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トヨタ、障害物がなくても急加速を抑制できる「急アクセル時加速抑制機能」を葛巻清吾フェローが説明
コネクティッドカー約180万台のビッグデータを活用
2020年2月4日 06:00
- 2020年2月3日 開催
トヨタ自動車は2月3日、コネクティッドカーから得られたビッグデータに基づき、ペダルの踏み間違いによる異常なアクセル操作を特定して加速抑制を行なう「急アクセル時加速抑制機能」を開発したと発表。同日に東京都文京区にある東京本社で技術説明会を開催した。
説明会では、トヨタ自動車 先進技術カンパニー フェロー 葛巻清吾氏が解説を担当。葛巻氏は最初に、「交通事故死傷者ゼロ」を究極の目標に掲げて開発を続けているトヨタのADAS(先進運転支援システム)が歩んできたこれまでの歴史について説明。レクサスなどの上級車種で自動運転技術まで含めた先進技術の開発に取り組み、そこから販売台数の多い普及車種に展開する2軸開発で取り組んでいることなどを紹介。トヨタの予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」の搭載車を、2015年4月に発売された「カローラ」シリーズで初採用された第1世代、2018年1月に発売された「アルファード」「ヴェルファイア」で初採用された第2世代の2種類累計で、これまで日本国内で約430万台、グローバルで約1600万台販売してきたことをアピールした。
直近では、2月10日に発売を予定している新型コンパクトカー「ヤリス」に、右折時の対向直進車や右折先の横断歩行者などにも自動ブレーキが作動するようになった「交差点事故対応PCS」、アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作をクルマが自動的に行なう高度駐車支援システム「トヨタ チームメイト アドバンスト パーク」をトヨタ車として初搭載して、Toyota Safety Senseによる安全・安心を普及モデルに拡大しているという。
今後の取り組みとしては、2017年10月に発売したレクサス「LS」で初採用した「Lexus Safety System+A」とほぼ同等の機能をToyota Safety Senseにも展開していくと説明。「緊急時操舵支援PCS」「ドライバー異常時車両緊急停止支援システム」「スピードマネージメント機能付きレーダークルーズコントロール&LTA」の3つの技術を代表として、交通事故死傷者のさらなる低減を図っていくとした。
約180万台のコネクティッドカーで蓄積してきたデータを活用
説明会の主題となる急アクセル時加速抑制機能について、葛巻氏は開発の目標として、主に75歳以上の高齢ドライバーが加害者(第1当事者)となる交通死亡事故が近年増加してることへの対策であると説明。2007年~2018年の12年間に、75歳以上、80歳以上の高齢ドライバーの免許保有率は約2倍に増加しており、交通事故死傷者数が減少している一方で、高齢ドライバーによる事故は件数、割合とも暫増傾向となっているという。
高齢ドライバーの事故傾向では、75歳未満の人と比較して、高齢ドライバーは走行する速度を抑え気味にしていることから人身事故については低いものの、ペダルの踏み間違いによる事故は8倍と大幅に発生率が高く、続いて路外逸脱が3倍、ガードレールなどと接触する自損事故が1.5倍になっている。また、日本では車道や駐車スペースと歩行者が近いケースが多く、海外と比べて事故が起きた場合の被害が大きくなってしまう傾向もあるという。
この対策として、トヨタでは2012年12月から「インテリジェントクリアランスソナー」を、2018年12月から後付け式の「踏み間違い加速抑制システム」を製品化。インテリジェントクリアランスソナーは2019年12月以降の受注数では約83%と高い装着率となっており、12車種に対応している踏み間違い加速抑制システムは2019年12月末時点で約2万300台に装着されているという。保険会社の調査結果では、インテリジェントクリアランスソナーの装着によりペダル踏み間違いによる事故が約7割低減されたというデータがあると葛巻氏は説明。障害物があるケースでの事故防止に非常に有効であると解説しつつ、一方で残る約3割をカバーするため技術開発を続けてきたという。
新たに発表された急アクセル時加速抑制機能では、2002年10月に発売されたコンパクトカー「WiLL サイファ」以来、DCM(Data Communication Module)を搭載する約180万台のコネクティッドカーからデータセンターに送られた車両プローブデータをビッグデータとして利用。この車両プローブデータには「アクセル開度」「ブレーキ」「ウインカー」「勾配」などの情報が含まれており、これを活用することで、車両の前方に障害物がない場合でもペダル踏み間違いによる急加速が抑制できる。
この制御にはビッグデータの分析をベースとした推定アルゴリズムが用いられており、ペダル踏み間違いは車両の走行速度が「低速(30km/h以下)」で、アクセルペダルの踏み込みが「速く」、同ペダルの踏み込み量が「大きい」といった3つの条件が重なる場合に発生していると分析。これに加え、同様のケースでも上り坂ではドライバーの意思で3つの条件がそろうケースがあることから、上り坂以外を走行している場合に限定し、これに直前のブレーキ操作が行なわれていないこと、右左折中やその直後ではないことなどを作動条件にあてはめていくという。
具体的には0km/h~30km/hで抑制機能が作動。アクセル操作をしてもクルマが反応を示さず、メーターパネルなどの警告表示と合わせてドライバーに誤操作であることを知らせる仕組みになるという。葛巻氏はこうした安全に関わるクルマの操作に関しては、業界全体で統一を図っていく協調領域になると語り、日本自動車工業会を通じて他の自動車メーカーなどにも仕様の統一を呼びかけていくとした。
急アクセル時加速抑制機能は今夏を目標として新型車のオプション機能として設定。また、同機能は販売後の既販車に後付け装着できるよう開発しており、これにはすでに製品化している前出の踏み間違い加速抑制システムのコンポーネントを応用。「プリウス」(2009年5月~2015年12月)や「アクア」(2011年12月~2018年4月)など、踏み間違い加速抑制システムを用意した高齢ドライバーのユーザー比率が高いモデルを中心に、順次製品化を行なっていく計画としている。
また、急アクセル時加速抑制機能は基本的に高齢ドライバーの運転をサポートする装備として位置付けられており、システムは専用キーを使って乗り込んだ場合だけ作動する仕組み。他のキーを使った場合はオプション装着していないクルマ同様になるという。
プレゼンテーション後に行なわれた質疑応答で、葛巻氏は新たに発表した急アクセル時加速抑制機能を含め、各種ADAS機能についてできる限り導入コストを抑制して、幅広い車両で利用してもらえるように努めているとアピール。急アクセル時加速抑制機能の後付け装着については、すでに販売されている踏み間違い加速抑制システム(5万5080円)と大きく変わらない価格で販売する見込みであるとコメント。しかし、車種ごとのチューニングが必要となるため、既存品と同じく複数回に分けて対象車種を拡大していくとした。
また、先進機能による対策だけでなく、車両の基本設計としての段階で踏み間違いなどの誤操作を防げるような対策ができないのかといった質問も複数出たが、葛巻氏はいろいろな検討を継続的に実施しているものの、現時点では具体的な対策に移す段階には至っていないと語り、引き続き取り組んでいくと回答した。