試乗レポート

セダンとしてはこれが最後? 一部改良したトヨタ「クラウン」の先進安全技術を考察

クラウンが一部改良

「セダンボディでのクラウンはこれが最後」。こんなニュースに触れたのは11月初旬、ちょうどクラウンが一部改良を行なったころだ。単なる噂でも、話題づくりの1つであろうとも構わない。コロナ禍で意気消沈してしまう世の中にあり、採り上げられることはよいことだと思う。

 65年の歴史を受け継ぐクラウンは2018年に15代目となり、2020年11月2日には大がかりなマイナーチェンジ(一部改良)を行なった。15代目の一部改良は4月のプレスリリースにうたわれているものの、そこではナビゲーション機能強化と装備の見直し、さらに特別仕様車の追加に留まっていた。

 対して今回の一部改良は、インパネまわりを中心とした車内デザインの大幅変更、12.3インチTFTタッチワイドディスプレイの採用、そして装備やボディカラーの追加が行なわれた。それだけでなく、Toyota Safety Senseの大幅な機能強化が図られている。見た目の大幅変更に機能の充実とくれば、ちょっと前でいえばマイナーチェンジにあたる内容だ。

 試乗したのは、2.5リッターハイブリッドモデルの「RS Advance」(後輪駆動)。今回の一部改良では上記が主な変更点で、走行性能を左右する足まわりやパワートレーンに変わりはないという。約1年ぶりに試乗したクラウンだが、やはり国内市場を見据えた車両開発は大正解だった。乗り味はどんな路面でも徹底して角がなく、それでいて段差や凹みを通過した際の車体上下動はスッキリ一発で収束する。取り回し性能も高く、最小回転半径は5.3m、車幅は1800mmと日本の道路でも扱いやすい。

今回試乗したのは11月に一部改良を行なった「クラウン」の2.5リッターハイブリッド「RS Advance」(597万9000円)。ボディサイズは4910×1800×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2920mm。「セーフティパッケージPlus」(11万1100円)や「トヨタプレミアムサウンドシステム(16スピーカー/12chオーディオアンプ)」(10万3400円)といったオプションが付く。ボディカラーは新規開発色の「プレシャスホワイトパール」
「RS Advance」では3眼LEDヘッドライトや、RS専用のスパッタリング塗装が施された18インチアルミホイール(タイヤは225/45R18サイズのブリヂストン「レグノ GR001」)などを標準装備

 RS Advanceの「ドライブモードセレクト」では、5つのモードが選べるほか、パワートレーン/シャシー/エアコンの3項目を任意段階で組み合わせる「カスタム」モードが用意されている。筆者のおすすめは「コンフォート」モード。3段階の制御のうち、もっとも乗り心地重視のダンパー特性となる同モードでは、アクティブステアリング統合制御と共に、終始フラットで快適な乗り味が楽しめる。

 アウディ、BMW、メルセデス・ベンツなど、欧州プレミアムブランドの走行性能評価はいずれも高いが、120km/hを上限とした日本の道路環境で快適性を評価基準にするならば、筆者はクラウンをトップに推す。7代目クラウンのCMキャッチコピーとして使われた「いつかはクラウン」はてっきり過去のものかと思っていたが、気付けば筆者はピタリその世代。どうりでしっくりくるわけだ。

 乗車率が高いとされる後席でもたっぷり試乗。先のコンフォートモードは後席でも快適だった。前席同様に、後席でも突き上げと評される上下動が少ないため、スマートフォンの小さな画面でメールを確認するなど細かな作業を行なってもクルマ酔いしづらいことが確認できた。

試乗車が搭載するのは直列4気筒2.5リッター「A25A-FXS」型エンジンで、最高出力135kW(184PS)/6000rpm、最大トルク221Nm(22.5kgfm)/3800-5400rpmを発生。モーターは最高出力105kW(143PS)、最大トルク300Nm(30.6kgfm)を発生する「1KM」型で、6.5Ahのニッケル水素電池を組み合わせる。WLTCモード燃費は20.0km/L(燃料は無鉛レギュラーガソリン)

 ところで筆者は常々、先進安全技術の普及を願っている。その意味で今回の改良には興味津々。ご存知のとおり、メーカー発信の情報は端的で深い領域まで踏み込まない。いや、昨今では踏み込めないといった表現が正しいか。誤った認識が広がらないよう分かりやすい文面や情報に留めるからで、たとえば今回のように高度な技術進化となればなおのこと。

 そうしたことから、今回の試乗レポートはToyota Safety Senseのうち運転支援領域に的を絞った。具体的には、①ACC/アダプティブ・クルーズ・コントロール(トヨタ名称/レーダークルーズコントロール)と、車線中央を維持する②LTA(同/レーントレーシングアシスト)の2点。この①と②を連携させた運転支援環境は、「SAEによる自動化レベル2」にあたる。

 クルマの3大基本性能「走る・曲がる・止まる」。これらの向上を目的に、15代目クラウンはドイツのニュルブルクリンク(北コースとGPコース)などで走行テストを繰り返した。限界性能を向上させることと同時に、日本の道路環境で最良の走りを実現するためだ。基本、日本専売車であるクラウンに対して、「法的速度を大きく超える高速領域でテストすることに意味があるのか」との意見もみられた。

 しかし、クルマの動的な基本性能を向上させると、先進安全技術の性能も同時に高められるという大きなメリットがある。なぜなら先進安全技術の多くは、ドライバーの運転操作をサポートする技術(故に運転支援技術)だからだ。

 言い換えれば、システムによるアクセル・ステアリング・ブレーキへの部分的な介入は、走る・曲がる・止まるの性能が高ければ高いほど、事故を抑制したり快適な運転操作をサポートしたりするなど、その真価を発揮する。

内装色はブラックで、今回の一部改良では「RS Advance」「RS Advance Four」「G」「G Four」への本革シート採用を拡大。また、予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」に「ドライバー異常時対応システム」が新たに追加されたほか、「レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)」にはAI技術により前方カーブの大きさを推定し、ステアリングの切り始めで速度抑制を開始する「カーブ速度抑制機能」を初採用
ドライブモードは「ECO」「COMFORT」「NORMAL」「SPORTS」「SPORTS+」「CUSTOM」から選択でき、モードによってメーターの色を変更する
トランクスペースは見ただけで広いと分かる

注目は操舵支援制御

 改良型クラウンを早速、都市高速道路で走らせる。規制速度は低いが、そのぶんカーブの曲率はきつく、右に左と連続する。走行する車両には二輪車や大型車も多く、分岐点では急な割り込みシーンにも遭遇する。こうしたシビアなコンディションでは、①ACCの前走車追従性能と割り込み対応制御、②LTAの車線認識性能と操舵支援制御の性能が問われる。

ACCを作動させたハイブリッド車専用オプティトロン2眼メーター。道路の白線を認識すると両側に白の実線が表われ、「レーントレースあり」にするとブルーのすり鉢状表示が出る

 改良型クラウンは、ここで従来型と大きな違いをみせた。注目は②の操舵支援制御だ。後述する「センタートレース制御」をON(マルチインフォメーションディスプレイでの表示は「センタートレース あり」)にすると、多くのドライバーがきついカーブだな、と認識するような場面であっても車線の中央を維持しようと操舵支援が介入する。その際、ステアリングに入力される(=システムが入力する)操舵支援は従来型以上に明確で、ほぼ一発で直後に走行するカーブの曲率に合わせて舵を切る。

 LTAをはじめとした各社の車線中央維持機能に許されたステアリングへの操舵トルク(ハンズオン車線維持/B1)は、国連のWP29傘下、GRRF直下の自動操舵専門家会議によって定められている(例:50N/約5kg以下の力でオーバーライドできることなど)。詳細は省くが、いずれにしろシステムによる操舵支援が介入していても、ドライバーがステアリング操作をすればオーバーライド、つまりドライバーの操作がいつでも優先される。

 オーバーライド開始地点の設定は、ドライバーごとに運転スタイルがあるため難しい。また、カーブの曲率がきつくなると車線中央維持機能が働かなくなるが、これはシステムによる最大横加速度が車速によって定められていることから発生する事象だ。

 つまりはこの操舵支援、複合的な要因が絡みつつ制御が行なわれているわけだが、分かりやすくドライバーからすれば、システムによる介入が軽すぎる(≒弱い)と操舵支援を感じにくくなり、逆に重すぎる(≒強い)と操舵支援への不安感へとつながるといわれている。その点、改良型クラウンのLTAによる操舵トルクは軽すぎず、重過ぎず。ドライバーとの協調性が保たれ高い運転支援が受けられる、そんな印象を抱けた。

 なお、LTAは複数の運転支援機能の集合体に対する総称。A/車線逸脱警報機能、B/車線逸脱抑制機能、C/ふらつき警報機能、D/車線維持支援機能の4機能がそれで、上記のセンタートレース制御はDに含まれる。

 ①ACCに追加されたトヨタ初採用の「カーブ速度抑制機能」も実用性が高かった。車載の光学式カメラの映像を元に、ディープニューラルネットワーク(DNN/積層強化型深層学習)によるAIがカーブの大きさを推定し、ドライバーのステアリング操作をトリガーにした減速制御(アクセル操作OFFや回生減速)によって安定したカーブでの走行をサポートする。理屈の上では、ドライバーが日常行なっている経験則に基づいた目測によるカーブの大きさ判断を、クラウンではAIのDNNによって形成されたアルゴリズムが判断するわけだ。

 カーブでの減速制御には、ステアリング操作をきっかけにエンジン駆動トルクを弱めて前輪荷重を増やすマツダ「GVC(G-VECTORING CONTROL)」や、GVCにブレーキ制御を追加した「GVC プラス」があるが、改良型クラウンのカーブ速度抑制機能は安全な速度でカーブを走行することが目的であるため、マツダのそれらよりも明らかに強い減速制御が介入する。

 確かに安全にカーブを走行できるし減速制御も滑らかだが、減速開始のタイミングがドライバーのステアリング操作であるため、筆者には減速制御の介入が遅めに感じられた。具体的にはカーブに入った瞬間にガクンと速度が落ちるため、「もう少し早めに減速制御が介入してくれたら安心だな」と高望みをしてしまう。

 ACCを使わないドライバーによる一般的な運転操作であれば、カーブの目視とともに曲率をイメージしながら必要に応じて直線状態のうちにアクセルペダルを戻したりブレーキ操作を行なったりする。よって、カーブ進入時には速度管理がほぼほぼ済んだ状態。対してカーブ速度抑制機能はACCでの走行中なので、事前のアクセル操作はシステム任せ。よって、カーブ進入前の直線状態では減速制御が行なわれない。あくまでもドライバーのステアリング操作によって減速制御がはじまるのだ。

 このカーブ速度抑制機能と同様の機能として、スバル「レヴォーグ」が搭載するアイサイトXには「カーブ前速度制御」機能が備わる。カーブ曲率などがデータ化されたHDマップ(高精度地図)と、GPSならびに準天頂衛星「みちびき」などからの情報を複合して使うため、カーブ進入前から制御がゆっくり介入する。

 対して改良型クラウンが搭載する「T-Connect SDナビゲーションシステム」は、通常のマップ情報のみでHDマップの高度な道路情報を持ち合わせないため、アイサイトXのようなフィードフォワード制御は期待できない。

 もっとも、ドライバーがそれを意識して、いつもより少し手前からステアリングを切り出せばカーブ速度抑制機能を早出しさせることもできた。こうすることで、前述した車速により定められている車線中央維持機能の横加速度におけるジャークが緩やかになり、範囲は限定されるもののドライバーによるステアリング操作がスムーズになるので、レーントレース制御との協調運転時間が長くとれる。また、既存システムとAI技術の融合という、トヨタがTRI-ADで取り組んでいる活動(例:Toyota Safety Senseの光学式カメラを有効活用する)は、先進安全技術のレトロフィットという観点からも大きな意義がある。ここはDNNの進化とともに、さらなる緻密な制御にも期待したい。

 このほか①ACCの割り込み制御が改めて優秀であることも確認できた。ACCを80km/hにセットして前走車を追従走行中(車間距離選択は「長い」。車間距離は約40m)、第一走行帯を走るわれわれクラウンの直前に、大型なSUVがウインカー操作を行なわずに割り込んできた。

 ゆっくりとした割り込みだったが、目測で2m先に割り込んできたことから筆者の過去の経験からシステムによる強いブレーキ操作が介入すると身構えた。同時に、瞬時にルームミラーで後方を確認して次なる策を練る……。が、それは杞憂。クラウンは何事もなかったかのように、アクセル操作をOFFにして緩やかな回生制御でじんわり減速しやり過ごした。割り込んだSUVとの速度差が大きくて、割り込み後も相対速度が開いていったことも要因だろうが、自車周囲をリアルタイムでセンシングする技術との協調制御によって、ここまで自然な運転支援が受けられることに感心した。

 2020年4月の法改正後、容認された自動化レベル3。12月には国土交通省より自動化レベル3の技術を実装した車両を「条件付自動運転車(限定領域)」と呼ぶことが発表された。どの分野でも技術は最先端が話題の中心になる。しかし筆者は、高度化する新しい技術をドライバーが正しく使いこなすには、相応の準備が必要で順序にしても大切であると考えている。

 2021年、公道では現存する多くの自動化レベル0の車両と共に、自動化レベル1を実装した二輪車(日本のメーカーでは「カワサキ」が実装予定)、自動化レベル2を実装した大型トラック(すでに「三菱ふそう」が実装済)との混合交通になる。ここでは自動化レベルの異なる乗り物を正しく普及させていくために不可欠な、社会的受容性の形成が益々重要になってくる。

 今、われわれに求められることは、乗用車で約73%にまで普及したACC、同31%の車線中央維持機能を正しく理解し、ドライバーが主体となって協調すること(数値は国土交通省2019年生産台数ベース)。既存技術の四隅(限界点)を知ることこそ、進化を続ける最先端技術を受け入れるための準備であり、順序だ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学