試乗インプレッション

ホンダ新型「アコード」、日本市場とのマッチングはどうか?

車内のスピーカーからも出されるエンジン音は驚くほどスポーティ

コンフォートモードにすると何が変わる?

 ホンダの新型「アコード」2回目の試乗レポートだ。前回は「クラリティPHEV」との比較を展開しながらのレポート。で、今回は日本の市場にどのくらいマッチしているのだろうか? ということを考えながらレポートしたい。というのも、アコードの主戦場は北米なのだ。今回導入される新型アコードも実は北米で約2年前にデビューしている。北米では高い人気を得ており、またターゲットユーザーの若返りを狙って設計されたのが新型だ。

 まず日本国内で販売されるのはハイブリッド仕様のワングレードのみ。北米ではガソリン仕様のいわゆるコンベ仕様というグレードもラインアップされている。

 ハイブリッドのみの日本仕様だが、日本仕様にしかない特別な装備がある。それがドライブモードの「コンフォート」だ。北米仕様はタイヤがオールシーズン(M+S)ということもありスポーツとノーマルの2種類しか設定がなく、サマータイヤ(ブリヂストン「レグノ」)の日本仕様にはこれにコンフォートを加えた3種類のドライブモードが設定されているのだ。

 では、そのコンフォートモードにすると何がどう変わるのか? 一番の違いは乗り心地がよくなること。新型アコードでは歴代初となる電子制御による可変減衰力ダンパーが採用されていて、この減衰力が乗り心地重視に設定されるのだ。そのほかにハイブリッドシステムによるモーターの出力制御がノーマルモードと同じで、ステアリングフィールもエンジンサウンドもノーマルと変わらない。

新型「アコード」は2月に日本での販売を開始したハイブリッドセダン。「EX」のみのワングレード展開で、価格は465万円。ボディサイズは4900×1860×1450mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2830mm。車両重量は1560kg
18インチアルミホイールに組み合わせられるのはブリヂストン「レグノ」(235/45R18)
走行モードの切り替えはセンターコンソールのスイッチで行なう。「ECON」「EV」スイッチも用意される
ドライブモードは「スポーツ」「ノーマル」「コンフォート」を設定。ステアリングフィールやアクセルレスポンス、サスペンションの硬さが変更される

 新型アコードでは新型「フィット」や「インサイト」と同じe:HEVと呼ばれる新しいハイブリッドシステムを採用している。一般道レベルの、主に80km/h以下ではエンジン(アトキンソンサイクル)で発電して、その電力でモーターを動かし走行する。高速道路の走行では、モーターの回転数が上がりすぎて効率がわるくなるのでエンジンが直接駆動する。日産自動車のe-POWERは高速でもエンジンで発電してモーター走行するのだが、ホンダのe:HEVはこの点が大きく異なる。e-POWERはモーターで走行するのだからEV、e:HEVはエンジン駆動もあるからHV(ハイブリッド)という位置付けだ。

 新型アコードは一般道レベルの速度域ではモーターによる駆動で、エンジンは発電に専念する形だ。でもアクセルペダルを強く踏み込むと、それと同調するかのようにエンジン音も高まってまるでエンジンで駆動しているかのように感じる。スポーツモードにするとこの同調感がよりダイレクトになり、モーターパワーもレスポンスが上がる。また、ステアリングフィールがよりダイレクトで重くなり、ダンパーの強さも増す。特にリバンプが強くなり、そのため乗り心地は内臓を揺さぶるようでレーシーだ。クイック性、接地感が増す。ところでスポーツモードの際のエンジン音は、実は車内のスピーカーからも出されているものとのこと。しかし、これがリアルに近く驚くほどスポーティだ。

直列4気筒DOHC 2.0リッター「LFB」型エンジンは最高出力107kW(145PS)/6200rpm、最大トルク175Nm(17.8kgfm)/3500rpmを発生。これに最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmを発生する走行用モーターを組み合わせる。WLTCモード燃費は22.8km/L

 実はステアリングの左右にパドルが装備されている。トランスミッションを装備していないのでギヤを変更するパドルではない。これは回生レベルを4段階に変更するスイッチで、回生とはモーターを発電機に換えて発電させ、後席下に設けられたリチウムイオン電池に充電して貯めるシステムのこと。つまり、エンジンブレーキの代わりのように回生の強弱により発電量が変わるのだ。蓄電した電力も駆動に使われるので燃費がよくなる。

 左側のパドルを引けば回生が強くなり、そのレベルはインジケーターに表示される。右側を引くと弱まり0にもできる。アクセルOFF時の前車との車間コントロールや坂道、また交差点での右左折時に前もってこの機能を使うとスムーズな減速が行なえる。ノーマル、コンフォートモードではアクセルを踏み込むなど次の動作を行なった瞬間にデフォルト(0)に自動で戻り、スポーツモードでは残るのでアクセル操作によるよりダイレクトなドライビングが楽しめる。ECONやEVモードスイッチも装備されていて、夜中や早朝のマンション駐車場など騒音の気になるエリアでの走行に親切設計だ。

4WDがあれば……

 もちろん、新型アコードのプラットフォームは構造用接着剤を述べ43mも使用したというオールニューの新設計。旧型は欧州プレミアムセダンから乗り換えた時に、ポジションがちょっと高いなぁと感じていたのだが、新型ではヒップポイントを25mm下げだ。確かに違和感なく、しかもスポーティなドラポジだ。また、Aピラーを100mm手前に移動させたことで斜め前方の視界がよくなり、同時にピラーマウントのドアミラーの形状も改善され見切りがよくなっている。ホイールベース(2830mm)は伸びているが、最小回転半径は-0.2m(5.7m)小さくなった。これはプラットフォームを新設計したことで、よりステアリング切り角を増やせるようになったことによるものだ。先代モデルよりも取りまわしがよくなり、これなら日本の狭い道路にも合う。

 スポーツモードでのハンドリングはアクセル開度に対するモーターパワーの上昇が強くなり、アシストモーターをステアリングホイール軸から切り離したデュアルピニオンアシストEPSとし、これに加えてVGR(可変ステアリングギヤレシオ)の効果もあり小舵角から気持ちよくコーナーに飛び込める。新型では重心高を15mm下げた低重心と50kgの軽量化で高いコーナリング性能を得ている。また、長いホイールベースが後席のスペースや乗り心地だけでなく、安定感も増長していてグリップ感を持ちながらダイレクトなフィーリングだ。

 長距離ドライブではHonda SENSINGのACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKA(レーンキープアシスト)により疲労を軽減し、行動半径が広がる。特にホンダのシステムはACCなしでLKA単体でもセットできるので、アクセルやブレーキは自分でコントロールしたいドライバーには嬉しい装備だ。うっかり車線からはみ出しそうになることもない。また、静粛性ではレゾネーターを採用したホイールと、逆位相の音をスピーカーから出して静粛性を高めるアクティブノイズコントロールも3マイクタイプに進化させて運転席まわりがより静かになっている。

衝突軽減ブレーキ(CMBS)、誤発進抑制機能、後方誤発進抑制機能、歩行者事故低減ステアリング、路外逸脱抑制機能、渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、車線維持支援システム(LKAS)、先行車発進お知らせ機能、標識認識機能、オートハイビームからなる「Honda SENSING」は標準装備

 最後に個人的に注目なのが、ハイブリッドでありながらトランクスルー構造としていることだ。トランクを開けると開口部が大きく使いやすそうだ。ゴルフバッグは4個(9.5インチ)納められる573Lと、ハイブリッドセダンでは最大の容量。それにプラスしてトランクスルー構造は使い勝手が広がる。筆者はスキーおじさんなのでこれは素晴らしい! と感じた次第。贅沢を言えば、4WDであれば喉から手が出そうになる。

ハイブリッドセダンでは最大の容量を誇るトランクスペース。さらにトランクスルー構造も備え、利便性を高めている

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーデットドライバー。現在65歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:高橋 学