東京モーターショー2015

激化する自動運転開発競争、「SMART MOBILITY CITY 2015」国際シンポジウムリポート(前編)

「2020年に実用化・導入期、2050年ごろに社会に定着」

2015年11月6日開催

「第44回東京モーターショー2015」の会期に合わせ、11月6日に「SMART MOBILITY CITY 2015」と題された国際シンポジウムが東京ビッグサイトで開催された。

 前編では官公庁、関連団体など多彩な登壇者が、それぞれの立場から多彩な面から見た自動運転の今後について語ったので、その模様をリポートする。

自動運転で事故ゼロ、渋滞ゼロを目指す

日本自動車工業会 会長 池史彦氏

 基調講演として最初に登壇したのは、東京モーターショーの主催者となる日本自動車工業会(自工会)会長の池史彦氏。池氏は本田技研工業の会長でもあるが、今回は主催者を代表する自工会の会長という立場で「自動運転ビジョン」について講演を行った。

 池氏はまず「自動運転とは、子供のころ、漫画やSF、映画の中での話だったが、いよいよ現実のものとして実現されようとしている」と実現が近くなってることを示した上で、「このシンポジウムで専門家や有識者、来場者と考えていきたい」と開始の言葉を述べた。

 池氏は「安全快適で持続可能なクルマ社会を創造していくことはもっとも大きな使命」と自工会の役割を掲げ、その上で、自動運転の実現には社会的な理解、技術横断的な取り組みが必要。そして、自動運転の実用化にはグローバル化、標準化も欠かすことはできないとした。

自工会の活動
自工会の自動運転ビジョン、事故ゼロ、渋滞ゼロ、自由な移動、効率的な物流
地域別の自動運転の効果

 自動運転による効果としては、「事故ゼロ」「渋滞ゼロ」「自由な移動」「効率的な物流」を挙げ、人的エラーの排除や道路利用効率の向上、そして、高齢化や人口減少が進んだ社会での移動環境の提供や、労働人口の減少に反してインターネット販売の拡大による輸送物の小口化、多頻度化に対応するとした。

 また、自動運転に至る技術は「運転支援システム」として、人とクルマの関係をより深め「運転する楽しさなど新たな提案ができる」と説明。自動運転を実現するための技術の枠組みを示し、レーンキープアシストやACC(アダプティブクルーズコントロール)などをはじめとする技術が適用場所を徐々に拡張し、完全自動化されるまでのステップを説明した。池氏は「あくまで技術はステップ・バイ・ステップの積み重ね」と述べ、すぐに自動運転が実現するわけではないことを強調した。

自動運転が開始される前段階となる現状
自動運転の技術アプローチ
運転支援技術の高度化

 一方、課題としては「通信や情報セキュリティ」を最重要課題とした。「クルマのネットワークに直接侵入するハッキングはもちろん、センサーを誤認識させるなど、電子機器を備えて車両の走行を制御している現在のクルマには、重要な安全問題に直結する」と自動運転以外でも問題が発生する可能性を示し、自工会として取り組むことも明言した。

 このほか、自動運転には制度やインフラの連携も不可欠とし、2020年には実用化・導入期を迎え、2050年ごろには社会に定着して成熟するとのシナリオを示した。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックの年に実現している自動運転は「高速道路、自動車専用道における限定的な自動運転」「都市内に限定的な自動運転試験運用」としており、池氏は「この年を1つのマイルストーンとして、精力的に取り組む」と抱負を語った。

自動運転技術の枠組み
自動運転にかかわる連携領域
制度・インフラ領域
自動運転の展開シナリオ
2020年における自動運転の予想図

経産省、国交省、警察庁の立場から見た課題と取り組み

経済産業省 製造産業局自動車課 ITS推進室室長 吉田健一郎氏

 続く基調講演2「自動運転に対する考え方、実用化に向けた動きと課題」では、関係省庁となる経済産業省、国土交通省、警察庁からそれぞれ担当者が登壇した。

 経済産業省からは、製造産業局 自動車課 ITS推進室室長の吉田健一郎氏が経済産業省の取り組みを紹介。なかでも主なものとして3点を紹介した。

 1つめの「走行映像データベース構築技術」は、走行映像から危険の位置や種類を自動判別してタグ付けすること。タグの対象は1200種類を予定し、10万km走行で時間にして4600時間分、日本だけでなく北米、欧州、アジアの一部も収集予定。これは、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業として実施する。吉田氏はタグ付け技術までは経済産業省のプロジェクトとして構築し、その後は民間で共有物として活用してほしいとした。

 2つめは「ニアミス時の運転行動データベース構築技術」で、経済産業省の直轄事業として実施する。ニアミス、ヒヤリハットのデータを、画像データだけでなく人間の行動も合わせて収集し、ドライバーの顔や表情も集めているという2016年には何らかの形で公開を予定。3つめは「機能安全技術」で、緊急時の安全を担保する技術。ISOで標準化が始まっており、日本からも発信する。

 さらに「自動走行ビジネス検討会」を設置。将来像の共有や重要技術の戦略的協調、産学連携の促進といったことも行っている。

経済産業省の取り組み一覧
走行映像データベースの構築技術
ニアミス時の運転行動データベース
機能安全技術
自動走行のビジネス検討会を設置した
自動走行ビジネス検討会による取りまとめ(2015年6月)
国土交通省 自動車局 国際業務室室長 久保田秀暢氏

 続いて国土交通省からは2名が登壇。自動車局 国際業務室室長の久保田秀暢氏はアセスメントの評価を担当しており、自動運転関連では「予防安全性能評価」として2014年度から実施している。自動ブレーキや車線逸脱機能の性能評価を行っており、2016年にはG7の交通大臣による会合が軽井沢で開催予定で、自動運転を推進したいとした。

 久保田氏は日本の自動運転に関連する現在の法律についても触れた。アメリカでは特別な訓練を受けた運転者が運転席にいることを条件に、いくつかの州でのみ試験走行が認められているという厳しい状況に対して、日本は特別な手続なく公道走行が可能であるといった特徴を紹介した。

自動運転の対応状況。国内では特別な手続なく行動走行が可能
自動運転の実現で期待される効果
自動運転技術の開発状況
自動車アセスメントでも自動運転のベースとなる自動ブレーキや車線逸脱警報装置のアセスメントを開始
国土交通省 道路局 ITS推進室室長 河南正幸氏

 国土交通省 道路局 ITS推進室室長の河南正幸氏は、推進中のETC2.0を使うメリットを紹介した。ETC2.0によって把握した経路をビッグデータとして扱いデータを分析。データ分析によって道路拡張の投資も効率的になるほか、ユーザー側には高速道路走行中、事故などで一時的に一般道に迂回した場合でも、元のように連続して高速道路を使った場合と同じ料金を提示するなどの検討を進める。

 さらに次世代協調ITSの官民共同研究では、事故削減、渋滞緩和を目的にさらに高度な情報収集を検討しているという。

ETC2.0のシステム概要
ETC2.0によるビッグデータを活用した“賢い投資”
ETC2.0で実現する事故と渋滞を減らす“賢い料金”
次世代協調ITSに関する官民共同研究でさらに情報を収集して役立てることを想定
警察庁 長官官房参事官 加藤伸宏氏

 最後は警察庁から長官官房参事官(高度道路交通政策担当)の加藤伸宏氏が登壇。自動走行システムが完成した場合に、交通警察の役割である教育、取締、管理の3つの分野すべてに再構築が必要なことを解説した。

 加藤氏はまず、交通事故の大半は運転者の過失であるため、自動走行システムには交通事故のない社会を実現するポテンシャルがあると評価した。その半面、人間が携わっていない運転、人間が乗っていない自動車は道路交通法の想定外であるため、法律の根幹に関わる問題だとした。

 世界的にも国連の道路交通安全作業部会(WP1)で、自動運転を念頭に置いた改正案がインフォーマルな文書として提出されるなどの動きがある。日本がWP1の議論に積極的に参加するためにも法制面を改正する必要があると述べ、制度検討委員会を発足させたところだと説明した。

 具体的な再構築は、ITSを道路管制に活用する「管理」分野はもちろんのこと、自動運転での交通違反や事故が起きた場合の責任関係をどう判断するかや、公道上の実証実験のガイドライン策定といった「取締」分野、運転免許の扱い、歩行者との関係といった「教育」分野も再構築する必要があると解説した。

内閣府SIPとして課題を府省横断で取り組む~交通事故削減が第1目標

内閣府 SIPサブプログラムディレクター 葛巻清吾氏

 このほかに特別招待講演として、「SIPにおける自動運転への展望」と題して内閣府 SIPサブプログラムディレクターの葛巻清吾氏が講演。トヨタ自動車 製品企画本部 CSTO(Chef Sagety Technology Officer)補佐でもある葛巻氏は、自動運転の歴史から今後の展開と解決すべき課題、そして内閣府で進めるSIPについて解説した。

 自動運転は、古くは1939年のニューヨーク万博でも展示されたこともあるが、1990年あたりから各社が本格的に研究開発という位置づけで取り組みを開始した。それが、2004年にアメリカで開催された懸賞金付きのレース「DARPAグランドチャレンジ」を契機に技術的に進んだとした。

 DARPAグランドチャレンジをきっかけに大きく進歩したのは3D網羅認識技術で、360°レーザースキャナによる3D計測、カメラの高解像度&高感度化、そしてハードウェアの処理能力、ソフトウェアの性能向上などの支える技術がある。そして、自動運転の実現化の課題としては、技術面や法規面、社会面の課題があるとして、業界、さらに国としての取り組みが必要とした。

1939年のニューヨーク万博で自動運転を出展
自動運転の各地域の技術開発
自動運転技術が進むきっかけとなったDARPAチャレンジ
DARPAチャレンジをきっかけに進歩した周辺3D網羅技術
技術面、法規・社会面における自動運転実現化の課題
欧米の動向

 そして葛巻氏が携わるSIPについても説明が行われた。SIPとは戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)のことで、内閣府が主導する省庁・分野横断型プログラム。日本の経済・産業競争力にとって重要な課題を推進するため、部署を越えて連携するというものとなる。SIPでは10個のテーマがあり、自動車関連では革新的燃焼技術と自動走行システムの2つがある。

 自動走行システムを国の予算で行う事業とする理由としては、自動走行システムはいわゆる「自動ブレーキ」の延長線上の技術であり、危険を検知してクルマがブレーキをかけて危険回避を行えば「交通事故を減少させる」という国家目標の達成に寄与できるのではないかということ。現在、2018年で交通事故死者を年間2500人以下にするという目標があり、自動走行システムの第1の目標は「交通事故削減」とした。

 また、2つ目の目標は自動走行システムの実現と普及で、自動走行と通信がイノベーションに繋がり、通信とインフラを含めた大きな流れが重要な技術革新となる。それを早く実現するとした。さらに技術開発の成果として3つ目の目標を「東京オリンピック・パラリンピックで技術開発の成果を出す」とした。

 一方で自動走行システムに必要な技術として、葛巻氏は地図を挙げた。カーナビで使われているような地図ではなく、2次元、3次元の地図の情報の上に、規制情報、さらに事故、渋滞情報も乗せていき、ITSでクルマや人の存在情報を含め、データベース化して配信していく。

 葛巻氏は「自動運転にも必要なものだが、一般のクルマにも必要。一般の人にもメリットを感じてもらうためには“位置情報の紐付け”をどうするかルール化して国際協調することが必要」と話す。今後は動的情報を乗せた「ダイナミックマップ」を構築し、地図の新鮮さを保つために各車のセンサーが取得したプローブ情報をいかに活用するかが重要であるとした。この地図を自動運転やクルマだけで運用すると割高なものになるため、防災や道路維持管理といった他用途にも活用可能として、全体のコストを下げたいとした。

 このほかに課題については、HMIの分野については自動車メーカー各社にとって競争領域そのものになるが、ベースとなるガイドラインは作る必要があるとした。また、ITSはこれまで注意喚起ベースのものだが、自動運転に使うためには位置情報の精度を高めることが必要。さらに情報セキュリティについては必要だが、現在は議論が始まったばかりだと説明している。

SIPの概要。府省・分野の枠を超えた横断型プログラムである
SIPにおける自動走行システムの目標と出口戦略
自動走行システムに必要な技術
自動運転における地図の役割
地図を高度道路交通情報データベースとして活用
ダイナミックマップの試作と検証
ダイナミックマップを防災や道路維持管理に役立てることで全体コストを下げる
HMIの検証実験
ITS先読み情報の位置精度向上
情報セキュリティは議論が始まったばかり。人命を乗せる移動体としての安全に対する考え方の整理も必要
次世代都市交通への展開。ART(Advanced Rapid Transit)での活用を展開
SIPと国際標準化活動

正田拓也