試乗レポート

最高に趣味性の高いクルマ、メルセデス・ベンツ「E 300 クーペ/カブリオレ」試乗 E 200との違いは?

クーペはスポーツモード、カブリオレはコンフォートモードがマッチ

E 300のクーペ/カブリオレをチェック

 Car Watchで採り上げたメルセデス・ベンツ Eクラスの「E 200 セダン/ステーションワゴン」が最高の実用車ならば、今回紹介する「E 300 クーペ/カブリオレ」は最高に趣味性の高いクルマだ。

 絵になり誰からも憧れの的として映る2台は、ともに優雅なデザインをまとう。クーペの流麗なルーフラインは美しいし、カブリオレは開けても閉めてもさまになる。筆者は過去にNA型、現在ND型ロードスターを愛車にしていることからオープンモデルの評価軸を自分なりにもっている。その印象をもとにクーペとカブリオレ、似て非なる2台の注目すべきところはどこなのか紹介したい。

E 200 セダン/ステーションワゴンに続き、今回は直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「M264M20」型エンジンを搭載する「E 300 クーペ スポーツ」(上段/919万円)、「E 300 カブリオレ スポーツ」(下段/956万円)に試乗。クーペとカブリオレは10月に大幅刷新して受注を開始している

 セダン/ステーションワゴンとともに新型(大幅なマイナーチェンジ)となったクーペ/カブリオレ。試乗したE 300を名乗る2台が搭載するエンジン・トランスミッションはともに共通で、直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「M264M20」型で258PS/370Nm、9速ATを組み合わせる。駆動方式は2WD(FR)。

 ベースはEクラスのセダン/ステーションだが、ホイールベースはクーペ/カブリオレが65mm短く2875mm。トレッドは前後とも共通だ。デザイン、走行性能など求める要素に応じて変更が加えられた。

 前回試乗したセダン/ステーションワゴンのE 200は1.5リッターターボ+BSG(Belt-driven Starter Generator)による電動化されたパワーユニットだったが、今回のE 300は純粋な内燃機関のみで駆動力を生み出す。排気量にすればわずか500ccの違いだが、走行性能は大きく異なる。クーペ/カブリオレでもE 200として1.5リッターターボ+BSGが選べるが、筆者はE 300を強くおすすめする。

Eクラス クーペではフロントセクションから低く立ち上がるAピラー、高い位置を走るベルトラインにより、メルセデスクーペ伝統のプロポーションを形成するとともに、流れるようなルーフライン、大胆で力強いリアエンドを採用。ボディサイズは4845×1860×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mm。車両重量は1800kg
Eクラス クーペはサッシュレスドアを採用
内装ではメルセデス・ベンツの新世代ステアリングホイールを新採用して、3本のツインスポークで近未来的なスポーティさを演出。また、従来はタッチコントロールボタンへの接触やステアリングホイールにかかるトルクで判定していた、ディスタンスアシスト・ディストロニック使用時のハンズオフ検知機能のために、新たにリムに静電容量式センサーを備えたパッドを採用した

 なぜか? もっとも大きな理由は「ゆとり」の存在。カタログ上は+40%のパワーと+32%のトルクに過ぎないが、実際にステアリングを握ってみると走行性能のゆとりは2倍近いと筆者は感じる。

 単純にアクセルペダルを全開にするゼロ発進加速でタイムを計測すれば、もちろん2倍の差はつかない。けれど、運転操作は人の感覚で行なうものだけに、2.0リッターターボのゆとりはそのまま優雅なスタイルを損なわない紳士的な運転操作に直結する。

カブリオレでは、Eクラス クーペのボディデザインをベースに、ソフトトップを閉じている時はメルセデスの伝統的なクーペのようなスタイリング、ソフトトップを開けた時にはカブリオレならではの伸びやかなプロポーションを実現。ボディサイズはクーペと同寸で、車両重量は70kg増の1870kg
カブリオレでは11色のエクステリアカラー(メルセデスAMGモデルは12色)とブラック、ブラウン、ダークブルー、ダークレッドの4色のソフトトップカラー、6種類のインテリア(E 450とメルセデスAMGモデルは5種類)から好みのカラーが選べる
トランクスルーにより使い勝手も上々

 ゆとりは走り出しから。アイドリング時に車内、車外で確認できる高圧インジェクターの燃料噴射音(カタカタ音)は、同じく直噴エンジンであるE 200(M264型)よりも大きめだが、走り出してしまえば車内では気にならない。それよりも1000rpmを超えたあたりからじんわりとトルクが立ち上がり、1500、2000rpmと上昇するごとに力強くなる加速フィールは、M276型を名乗るV型6気筒直噴3.5リッターエンジンに近い(ともに最大トルクは370Nm)。

 市街地や山道での走行でもゆとりは変わらず。30~50km/h程度のちょっとした緩加速では、アクセルペダルの踏み込み量を気持ち深めるだけで狙い通りの増速が行なえる。

E 300が搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ターボ「M264M20」型エンジンは最高出力190kW(258PS)/5800-6100rpm、最大トルク370Nm(37.7kgfm)/1800-4000rpmを発生。WLTCモード燃費は11.3km/L(燃料タンク容量は66L)

 同じ条件でE 200はどうか? 既出のレポートにある通り、リズムよく走らせるためには前もってアクセルペダルを意識して踏み込むことが求められる。1.5リッターターボ+BSGを搭載するE 200には、求める加速力が得られるまでにわずかながらの待ち時間が存在するからだ。ただし、ドライバーが意思表示(=運転操作)をすればしっかり応答してくれる。ゆえにE 200は「最高の実用車」なのだ。

 E 300は足まわりにもゆとりがある。E 200に設定のない、金属バネに代って空気を利用したバネと可変制御のダンパーを組み合わせたエアサスペンションを標準で備える。このシステムは、コンフォート、スポーツ、スポーツ+と3段階で減衰特性の変更が可能だ。

 クーペでのおすすめはスポーツモード。カチッとした高いボディ剛性と大径タイヤ(19インチ)の動きがバランス良くまとまっていて、ステアリング操作に対してスッと車体が反応する。ただ、スポーツモードと言いながらもその実体は設定のないノーマルモード的な乗り味。わりと大きめの凹みを通過してもガツンという強い衝撃は伝えずに、一発でタイヤの上下動を収束させる。

 一転、カブリオレはコンフォートモードがいい。開口面積の大きいカブリオレは走行中、あらゆる方向からの入力を受けるが、クーペとは違う適度ないなしをもって対応するボディとのバランスを考えた結果、筆者はよりソフトな乗り味を好んだ。

 装着タイヤはクーペ/カブリオレともに同一だが、車種ごとに設定された乗り味の違いは前輪(片輪2個)、後輪(片輪3個)と、それぞれに空気容積の違うエアチャンバーを用いつつ高出力/高応答のコンプレッサーユニットを用いたシステムによって生み出される。

 もっともエアサスペンションといえども現行Sクラスのようなフラットライドを第一に考えたソフト路線ではなく、低速域からボディとの一体感を強調する特性で、強い入力が入った際にジワッと受け止める金属バネとエアバネの長所を組み合わせた、そんな特性が与えられている。

 居住性はどうか? 前席の快適性は2台ともに高い。外観からクーペの後席は閉塞感を伴いそうだが、じつは足下、頭上ともゆとりが大きく筆者(身長170cm)であれば定員乗車である4名(カブリオレも4名)での長距離走行も難なくこなせる。また、スタイルから想像するよりもずっとトランクルームは広大で実用的だ。

「前席の快適性は2台ともに高い」と筆者

 カブリオレも基本的にはクーペ同様の印象。前席、後席ともに快適。またとない機会だったので後席でも30分ほど試乗してみたが、ソフトトップの収納にスペースがとられている関係もあってか、後席シートバック角度が立ち気味。座面にしても凹みがあるため身体のホールド性はよく(前後長は若干短めだったが)、後席にも後部ウィンドウの開閉スイッチがある点は良かった。

強力なヒーター、適切な角度で設けられた吹き出し口

 オープン走行ではどうか? 取材時は季節外れの暖かさとはいえ肌寒く、風は冷たい。そんな天候でも前席はこれ以上ないほどに快適だ。メルセデス・ベンツのオープンモデルに共通する美点で、強力なヒーターと適切な角度で設けられた吹き出し口で寒さを感じない。

 以前、Cクラス カブリオレで真冬の高速道路を走行する機会があったが、今回のEクラス カブリオレと同じく風の巻き込みは少なかった。これにはボディの高い整流効果だけでなく、フロントウィンドウ上部のボディ部分に内蔵されたディフレクターによる風の巻き込み抑制が効いている。

フロントウィンドウ上部にエアキャップを設けて風の巻き込みを抑制

 また、運転席と助手席のヘッドレスト下部には、ちょうど乗員の首元にむけて温風が流れるエアスカーフ(セットオプション装備)やシートヒーターの併用によって、真冬でも快適にオープン走行が楽しめる。ND型ロードスターのヒーターは強力で、吹き出し口の角度設計には細心の注意を払ったとマツダの技術者から伺っているものの、首元が暖かくなるエアスカーフには心底憧れる。

運転席と助手席のヘッドレスト下部には乗員の首元にむけて温風を出すエアスカーフを用意

 さすがに後席はまともに風を受ける。エアキャップのON/OFFを試してみれば確かにその効果は感じられるものの、エアスカーフがないため強力なヒーティングシステムをもってしてもやはり寒い。もっとも、このあたりは後席のあるオープンカーに共通する構造的な課題なのでメルセデス・ベンツを責めるのは酷だが、いずれにしろ前席と同じ暖かさは後席では得られない。

 定評のある先進安全技術や、AR技術(ARは高速道路で使用できず)を用いたMBUXはセダン/ステーションワゴンと同様に、クーペ/カブリオレにも装備される。そのMBUXには新たに「MBUXインテリアアシスタント」として、ジェスチャーでディスプレイ表示内容を部分的にコントロールできるほか、センターディスプレイ下部に指で“V字”をかざすと、「お気に入り」で登録したコマンドを実行することができる。

 これはなかなか実用的なHMIだったが、残念ながらこのMBUXインテリアアシスタントは現時点でカブリオレには装着されない。オープン走行時、強い外光を受けてしまうとコントラストの関係から正常に機能しないのかもしれない。同様にカブリオレのタッチパッドは従来型のままだ。

 優雅な2台は誰からも憧れを抱かれる2台。なかでも先進安全技術好き(S204型Cクラス乗り)で、オープンカー好き(ND型ロードスター乗り)の筆者にとって、憧れの的はA238型を名乗るEクラス カブリオレ。いつか手に入れたい、そう思える試乗でした。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:中野英幸