試乗レポート
マイチェンした熟成のレクサス「IS」試乗 ガソリンターボ「IS300」とハイブリッド「IS300h」乗り比べ
2020年12月21日 11:00
大幅変更(公式には「マイナーチェンジ」と呼称)を行なったレクサス「IS」。試乗したのは2.0リッターターボの「IS300 F SPORT Mode Black」と、2.5リッターハイブリッドモデルの「IS300h F SPORT」の2台だ。
ベースとなったIS300 F SPORT(535万円)とIS300 F SPORT Mode Black(585万円)では、主に外観と内装に違いが設けられた。さらに、走行性能を左右する相違点としてBBSと共同開発した軽量・鍛造アルミホイール(マットブラック塗装)を装着する。また、F SPORT専用の8インチTFT液晶式メーターには特別仕様車専用のオープニング画面が用意され、ドアミラーもブラック塗装(一部ボディカラーを除く)とするなど分かりやすい差別化が図られた。
思わず笑みがこぼれるIS300
試乗はターボエンジンのIS300 F SPORT Mode Blackから行なったのだが、走り出してすぐに笑みがこぼれた。思い描いていた以上の心地良さが感じられたからだ。
レクサスはこのISを「コンパクトFRスポーツセダン」として世に送り出している。一般的に“スポーツ”と聞けばキビキビと動き、サスペンションは引き締められ、鋭い加速……、といったイメージがあるのではないか。
しかし、筆者のIS300像はそれとは少し異なる。いわゆるクルマとの一体感は抜群に高いが、それだけでなく、みっちりと中身の詰まった塊に身を委ねるような、一体感とも、安心感ともとれる不思議な感覚を抱いたのだ。抽象的過ぎて恐縮だが、これを一連の運転操作で表現するなら、アクセル、ブレーキ、ステアリングを自分が思い描いた通りに動かせば、ごくわずかの撓(しな)りを伴い正確にクルマが反応を示してくれる。「柔よく剛を制す」、これこそ筆者が抱いた感覚に一番近い。
IS300の動きは、欧州プレミアムブランド御三家と呼ばれるアウディ、BMW、メルセデス・ベンツとは明確に趣が異なり、ジャガーやボルボが築き上げた世界観にも似ていない。そればかりか、身内であるTNGA思想以降の新世代トヨタとも違う。とても鮮明な乗り味だ。
現在、レクサスのクルマづくりは三層構造で表現される。ベースの一層目は自らのDNAである「静粛性と乗り心地」を示し、二層目が「レクサス独自の乗り味の追求」を示す。そして三層目が「Electrified(主に電動化)」と「Lexus Teammate(主に高度運転支援技術)」でまとめ上げる。つまり、基本性能を造り込み、独自の乗り味を加えた上で、電子デバイスを受け入れるという流れだ。
ISもそれに倣い、一層目「静か」で、二層目「撓り」、三層目「確実な運転支援技術」で形成されていて、中でもIS300は二層目の撓りを伴う正確な乗り味が群を抜いて光っている。
ところで、IS300が搭載する直列4気筒直噴+ポート噴射ターボ「8AR-FTS」型エンジンは前輪駆動(FF)と全輪駆動(AWD)を横置きレイアウト(例:レクサス「RX」)で、後輪駆動(FR)には縦置きレイアウトでそれぞれ対応する。
トヨタブランドでは「クラウン」のターボモデルが同じ「8AR-FTS」型エンジンを搭載した同一配置で、出力/トルク、最終減速比まで含めた8速ATのギヤ比もIS300と共通だ。しかし、IS300のトランスミッションは走行性能を高めるため変速時間が早く、応答性能に優れた「8-Speed SPDS」に変更されている。そのため、車両重量はクラウンが最大で90kg重い1730kgであるにも関わらず、カタログ上のWLTCモード燃費数値は若干ながらクラウンがIS300を上まわる。
IS300の心地良さは、数値化できない部分にも表われる。運転は繰り返しの操作だ。アクセルやブレーキは踏めば必ず戻すし、ステアリングにしても切っては必ず戻す。つまり運転は、点ではなく線での連続操作。レクサスがISでこだわったのはこの連続する“線”からドライバーがいかに心地良さを感じとれるかに重きが置かれた。
19インチタイヤをしっかり履きこなすボディは、剛性向上のためスポット打点を増やしつつ、部分的に構造も見直された。同時に、ホイールの締結には欧州車に多くみられるハブボルトを用いて取り付け剛性を高めている。
前述した、ごくわずかの撓りを伴い正確にクルマが反応するという動きは、大径タイヤをしっかりボディに結合して、そのボディでもガッチリと受け止めるという構造からきている。さらに、ドライバーがクルマの動きを感じるまでにはシートやステアリングが介在しているわけだが、ISでは心地良さを第一に考え、パワートレーンを一体化して開発を行なってきたという。
走行性能を左右する「ドライブモードセレクトスイッチ」も明確な区分けがなされた。IS300でのベストはスポーツモードだ。エンジン、トランスミッションが加速寄りになり、シャシーもハンドリング性能を重視した特性になる。
エンジン特性はアクセル操作に対して従順になり、正確な反応を示すボディとの一体感を強調する。全域でトルクが豊かだから加速度のコントロールも容易だ。高回転域はイメージよりも早めにパワーダウンが始まるが、6000rpm弱までは下から上までどの速度域でも狙った加速が得られるので満足度は高かった。
IS300hで感じたIS300との違い
その点、ハイブリッドモデルのIS300h F SPORTはどうか。みっちり詰まった走行感覚はIS300hでも健在だ。IS300 F SPORT Mode Blackは特別仕様車で軽量ホイールを履いているため細かくは異なる部分もあるが、両モデルともF SPORTで装着タイヤは銘柄/サイズ含めて同一なので、全体の印象はターボモデルのIS300と同じ方向でまとめられている。
しかし、IS300と同じ試乗コース(公道)をゆったりと走らせてみると、大きな違いがあることも分かった。端的に、IS300hには重さを感じるのだ。重いといっても単に車両重量の違いは50kgに留まる。体感した重さとは、クルマそのものの動きが異なることからきている。
分かりやすくその違いを述べれば、IS300はドライバーのアクセル操作に対していつでも一定の間合いを伴って反応するのに対して、IS300hはアクセル操作に対してムラのある反応を示す。アクセル操作に対して、ドライバーが躍度を体感するまでにIS300はいつでも遅れが一定(イメージ通り)。対してIS300hは車速、車両負荷、アクセル開度などの条件に応じて遅れがまちまち(イメージと異なる)。結果として、感覚とのズレはIS300hが大きい。
誤解のないように付け加えれば、ISのボディ剛性はパワートレーンを問わず高く強靱で、タイヤの大径化で路面との縦方向の接地面積を増やし、取り付け剛性にしても高めるなどやり尽くした感がある。つまり、器がきっちり仕上がっていることから、駆動力の生み出され方に対してドライバーは自ずと敏感になってくるのではないか、これが筆者の見解だ。
アクセル操作を行ない、それを実際に躍度としてドライバーが体感するまでにタイムラグは両モデルにあるが、反応はターボエンジンが一定でかつ早い。つまり、撓りを味方につけたISのボディはターボエンジンでこそ真価を発揮すると筆者には感じられた。
さらに、IS300にはヤマハとトヨタが長年開発を行ない、過去から各車に実装されてきた「パフォーマンスダンパー」がフロント部分に装着されている(IS300hには設定なし)。パフォーマンスダンパーは車体制振ダンパーとも呼ばれ、車体がうける1mm以下のごくわずかな変形エネルギーを吸収することで、すっきりとした乗り味を提供する逸品だ。この装着有無も、両モデルに違いを感じた理由だろう。
三層目である「確実な運転支援技術」は時間の関係で試すことができなかったが、先進安全技術群である「Lexus Safety System +」(Toyota Safety Sense相当)では、高度運転支援機能「LTA/レーントレーシングアシスト」も大きく進化したという。先ごろ一部改良を行なったトヨタ「クラウン」と方向を同じくする進化とのことだが、IS向けの専用セッティングが施されているようでこちらも興味津々。
販売台数の上で、ここ長らくセダンはミニバンやSUVよりも伸び悩む。そうした中、ISは扱いやすいボディサイズとフォーマルな印象から男性だけでなく女性からも広く支持され、オーナー比率も13%(直近約3か月間の受注実績/広報部)に上るという。もっとも、受注ベースでの数字であるため、実際の使用実態ではもう少し比率が上がることも考えられる。
ターボ、ハイブリッド、標準モデルにF SPORT、そしてversion Lと豊富なバリエーションを誇るIS。筆者のおすすめはターボモデルのIS300 F SPORT Mode Black。さらにこの先、機会があればV型6気筒3.5リッターを搭載する「IS350 F SPORT」(650万円)のテストも行なってみたい。