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総務省、次世代ITS関連事業成果発表会を開催
マツダ、日産などが研究開発の成果を発表
(2014/4/9 00:00)
総務省は3月26日、「総務省ITS関連事業成果発表会」を開催した。発表会ではITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)に関わる自動車メーカーや通信業者の担当者が登壇し、現状の成果などを報告した。ここでは自動車メーカーによる講演を中心にリポートしていく。
冒頭では主催者を代表して、総務大臣政務官である藤川政人氏が挨拶した。藤川氏は「ITS分野は日本経済を牽引する自動車産業と情報通信産業が一体となった分野で、経済成長の起爆剤として期待している。ITSの推進は最優先政策の1つ。現代の道路交通システムは社会経済活動や日々の生活に欠かせないものであり、いっぽうで交通渋滞緩和、交通事故対策、排出ガス対策などが世界共通の課題にもなっている」「我が国の例を見ると、平成25年(2013年)の交通事故死亡者数は4373人と依然深刻な事態。これを昨年6月に決定した“世界最先端IT国家創造宣言”では、2018年を目標に2500人以下に削減することを目標としている。これまでもITSには警察庁、経済産業省、国土交通省などと連携して取り組んできたが、この戦略に基づき情報技術の面からこれまで以上に取り組み、一丸となっていきたい」と語った。
また、「2020年のオリンピック開催にあわせ、世界でもっとも安全な道路交通社会を実現することを政府は目指している。オリンピックが契機となって技術開発がこれまで以上に加速し、その成果が我々の日常生活の安心・安全に貢献できるよう、産官学総力を挙げて実現を図っていきたい」と述べ、挨拶とした。
主催者による挨拶が終わると、「ITSによる未来創造」と題してITS Japan 専務理事の天野肇氏が講演を行った。
自動車の発展によって経済は豊かになったが、その数が増えるにつれて交通問題が深刻化してきた。道路施設や教育の充実、取り締まりの強化などによって1970年頃から交通事故による死亡者数は減少しはじめたが、バブル経済のころから再び上昇。その後、1990年代半ばから車両の安全装備の充実やITSの普及によって再び減少傾向になり、現在に至ったと考えているという。
ITSはクルマの車載装置が普及して初めて効果が出る。カーナビは1000万台普及するまでに15年かかったが、VICSは7年、ETCは5年と、急速に普及してきている。これは通信利用することにお金を払うという構造が普及してきた結果だとしている。
次世代のITSでは、情報通信技術のさらなる発展と、自動車の技術革新、次世代自動車普及によるエネルギー効率と安全性能の飛躍的な向上や自動運転技術の確立が期待されている。特に移動通信ネットワークの高速化や普及によって、プローブなどの参加型情報収集やスマートフォンを活用したサービスの拡充、自動車の動力源の転換によるエネルギー需要構造の変化などが重要な要素としてあげられた。また、東日本大震災の教訓として「個の力」に注目し、自助・共助の能力向上が公助の限界を補完できるとした。
天野氏は「さまざまな課題はあるが、これらを乗り越えてもっとよりよい世界を創るために、ITSを使って未来を創って行きたい」として講演を終えた。
車車間通信で各地方特有の交通問題にも対応したい
自動車メーカーでは、マツダ 技術研究所の山本雅史氏が「広島における世界初の路面電車-自動車間通信型ASVの走行実験」と題して講演を行った。
山本氏によると、路面電車はエコな交通手段として世界的にも見直されているという。マツダではITSの活用によって路面電車と自動車を共存・連携できるシステム開発を行い、昨年公道での実証実験を行っている。その様子は弊誌でも詳細をリポート(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20131002_617371.html)している。
本システムは、路面電車と自動車を無線通信によって連携させ、お互いの位置を通信によって把握することで死角をなくし、安全性を高めるというもの。また、歩行者が持つスマートフォンとも連携し、歩車間通信を行うことで歩行者保護も実現する。
実証実験に使われたのは、市販車両にセンサー類の改造を施した「アテンザ ASV-5」。車両の死角や車載センサーの検知エリア外の情報収集に無線による車車間通信を使用。車両近辺の高精度な情報は市販車両にも搭載している「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)」をはじめとするセンサー類のほか、新規に車両4隅のバンパー内に搭載した準ミリ波レーダーなどを使った「自律システム」で行っている。
また、ドライバーが利用するHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)は「ドライバーが煩わしく感じない、情報によって不安全状態にならないこと」を主眼として開発。わき見時間を最小にするため、フロントウインドー投影型のHUDを採用。直感的に判断できる情報表示を心がけた。
会場では、右折するアテンザの情報を路面電車側で受け取る様子や、右折したアテンザが横断歩道にいる歩行者を検出して警告音を発する状況など、実証実験の様子が動画で公開された。
山本氏は最後に「広島だけでなく、各地方特有の交通問題にもこれらで対応できるのではないかと考えている。今後は安全関連だけではなく、ほかのアプリケーションや運行管理などへの活用も視野に入れて実験を続けていきたい」と述べて講演を終えた。
これまで紹介した技術を組み合わせる“革新的な車両”を2020年までに市場投入
日産自動車は「運転支援と自動運転~日産自動車のとりくみ~」と題した講演を、同社の環境・安全技術歩外部技術顧問である福島正夫氏が行った。
世界の交通事故者は、先進国では「追突」「車線逸脱」「歩行者」「交差点」が4大事故形態であり、途上国では「歩行者」「2輪車事故」が圧倒的に多く、世界の交通事故死者数の年間130万人のうち、90%超が途上国で発生しているという。
こうした事情を踏まえてクルマによる事故を減らすべく、日産ではIT・ITSを活用した運転支援を研究開発している。ドライバーが運転中に行っている「知覚」「認知」「判断」「運転操作」の一部をITおよびITS技術を使って機械が補助し、運転における人間の関与を減らして行くことが、交通事故を減らすという目的のための1つの考え方であるという。
そこで日産では、「Safety Shield Concept」という考え方に基づいて安全技術を研究開発している。通常運転から万が一の衝突後まで、運転状況に応じて適切な技術を導入。事故そのものを減らし、究極の目標は“自動車による死亡重傷者をゼロにする”ことだ。「交通事故はいきなり起きるわけではなく、危険が徐々に近づいてくるもの。それがわるい方向に行かないようにプロテクションをする」と福島氏。
具体的な運転者の支援方法は、「縦方向の支援」「横方向の支援」「駐車場での支援」の3種類。いずれも日産がすでに市場投入している技術だ。
縦方向の支援では、前方車両に追従走行するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)による運転者の疲労軽減、安全な車間距離の保持するDCA(Disitance Control Assist)、衝突が避けられない場合に被害を軽減する衝突被害軽減ブレーキ(IBA:Intelligent Brake Assist)、衝突しないようにクルマを止める衝突回避支援ブレーキなどが挙げられた。
横方向の支援は、車線維持を支援するLKS/LKA(Lane Keeping Support/Lane Keeping Assist)、車線逸脱の防止&回復支援を行うLDW/LDP(Lane Departure Warning/Lane Departure Prevention)、車線変更時に後側方にいる車両をレーダーで検出し、ドライバーに警告するほか、ステアリングを危険な方向に切れないようにするBSW/BSI(Blind Spot Warning/Blind Spot Intervention)の3つ。
駐車場での支援については、駐車時に360°の視界を確保するアラウンドビューモニター(AVM:Around View Monitor)、駐車・発進時に、周囲に障害物があることを教えてくれるMOD(Moving Object Detection)、後退時の事故防止を支援するBack up Collision Prevention、アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する機能などが紹介された。後退時の事故は、とくにアメリカで多く発生しているという。
このほか、スクールゾーンなどでは速度を抑制するよう警報を出す機能や高速道路の逆走防止機能なども開発し、世界で初めて実用化している。
福島氏は「自動運転では“人間だろうが機械だろうが信頼できるほうを優先する”という考え方が主流になってきた」という。前方に壁があるのに人間が誤ってアクセルペダルを踏んだ場合、機械がそれを矯正して加速させないようにする。人間のミスを機械がオーバーライドして安全を確保するのだ。
日本における自動運転の定義は「自動車の運転への関与度合いが高まった運転支援システムによる走行」だという。これは複数の運転支援システムを組み合わせた段階で自動運転と定義するというもので、たとえば、ACCやLKAがそれぞれ単体で車両に搭載されている場合は単なる運転支援システムだが、この2つを組み合わせて搭載すれば、それは自動運転のカテゴリーになるというのが現在の日本における官民の見解だという。
日産では2020年までに自動運転技術を複数車両に搭載する予定で、初となる「自動運転車開発専用テストコース」も現在建設中。2020年以降は幅広いモデルラインアップで自動運転技術を投入する。福島氏は「一部に誤解があるが、2020年に完全自動運転車両を出すというわけではなく、自動運転技術を使った車両を出すということ」と説明。2020年までに、これまで紹介した技術を組み合わせて使う革新的な車両を投入するということで、あくまで無人での自動運転ではない。そうした車両は2020年よりも先になるという。
具体的には、高速道路での自動合流や遅い車両の追い越し、前方に停止車両がいる場合の緊急回避や、ドライバーの体調が悪化した場合などの自動路肩退避といった6種類のストレスシーンを自動化する。さらに市街地では、交差点などで死角になる車両を車車間通信などで認識できるようにするという。
最後に福島氏は「これまでに開発した技術を使って、さらなる運転支援技術の高度化に結びつけたい。自動ブレーキのクルマは各社が出しているが、今の技術では運がよければ止まれるというもの。我々はさまざまなケースで止まれるようにするために技術開発を行っている」として講演を終えた。