試乗レポート

プジョーの新型MPV「リフター」。先行導入されたデビューエディションの実力やいかに?

ベルランゴ、カングーとも比較してみた

プジョー「リフター」

 プジョー(Groupe PSA Japan)から新コンセプトMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)「リフター」が発表された。正式なカタログモデルは2020年第3四半期に導入される予定だが、それに先立ち、特別仕様車のデビューエディションが登場したので、早速900kmほどテストに連れ出してみた。

早く早くの要望に応えて特別仕様車を先行導入

 リフターは2018年2月にジュネーヴモーターショーにて発表され、それ以来日本のコールセンターに問い合わせが多いクルマだったという。そこで、本来の導入時期に先立ち、リフター・デビューエディションとして特別仕様車の発売に至ったのだ。

プジョー「リフター」

 リフターのデザインはスライドドアを持ちながらも、若干車高が高くミニバンとSUVをクロスオーバーさせたイメージだ。インテリアはプジョー独特の「i-Cockpit」と呼ばれるもので、小径ステアリングの上からメーターを見る仕様である。

プジョー独特の「i-Cockpit」を採用するインテリア
スライドドアを採用

 注目すべきはユーティリティだ。リアシートは6:4の分割可倒式となっており、ラゲッジスペースの奥行きは、5人乗り状態で1m、2人乗り状態で1.88m、助手席を倒せば最長2.7mの長尺に対応。容量は、5名乗車時でトノカバー下597L、2列目シートを倒した最大積載状態では2126Lとなり、現行プジョーで最大容積をもつ「5008」の1862Lを大幅に上まわるという。

フロントシート
リアシートは6:4の分割可倒式
リアゲートはガラス部分のみを個別で開閉することが可能

 さらにリアゲートはガラス部分のみを個別で開閉することが可能なリアオープニングガラスハッチとなっており、後方のスペースが狭く、テールゲートを開けられない場合でもガラスハッチから荷室に簡単にアクセスできる。

パノラミックルーフ

 また、ルーフの大半がガラスになるパノラミックルーフは、収納スペースを融合させたマルチパノラミックルーフへと進化。フロントルーフに収納トレイを設け、さらに中央部にはバッグインルーフとして最大14Lまでのバッグを収納可能となっている。マルチパノラミックルーフは電動サンシェード付きなので夏場の強い日差しから室内温度上昇を和らげる効果もある。またルーフアーチ中央部には調整可能なムードライトが備わっている。さらにリアシート頭上後方には容量約60Lのリアシーリングボックスを配置。後席およびリアゲート側の両方からアクセス可能だ。

力強い1.5リッターターボディーゼルエンジン

 リフターは直列4気筒 1.5リッターディーゼルターボエンジンを搭載し、トランスミッションは8速ATが組み合わされる。最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmである。

 さて、ドアを開けて室内に乗り込むと、最近のプジョーが採用しているi-Cockpitが出迎えてくれる。これはステアリングを小径化し、メーターをその上から見るようにすることで前方とメーターとの視線移動を少なくし、安全と疲労軽減に貢献するというモノだ。

i-Cockpitのメーターパネル
ダイヤル式シフト

 センターコンソール右手にあるエンジンスタート・ストップボタンを長押ししてディーゼルエンジンを目覚めさせる。すると、僅かにガラガラというディーゼル独特のエンジン音を発しながら簡単に始動した。振動は気にするほどではなく、音自体も大きくはないので慣れてしまうと気にならないだろう。

 少々使いにくいダイヤル式のシフトをまわしてDをセレクト。アクセルをそっと踏み込めばエンジン音が僅かに高まりながら電動パーキングブレーキが自動的に解除され、力強くリフターは走り始めた。

 街中を流していて感じるのは、その走りが比較的上質なものということだ。足まわりはしなやかであり、エンジン音やロードノイズもクルマの性格からすれば静かなもの。はじめはi-Cockpitに違和感を覚えるかもしれないが、慣れてしまえばかえって小径ステアリングが扱いやすく、きびきびとした走りができるようになる。

 実は5008や「3008」ではステアリングの操舵に対してボディの動きが一瞬遅れ、違和感を覚えたのだが、背の高さとホイールベースの関係(高くて長い5008などと、高くても短いリフター)からか、リフターではまったく気にならなかった。

最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発生する直列4気筒 1.5リッターディーゼルターボエンジン

 また、重量とエンジンの出力のバランスも適当で、必要にして十分なもの。ディーゼルならではの低速からの分厚いトルク感から、信号のスタートダッシュでもグイグイと加速し、流れをリードできる。また、100kgほどの荷物を積んでも、ほとんどその重さを感じさせないレベルなので、どんなシーンでも非力さは感じないと思われる。ちなみに、それだけの荷物を積んでも快適な乗り心地はほとんど変わらなかったことを付け加えておこう。

視界まわりで気になること

プジョー「リフター」

 一方、気になることといえば、これはシトロエン「ベルランゴ」にも通ずるものなのだが、どうしても左前方の車幅がつかみきれないことだ。ボンネットがほとんど見えず、せっかくショートノーズにも関わらず、自信を持って寄せきることができなかった。狭い路地などでのすれ違いで左に寄ったつもりでも、タイヤ1本分ほどまだ余裕があるほどであった。これに大きく影響しているのが太いAピラーで、これらを合わせて狭い道では注意が必要だ。

 視界でいえばBピラーの前後のショルダー部分が山型に上下しているのだが、室内から見ると、ボディの鉄板だけがサイドウィンドウの向こう側に見える形になるので、ふとした時に何か障害物があるのではないかと錯覚を起こしてしまった。この辺りはもう少し目に見えないようにするなど工夫が欲しいと感じた。

写真はシトロエン「ベルランゴ」

 もう1つ、これは個体差の可能性もあるのだが、赤信号で停車するためにブレーキをかけて減速していく際、3速から2速にオートマチックがシフトダウンするとギクシャクとしたショックが伴うことが結構な頻度で発生し、かなり気になる症状だった。

高速道路でも直進安定性は高く安心楽々

 高速道路に足を踏み入れてみると、直進安定性は高く、安心して走ることができる。横風に対しても決して弱くはない。当然ながら、これだけのボディサイズと形状であるから、大型トラックを抜いたときなどや、突風などでふらつくことはある。しかし、例えばミニバン系と比べればはるかにその影響は小さく、安心感は高いといえる。

 乗り心地も良好だ。安全運転支援システムが充実しているので、アクティブクルーズコントロールをセットし、淡々と走るシーンは得意中の得意といえるだろう。

 そのアクティブクルーズコントロールも、ほかのPSAのモデルと比較してわずかではあるが進化しているようで、前走車に追いついたときのプレーキングは緩やかになった。ただし、速度調整はブレーキを使うことが多く、ストップランプの点灯頻度は高めだ。

ベルランゴとカングーとも比較してみよう

 このクルマに興味のある方なら、シトロエン ベルランゴとルノー「カングー」も気になる存在に違いない。そこで比較表をご覧いただこう。

プジョー リフター デビューエディションシトロエン ベルランゴ デビューエディションルノー カングー ゼン EDC
全長(mm)440544054280
全幅(mm)185018551830
全高(mm)189018401810
ホイールベース(mm)278527852700
車両重量(kg)162015901450
燃料軽油軽油ハイオク
排気量(cc)149814981197
トランスミッション8速AT8速AT6速AT
出力(PS/rpm)130/3750130/3750115/4500
トルク(Nm/rpm)300/1750300/1750190/1750
価格(万円)336325264.7
シトロエン ベルランゴ デビューエディション
ルノー カングー ゼン EDC

 リフターとベルランゴはデビューエディションなので本来のカタログモデルよりも装備が充実している可能性があり、価格もそれなりに高くなっている。

 この表を見ていると、リフターとベルランゴは“デカングー”と呼ばれた現行カングーよりも少しずつ大きいことが分かる。実際に見てみるとより大きく感じるのは、フロントフードの高さからくる塊感からだ。また、リフターの方がベルランゴよりも全高が50mm高く、よりSUVテイストを強調。そのためにサスアーム類の角度も変更しているというので、単に車高を上げているだけではなく、細部まで見直していることが伺える。

 一方でカングーはわずかに小さく、車両重量もそれなりに軽くなっているので、小排気量であっても十分に走ることができるというインポーターの判断であろう。

 リフターをテストした前後にベルランゴとカングーも500kmほどテストに供したので、その時の燃費データも掲載した。空気抵抗やエンジン性能が如実に表れた。特に市街地のストップ&ゴーではカングーの燃費の厳しさが目立つ。かなりの渋滞が多かったことは考慮しなければいけないが、やはりアイドリングストップがないことや、ターボがあるとはいえ小排気量によるアクセル開度の大きさが伺える。

プジョー リフター デビューエディションシトロエン ベルランゴ デビューエディションルノー カングー ゼン EDC
燃費市街地(km/l)11.114.44.9(渋滞あり)
郊外(km/l)15.715.88.0
高速(km/l)17.322.214.0

 一方、リフターとベルランゴは市街地と高速で差が見える。どちらも重量とともに空気抵抗の大きさから来る差だと思われる。従って、効率の良い郊外路ではほとんど差がつかなかった。いずれにせよ、重量にあった排気量であることで大きく燃費を伸ばした2台であった。

リフター、ベルランゴ、カングーどれを選ぼうか

 最後にベルランゴとカングーを含めた印象を簡単にまとめておこう。

 リフターとベルランゴを比較すると、リフターの方が明らかに乗り心地と静粛性が高まっていることが分かる。とくに路面からの突き上げは角が取れ、しなやかさをより感じた。また、ロードノイズ等もベルランゴより低い印象だ。これらの要因は車高を単に高めただけでなく、サスペンションまわりの取り付け部を角度から見直した結果、路面からの音の侵入角度の変化や、サスペンションの動きにより自由度が増したためと思われる。これらは車高が上がったことによる違和感がないことからも伺える。

 一方、高速などの横風は車高が高いぶんリフターの方が影響を受けやすいが、それもあえて比較してのことで、そのレベルは十分に満足できるものである。ただし、荒れた路面などではどちらもタイヤが路面を追従できずにはねることがあったが、これは荷物を積載することも想定したセッティングで、実際に100kgほど積載するとその挙動はかなり収まっていた。

 ではルノーカングーと比較するとどうか。どちらも商用車を基本として派生したモデルなので、収納、特に荷室に関して甲乙はつけがたい。特に床面が低いのは重い荷物を積載するのに大きな強みになろう。ここで大きく違うのはリアゲートの開閉方法だ。リフター(とベルランゴ)は跳ね上げ式であるのに対し、現行カングーは観音開きである。どちらもメリットはあるが、日本の駐車事情を考えるとカングーの方が後方のスペースが小さくても出し入れは可能だ。もちろんリフターもガラスハッチを開ければほとんどスペースはなくても積載できるが、重い荷物は難しいだろう。

カングーの荷室空間

 室内の収納はリフターが一歩リードする。運転席まわりをはじめ天井部分にまでさまざまな収納スペースがあり、実際に使わなくてもワクワクさせてくれる楽しさがある。カングーも天井の先端部分と中央に収納スペースが用意されるものの、それ以外に小物類を置けるスペースはない。

 走らせてもリフターが大きくリードする。やはりディーゼルの強みで低速からトルクがわき上がってくるので、一般道はもとより高速でも痛痒なく走ることができる。カングーはダウンサイジングターボの弱みで、一瞬躊躇したのちわっとパワーが出てくるので、重い荷物やフル乗車した場合に、少し乗りにくく感じるかもしれない。また、安全運転支援システムを重視するならば、カングーはほとんど装備されていないので厳しいだろう。

 あとはデザインだ。これは完全に好みの問題であるが、こういったクルマを選ぶ楽しみの1つにカラーバリエーションがある。現在、リフターとベルランゴはカタログモデルが発表されていないので、どの程度の色が選べるか分からないが、現状とそれほど変わらなければ(どちらも3色)カングーの勝ちだ。標準で5色のほかに年に数回限定車が登場し、さまざまなテーマのもとにカタログカラー以外のボディ色が発表されるので、それを楽しみに待つファンも少なくない。

 こういった評価を踏まえると、“普通に”お勧めするならリフター、次いでベルランゴ、そしてカングーの順になる。ベルランゴがリフターの次点になったのは、乗り心地のしなやかさがリフターの方が上だったからだ。しかし、それは僅差ともいえる範疇だ。そしてカングーだが、特に安全運転支援システムの有無は決定的だ。この辺りは設計年次に関係するので次期カングーに期待するしかないのだが、今のところどういったクルマになるかは伝わってきていない。

 あえて普通にと書いたのにはわけがある。やはりこういうクルマなので、ひと目惚れというモノが存在するからだ。冷静に観察評価して判断するというのではなく、パッとひと目見ての感情がモノをいうと思う。そこでいえば、どれを買っても大失敗とはならないだろう。本音でいえば、カングー並みのカラーバリエーションを備えたリフターとベルランゴがあれば、内外装とも楽しさと夢が溢れワクワクさせてくれる1台になるのだが。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。