東京モーターショー2015
激化する自動運転の開発競争、「SMART MOBILITY CITY 2015」国際シンポジウムリポート(後編)
ホンダ、トヨタ、日産および欧米の現状と課題とは?
(2015/11/10 11:30)
- 2015年11月6日開催
「第44回東京モーターショー2015」の会期に合わせ、11月6日に「SMART MOBILITY CITY 2015」と題された国際シンポジウムが東京ビッグサイトで開催された。
後編では本田技研工業、トヨタ自動車、日産自動車といった自動車メーカーのほか、欧米で自動運転関連の政策に関わる代表者らが、現在の自動運転技術の概要と完全自動運転に向けた課題などを報告しているので、その模様をリポートする。
ホンダは首都高を舞台に自動運転を実験中
本田技術研究所の横山氏は、すでに市販車に搭載している「Honda SENSING」を中心とした先進運転支援システムの内容を解説。単眼カメラやミリ波レーダーなどのセンサーを組み合わせることで、歩行者検知を含めた衝突軽減ブレーキ(CMBS)、渋滞時の追従機能も備えたアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、車線の中央を走るようステアリング操作を補助する車線維持支援システム(LKAS)などを実現しているとした。
こうした先進運転支援システムの先にある自動運転については、2013年11月にすでに都内で公道実験を行っている。また、2014年9月に開催された「第21回ITS世界会議デトロイト2014」においても、高速道路上での自動運転をデモしており、現在は首都高速道路の豊洲IC(インターチェンジ)から葛西ICの区間で、自動運転の公開デモを実施している。
この自動運転車ではステレオカメラ、GPS、ジャイロセンサーに加え、長距離センシング用のミリ波レーダー、中距離センシング用のミリ波レーダー、近距離センシング用のレーザーレンジファインダーなどを搭載している。これらを用いて周囲360度にある障害物検知を行い、プログラム上はセンサーから出力された値を「行動計画のブロック」に入力し、車両の走行ラインとなる「パスプランニング」を決めていく仕組みになっているという。通常の走行ラインと緊急回避用の走行ラインの2つを常時生成し、状況に応じて選択しているとのこと。
横山氏は自動運転の発展を「黎明期・普及期・成熟期」の3つのタームに分けて考えていると説明した。「黎明期」は運転支援システムの進化によって交通事故のない社会を目指すものとし、「普及期」は事故低減に加え交通量制御による渋滞解消、定時制、省資源を実現できる可能性があるとした。そして「成熟期」では自動運転を中心に据えた新たな交通社会の実現可能性について言及し、「すべての人に自由な移動を提供したい」と語った。
ただし自動運転の実現には、このような技術面以外にも「法的、社会的な取り組みが必要」と同氏は話す。ドライバーとシステムの役割・責任区分の明確化、欧米と協調した国際標準の策定推進が求められるだけでなく、歩行者などの交通参加者の“受容性”、つまり多くの人が自動運転車を自然に受け入れられるような意識面のケアも不可欠だと述べた。
人とシステムが“チームメート”になることを目指すトヨタ
次に登壇したのはトヨタの鯉渕氏。冒頭で「(ホンダと)同じ方向を目指しているのかな、と感じた」と述べたように、安全と、すべての人に移動の自由を提供すること、燃費・交通量の低減という3つの目標を掲げており、これに対して「運転知能、つながる知能、人と協調する知能」を集約した自動運転技術が大きな役割を果たすと見ている。
トヨタでは、1980年代から前車への追従機能や走行レーンの維持といった基礎的な運転支援システムの研究を始めており、1990年代にはインフラも活用した運転支援システムの検討、2000年ごろからは自動運転の研究も進めてきたという。しかし、現状では自動運転はまだ実験の域を出ない。「20年以上も取り組んでいるのに、なぜ(自動運転車が)製品化されていないのか、今回はできるのか」と鯉渕氏は疑問を投げかける。
これについては、主にコンピューターのパフォーマンス向上などいくつか重要なイノベーションがあったことから、「実用化の山を越えられる可能性が出てきている」と述べた。トヨタでは2011年に北米における一般公道の走行試験も行っているほか、都内でも同様に「複雑な交通環境の一般道」と高速道路の2パターンで走行試験を実施している。歩行者や自転車も判定しつつ、これまでの走行レーン維持機能では対応が困難だったややタイトなコーナーの自動走行も可能になっているという。
完全自動運転に向けて技術革新は目覚ましいものがあるが、その一方で「クルマで走る喜びがなくなるのではないか」という声もあると同氏。自動運転車がどうあるべきなのか、開発チームではその考え方を「Mobility Teammate Concept」としてまとめている。
Mobility Teammate Conceptは、「人間とクルマが互いに協力して走らせていく」というコンセプト。自動運転には2つの考え方があるとし、1つは運転を分担するもの。高速道路のような単調な運転が続く場面では自動運転に、複雑な交通環境ではドライバーに操縦を戻すといったように、人間とシステムの強みを補完しながら運転するものだ。もう1つの考え方は、ドライバーが運転を楽しみ、システムがその運転を(安全を維持できるよう)見守るものとしている。
Mobility Teammate Conceptの実現には、センサーや高精度3D地図などを駆使した高度な運転支援技術のほか、自動運転の挙動をドライバーが容易に理解できる仕組み、故障時などにも対応できる堅牢なシステム、そして自動運転技術がどう役立つのかという社会的なコンセンサスも必要だと同氏は述べる。そのためには産官学の協調が必須とし、「技術、人、交通環境の三位一体でやらないと自動運転は世に出てこないだろう」と訴えた。
8個のカメラでリアルタイム処理する、日産の自動運転プロトタイプ車
日産が自動運転によって目指す社会もホンダ、トヨタによく似ている。日産は東京モーターショー2015で近未来のEVの姿を具現化した「ニッサン IDS コンセプト」を発表したが、「クルマに任せたい時はパイロットドライブモードで、自分で運転したい時はマニュアルドライブモードで」(同社 三田村健氏)という切り替え型を想定しており、運転の楽しさと安全・快適の両立を目指したものとなっている。
日産の自動運転への取り組みは、「ゼロエミッションと(事故による)死傷者数を減らすこと」が目標。その達成のキーとなる技術が「電動化」であり、事故原因の9割と言われているヒューマンエラーの要因となっている部分を機械で置き換え、「高度に知能化されたクルマを実現すること」を目指している。
自動運転の実用化に向けて、日産は3つのステップで取り組んでいると話す。
まず2016年には、高速道路において低速渋滞時も含めた単一レーンでのACCに対応する。2018年には複数レーンにまたがった高速道路の自動走行、さらに2020年にはその走行環境を一般道にも拡張し、交差点における自動運転の実現を目指すという。
日産では実走行可能な「Nissan IDS Prototype Car」も製作しており、すでに一般道も含む実環境において自動走行できるレベルに達している。技術、コスト面で市販化を意識しながら作り込みを行っているとのことで、カメラ、ミリ波レーダー、レーザースキャナーといったセンサーを搭載し、なかでもカメラは8個も搭載して360度の視界をリアルタイムでビジュアル処理しつつ、物体を3次元で正確に把握できるのが特徴だとした。
他社と同じように、センシング性能を追求するだけでなく、「どうやってお客様に安心して使っていただくか」というHMI(ヒューマン・マシン・ インターフェイス)における課題も重要だと認識している。
また、人間でも走行するのが難しくなる雨、雪、霧のような悪条件下でどのようにセンシングすべきか、あるいは夜間における前車の赤いテールランプ、フェンス越しに見えるクルマ、路面にマーキングされていない交差点などを、どのようにして正確に認識するかも大きな課題だとした。日産が目指す「フューチャーモビリティを実現するには、まだまだやらなければいけないこと多い」のが実情だ。
米国は2040年までに本格的な自動運転社会へ
米国において、自動運転はどのような状況にあるのだろうか。自動車安全に関する専門コンサルティング会社「Active Safety Engineering」の代表であるジョセフ・エヌ・カニアンスラ博士が登壇し、米国の現状を語った。
同氏によれば、米国では年間の交通事故死者数が近年でも3万人以上と非常に多く、さまざまな事故対策の研究が20年ほど前から進められているものの、いずれも本格的な実用化には至っていないという。交通事故にはドライバー、クルマ、交通環境・インフラという3つのファクターが関わっており、データ上ではドライバーに起因するものが事故原因全体の90%を占めているとのこと。対して道路などの環境・インフラは7%~8%、車両は2%~3%と、事故原因としてはわずかだ。
ドライバーが事故の原因となる要素の最たるものは、法規無視、システムの不活用、夜間の視界不良、不注意、スピードの出し過ぎ、注意散漫、高齢であることなど。事故内容を調査したところでは、「本来やるべきことをドライバーがやっていない」ことが多く、例えば事故直前に30%の人がブレーキを一切使っていなかったことが明らかになったという。
このような“人間の欠陥”を補うためにも、安全や運転効率の向上、時間の節約なども実現できる運転支援システムが必要であると話す。米国で衝突回避ブレーキシステムを搭載した登録車両は2015年に240万台に達しており、全車に搭載されるのは2040年、その数は3億台近くになると推計している。
日本国内の自動車メーカー3社が話したとおり、課題としては同氏も“法的責任”を真っ先に挙げる。同時に消費者の“受容性”も重要であるとし、米国では車両価格やメンテナンスコストについても重視される傾向にあると述べる。さらに「故障、失敗が1回でもあれば信頼性が失われてしまう」点も強調した。
同氏は、個人的な考えとしつつも「完全自動化のメリットは限られているのではないか」とし、「自動運転が不要という人もいるため、完全に受け入れられるのはおそらく不可能」と主張する。自動運転に関しては、従来の運転支援機能が何もないレベル0から完全自動運転となるレベル5まで、運転支援システムの機能や自動化の程度に応じて6段階のレベルが定義されているが、「(メーカーは)費用対効果を慎重に分析して最適な自動運転レベルを決めるべき」とも語った。
欧州でも活発化する自動運転の議論。将来的には医療的な緊急対応も
欧州での自動運転技術やコネクテッドカーの現状については、ドイツ連邦道路交通研究所(BASt)の自動車エンジニアリング本部に属している弁護士のトム・ガッサー氏から報告があり、自動運転技術について3つの「オペレーションタイプ」に分類する、他とは異なる視点から言及した。
1つ目の「オペレーションタイプA」は、ドライバーに対してクルマが情報を伝える機能を持つもの。ドライバーに何をすべきかを情報として伝え、それを元にドライバーが車両を操縦する形だ。例えば道路標識の識別、前方車間距離の通知、障害物の検出などをドライバーに伝えることで、ドライバーが実際にステアリングやブレーキによって対応できるようにするのがこれに当たる。
2つ目の「オペレーションタイプB」は自動化機能を搭載し、そのシステムの実行権限を持つのがドライバーであるというもの。ドライバーが意図してスイッチをONにすることでシステムが機能制御を行うが、一部ドライバーによる途中介入手段が残されているもので、例えばACCや走行レーン維持支援システムなどがある。現在定義されている自動運転レベル5までは、このタイプBに相当するとしている。
最後の「オペレーションタイプC」は、一般的に考えられている自動運転機能をさらに発展させ、何らかのトラブルが発生しそうな時に介入する機能を示す。これは例えば、運転手が急病による発作を起こしたことを検知して、車両を緊急停止するといったようなものだ。
こうした考え方をもとに、ドイツ連邦政府は自動運転に関するラウンドテーブル(会合)を2年前から実施している。メーカー、保険業界、ユーザー団体、研究機関などが参加し、自動運転だけでなくコネクテッドドライビング(コネクテッドカー)に関わる技術や車両のネットワーク通信技術の検討、ドイツの経済振興などを目的に活動しており、安全性や必要な技術、社会への影響など多岐に渡る議論が交わされている。
ここでもやはり法的責任が課題として挙がっており、「自動運転に合うよう法規制、法的な枠組みは修正していかないとならない」と同氏は語る。短期的な見方では、自動運転レベル3までの渋滞・高速追従システムや駐車システムは2020年までに実現するとしているが、レベル5についてはカーシェアリングや公共交通に導入されることはあっても、一般の車両に導入されることは懐疑的に見ているようだ。
欧州全体としては、自動車産業やサプライヤー、大学等研究機関が関わるプロジェクト「EU-Project AdaptIVe」が進行しており、自動運転と自動駐車に関して速度、操舵機関、道路の種類、ドライバーの位置といった各種パラメーターや相互依存関係など、細部まで掘り下げた議論が行われている。
また、2015年9月にドイツで開催されたG7交通大臣会合でも、協調型運転支援技術の共同宣言を行い、国際標準化の推進、サイバーセキュリティやデータ保護の対策などに言及している。次回に行われる2016年のG7は日本(伊勢志摩)で開かれることもあり、同氏は日本に対しても継続して自動運転に関わる議題を取り上げてほしいと要望した。