試乗レポート

トヨタの新しい「急アクセル時加速抑制」機能を体験。踏み間違い事故の低減に期待

スマートキーを持って乗り込むと機能ON、通常キーでは機能OFF

トヨタ自動車の新しい急アクセル時速度抑制機能を「プリウス」で体験

 アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故を防止するため、メーカー各社は知恵を絞って踏み間違いを防止する装置を開発し、多くのモデルに搭載させてきた。今回、トヨタ自動車では新しい急アクセル時速度抑制機能を開発し、新車向けとして「プラスサポート」、既販売車種向けの後付け装置として「踏み間違い加速抑制システムII」をそれぞれ7月1日に発売した。その体験試乗についてレポートする。

 2019年にトヨタはアクセルとブレーキの踏み間違いによる加速抑制装置をボリュームゾーンの「プリウス」に後付け商品として発売し、順次「ヴィッツ」「アクア」など12車種に展開している。

 この機能は、2012年から発売されている数車種に装備されているインテリジェントクリアランスソナー(ICS)付き車種のようにブレーキ制御まではしないが、進行方向に障害物がある場合は加速を抑えると同時に警報を出すものだった。緩加速しかしないために事故の軽減効果は高かった。

 トヨタではインテリジェントクリアランスソナー(ICS)の装備により、事故は7割低減されたとしている。さらに残り3割の踏み間違い事故に効果が期待できるのが、今回の急アクセル時加速抑制機能だ。

 これまでのシステムでは、発進時の進行方向3mに障害物がある場合にのみ作動して加速を抑制していたが、今回の急アクセル時加速抑制機能は障害物のない場面でも、踏み間違いを判定して急加速を抑制できる。これにより、ブレーキとアクセルを踏み間違えてアクセル全開で暴走する悲惨な交通事故を減らせると期待される。

 この機能は車両に搭載されているDCM(車載通信機)から、アクセル開度、ブレーキ、ウインカー、勾配などをビッグデータとして蓄積し、事故につながる急加速を抑制するものだ。作動条件は実践的で、次のように進む。①低速→②急アクセル→③アクセル踏み込み量大→④上り坂以外→⑤直前のブレーキ操作やウインカー操作がない。この条件を満たした場合に踏み間違いと判定され、急加速を抑制する。

自動車社会における究極の願いは「交通事故死傷者ゼロ」
高齢ドライバーに多い事故について
トヨタの踏み間違い事故への対応
インテリジェントクリアランスソナー(ICS)の装備により事故は7割低減したが、残り3割を低減させるには新たな技術が必要
残存踏み間違い事故を低減するための新機能
今回の急アクセル時加速抑制機能の作動条件
今回の急アクセル時加速抑制機能について(新車向け)

かなり実践的な装置

 実際に急アクセル時加速抑制装置を搭載したプリウスのステアリングを握り、平坦なパイロンなどで作られたクローズドコースで試乗した。

 初速度を30km/hに設定してクルージングした後、日常的に経験するような緩加速をした場合、プリウスはドライバーの意思どおりに加速する。次に同じようにクルージングしてアクセルを強く踏み込む。前方に障害物はない。すると、プリウスは誤操作と判定してアクセルが開かずに加速をしない。同時にインジケーターに表示されるので、パニックを起こした際に気付ける可能性もあり、事故低減に役に立つ。

 次に同じような場面で前方にクルマがある場合、ウインカーなしでアクセルを踏み込んでもやはりユックリとしか動かない。十分にドライバーがミスに気付ける時間がある。そして同じように直前にウインカーを出して車線変更した場合は、ドライバーの意思どおりに加速が可能だ。

 このように、かなり実践的な装置で要件を満たすとアクセルを開けなくなる。高齢者に多いアクセルとブレーキの踏み間違い事故では頑なにアクセルペダルをブレーキペダルだと信じて起こしているので、効果は高いと思う。

トヨタ「急アクセル時速度抑制機能」体験(1分1秒)

 1台のクルマを家族で共有するケースも多いと思うが、ディーラーオプションの「プラスサポート用スマートキー」(1万3200円~。通称:サポキー)を持ったドライバーが解錠して乗り込むと、急アクセル時加速抑制機能が自動的にONとなり、メーターパネル内のオープニング画面に大きく表示される。一方、通常のキーで解錠すると、この機能は自動的にはONにならない。例えばミスを犯しそうなドライバーにスマートキーを持たせれば、システムが自動的にONになり、踏み間違いによる急アクセルの事故はかなり軽減されるはずだ。

こちらがサポキー
サポキーによる作動概要
サポキーを持って対応車種に乗り込むと、メーターパネル内に「プラスサポートで始動しました」と表示される

 ここまでは新車での装着だが、踏み間違い加速抑制システムでもそうだったように、こちらも「踏み間違い加速抑制システムII」との名称で後付けが可能だ。今まではできなかった障害物がない場面でも、初速度30km/h以下からなら急加速を抑制できる。

 後退時に障害物がない場合、加速抑制機能はこれまでと同じで速度が5km/h以下で作動する。また、10km/h以下で障害物がある場面での速度抑制機能もこのシステムに含まれる。

 進化した急アクセル時加速抑制機能は日常の使い勝手を損なわずに、あってはならない場面で作動するように工夫されていた。いろいろな場面を想定して試したが、誤動作などはなく精度は高い。

 それでもブレーキと思ってアクセルを踏み間違える人にとって、どんな偶然が重なるか分からない。ディスプレイに表れる踏み間違いの表示だけでなく、音声で案内されるとさらに確実性が増すと思う。悲惨な事故が1件でも減ることを心から願っている。

既販車向けの「踏み間違い加速抑制システムII」は、2015年12月~2020年6月生産のプリウス(インテリジェントクリアランスソナー非装着車)から対応をスタート。今後、「SAI」(2009年10月~2018年2月)用を11月に、「クラウン」(2008年2月~2012年12月)と「マークX」(2009年10月~2016年11月)用を2021年1月に発売する予定

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛