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トヨタ東富士研究所で闇夜の自動ブレーキを体感、第2世代「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」試乗

自転車検知にも対応し、「アルファード」「ヴェルファイア」に搭載

トヨタの第2世代「Toyota Safety Sense」では、夜間の歩行者を検知することで自動ブレーキがしっかり動作する。作動域は昼・夜ともに約10km/h~80km/h

交通事故死傷者ゼロに向けて

 交通事故死傷者ゼロに向けての予防安全への取り組みは喫緊の課題で、クルマの安全性能は急速に向上している。人身傷害にならない追突事故も含めて予防安全技術は事故の低減には大きな貢献をしているといわれている。

 これまでトヨタ自動車は先進安全機能「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」(以下、TSS)を、車種に応じて「Toyota Safety Sense C」(TSS-C)と「Toyota Safety Sense P」(TSS-P)で使い分けていた。

 前者は初速度80km/hから作動するプリクラッシュセーフティ(PCS)と車線逸脱を警告するレーンディパーチャーアラート、それにオートマチックハイビームといったシンプルな構成だ。後者はシンプルに言えばこれに加えて全車速クルーズコントロールが備わるものだった。

 トヨタはこの2つのTSSを使い分けていたが、今後新型車に関してはTSS-Pをベースに進化させた第2世代TSSを、フルモデルチェンジ車ではもちろん、車種によってはマイナーチェンジでも組み込んでいく。まずは国内から搭載され、北米、欧州にも展開される。実際、2018年1月8日にマイナーチェンジした「アルファード」「ヴェルファイア」から搭載が始まっている。

 ちなみにこれまでのトヨタのTSSのCとP、合わせてグローバルで500万台のクルマに搭載され、追突事故は5割低減し、インテリジェントクリアランスソナー(ICS)と組み合わせた場合は9割の事故低減効果の実績があるというから絶大だ。

第2世代「Toyota Safety Sense」

 第2世代TSSではPCSに車線逸脱警告機能、自動ハイビーム、全車速クルーズコントロール、標識読み取り機能を追加している。機能の項目を挙げるとこのようになるが、実際はそれぞれの機能のレベルアップが図られており、大幅に実用性は高まった。

 システムの構成要因は単眼カメラとミリ波レーダーでTSS-Pと変わらないが、カメラの解像度とその処理能力が高くなり、カラーも認識しやすくなって、合わせてミリ波レーダーのセンサー能力、そしてカメラとの協調性も上がっている。

 トヨタ東富士研究所で行なわれた体験会でハイライトだったPCSの機能を例にとると対車両の認識精度が上がり、これまでのTSS-PやTSS-Cではできなかった自転車の認識ができるようになり、また歩行者も昼間の認識精度が上がっただけでなく夜間の認識もできるようになった。

 例えば物陰から歩いてきた子供を認識し制動する際にも、これまでのTSS-PやTSS-Cでは間に合わなかったところが第2世代TSSでは間に合う可能性も高まった。実際の体験では第2世代TSSを搭載しているアルファードが40km/hで走行中、物陰から子供(身長115cm相当)が足早に飛び出してきたようなケースを想定した実験では、警報音→急停車で接触を防止することができた。

 運転席から見える光景はクルマの真ん前に子供が飛び出してきた印象で、タイヤが鳴るほどの急制動で止まることができ、ホッとした。人形とは分かっていてもドキドキする。この経験はこの後も続くことになる。

トヨタ東富士研究所 第2世代「Toyota Safety Sense」緊急自動ブレーキ(昼間歩行者)
トヨタ東富士研究所 第2世代「Toyota Safety Sense」緊急自動ブレーキ(昼間歩行者)

自転車の飛び出し

トヨタ東富士研究所 第2世代「Toyota Safety Sense」緊急自動ブレーキ(自転車)

 今度は自転車の飛び出しを想定した実験だ。アルファードの車速は変わらず、自転車の速度は15km/hに設定されており、こちらも遮蔽物のある所から飛び出してくるイメージだ。人形が自転車に乗っているが、なかなかリアル。歩行者の時よりは少し離れた場所からスタートし、やはり物陰から飛び出してくる感じだ。

 運転席から見える自転車はちょうどAピラーの後ろに見え隠れしながらアルファードの前に飛び出してくる。ドライバーから見て同じ位置に見える物体は移動しながら近づいてくるとは感じにくいと言われるが、確かに相対的にAピラーの位置にあると、こちらに向かってくるとは感じにくい。視認していても判断しにくいのだ。北海道では遮蔽物のない十字路でこの種の事故が起きやすいと言われているが、より高速なので被害はもっと大きくなる。

 第2世代TSSはカメラの視認範囲に入ると、接近を警告して衝突2秒前には車内に警報音が鳴り響き、急制動を掛ける。子供の人形でも驚いたが、自転車も停止したのは本当に直前だった。

 今回の実験はクルマ側の初速を一定にして再現性を確実なものにするためにクルーズコントロールを使い、レーンもガイドを使って方向も一定にしたために、ほぼ100%の成功率だった。もちろん車速が速くなったり、感知範囲がもっと狭くなれば接触することもあるが、ブレーキを掛けられれば、かなりの障害低減効果になる。とっさの反応が遅れた場合でも被害低減につながるのは心強い。

 自転車では、例えば並走していてもカメラは自転車だと認識できるという。その仕組みはカメラが視認する映像の辞書を持っており、人間が分かるようにカメラも辞書に適合すれば自転車だと認識できる。ふらふらとクルマに寄って来た場合でも警報音とブレーキを掛けるということだった。こちらもすべてを認識できるわけではないが、お互いに危険を予防できるならそれに越したことはない。

夜間の歩行者認識

トヨタ東富士研究所 第2世代「Toyota Safety Sense」緊急自動ブレーキ(夜間歩行者)
トヨタ東富士研究所 第2世代「Toyota Safety Sense」緊急自動ブレーキ(夜間歩行者)

 さて、時間を夜に移して、今度は夜間、ロービームで静止した人間を認識してブレーキを掛けられるかの体験をした。

 アルファードの車速は30km/h。照明はクルマのロービームだけで周囲は闇だ。30km/hと言えば狭い市街地の裏道を走っているイメージか。ヘッドライトはロービームなので完全に照射範囲の上部がカットされ、人形は青いズボンに黒いシャツなので闇夜に溶け込んで見えない。周囲の照度としては1ルクスぐらいというから、ろうそく灯りのイメージだろう。

 徐々に人形に近づくと、人形らしきものがボンヤリと見えるが、もし何も知らなければ何だろうと思って確認しようとしているうちに直前に迫ってしまう。この場合でもカメラは自分で持っている辞書によって、少しの情報から推察して人だと認識し、ブレーキを掛ける。人間の眼よりカメラの解像度は優れているが、それにしても人の眼には突然目の前に現れたのが人形だと分かっていてもやはりギョッとする。合わせてオートハイビームの必要性が分かった。

 試乗会では多数のメディアに体験してもらっても100%制動できたのは頼もしい。

 さて、自動ブレーキの自車の速度域は歩行者で10~80km/hで感知可能。ただし速度の低減量は40km/h。車両の場合は10~180km/hでやはり速度の低減量は50km/hになる。これが自転車だと自車の速度は10~80km/hで速度の低減量は40km/hになるので、40km/hからなら止まれるがそれ以上だと接触するものの被害は軽減される可能性が高い。

 これ以外にも第2世代TSSでは車線逸脱防止でカメラの解像度が上がって、白線と路面の境界も検知するので逸脱の可能性を警報音で防止し、車種によってはステアリング操作の支援を行なってレーンに戻すことも可能になっている。

 このようにバージョンアップされて、小型化されたユニットの予防安全へのさまざまな波及効果は一気に上がった。技術の進化は止まることがない。トヨタは世界のメジャープレイヤーだけに、多くのクルマに搭載されることで安全への大きな寄与が期待できる。