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“交通死傷者ゼロ”に取り組む「2012 トヨタ安全技術説明会」(後編)

岡本幸一郎が「間もなく発売するセダン」の先進安全技術を一足早く体験

トヨタ自動車の安全技術を統括する吉田守孝CSTO

 トヨタ自動車 常務役員 吉田守孝CSTO(チーフ セーフティ テクノロジー オフィサー)が言うところの「間もなく発売するセダン」に搭載されるトヨタの先進安全技術「進化型のプリクラッシュセーフティシステム」「ICS(インテリジェント・クリアランス・ソナー)」「DSC(ドライブ・スタート・コントロール)」。その概要は前編でお届けしたとおりだが、その実際をモータージャーナリストの岡本幸一郎氏に同社東富士研究所の特設コースで体験していただいた。

 確かに解説ビデオなどでは働いているように見えるこれらのシステムの動きは、どのようなものなのだろう、また、その完成度は? 「間もなく発売するセダン」に搭載される技術だけに、注目が集まるところだ。

最初はICS(インテリジェント・クリアランス・ソナー)を体験

トヨタのスタッフに動作の実際を聞きながら体感

 「交通死傷者ゼロ」を究極の目標として、「人」「クルマ」「交通環境」の三位一体の取り組みを行なっているトヨタでは、先日、安全への取り組みの一環として、新安全技術の発表を行なった。その一環として、それらの安全技術を体験することができたので、ここにお届けする。まずは、ICS、DSCについてだ。

 近年、ペダルの踏み間違え事故は年間約7000件発生しており、とくに駐車場内での発生頻度が高くなっている。これに対しトヨタでは、クリアランス・ソナーによって障害物を認識した場合、急発進による衝突時の被害を軽減するICSを開発。あわせて、通常とは異なるシフト操作を行なった際に、急発進を抑制し、衝突時の被害を軽減するDSCも開発した。

 まずは、ICS搭載車から試乗を行った。

 このシステムでは、通常のクリアランス・ソナーでは約1mの距離で反応するところを約2mで反応するように変更し、アクセルの踏み間違いや踏み過ぎ、シフト間違いなどを行なった際に障害物を認識した場合、出力を制御するというものだ。さらに障害物の衝突の可能性を検知すると、自動ブレーキが作動する。

 想定される場面としては、コインパーキングのフラップを越える際や、コンビニエンスストアの駐車場などで発進する際に、本来はDに入れるべきところ、Rに入っていた、といったような場合。車両の真後ろに壁を模した板が置かれており、そこでアクセルを踏むという形で試乗を実施した。

 トヨタの担当者の指示どおり、躊躇せず思いっきりアクセルを踏んでみたのだが、エンジンは吹け上がらず、わずかに進んで衝突前に車両が停止。クルマから降りて見てみると、壁と20cmぐらい間が開いていた。

ICSを体験。壁から20cmほどで止まった
ICSのセンサー部

 これは前進、後退を問わず制御は有効で、思いっ切りではなく、ゆるく踏んだ場合でも、もう少し壁に近づいて、ちゃんと止まった。なお、停止から2秒後にブレーキのみリリースされるので、もしもアクセルを踏みっぱなしにしていると、「前進の意思あり」とシステムが判断し、前進を開始する。

 ちなみに障害物は、距離検知に音波を使うため、ガラス面のようなもののほうが得意で、毛糸のセーターなど音波を吸収してしまうもののほうが不得手とのことである。

トヨタ、ICS(インテリジェント・クリアランス・ソナー)。斜め前方
トヨタ、ICS(インテリジェント・クリアランス・ソナー)、側方

次はDSC(ドライブ・スタート・コントロール)

 DSCは、後退して車両が後ろにあったポール等に当たり、驚いてアクセルを踏んだままシフトをDに入れてしまい、急発進、急加速したという形態の事故を防止するためのものだ。“そんなことをする人がいるのだろうか”という気もするが、実際、数こそそれほど多くないものの、同じような事例が年間に何件か報告されているとのこと。

 あらゆる危険性に対して、可能であれば対応したほうがよいのは言うまでもないし、実際、人はパニックになると何をしでかすか分からない。DSCに関しては、トヨタのドライバーによるデモを同乗にて体験。制御はごく自然かつ的確に行なわれ、大事に至らないことを確認した。

トヨタ、DSC(ドライブ・スタート・コントロール)非作動例
トヨタ、DSC(ドライブ・スタート・コントロール)作動例。上の非作動例の映像と比べて加速が鈍くなっているのがお分かりだろうか

高い速度域まで対応する「プリクラッシュセーフティシステム」

 進化型のプリクラッシュセーフティシステムも体験。進化型のプリクラッシュセーフティシステムでは、追突の危険が迫ると警報を発してブレーキ操作をうながし、それでもブレーキ操作が行なわれなければ自動でブレーキをかける「プリクラッシュブレーキ」と、踏力が十分でない場合にアシストする「プリクラッシュブレーキアシスト」がより強化された。

 トヨタのシミュレーションによると、緊急時に警報で87%の人がブレーキを踏めているものの、強く踏めていない人が多いことが明らかになっているとのこと。そこで、ブレーキ踏力を倍増(あまりに弱い場合は2段階で倍々増)するよう、アシストを強力にしたという。

 まず、トヨタの担当ドライバーのデモ走行に同乗して、40km/hからのプリクラッシュブレーキを体験する。停止物にぶつかりそうになると警報が発せられ、まったくブレーキを踏まなくても車両が停止することを確認した。続いて、先行車を模した20km/h程度でゆっくり走行する車両に対し、自らの運転で70km/hで近づく。その際に、0.2G程度の弱いブレーキをかけた際のブレーキアシストを体感。弱くブレーキをかけているにもかかわらずブレーキアシスト機構が働き、かなり強力なGを発生してガツンと減速された。トヨタの発表によると、「最大60km/hの減速を可能とする」となっており、これだけ強力なアシスト機構であれば、いざというときのブレーキを大いに助けてくれそうだ。

進化型のプリクラッシュセーフティシステム
車内には加速度計が付いていた
速度差があるため先行車がどんどん近づいてくる
逆側から見た体験コース

 同様のシステムについては、他メーカーも開発に力を注いでいるが、こうしてどんどん対応速度が上がっていっており、いずれ疑問符付きの「ぶつからないクルマ?」ではなく、本当の「ぶつからないクルマ」ができるかもしれないと思わせるものがあった。

トヨタ、進化型プリクラッシュセーフティシステム。40km/hからの自動停止

 なおこの進化型のプリクラッシュセーフティシステムは、レクサス LSに用意されているシステムと比べると、カメラや赤外線投光などが行われておらず、ミリ波レーダーのみのシステムとなっている。そのため、動く人間などの認識が厳しいものの、システムを簡素化・低価格化できるため幅広い普及を視野に入れているとのことだ。

 「間もなく出るセダン」とは、新型「クラウン」であると思われるが、クラウンクラスだけでなくコンパクトカーの領域にまで、このような先進安全技術が搭載されることを望みたい。高度なデバイス連携が必要なシステムのため、どうしても価格の問題が残ると思われる。すべての車種に標準装備となるには時間がかかるだろうが、「安全装備にはある程度のお金を払ってもよい」というユーザーのために、オプション装備としての早期普及を期待する。

(岡本幸一郎/Photo:安田 剛)