試乗レポート

マイチェンした熟成のレクサス「IS」試乗 ガソリンターボ「IS300」とハイブリッド「IS300h」乗り比べ

 大幅変更(公式には「マイナーチェンジ」と呼称)を行なったレクサス「IS」。試乗したのは2.0リッターターボの「IS300 F SPORT Mode Black」と、2.5リッターハイブリッドモデルの「IS300h F SPORT」の2台だ。

 ベースとなったIS300 F SPORT(535万円)とIS300 F SPORT Mode Black(585万円)では、主に外観と内装に違いが設けられた。さらに、走行性能を左右する相違点としてBBSと共同開発した軽量・鍛造アルミホイール(マットブラック塗装)を装着する。また、F SPORT専用の8インチTFT液晶式メーターには特別仕様車専用のオープニング画面が用意され、ドアミラーもブラック塗装(一部ボディカラーを除く)とするなど分かりやすい差別化が図られた。

思わず笑みがこぼれるIS300

 試乗はターボエンジンのIS300 F SPORT Mode Blackから行なったのだが、走り出してすぐに笑みがこぼれた。思い描いていた以上の心地良さが感じられたからだ。

 レクサスはこのISを「コンパクトFRスポーツセダン」として世に送り出している。一般的に“スポーツ”と聞けばキビキビと動き、サスペンションは引き締められ、鋭い加速……、といったイメージがあるのではないか。

 しかし、筆者のIS300像はそれとは少し異なる。いわゆるクルマとの一体感は抜群に高いが、それだけでなく、みっちりと中身の詰まった塊に身を委ねるような、一体感とも、安心感ともとれる不思議な感覚を抱いたのだ。抽象的過ぎて恐縮だが、これを一連の運転操作で表現するなら、アクセル、ブレーキ、ステアリングを自分が思い描いた通りに動かせば、ごくわずかの撓(しな)りを伴い正確にクルマが反応を示してくれる。「柔よく剛を制す」、これこそ筆者が抱いた感覚に一番近い。

 IS300の動きは、欧州プレミアムブランド御三家と呼ばれるアウディ、BMW、メルセデス・ベンツとは明確に趣が異なり、ジャガーやボルボが築き上げた世界観にも似ていない。そればかりか、身内であるTNGA思想以降の新世代トヨタとも違う。とても鮮明な乗り味だ。

今回試乗したのは11月にマイナーチェンジしたFRスポーツセダンの新型「IS」。写真は専用のマットブラック塗装を施したBBSと共同開発した鍛造アルミホイールやブラックを基調としたカラーコーディネートが特徴の特別仕様車「IS300 F SPORT Mode Black」(585万円)。ボディサイズは4710×1840×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2800mm
ボディカラーはF SPORT専用の「ラディアントレッドコントラストレイヤリング」で、ブラック塗装のドアミラーを採用する。足下は19インチの鍛造アルミホイールにブリヂストン「POTENZA S001L」(フロント:235/40R19、リア:265/35R19)の組み合わせ
インテリアではアッシュ材を銀墨色に仕上げた専用デザインのステアリングやオーナメントパネルを採用するとともに、F SPORT”専用の本革スポーツシートなども装備

 現在、レクサスのクルマづくりは三層構造で表現される。ベースの一層目は自らのDNAである「静粛性と乗り心地」を示し、二層目が「レクサス独自の乗り味の追求」を示す。そして三層目が「Electrified(主に電動化)」と「Lexus Teammate(主に高度運転支援技術)」でまとめ上げる。つまり、基本性能を造り込み、独自の乗り味を加えた上で、電子デバイスを受け入れるという流れだ。

 ISもそれに倣い、一層目「静か」で、二層目「撓り」、三層目「確実な運転支援技術」で形成されていて、中でもIS300は二層目の撓りを伴う正確な乗り味が群を抜いて光っている。

 ところで、IS300が搭載する直列4気筒直噴+ポート噴射ターボ「8AR-FTS」型エンジンは前輪駆動(FF)と全輪駆動(AWD)を横置きレイアウト(例:レクサス「RX」)で、後輪駆動(FR)には縦置きレイアウトでそれぞれ対応する。

 トヨタブランドでは「クラウン」のターボモデルが同じ「8AR-FTS」型エンジンを搭載した同一配置で、出力/トルク、最終減速比まで含めた8速ATのギヤ比もIS300と共通だ。しかし、IS300のトランスミッションは走行性能を高めるため変速時間が早く、応答性能に優れた「8-Speed SPDS」に変更されている。そのため、車両重量はクラウンが最大で90kg重い1730kgであるにも関わらず、カタログ上のWLTCモード燃費数値は若干ながらクラウンがIS300を上まわる。

IS300が搭載する直列4気筒2.0リッター直噴+ポート噴射ターボの「8AR-FTS」型エンジンは最高出力180kW(245PS)/5200-5800rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/1650-4400rpmを発生。WLTCモード燃費は12.2km/L

 IS300の心地良さは、数値化できない部分にも表われる。運転は繰り返しの操作だ。アクセルやブレーキは踏めば必ず戻すし、ステアリングにしても切っては必ず戻す。つまり運転は、点ではなく線での連続操作。レクサスがISでこだわったのはこの連続する“線”からドライバーがいかに心地良さを感じとれるかに重きが置かれた。

 19インチタイヤをしっかり履きこなすボディは、剛性向上のためスポット打点を増やしつつ、部分的に構造も見直された。同時に、ホイールの締結には欧州車に多くみられるハブボルトを用いて取り付け剛性を高めている。

 前述した、ごくわずかの撓りを伴い正確にクルマが反応するという動きは、大径タイヤをしっかりボディに結合して、そのボディでもガッチリと受け止めるという構造からきている。さらに、ドライバーがクルマの動きを感じるまでにはシートやステアリングが介在しているわけだが、ISでは心地良さを第一に考え、パワートレーンを一体化して開発を行なってきたという。

 走行性能を左右する「ドライブモードセレクトスイッチ」も明確な区分けがなされた。IS300でのベストはスポーツモードだ。エンジン、トランスミッションが加速寄りになり、シャシーもハンドリング性能を重視した特性になる。

 エンジン特性はアクセル操作に対して従順になり、正確な反応を示すボディとの一体感を強調する。全域でトルクが豊かだから加速度のコントロールも容易だ。高回転域はイメージよりも早めにパワーダウンが始まるが、6000rpm弱までは下から上までどの速度域でも狙った加速が得られるので満足度は高かった。

IS300hで感じたIS300との違い

 その点、ハイブリッドモデルのIS300h F SPORTはどうか。みっちり詰まった走行感覚はIS300hでも健在だ。IS300 F SPORT Mode Blackは特別仕様車で軽量ホイールを履いているため細かくは異なる部分もあるが、両モデルともF SPORTで装着タイヤは銘柄/サイズ含めて同一なので、全体の印象はターボモデルのIS300と同じ方向でまとめられている。

 しかし、IS300と同じ試乗コース(公道)をゆったりと走らせてみると、大きな違いがあることも分かった。端的に、IS300hには重さを感じるのだ。重いといっても単に車両重量の違いは50kgに留まる。体感した重さとは、クルマそのものの動きが異なることからきている。

IS300h F SPORT(580万円)。“F SPORT”は前後異サイズ19インチホイールを専用設定し、スタビライザー、EPSなどを専用チューニング。さらに、ショックアブソーバーの減衰力を最適に制御するNAVI・AI-AVSを標準装備するなど、ISの走りの真価を発揮させるモデルになっている
F SPORTおよびFモデルに採用されている専用のFメッシュデザインのスピンドルグリルを採用するほか、グリルロア部のエアインテーク、サイドにロッカーモールフィン、リアスポイラーとリアバンパーロアガーニッシュを配し、ピアノブラック塗装のカラーリングで統一することで“F SPORT”の精悍さを表現
インテリアカラーは“F SPORT”専用のフレアレッド

 分かりやすくその違いを述べれば、IS300はドライバーのアクセル操作に対していつでも一定の間合いを伴って反応するのに対して、IS300hはアクセル操作に対してムラのある反応を示す。アクセル操作に対して、ドライバーが躍度を体感するまでにIS300はいつでも遅れが一定(イメージ通り)。対してIS300hは車速、車両負荷、アクセル開度などの条件に応じて遅れがまちまち(イメージと異なる)。結果として、感覚とのズレはIS300hが大きい。

 誤解のないように付け加えれば、ISのボディ剛性はパワートレーンを問わず高く強靱で、タイヤの大径化で路面との縦方向の接地面積を増やし、取り付け剛性にしても高めるなどやり尽くした感がある。つまり、器がきっちり仕上がっていることから、駆動力の生み出され方に対してドライバーは自ずと敏感になってくるのではないか、これが筆者の見解だ。

IS300hが搭載する直列4気筒2.5リッター直噴+ポート噴射の「2AR-FSE」型エンジンは、最高出力131kW(178PS)/6000rpm、最大トルク221Nm(22.5kgfm)/4200-4800rpmを発生。これに組み合わせる「1KM」型モーターは最高出力105kW(143PS)、最大トルク300Nm(30.6kgfm)を発生。WLTCモード燃費は18.0km/L

 アクセル操作を行ない、それを実際に躍度としてドライバーが体感するまでにタイムラグは両モデルにあるが、反応はターボエンジンが一定でかつ早い。つまり、撓りを味方につけたISのボディはターボエンジンでこそ真価を発揮すると筆者には感じられた。

 さらに、IS300にはヤマハとトヨタが長年開発を行ない、過去から各車に実装されてきた「パフォーマンスダンパー」がフロント部分に装着されている(IS300hには設定なし)。パフォーマンスダンパーは車体制振ダンパーとも呼ばれ、車体がうける1mm以下のごくわずかな変形エネルギーを吸収することで、すっきりとした乗り味を提供する逸品だ。この装着有無も、両モデルに違いを感じた理由だろう。

 三層目である「確実な運転支援技術」は時間の関係で試すことができなかったが、先進安全技術群である「Lexus Safety System +」(Toyota Safety Sense相当)では、高度運転支援機能「LTA/レーントレーシングアシスト」も大きく進化したという。先ごろ一部改良を行なったトヨタ「クラウン」と方向を同じくする進化とのことだが、IS向けの専用セッティングが施されているようでこちらも興味津々。

 販売台数の上で、ここ長らくセダンはミニバンやSUVよりも伸び悩む。そうした中、ISは扱いやすいボディサイズとフォーマルな印象から男性だけでなく女性からも広く支持され、オーナー比率も13%(直近約3か月間の受注実績/広報部)に上るという。もっとも、受注ベースでの数字であるため、実際の使用実態ではもう少し比率が上がることも考えられる。

 ターボ、ハイブリッド、標準モデルにF SPORT、そしてversion Lと豊富なバリエーションを誇るIS。筆者のおすすめはターボモデルのIS300 F SPORT Mode Black。さらにこの先、機会があればV型6気筒3.5リッターを搭載する「IS350 F SPORT」(650万円)のテストも行なってみたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。