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“IT化・ネットワーク化によって非連続的・破壊的な変化といえるイノベーションが自動車産業に発生”との見通し

「ITS Japan、2014年度総会と総会シンポジウム」開催

ITS Japanの2014年度総会の様子
2014年6月11日開催

総会で議事進行役を務めるITS Japan 会長の渡邉浩之氏

 ITS Japanは6月11日、都内で2014年度の通常総会を行い、合わせて今後の活動や最新の取組状況などについて紹介する総会シンポジウムを開催した。

 通常総会では2013年度の事業活動の紹介と決算内容に関する報告・参加会員による承認、2014年度の活動予定の紹介と予算案の報告・参加会員による承認。そのほかに理事の推薦と参加会員による承認などが行われた。

 2013年度の決算内容では、収入が2億8600万円、支出が2億5800万円で収支差額は2800万円のプラス。前期までの繰越金5400万円と合わせて8200万円が次期への繰越となっている。2014年度の予算案は、収入が1億800万円、支出が1億3700万円で収支差額は2900万円のマイナスとなり、2013年度からの繰越金を使いながらも積極的に活動していきたいとしている。

2013年度には10月に「ITS世界会議東京2013」が開催され、国内外のITS(Intelligent Transport Systems・高度道路交通システム)関連の企業などが参加。多数のシンポジウムなどが行われたほか、実用化に向けて具体性を見せてきたITS対応車両によるデモなどが行われた
ITS Japanでは2011年から2015年までの期間で中期計画を策定して取り組みを続けている
政府による成長戦略ではイノベーションを重視しており、ITSも重要な役割を担うと期待されている
2013年に行われたITS世界会議東京2013を契機として、日本のITSは社会的課題に対応する新しいステージに進んだとの見方
2013年度の収支決算。ITS世界会議東京2013の開催などもあって金額が大きい
2014年度の予算案。4つの重要取り組みテーマなどを掲げ、ITSを積極的に推進していく

ITS構想のロードマップを紹介。ビッグデータの研究で将来予測も実現

内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 内閣参事官 市川類氏

 総会のあとに行われたシンポジウムでは、まず「官民ITS構想・ロードマップ」についてのテーマで内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 内閣参事官の市川類氏が講演。6月3日に決定された官民によるITS構想のロードマップについて語り、自動車が発明されてからこれまでの100年以上のあいだ、漸次的なイノベーションを繰り返しながら、その一方で「運転手が運転する」という基本構造が不変であったが、これからの20年~30年でIT化・ネットワーク化によって非連続的・破壊的な変化といえるイノベーションが発生することが想定されると説明。自動車産業を最大の輸出品としている日本はこのイノベーションに対応する必要があるとしている。

 このために、現在は2020年までの目標として「2020年までに世界一安全な道路交通社会を構築する」という指標を用意して、具体的には2018年度を目処に「交通事故死者数を2500人以下にする」という数値目標によって、主に社会面での目標達成を目指してきた。新たに決定された2030年までの目標では、指針を「2030年までに世界一安全で円滑な道路交通社会を構築する」と設定して自動走行システムの普及などを目指すほか、新たに産業面で「2020年以降、自動走行システム化に係るイノベーションに関し、世界の中心地となる」という目標を設定している。

 このほか、自動車の自動化技術について「情報提供型」と「自動化型」の2種類に分け、さらに自動化型について「安全運転支援システム」が実現するレベル1から、レベル4の完全自動走行まで4段階に分類している。また、自動走行システムの開発に寄与する先進技術を、車両に装着された装備によって実現する自動車メーカー主導の「自律型」、道路インフラやクラウド情報などの広域情報で実現する政府主導の「協調型」があり、双方を協調させながら複数を導入することで高度化が進むと説明している。

 最後に市川氏は「イノベーションのジレンマ」という言葉を紹介。かつて登場したばかりのデジタルカメラやスマートフォンなどが市場ニーズがないと否定されたことを引き合いに出し、「合理的な判断したことで失敗するケースもある」と解説。企業が様々な要因を見極めながら進んでいく必要があることを認めつつ、「ITSは変化の時期に来ており、今後もみなさんと議論しながらロードマップや戦略を見直しつつ進めていきたい」と語っている。

自動車が今後、自動車自体が内燃機関のエンジンを搭載するスタイルから電気自動車などに移行し、運転も運転手が行うものから自動化を取り入れるといった大きな変革期を迎えるというビジョン
自動車が走行することで集められたデータがクラウドなどに蓄積され、そのデータが自動車の安全な走行や自動走行などに役立てられるというサイクルを形成
2030年までの達成を目指した新しい指標が決定している
自動車の自動化型をレベルに応じて4つに分類。複数の操作を1度に自動車が行う「レベル2」から「準自動走行システム」と定義している
「協調型」の先進技術は、「モバイル型」「路車間通信型」「車車間通信型」の3つに大別
「自律型」の技術を採用する新型車の高度化などを推進しつつ、すでに路上を走る自動車の安全性を高める「協調型端末」も普及を促進していく計画
官民双方の保有するデータを融合させ、さらに他分野のサービスと連携せることで新たなサービスを創出することも期待されている
2030年までを「短期」「中期」「長期」に分けた交通データ利活用のロードマップ
「イノベーションのジレンマ」を乗り越え、官民が柔軟に連携してITSのイノベーションを推し進めていきたいとしている
東北大学大学院 教授 桑原雅夫氏

 東北大学大学院 教授の桑原雅夫氏は、自身が東北大学で働くようになって1年も経たないうちに発生したという東日本大震災での経験を交え、「ITS ビッグデータの融合・活用」というテーマで講演。ビッグデータの基本的な情報について解説し、東日本大震災で得られたビッグデータを使って当時の状況を分析。渋滞状況が長時間続く「グリッドロック」という状態が発生して自動車が身動きできない状況になり、津波による被害が拡大したことを実際の計測データから明らかにしている。

 さらに桑原教授は、ビッグデータが平常時から災害時まで幅広く利用され始めたことを紹介。ビッグデータを集計せずに“リッチな軌跡情報”として活用することで、将来的には単純な現状認識と記録だけでなく、走行している車両やその前後にいる車両などにこのあと起きる状況を予測したり、量的な推定も可能になると解説している。また、今後は車両のプローブ走行情報、VICS、信号制御データ、気象情報、画像データなどさまざまな交通関連データを連動させていくことで、地震や大雨などの災害発生時に適切な避難を支援したり、平常時の快適な移動のアシストなどが行えるようになると紹介している。

宮城県石巻市中心部の東日本大震災前後の交通状況。左が地震発生前、中央が地震発生直後、右が地震発生から30分以上経過した状況
プローブ走行情報から遅れ時間や飽和交通流率を推定するモデル
複数台のプローブ走行情報を組み合わせて計算式を当てはめることで将来予測が可能になるという
都市間交通のような長距離での移動を対象とした運用も可能
5台の車両からプローブ走行情報と車両感知器のデータを収集したモデル
道路交通に関するさまざまなデータを連動させることで可能性が広がると説明
ビッグデータの活用で災害発生時の予測を行い「救える命を1つでも多くしたい」と桑原教授は語る

(編集部:佐久間 秀)