研究所 デザインセンター オートモビルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ チーフエンジニア デザイナーの古仲学氏に話を聞いてみた。

世のため人のためのデザイン

10代目アコード

――10代目アコードのエクステリアデザインを担当することが決まった時に、森川さんはどう思いましたか。

森川氏:実は先代のマイナーチェンジも担当していました。自画自賛するわけではありませんが、いい仕事ができたな、もう思い残すことはないなと思っていたら、フルモデルチェンジをやれと言われて、え~!っとびっくりしました(笑)。

 先代のマイナーチェンジを担当したときに、次のアコードにうまく橋渡しができることを考えて取り組みましたので、言い換えると、奇しくもそういった時間軸で末永くお客さまのことを考えながら開発できるチャンスをもらえたわけですから、とても感謝したことを覚えています。

――いまおっしゃった橋渡しとは、どういうことを考えてのことなのでしょう。

森川氏:それは間違いなくその時その時の最適価値を渡していくということです。マイナーチェンジの時にやることができる条件は限られますし、これからのホンダのビジョンというものも、もちろんあります。

 私はデザインセンターにいる人間ですから、そういったものを全部理解しながら日々お客さまへの価値を作っています。マイナーチェンジでやらなければいけないことをやりきったうえで、次のホンダのデザインビジョンを含めて、ホンダのフラグシップとなるアコードをどのようすれば、末永くホンダの信頼感につながるデザインを纏えるのか、そのくらい俯瞰した考え方でフルモデルチェンジに望みました。

 これまでさまざまな機種をデザインしてきて、自分がやったデザインは格好よいとか、ともすると自分のためにデザインしているような思考も若い時にはありました。しかしそうではなく、アコードとしてどういうモノ(価値)をお客さまに与えられるか、本当の意味で世のため人のためになるデザインができたのがアコードのフルモデルチェンジでした。

――世のため人のためという考えはホンダの創業者、本田宗一郎氏の考えに近いイメージですね。

森川氏:どこかで聞かれているとは思いますが(笑)。チーフデザイナーの古仲からはこれまでいろいろ教えを受けて今に至るのですが、ものづくりに対する真理はそこかなとつくづく思っています。今回のアコードは格好よいといってもらえますが、決して格好のためにデザインしたわけではなく、見た瞬間に走りや性能をデザインでどう表現できるか。クルマには説明書があるわけでもありませんし、その都度説明員がいるわけでもありません。エンジンの性能も乗り心地も内装の質感も、すべて見た瞬間にちゃんとお客さまに伝わらないといけないと思っています。

クリーン、スポーティ、マチュア

Aピラーをキャビン側に寄せることでフロントフードの存在感を高めた

――格好よいといわれるアコードのエクステリアのデザインコンセプトはどういうものでしょう。

森川氏:キーワードでいうとクリーン、スポーティ、マチュアです。これは開発責任者の宮原が立てたグランドコンセプト、“アブソリュートコンフィデンス”に対して、エクステリアの具体的手法に必要な3つのキーワードに他なりません。

 今回のアコードは走りとデザインを目指そうという目標がありました。そこでパッケージングから来るスポーティな走りをいかにスタイリングで表現するかを考えた時に、シンプルに出てきたのがこの3つの言葉です。

――ホンダにはパッケージや使い勝手などを重視するMM(マンマキシム・メカミニマム)思想があります。エクステリアでのMM思想はどのように織り込まれていますか。

森川氏:フロントピラーが一番分かりやすい部分でしょう。これはエクステリア、インテリアともに関係するところですが、今回フロントピラーを手前側(室内側)に引いています。その結果、視界のよさなどの内側からくるメリットとともに、ホンダのフラグシップであるアコードの堂々たる車格感を表現するために、ピラーを引いたぶんフードをどんとダイナミックに押し出せたのです。そういった部分を存分に表現するのが、走りとMM思想の両立です。実際に乗ると、本当に視界がよくてかつフードがドンと突き出しています。しかもそれが邪魔ではなくて目印にもなっているのです。よい意味でステアリングを切った時のフードの向きやタイヤの操舵角が、自分の手の内にあるような感覚を持ってもらえるでしょう。これらはまさにMM思想から来ていますし、そう感じられることを新しいアコードの魅力として打ち出しているのです。

内なる性能を見せるデザイン

――このデザインをするにあたって一番大事にしたことは何ですか。

森川氏:このクルマをぱっと見た瞬間に、走りや運転のしやすさなどクルマの内なる性能が目に見えるデザインということです。

――具体的にそれを表現しているのはどこですか。

森川氏:先ほどAピラーで視界のよさのお話をしましたが、走りという面ではタイヤに絡みつくようなサイドパネルがあります。地面にしっかりとタイヤが踏ん張って、そのタイヤにボディがぎゅーっと巻きつくイメージです。

 また、フリーウェイでアコードが自分の乗っているクルマをさっと追い抜いていくシーンで、サイドからリアに向けて光のコントラストが流れていく。そういったすべてのドラマチックな印象を大事に造形しました。

 従って、デザインスタジオでクレイモデルを吟味している作業もありましたが、参考になるようなクルマを横に並べながら、どうやったら走りがよく分かるようなパネルの巻きつき方をしているのか、また魅力的に見えるか、そういったところをモデラーとものすごく議論しながら作り上げていきました。

細部にも宿る光のコントラスト

――サイドのデザインでとても特徴的なのは、ショルダーラインの上の部分に大きな面を取っているところだと思います。これはどういった意味が持たされているのでしょう。

森川氏:開発の初期段階は、ロサンゼルスのデザインスタジオで基本的な造形作業を行なったのですが、そこで一番重視したポイントです。今までのアコードはもちろん、その時代その時代でお客さまの最適価値を表現していました。今回は走りとデザインを表現することに決め、光のコントラストでスポーティな低重心感を表現しようと思ったのです。

初期のデザインスケッチA案
初期のデザインスケッチB案
初期のデザインスケッチC案

 しかし、日本の和光スタジオだけでクレイモデリングすると、本当の光に照らすとどうしても、あれ、こうじゃなかったのにとか、まだまだ足りないというところが出てしまいました。そういったところを現地の光で、本当の光で確認しながらモデリングしていったのです。従って当初は、約1か月近く毎日のように試しては屋外展示場に出して確認してということを繰り返し、最後の最後によし、これならいけるというところを見つけて日本に持ち帰り、後はその部分はもう変えずに、細部の熟成に移行していったのです。そういった開発の流れで作っていきました。

 このクルマは光のコントラストが勝負だと思っています。そこで工場サイドでも光のコントラストの魅力を初期段階から伝え、鉄板の曲率もチャレンジングでしたので、それを叶えるべく生産現場とも対話しながら実現していきました。ですから、肩ごしの光がパンと表現できたのはわれわれデザイナーのみがこだわったわけではなく、チーム一体となって表現努力した結果なのです。

サイド全体で一体感を

初期のデザインスケッチB案

――一方でサイドシル部分は少し特徴的な造形になっていると思います。

森川氏:下半身となるボディと、キャビン、つまりガラスまわりが上と下で被さったようにではなく、一体感を持って低重心感を表現したかったのです。先代アコードは、ガラスまわりのメッキモールがグルッとガラスを1周する格好で配していましたが、今回はベルトライン側にメッキはありません。その代わり、サイドシルのところにメッキを置いて、キャビンから下半身まで一体に見える効果を狙ったのです。

 実はサイドシル辺りですが、かなり乗り降りが厳しくなりかねないような出っ張り方をしています。ただし、走りとスポーティさをエクステリアで表現するためには、ここまでサイドシルを引っ張り出して下まわりに光を寄せて、低くするように見せたいという意思があるからです。例えばBMW「5シリーズ」相当のサイドシルの張り出し量があります。実はこの部分はさまざまな部署と議論に議論を重ねて、このクルマはミニバンではないし軽自動車でもなく、プライドを持って乗るお客さまのセダンなんだ、セダンにふさわしい足抜きの数字を決めようではないか。そこから最後に結びついた結果のサイドシルの飛び出し量なのです。

後期のデザインスケッチ

――そこの部分に少し面白いキャラクターライン(フロントドア前半から発生し後ろに向かって抜けていくライン)が入っていますね。これはどういうものなのでしょう。

森川氏:アイデアスケッチの段階ではいろいろな抜き方はありました。サイドビューを見てもらえれば分かるのですが、スリークキャビンといって、今までの3ボックスとは違いかなりクーペライクです。そこで後ろの方でグッと覆いかぶさるキャビンを下まわりできゅっと受け止める効果を狙っています。

 どうしてもこういったディテールは局所局所でしか見なくなってしまいがちですが、開発している時にダイレクターから言われたのは、余計な線はいらない、クルマの塊だけを見ろというアドバイスがありました。その中から求めた形です。

 余談ですが、中国市場でリサーチのためにクリニックを行なったのですが、すごくこの部分を気に入ってくれているお客さまが多かったのです。中国はセダン市場としていろいろなセダンが存在しますが、その中でもひときわここは特徴としてお客さまに気に入ってもらえています。

よりのびやかに

6ライトのクォーターウィンドウを初採用

――Cピラー部分ですが通常のセダンタイプですと、リアのホイールハウスにかかるようなデザインになることが多いです。しかし今回はあえて避けるようにホイールハウスの後ろ側に流すようなデザインが採用されましたが、これはどういう意図があるのでしょう。

古仲氏:今回のアコードの特徴として、歴代で初めて6ライトのクォーターウィンドウを採用しました。従来型のアコードですと、ピラーの部分とドアのカットライン、乗り降りの開口部分が完全に一致したデザインになりますが、今回はより伸びやかに、スリークに見せたいということで、なるべく後ろにググっとキャビンを弓なりに引っ張った動きを持たせたのです。それからサイドウィンドウの上端部分にメッキを走らせて、それがリアコンビの方向に最終的に向かっていく、そういう視覚的効果も合わせながらピラーの形状を形取っていきました。

 確かに通常であれば、ピラーが最後にタイヤのところにグッと巻きつくように戻って行くような手法をとっているセダンも多いですね。セダンの文法としてはある意味オーソドックスな手法です。しかし今回のアコードは、違った見え方にチャレンジしたいということであえてピラーの太さやタイヤに絡ませることよりも、キャビンの伸びやかさ、外から見てもこれは後席も気持ちいい空間なんじゃないかなということが分かるようなところを狙っているのです。

 もう1つ、ベルトライン側のCピラーにかかってくるところに少しキックアップさせているところがあります。通常はそのまま真っ直ぐに後ろに流します。タイヤとピラーの関係性で見ると、4ライトのクルマは最後にしっかりタイヤに巻きつくようにCピラーを持っていきます。これと同じようにキャビンの後ろの重心がリアのタイヤにぐっとしっかり乗っているというイメージも合わせ持ったグラフィックを狙ったのです。また、サイドシルの前側も少しピックアップさせた動きをリフレインするようなイメージもあります。

 こういったことはかなりディテールの部分で、あまりエキセントリックなことを最初から狙いすぎてしまうと、どうしてもデザイン自体が狙った(いやらしさのある)デザインに見えてしまいます。そこで、とにかく虚飾と無駄な線を排することが最初にやるべきことでした。そのうえで最終的にはディテールに徹底的にこだわったのです。

やり切ったデザイン

初期のデザインスケッチA案
初期のデザインスケッチB案
初期のデザインスケッチC案

――デザイン初期と後期とでフロントまわりを含めて大きくイメージは変わっていないように見えますね。

森川氏:全体的に印象を変える必要はなかったと思っています。特にサイドはそのままやりきれた部分ですし、フロントはシングルフレームと呼ばれる象徴的な顔で、サイドまわりのフォグガーニッシュまわりについても、少しフィン形状になって進化はしていますが、これもフィット&フィニッシュを含めて、どれがクリーン、スポーティ、マチュアとして一番分かりやすいかを吟味に吟味を重ねた結果です。したがって、途中で変な話が増えたとかチャチャが入ったということは決してなく、やりきった形ということがいえます。

中国では20代の女性が格好よいといって買う

――現在森川さんは中国に赴任しており、その中国市場ではたくさんこのアコードが走っていますが、中国のお客さまたちはこのクルマを見てどのような反応ですか。

森川氏:いろんな場面でお褒めの言葉をいただきますが、嬉しいのが一見するととても普通なのですがすごく格好よいといわれることです。例えば、あるクルマはピラーのまわりは色が分かれていたり、いろいろ変わっていたりして格好よく見えるけれども、ぱっと見たときにアコードが一番スポーティですごく速そうとか、クルマを見た時の一番大事な根っこの部分を褒めてもらえています。

 これまではどちらかというと商務車、ビジネスでおじさんが乗るようなクルマというイメージがすごく強かったのですが、今はまったくそういうイメージで語られることはなくなりました。面白いのは20代の女の子が格好よいといって買っていただけるのです。ユーザーの購買層の裾野が広がり、若者が憧れる大人のクルマとして、上手くドンピシャでハマったのだと思います。