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ホンダが新型「アコード」(10代目)に込めた想いとは。開発陣による技術&デザイン解説
2020年1月27日 12:57
- 2020年1月23日 実施
本田技研工業が2月に発売を予定している新型ハイブリッドセダン「アコード」。1976年に初代モデルが発売して以来、歴代アコードは、“走りと人のための空間”を不変のテーマとして、それぞれの時代に合うように姿を変えながら、常に新しい価値を提供してきている。
今回のフルモデルチェンジで10代目となる新型アコードの発売に先駆け、開発陣による採用技術や内外装デザインなどに関するプレゼンテーションが報道陣向けに行なわれた。
新型アコードは「若い世代が憧れ、既存のお客さまに共感していただける大人なセダン」
開発の背景や採用される技術については、本田技術研究所 オートモービルセンター 開発責任者 宮原哲也氏が解説。
まず開発にあたり、アコードについての満足度調査を行なったところ、比較的若年層である30代~40代のユーザーからは「クルマに対する満足度はすべての項目で80点以上」という“ネガティブなことが見つからないクルマ”であると評されたという。ただ、宮原氏は「言葉を返すと特徴がない、やもするとつまらないクルマだと思われてしまっていた。アコードには“エモーショナルな魅力”が足りていないという最大の課題となった」と調査について語り、ホンダのものづくりの原点に立ち返って「若い世代が憧れ、既存のお客さまに共感していただける大人なセダン」を狙いに定めたという。
そして、アコードに求められる「グローバルセダンとしてのゆるぎない走りのクオリティ」「人を中心とした人のための空間クオリティ」の2つを一切の妥協なく進化させ、“今までのどのアコードよりカッコイイと感じられる1台を作り上げること”を開発における最大のミッションとして、ボディ骨格、足まわりといったプラットフォームをすべて刷新していったと宮原氏は語り、採用技術について紹介した。
ダイナミクス性能においては、開発に先立ってスタートしたプラットフォームの基礎研究プロジェクトから、人の居住性、使い勝手、運動性能のあるべき姿をゼロから追求。安定した走りの鍵となる低い重心高と、余分な挙動変化を少なくする慣性モーメントの低減を軽量高剛性な構造で成立させ、走りとデザインの圧倒的進化をもたらす低重心・低慣性の新しいプラットフォームを設計。完成車の重量は前モデルに対して50kg軽くなったという。
ボディは現行モデルに比べて、多くの超高張力鋼板を使用することで軽量化と車体の剛性アップを実現。構造用接着剤を多用したことで、高剛性化とドライブフィールの向上に貢献するとともに、5%の軽量化を行ないながら、曲げ剛性は24%アップ、ねじり剛性を32%アップさせた。
新開発されたシャシーは、最新の技術を採用して軽量・低重心・低慣性に大きく貢献。フロントサスペンションはA型アームからL型アームに変更して、操縦安定性と乗り心地を安定させるとともに、ロードノイズ低減と、NV性能を向上。サスペンションのジオメトリ、ロアアームの軽量高剛性化、サブフレームと車体の適切な高剛性化を徹底的に研究して大幅な性能向上を果たし、軽快な走りと快適なNV性能を両立させている。
また、よりスポーティに、より快適に、ドライバーの気持ちや使用シーンによって走りの選択ができるよう、ホンダの独自技術「アダプティブ・ダンパー・システム」をアコードとして初採用。このシステムは車輪速信号、前後左右の加速度、ステアリングの舵角といったセンシング情報を用いて、電子制御によって適切な減衰力制御が可能となる。これにより、通常のダンパーではできないようなスポーティな走りと快適な乗り心地を実現したという。
走行モードは「スポーツ」「ノーマル」「コンフォート」の3つのモードが選択でき、アダプティブダンパーだけでなくパワートレーンのセッティングも変化。さらに、ステアリング特性やアクティブサウンドコントロール技術によってエンジンサウンドも演出される。
ステアリングシステムはデュアルピニオン式EPS構造と、舵角に応じて切れ角を変化させるVGRを採用。舵角の少ない高速道路などではスムーズな走行ができ、舵角の大きい駐車場などでは取りまわしを向上させた。
さらに、ひとクラス上の静粛性を実現するため、遮音性能も向上。ボディ10か所にスプレー式発泡ウレタンフォームを適用したほか、インシュレーターの見直しや、遮音ガラス、ノイズリデューシングアルミホイールなどを採用。室内に設けたマイクを通じてノイズの周波数を特定し、逆位相の音をスピーカーから放射することでノイズを打ち消す「アクティブノイズコントロール」も改良され、ホンダ初の3マイクタイプを採用。ドライバーの耳の近くにマイクを新設することで、運転席まわりのノイズ周波数をより高精度に特定可能とした。
パワートレーンは、前モデルの「Sport Hybrid i-MMD」をさらに改良進化させた「e:HEV」を採用。ロングバッテリーモジュールの開発や、内部構成部品の移動、冷却効果の向上により、PCU(パワーコントロールユニット)、IPU(インテリジェントパワーユニット)ともにサイズダウンを実現した。
搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターi-VTECエンジンは最高出力107kW(145PS)/6200rpm、最大トルク175Nm(17.8kgfm)/3500rpmを発生。また、レアアースを使用しないネオジム磁石を用いた新技術を採用した走行用モーターは、最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm(32.1kgfm)/0-2000rpmを発生。IPUに蓄えた電気エネルギーを用いて走行用モーターを駆動し、減速時には回生も行なう「EVドライブ」、エンジンと走行用モーターを併用する「ハイブリッドドライブ」、エンジン出力のみで走行する「エンジンドライブ」の3種類の走行を可能とした。
テストコースで感じたことをベースに、走りのデザインを具現化
エクステリアデザインについては、本田技術研究所 オートモービルセンター エクステリアデザイン担当 森川鉄司氏が説明。
エクステリアデザインは、新型アコードの開発初期に新しいプラットフォームの運動性能を確認できるテスト車が完成した際、デザイン部門の主要メンバー10人ほどが北海道のテストコースに集まり、実際にテスト車に乗って感じたことをベースに「進化した走りを体現できるデザインにする」という思いを共有することから開発をスタート。新型アコードのデザイン特徴を“走りのデザインの具現化”と定め、“品格あるスポーティ”を目指したという。
新型アコードのスタイリングは、ロングホイールベースによる伸びやかなプロポーションをベースに、力強いノーズ、スリークなキャビン、ワイドなスタンス、それと豊かな抑揚面とシャープエッジで構成されたダイナミックカーブなどが特徴となる。
ボディサイズは4900×1860×1450mm(全長×全幅×全高)で、従来モデルに対して45mm短く、10mm広く、15mm低いパッケージとしつつ、Aピラーを約100mm後方に移動させることで伸びやかで力強いノーズを実現させた。ホイールベースは2830mmで従来モデルに比べて55mm長くなったが、最小回転半径は従来の5.9mから5.7mに縮小した。
ボディのサイド面では、フロントのシングルフレームから水平基調のキャラクターラインが連続して伸びやかに繋がり、ここを基点に下部の抑揚ある造形と、上部のスリークキャビンのコントラストを創出。スポーティ感と低重心を表現した。また、ワイドで堂々としたスタンスを表現するために、リアのコンビネーションランプにホンダ共通のCラインを採用した。
さらに、アウターハンドルにもこだわり、握ったときに手に伝わる感覚にどっしりとした厚みを感じるセクションを設定。ドアを開けたときに、インテリアの堂々とした厚み感、安心感とリンクさせるようにしているという。これについて森川氏は「アコードのエクステリアデザインは、インテリア、エクステリア、走りのよさ、これらが三位一体で表現されたものにほかなりません」と力強く語った。
コンサートホールをイメージしたストーリーのあるインテリア
インテリアデザインは、本田技術研究所 オートモービルセンター インテリアデザイン担当 清水陽祐氏が解説。
インテリアは開放的なコンサートホールをイメージして、「コンサートホールのドアを開けた瞬間に広がる開放的な視界」「何曲演奏されるのだろうというワクワクした高揚感」「演目が始まると意識がそこに集中してほかに何も気にならなくなる豊かな臨場感」「終わってからも続く心地よい気持ちの余韻」といった時間の流れや人の気持ちをストーリーとして置き換え、「上質な空間で、気持ちよく走る体験」をデザイン。クルマと人をデザインとして結びつけ、乗車体験を一連のストーリーとするようなインテリアとした。
まず、気持ちの高揚感を広い視界で表現。Aピラーを後方にしたことで従来モデルより視野角を10%向上。ドアのベルトラインがインテリアからエクステリアのフードへと続くことによって、車内にいながら外への空間の広がりを感じられるようにした。加えて、この連続感はクルマを運転する上で、車両感覚を直感的につかみやすい重要なポイントでもあるという。
インストルメントパネルは水平基調とシンメトリーに徹底してこだわり、空間の広さやタイムレスな美しさ、上質で落ち着きのある空間を演出。フローティングタイプのセンターディスプレイを採用することで、薄型ですっきりとしたインパネとして、細部の加飾や使いやすさだけでなく操作感に至るまで、ひとクラス上の質感を目指して作り込みを行なったという。
ヒューマンインターフェースも刷新され、新開発のTFTメーターとディスプレイオーディオに加え、ヘッドアップディスプレイも採用。ヘッドアップディスプレイの表示は豊富なバリエーションが用意され、好みに応じて選択可能とした。
また、意のままにクルマを操る臨場感ある豊かさを「人とクルマの重要な接点であるステアリング」「運転以外の操作を行なうスイッチ類」「乗員をきちんとサポートするシート」の3つで表現。
ステアリングは、新型アコードの持つ軽快で力強いドライバビリティを表現するため、ダイナミクスのエキスパートドライバーと、どういった断面だと気持ちよく走れるのか、試作品を何度も交換しながら形状を追求。その結果、ステアリングのどの位置を握っても、アコードの高いドライバビリティを感じられるステアリングになったという。
スイッチのインターフェースは、ホンダの瞬間認知、直感操作という思想を継承しながら、ボタンの触感や操作するときのクリック感、光の演出を加えることで、使いやすさだけではない人の感性に響くデザインとした。
シートはクラフトマンシップを感じさせるレザー表皮を採用。シート幅を広げ、背もたれの長さを125mm延長するとともに、シートの中のウレタンの硬さを部位によって変えることによって、しっかりとしたホールド性と心地のよい座り心地を実現した。前席ヒップポイントは従来モデルに対して25mm下げ、スポーティで疲労感の少ない運転姿勢としたほか、フロントシートを片側10mmずつ車両中心に近付けてレイアウトすることで、ゆとりある肘まわりの空間を創出した。
リアシートはホイールベースの延長によって膝まわりの空間が拡大。クーペライクなフォルムでありつつ、頭まわりの空間をしっかり確保した。さらに、リアシートバックを先代に比べてわずかに寝かし、中間あたりで起こしてくることによって、リラックスした姿勢で長時間乗っても疲れない空間とした。
荷室容量は骨格の見直しに加え、IPUを従来のリアシート背面から後席下へ移設することで、従来モデルに比べて+149Lの573Lを確保。9.5インチのゴルフバッグを4つ載せられるほか、リアシートバックを倒すことでトランクスルーも可能とし、ハイブリッドセダントップの容量を実現した。
インテリアの細部にまで細かいこだわりが込められており、通常の開発ではクルマの形状を作ってから素材を当て込むという作業を行なうところ、今回はまず美しい素材を作り、それを部分ごとに当てはめていくという手法をとったという。清水氏は「木目パネルはケヤキの木を何枚もスライスして、一番美しく出た木目を忠実に再現しています。また、忠実に再現されたマテリアルが一番美しく見えるような演出を何度も調整しながら、シルバーのディメンションと合わせてより質感高くインテリアを演出しています」とこだわりについて語った。
日本のセダン市場に新型アコードで新たな風を吹き込む
新型アコードのマーケティングについては、本田技研工業 商品ブランド部 商品企画課 古川博朗氏が説明。
新型アコードの位置付けについては、もう1つのグローバルブランドである「シビック」、2019年に発売されたハイブリッドセダン「インサイト」の上級となり、「ホンダのコアモデルとしてブランドを牽引していく」と紹介。
メインのターゲット層は、“ニューエイジ”と定義する「他人からどう見られたいか」ではなく、「自分の感性を信じて変化や挑戦に果敢に挑み、年齢に関係なくしなやかなマインドを持つ」という“素敵な大人たち”に定め、「ロイヤルカスタマーだけでなく、ニューエイジといったお客さまにもお届けし、日本のセダン市場に新たな風を吹き込んでまいりたいと思います」と力強く語った。