試乗レポート

メルセデス・ベンツ新型Eクラスのベーシックモデル「E 200 スポーツ」の実力をチェック

セダンとステーションワゴンを比較した

マイチェンポイントは?

 リモート取材がすっかり当たり前になってきた近ごろだが、新型モデルはこうして試乗しなければやはり違いが分からない。久しぶりに試乗した「Eクラス」だが、2016年の登場以来、はじめて大がかりなマイナーチェンジを行なった。

 欧州車メーカーの多くはマイナーチェンジとはいわず、「新型」と名乗ることが多い。確かに国産車メーカーが定義するマイナーチェンジの変化幅を超えた改良が多いことから、新型との表現はうなずける。

 今回Eクラスが行なった変更は内外装に広くおよび、その違いは一目瞭然。新旧Eクラスを並べてみると「同じEクラスなのか!」と思う(あ、だから新型か)。

 顔つきはヘッドライトの形状が切れ長となり上部へ移動。グリルも底辺が広い台形へ変更され、内部の横溝は2本から1本へ。これにバンパー形状の変更も加わり見た目は低く、よりワイドになった。リアスタイルもコンビネーションランプが薄型化され、同様にワイド感を強調。ドイツ本国で発表済の新型「Sクラス」に通ずるデザインを採り入れた。

今回試乗したのは9月にマイナーチェンジモデルが導入された新型「Eクラス」。写真はベーシックグレードとなる「E 200 スポーツ」(769万円)で、ボディサイズは4940×1850×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2940mm
外装のデザインでは、シャープでダイナミックな印象に一新されるとともに、一部グレードをのぞきAMGラインエクステリアが標準装備された。フロントエンドのヘッドライトには最新のメルセデス・ベンツのスポーティモデル群に共通する、上下方向に薄く、わずかに切れ上がるデザインとした。ラジエーターグリルは下部が広がる台形となるとともに、クローム仕上げのダイヤモンドグリルを採用。セダンでは新たに2分割型リアコンビネーションランプも採用されている
こちらは「E 200 ステーションワゴン スポーツ」(810万円)。ボディサイズは4955×1850×1465mm(全長×全幅×全高)

 内装は基本的に従来型を踏襲しながら、センターコンソールからは往年の上級車の証でもあったアナログ時計が省かれた。ステアリングは新設計のスイッチ&形状に変更。これは「新世代ステアリングホイール」と呼ばれ、小さなエアバッグモジュールにはじまり2段構えのステアリングスイッチ類が目新しい。実車を確認していないので詳細は異なるのかもしれないが、新型Sクラスと同様のスイッチ配置で、ホイール径や太さなども統一されたように思える。

今回試乗した新型Eクラスのステアリングは、新型Sクラス(写真)と同様のスイッチ配置であることがうかがえる

 MBUX(Mercedes Benz User Experience)も大きく進化。いわゆるAR(Augmented Reality)技術を使った拡張現実機構を採り入れた。光学式カメラの実写映像をカーナビゲーション画面の代わりに映し出し、さらに実写映像に道路名やデジタル案内矢印などを組み込むことで目的地までの案内をより分かりやすくした。

 使ってみると確かに便利。ARが顔を出すのはルート設定時で、高速道路を除く交差点や分岐点のみに限定。ARデータが収録された場面に差し掛かると、通常のナビ画面から実写映像へと自動的に変更される。ちなみにこのAR機能は、任意のスイッチ操作でOFFにすることも可能だ。

新型Eクラスでは「スポーツ」各モデルとメルセデスAMG各モデルに新世代のステアリングホイールを採用し、近未来的なスポーティさを演出。また、ナビゲーションやインストルメントクラスター内の各種設定や安全運転支援システムの設定を全て手元で完結できる機能性も有するとともに、従来はタッチコントロールボタンへの接触やステアリングホイールにかかるトルクで判定していた、ディスタンスアシスト・ディストロニック使用時のハンズオフ検知機能のために、新たにリムに静電容量式センサーを備えたパッドを採用
インフォテインメントシステムでは12.3インチの大型ワイドスクリーン2画面を標準装備。また「E 200」と「E 220 d」に従来ピアノラッカー調のトリムが採用されていたセンターコンソールに、新たにインストルメントパネルに採用されるインテリアウッドトリムと同様のウッドトリムを採用することで高級感を高めた
ステーションワゴンのラゲッジスペース

 筆者がいいなと思ったのは、ARによる案内情報もさることながら、運転中にナビ画面が実写映像に切り替わったことで、「進路変更が近いな」と目線を前方から外さずはっきり認識できる点。同時に従来通りの音声による案内も加わるので、ドライバーとしては前方に意識を集中したまま、画面に大きく表示されるAR情報をパッと確認すれば、不慣れな道でも安心して運転操作に集中できる。

新型Eクラスでは、日本で販売される乗用車で初のAR(Augmented Reality、拡張現実)ナビゲーションを採用。従来では目的地を設定して行先案内をする場合、地図上に進むべき道路がハイライトされるが、今回の新型Eクラスではそれに加えて車両の前面に広がる現実の景色がナビゲーション画面の一部に映し出され、その進むべき道路に矢印を表示する

セダンとステーションワゴンの乗り味の違い

 このような大幅な変更が加えられた新型Eクラスのうち、今回は「E 200 スポーツ」を名乗るセダンとステーションワゴンの2台に試乗した。エンジンに違いはなく、ともに直列4気筒1.5リッター直噴ターボにBSG(Belt-driven Starter Generator)システムと48V系の電動駆動を組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを搭載する。

 この1.5リッター+BSGユニットは、現行の「Cクラス」、そして従来型Eクラスにもモデル途中から導入されていたパワーユニット。試乗したE 200 スポーツは、トルクコンバーター方式の9速ATを介して後輪を駆動するが、4輪駆動モデルである「E 200 4MATIC スポーツ」もセダン/ステーションワゴンにラインアップする。

 BSGのモーター兼ジェネレーターはクランクシャフトに作用する、つまりエンジンをサポートする力として最高出力10kW(13.6PS)と160Nmの最大トルクを発生する。カタログ上の定格/最高出力は8kW/10kW(10.88PS/13.6PS)、最大トルクは38Nmだ。

E 200シリーズは直列4気筒1.5リッターターボ「M264」型エンジンと「BSG」「48Vボルト電気システム」などの新技術を採用することで、効率性、快適性、高性能化を同時に実現したパワートレーンを搭載。「M264」型エンジンは単体で最高出力135kW(184PS)/5800-6100rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/3000-4000rpmを発生し、WLTCモード燃費はセダンが13.1km/L、ステーションワゴンが12.7km/Lとなっている

 1.5リッター+BSGは、市街地走行から高速走行まで納得できる走りをみせた。少々まわりくどく述べたのは、そこに大きなゆとりはないからだ。メルセデス・ベンツといえば上質で快適、エンジンパワーにもゆとりがあって高いブランド力や優れた先進安全技術……、これが大方のイメージではないか。

 試乗した新型は紛れもなくEクラス。上質で快適だ。先進安全技術にしても新型Sクラスに次ぐ高い技術レベルを誇る。とはいえ、E 200の車両重量はセダン1760kg、ステーションワゴン1830kgと軽くはなく、そこに最大10kWのモーターアシストが入るにせよ、成人3名乗車の試乗ではやはりアクセルペダルの踏み込み量は大きくなる。

 ただ、誤解のないように付け加えると、筆者は1.5リッターだからといって走行性能に不満は抱かなかった。先まわりした運転操作として加速させたい時にはしっかりアクセルペダルを踏み込めば、ドライバーの意図を受け入れた9速ATが状況に応じたステップシフト(ギヤ段を飛び越してシフトダウンする)を行ないながら、持てるパワーとトルクを出し切ってくれる。そこに大出力を誇る上位グレードのようなゆとりはないが、日常の使い勝手や実用性を重視するE 200では十分だ。

 乗り味はどうか? セダンとステーションワゴンはともにスプリングレートこそ低めだが、ダンパーの減衰力は高め。市街地から高速走行までフラットライドを実現する。従来型と同じくランフラットタイヤを装着するものの、角の取れた乗り心地だ。

 一般的に欧州車メーカーの同一モデルにおけるセダンとステーションワゴンでは、乗り味でセダンが有利になる傾向がある。筆者の乗るCクラス ステーションワゴン(S204型)も、Cクラス セダン(W204型)と同グレードで比較試乗すると、明らかに滑らかさはセダンが上だ。ステーションワゴンは乗り味が全般的に硬めで、リアサスペンションからの突き上げも若干大きい。

 新型Eクラスでもその傾向は残るものの、その差は従来型より縮まった。1名乗車でラゲッジルームに荷物を積載していない状況でも、硬さはずいぶん減っている。そもそもステーションワゴンの場合、荷物を積載した状態を想定した設定がとられているため、当然そうした状況ではリアサスペンションからの突き上げも抑えられる。

 鳴り物入りで登場したMBUXは、しっかり「Hi, Mercedes」と言わないと反応しないよう改められたのだが、ドイツ生まれの頑固モノっぽくていいなと思えた。実際は、車内の会話に「メルセデス」という文言が入っているだけで敏感に反応するMBUXに煩わしさを感じるという市場の声を受け改良が加えられたとのこと。そういえば、MBUXを搭載したAクラスで撮影している際(運転席の窓開け状態)、車外のカメラマンが発した小声の「メルセデス」にしっかり反応していたことを思い出した。

 まとめると今回試乗したEクラス、誤解を恐れずに言えば、E 200のセダン/ステーションワゴンはともに最高の実用車だ。エンジンパワーにこそ過剰なゆとりはないけれど、上位モデルと変わらぬ装備にはじまり、上質で快適な車内空間、そして高い信頼性は安心・安全の運転環境を提供してくれる。侮れない実力をもつEクラス。ぜひベースグレードであるE 200から体感することを強くおすすめします。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:中野英幸