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自動運転車「Highway Teammate」による首都高での自動運転を披露した「トヨタ 安全技術説明会」

2020年ごろに実用化。人とクルマが協調する「Mobility Teammate Concept」

2015年10月8日 実施

自動運転車「Highway Teammate」。このHighway Teammateを使用した自動運転が実際に行われた

 トヨタ自動車は10月6日に、2020年ごろの実用化を目指した自動運転実験車「Highway Teammate」を公開。同日から報道陣向けに首都高速道路を使用した自動運転実験車関連の取材会を開始した。Car Watchは10月8日に参加。「トヨタ 安全技術説明会」の一環として紹介された、自動運転実験車に盛り込まれた技術と思想、同乗走行の模様をお届けする。

トヨタ 安全技術説明会において、トヨタの取り組みを発表するトヨタ自動車 CSTO(Chief Safety Technology Officer)補佐 製品企画本部 安全技術企画 主査 葛巻清吾氏

 トヨタはこれまでにも年に1度のペースで安全技術説明会を実施。その中でトヨタの安全の考え方を示す「統合安全コンセプト」を示してきた。衝突被害低減ブレーキなど先進安全技術で若干出遅れた同社だが、波長905nmのレーザーレーダーと単眼カメラの2種類のセンサーでPCS(プリクラッシュセーフティシステム)、LDA(レーンディパーチャーアラート)、AHB(オートマチックハイビーム)を実現する「Toyota Safety Sence C」を4月発売のカローラから商品化。77GHzのミリ波レーダーと単眼カメラを用いることで、上記の3つに加え、歩行者PCS、レーダークルーズコントロールを実現した「Toyota Safety Sence P」を8月発売のランドクルーザーから商品化している。これらを順次市販車に搭載していき、日米欧を中心に2017年末までに、ほぼすべての市販車に搭載するという。

Toyota Safety Sence Cのユニット
Toyota Safety Sence Pのユニット

 もちろんこれらは、交通事故死者ゼロ社会に向けた取り組みとなるが、2014年の交通事故死者数は約4100人。政府の目標が2018年に2500人以下となっているが、近年高齢者による交通事故死者数割合が増えており、低減度合いが減っているという。

 そのためもあり、さらなる安全技術は必要で、トヨタとしてはクルマとクルマ、クルマと交差点が情報をやりとりして協調する協調型安全技術を世界で初めて市場投入。ITS専用周波数(760MHz)を活用したITS Connectを10月1日に発売したクラウンから実装している。このクラウンでは、「路車間通信システム(DSSS:Driving Safety Support Systems)」により右折時注意喚起などが行われるほか、同じITS Connect技術を搭載した車両と「車車間通信システム(CVSS:Connected Vehicles Support Systems)」を実現。車車間通信システムでは、車車間通信により取得した先行車両の加減速情報に素早く反応して、車間距離や速度の変動を抑え、スムーズな追従走行を行うという。いわゆるV21I、V2Vを実現したことになる。

トヨタの安全の考え方
Toyota Safety Sence
Toyota Safety Sence C
Toyota Safety Sence P
Toyota Safety Senceの展開・普及について
交通事故死者ゼロ社会に向けて
事故実態
交差点事故の対応
自動運転技術

 その先にあるのが、自動運転技術となり、トヨタでは「Mobility Teammate Concept」という考え方を掲げる。これは、「クルマがドライバーの能力や気持ちを読み取り、ある時は見守り、ある時は支援」「ドライバーとクルマが気持ちの通った仲間のような関係構築を目指す」ものだという。

 自動運転においては技術のみが着目されがちだが、自動運転領域から人の運転領域に、いつ、どのように遷移するのかなど、トヨタでは人とクルマの関わりについて考察を深める。今回展示された自動運転車「Highway Teammate」には、自動運転を示す青色の人と、人間を示す黒色の人が2人でステアリングを握り合うデザインマークを描かれ、Mobility Teammate Conceptを意匠として表現している。

自動運転技術が目指す社会
Mobility Teammate Concept
トヨタの自動運転に対する考え方
自動運転技術
運転の知能化
車載カメラで走行路写真を収集
運転知能AI
スタンフォード大学と連携研究センターを設立
人とクルマの協調
自動車専用道の自動運転
“もっといいクルマづくり”

単眼使用のステレオカメラと2種のミリ波レーダー搭載。赤外線のLIDARで周囲を把握

Mobility Teammate Conceptが全面に打ち出された自動運転車「Highway Teammate」

 レクサス GSをベースにした「Highway Teammate」にはトヨタの現時点での自動運転技術が詰め込まれている。自動運転車に必要なのは、自車位置など周囲の環境を把握する能力。Highway Teammateでは、単眼使用のステレオカメラのほか、フロントグリルのレクサスエンブレムに77GHzのミリ波レーダーを1基搭載。さらに車両周囲4個所の24GHzミリ波レーダーに加え、前後それぞれ3個所に赤外線のLIDAR(Light Detection and Ranging)を搭載する。

 77GHzのミリ波レーダーは、「Toyota Safety Sence P」に搭載されているものと同様の製品で、前方約170mまでの障害物を監視する。一方、24GHzのミリ波レーダーは周囲約60mを監視。長距離監視と短距離監視を使い分けている。

 一方、赤外光を使ったLIDARは広い範囲を監視。左右方向で110度のエリアを、高さ方向は4段階で検出している。このLIDARに関しては次世代版も展示されており、高さ方向を96段階の分解能で検出するという。この96段階の検出は、16段階の分解能の基本モジュールと6段階に変更可能なポリゴンミラー(回転多面鏡)を使い、システムとして16×6=96の分解能になっている。

 そして単眼カメラとして使われているステレオカメラは、道路上の白線などを認識。「Toyota Safety Sence P」「Toyota Safety Sence C」とも、単眼カメラとレーダーとの組み合わせとなっており、十分な環境認識力を得ている。ステレオカメラユニットが搭載されているのは、このクルマが実験車のためとのことだ。

各所にセンサーが配置されている
各所に設置されたLIDAR
レクサスの「L」エンブレム裏には77GHzのミリ波レーダー
自車位置計測などを行うユニット。今回の自動運転には使用せず
市販のGPSセンサー
ステアリング左下にあるのが自動運転切り替えボタン。Mobility Teammate Conceptのロゴが描かれている

自動運転と人による運転の切り替えをスムーズに

 公道による自動運転の実験は、東京 お台場地区を出発し、首都高速 有明入口から湾岸線(東行き)に入り、辰己JCT(ジャンクション)で9号深川線に分岐した後、福住出口で一般道に。その一般道で折り返して、同様のルートでお台場にというものだった。そのルートの中で、高速道路部分のみを自動運転で走行する。一般道は人の運転で、料金所をくぐったら合流からJCTの分岐、出口までを自動運転でというプログラムとなっていた。

 この見所は、人からクルマへ、クルマから人へという部分がいかにスムーズにできるかというところと、多くのクルマが走る首都高でJCTの分岐や合流を本当にできるのかというところ。往路は追走車から、復路は自動運転車に同乗して映像を撮影したので、まずは確認していただきたい。

「Highway Teammate」を追走
「Highway Teammate」を車内から撮影
首都高速湾岸線に入るHighway Teammate。料金所を越えたところから自動運転に移行している
JCTの分岐も確実にこなす
もっとも難しいと思われる合流の部分。追走で見ている限りは着実に処理しているように見えた
車線変更前に、追越車線から来たプリウスを先に行かせ、その後車線変更。首都高を熟知しているドライバーのような動き
首都高で自動運転中。但し、すぐに人が介入できるようなドライビングスタイル。日本では関係省庁と調整の必要はあるが、公道での自動運転実験が可能で、自動運転車開発のメリットともなっている

 追走映像を見ていただければ分かると思うが、実にスムーズな走りをしていること。周囲のクルマを把握して車線変更、そして分岐・合流と、初心者レベルではなく、中級以上のドライビングテクニックを持っているように見える。

 この背景としてあるのが、各種センサーのほか、高精度なデジタルマップを搭載していること。今回の実験用に搭載したデジタルマップは国家プロジェクトとして行われている「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)・自動走行システム(SIP-adus)」において作製されていく「ダイナミックマップ」ではなく、トヨタが独自に作ったものだという。とはいえ、トヨタ関連のナビゲーションではトヨタマップマスターの地図が使われており、トヨタマップマスターもダイナミックマップ作製社の1つであることから、今後の自動運転の実現に同様の地図が用いられていくものと思われる。

 同乗映像では、ドライバーが実際に手放しで運転している様子やナビ画面位置に映し出された自動運転情報を見ることができる。ドライバーが手放しで運転しているとはいえ、いつでも運転に介入できる状況となっており、この態勢であれば日本の法令に遵守している状況となる。復路となる同乗走行では、辰己JCTの分岐時に車線変更ができない状態に陥り、ドライバーが介入したことが分かるだろう。

情報画面。多くの周辺走行車が認識されているのが分かる
情報画面が作り込まれているのが分かる。周囲も8分割で認識しているとの表示があった

 これは交通量の多さから、自動運転車が車線変更する隙間を見つけられなかったため。人間であれば、例えば車両の姿勢を変えることで後続車に車線変更の意思を示し隙間を空けてもらうなどのコミュニケーションができるが、この自動運転車ではそこまでの実装はされていない。周囲の環境を把握し、それに応じた自動運転を行っている。周囲の環境を積極的に変えるような自動運転ではなく、周囲の環境に対応した受動的な自動運転となっていた。

 同乗映像で注目していただきたいのは、画面では左下に表示されているナビ画面位置に表示される自動運転情報。走行車線の位置、周囲を走るクルマの認識情報、次のポイントまでの距離などが表示されている。周囲のクルマの認識もほぼ正確と言えるもので、ミリ波レーダーやLIDARの認識力の確かさが分かる。

トヨタの自動運転車開発を担当する製品企画本部 安全技術企画 主査 葛巻清吾氏。SIP-adusに参加しているメンバーでもある
トヨタ自動車 東富士研究所 FP部 部長 BR高度知能化運転支援開発室 室長 鯉渕健氏。自動運転車の知能化の部分を担当している

 トヨタによると、現在搭載されている環境認識用の様々なデバイスは実験車ならではの搭載であるとし、この実験車のテストを通じて、「どのようなデバイスが必要なのか?」ということを突き詰めていく。

 また、デバイスの選定とともに必要となるのが環境認識アルゴリズムの開発だ。環境認識においては、ディープラーニングによる高速画像認識技術の進展が著しいが、この自動運転車については従来手法を用いているという。担当者によると、NVIDIAのDRIVE PXなど車載システム開発キットを用いたディープラーニングは視野に入っており、環境認識の手段としては有効なところがあるという。但し、トヨタとしての考え方は、「Toyota Safety Sence C」「Toyota Safety Sence P」のように、複数の方法を用いて高い認識精度と信頼性を確保することにあり、ディープラーニングによる環境認識だけに頼ることはないだろうとした。

 自動運転には、いつ人間が運転に介入するのか、人間に運転を戻したときに“眠っていたら”などの問題がある。これらのことに関しては、今後の開発課題となるほか、今回の映像を見ても分かるように自動運転車は制限速度を完全に守った形で走行する。ただ、実際にはその速度で道路を走ると交通の流れを阻害し、単に渋滞をまき散らす要因になることも考えられる。このような問題については、現状の法規の問題であるとし、実際の交通状況に沿った法規の制定が望ましいとした。誰もが速度違反をして走っている道路は現実的に存在し、これまでは人間特有の“運用で”とか“状況に応じて”という柔軟な判断が行なわれていた。この曖昧な部分が自動運転車の登場によって明確となるのは歓迎したい部分だ。

 そのほか、どちらに逃げても人身事故となるような緊急時の判断については、「トヨタとしては全力で(ブレーキなどによって)止める」とし、倫理的な問題についての回答は得られなかった。これは自動車会社としての問題というより、社会的な合意が必要となるため、国家レベル、国際レベルでの取り組みになるだろう。SIP-adusにおいても検討課題となっているほか、国際連合でも「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」においてもすでに検討が開始されている。

(編集部:谷川 潔/Photo:安田 剛)