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マツダ、「アテンザ ASV-5」と路面電車による先進安全支援システムの公道実証実験を公開

路面電車-自動車間通信型ASVデモは世界初

路面電車とASVの共演という、広島の企業であるマツダらしい公道実証実験
2013年9月29日開催

実証実験の内容と技術的ポイントなどを解説するマツダ 技術研究所 先進車両システム研究部門 部門統括研究長の栃岡孝宏氏

 マツダは9月29日、広島市内で実施している世界初の「路面電車-自動車間通信型先進安全運転支援システム」公道実証実験を報道機関向けに公開した。

 この公道実証実験は、産学官共同で研究・実用化が進められているITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)を活用する安全運転支援システムのデモンストレーション。システムの開発と実証実験をマツダも参加している「広島地区ITS公道実証実験連絡協議会」が主催しており、マツダが開発したASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)の「アテンザ ASV-5」が使われている。

 広島市では路面電車が市民の日常的な移動手段として定着しており、1日に平均15万人が利用している。今回の公道実証実験では、道路を共有する路面電車と自動車が車車間通信と自立型車載センサーを組み合わせたシステムを活用し、双方の安全性を高める方法について検証することを目的としている。

 取材日となった9月29日までに具体的な実験内容やコース設定、こまごまとした段取りなどが現地で煮詰められ、公道での本格的な実証実験はこの日になって初めて行われた。

 使用されているアテンザ ASV-5は、市販モデルに搭載している「スマート・シティ・ブレーキ・サポート(SCBS)」「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)」「リア・ビークル・モニタリングシステム(RVM)」などで使用するセンサー類とカメラにASV向けのチューニングを施し、右左折時の進行方向もチェックできるよう検知範囲をワイド化。さらに車両の四隅バンパー内にマイクロ波レーダーを内蔵し、運転席側ドアミラー脇に歩行者の検知用カメラを追加している。

 さらに内装では、運転席の前方にヘッドアップディスプレイ(HUD)を設定。基本的にアテンザ ASV-5では文字やアイコンなどでの運転支援情報をすべてこのHUDで表示し、それ以外に警告音と運転席のシートバックを振動させることで、ドライバーに車両に危険が迫っていることを伝達する。ただし、取材日は参加者が内容をイメージしやすいよう、ナビ画面と追加モニターにHUDの表示内容などを映して紹介していた。また、同じ実証実験の対象となる路面電車にも基本的に同様のセンサー類が搭載されているとのこと。

アテンザ ASV-5
マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)のミリ波レーダーはベース車と同じくフロントグリルのエンブレム内側に配置
歩行者をチェックするため、ボディー四隅のバンパー内側にマイクロ波レーダー、運転席側のドアミラー近くにサイドカメラを追加。トランクリッド内側には通信用の760MHzアンテナが埋め込まれている
運転席前に設置されたHUDのプロジェクションユニット
スマート・シティ・ブレーキ・サポート(SCBS)などでも利用される近赤外線レーザー。歩行者などに対応できるよう検知範囲をワイド化している
この実証実験では自車位置の正確な測位が非常に大切なため、GPSアンテナはルーフ上に設置されている
システムの制御装置はトランク内に設置されていたが、機密事項のため撮影は禁止された
ボディーに貼られたステッカー類
公道実証実験に参加している広島電鉄の路面電車。1000型電車の「PICCOLA(ピッコラ)」
ボディーの横側にアテンザ ASV-5をイメージさせるイラストを設置
ボディーに貼ったステッカーで公道実証実験に参加していることをアピール
運転席の左脇に、アテンザ ASV-5のHUDと同じような運転支援情報を表示するタブレット状のモニターを設置
路面電車に追加されたASVシステムの制御は車内に置かれたパソコンで行われていた。Windowsマシンで動かしていることが見て取れる
広島では路面電車のレールを道路の中央に敷設し、自動車は両側を走るスタイルにして走行エリアを分けているが、交差点や側道に右折するときなどに路面電車のレールを横切ったりする必要が出てくる。広島での自動車と路面電車の接触事故は発生件数の減少が横ばい状態で、この問題解消が今回の公道実証実験の大きな目的ともなっている

 今回の路面電車-自動車間通信型ASVのデモンストレーションでは参加した取材陣を2組に分け、筆者は先に路面電車に乗車して3種類の作動状況を取材することになった。また、アテンザ ASV-5に乗り換えての取材では、路面電車で体験した運転支援情報の再チェックのほか、路面電車が会場となった一帯から少し先で進行方向を入れ替える時間を利用して、この車両に設置された「右折時の歩行者検知」も確認している。

今回予定されている公道実証実験の概要
アテンザ ASV-5の開発コンセプト
公道実証実験で利用されている通信システム
デモンストレーションの実施エリアとそれぞれで想定するシチュエーション
自動車のドライバーに対する運転支援
路面電車に対する運転支援

右折時路面電車接近情報/自動車存在情報

路面電車からアテンザ ASV-5は確認できない状況だが、この段階ですでに音声と文字によって前方右側に右折車が存在することが警告されている
そのまま進行すると、右の側道からアテンザ ASV-5が徐行しながら出てくる
逆にアテンザ ASV-5からの視点。路面電車を目視するより先に警告が出ているため、徐行して表通りに近づき、路面電車の通過を待つ心の余裕ができる

路面電車後方接近情報/前方右折自動車情報

並走する車線で前方に右折ウインカーを出した車両がいるというシチュエーション。このケースは2種類の状況が設定されてデモを実施
右折ウインカーを出したアテンザ ASV-5に接近すると、路面電車に設置されたモニターに警告文が表示され、同時に音声ガイダンスも実施される
アテンザ ASV-5からの視点。後方から路面電車が来ているという警告内容は立ち位置が逆なだけで路面電車と同じような内容だが、こちらではさらに、路面電車をやりすごして右折する先に、交差点を横断する歩行者がいることを続けざまに告知。歩行者役のスタッフが携帯するスマートフォンに専用アプリが入っているため危険を警告できる仕組み
続く状況設定では、後方から通り過ぎた路面電車の死角に対向車線を直進する車両が隠れているという想定。対向車線のMPVもASV機能が与えれられており、2台の自動車で車車間通信で接近している情報がやりとりされ、アテンザ ASV-5は路面電車との位置関係から死角に対向車が走ってくることを警告する

右折時の歩行者検知

路面電車を待つ時間を利用して紹介されたアテンザ ASV-5の歩行者検知機能。右折時に、まずは対向車線を直進してくる車両について警告したあと、交差点に侵入してから歩行者が前から車両前方に出てきたことを鋭いアラーム音とHUD表示で警告。この運転支援はカメラを使って行われるので、特別な装備がない車両や歩行者でも検知できる
公道実証実験のあとに行われたHUDの表示内容のデモンストレーション。このHUDはコンバイナーなどを使わずフロントウインドーに直接表示するタイプ。以前のこうした形式では表示位置にコーティングなどが施されて目立っていたが、アテンザ ASV-5では合わせガラスの内側にある中間膜を専用品にすることで奥行きのある表示を実現。クリアな視界とディスプレイ化を両立させている
通常は車速を表示する設定
「路面電車後方接近情報」
「対向直進車接近情報」
「右折時歩行者情報」

(編集部:佐久間 秀)