インプレッション

レクサス「LS500」(車両型式:DBA-VXFA50[55]-AEUQT)

公道&クローズドコースでガソリンモデルに試乗。どのモデルがベストバイ?

 前回のレポートではハイブリッドモデルの「LS500h」を紹介したが、今回はもう1つのパワートレーンであるツインターボモデルの「LS500」に的を絞った。また後半には、トヨタ自動車(レクサス)との関係が深いツインターボの歴史についても書き加えている。

新開発「V35A-FTS」エンジンについて

 LS500が搭載するエンジンは、「Dynamic Force Engine」群の一角を飾る新開発の「V35A-FTS」だ。レクサスとしては初登場、そしてトヨタとしては国内向け乗用車用ラインアップから約15年ぶりの復活となるツインターボエンジンのV35A-FTSは、V型6気筒3.5リッターから310kW(422PS)/6000rpmのパワーと600Nm(61.2kgm)/1600-4800rpmのトルクを発揮する。ご存知のように、Dynamic Force EngineはTNGA(Toyota New Global Architecture)を支える要素技術の1つであり、優秀な熱効率を示すことでも知られている。

 改めてその熱効率だが、現時点で乗用車用として世界トップレベルとされる41%を誇るのは、トヨタのミディアムセダン「カムリ」が搭載する「A25A-FXS」(ハイブリッド用エンジン)である。その点、V35A-FTSはどうかというと、熱効率だけで見ればそこから3%程度低くなるものの、エンジンパワーあたりの熱効率で換算してみると、見事にA25A-FXSと同じラインに乗ってくるという。つまり、ハイパワーでありながら世界トップレベルの高い熱効率を誇るのがV35A-FTSの特徴だ。

今回は新開発のV型6気筒3.5リッターツインターボエンジンを搭載する「LS500」の試乗インプレッションをお届けする。写真の「LS500“version L”」(FR)のボディサイズは5235×1900×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3125mm。価格は1320万円
“version L”のインテリア

 LS500には2WD(FR)モデルと4WDモデルがあり、それぞれに10速ATが組み合わされる。このトランスミッションは新開発となるトルクコンバーター方式だ。ついにATも2桁時代かと感慨深いが、本田技研工業も新型「アコード」(北米モデル)などでは10速ATを搭載しているし、この先も望まれる内燃機関搭載車に対する高効率化から推察すれば、世界各国のフラグシップモデルではこうしたATの2桁化が進むはずだ。

 多段化のメリットはひとえにギヤ比幅のワイド化が図られることで、LS500が搭載する10速ATでは実にその比率は8.23にまで及ぶ。この8.23とは、1速のギヤ比が10速のギヤ比の何倍にあたるかを示す値で「レシオガバレッジ」とも表現される。レシオガバレッジのワイド化は適正な最終減速比との組み合わせにより常用エンジン回転数の低下(≒静粛性の向上)というところでもメリットを体感できる。LS500(FRモデル)の場合、100km/h走行時のエンジン回転数は10速で1250rpmと、従来型の「LS460」(FRモデル)よりも約300rpm低められた。搭載エンジンやボディの空気抵抗、また後述する諸条件にもよるが、ワイド化されたトランスミッションを持つモデルほど高速巡航時の燃費数値は良好になる。ちなみに、先代LS460(FRモデル)が搭載していた8速ATのレシオガバレッジは現行のレクサス「GS350」(FRモデル)と同様で、その値は6.7(最終減速比はLS460が約6.3%ハイギヤード)に留まっている。

LS500が搭載するV型6気筒3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」エンジンは最高出力310kW(422PS)/6000rpm、最大トルク600Nm(61.2kgm)1600-4800rpmを発生。吸気効率の向上と燃焼室内の気流強化を両立し、世界トップレベルの熱効率による高い出力と燃費性能を実現。JC08モード燃費は2WD車が10.2km/L、4WD車が9.5~9.8km/L

 とはいえ、やみくもにエンジンの回転数が低ければよいということでもない。搭載車種や出力特性、さらには求める加速特性に応じた最適値が存在する。その指標の1つが燃料消費率(g/PS・h)だ。エンジンにはそれぞれ回転数に応じた燃料消費率があり、それは二次関数グラフで表されるが、一般的にアイドリング回転域から少し上の回転領域では燃料消費率が少しわるくなる傾向にある。さらにその値は、エンジン形式や過給器の有無、出力特性によっても大きく上下する。もっとも、昨今の省燃費型エンジンのなかにはエンジン制御に関する司令塔の役割を持つCVTとの兼ね合いもあり、そうした低い回転数でも燃料消費率がよいものもある。しかし、一般的には各種の機械損失度合いの関係から1500-3500rpm付近が一番消費率のよくなる領域、つまりガソリンの消費量が少なくなる回転数領域として定められる場合が多い。とはいえ、これも机上での値であり、実際には使っているギヤ段や速度、道路環境にまつわる各種の抵抗値によって変動はあるし、過給エンジンであればアクセルペダルの踏み込み方によっても過給圧の変動がみられることから、燃料の噴射量が一定とならず判断は難しいのだが……。

 LS500のV35A-FTSの場合、もっとも効率のよい回転数領域こそ発表はないが、カタログでの最大トルク値を発揮し出す1600rpmを超えたあたりはすでにそれに近い領域にあるようで、事実、今回の市街地における試乗では2000rpmあたりを上限に静々とシフトアップを繰り返し増速する姿(車両負荷/成人男性3人+撮影機材を積載)が印象的だった。また、前述のように100km/hでのエンジン回転数は1250rpmだが、高速道路の本線上でDレンジのままゆっくり100km/hまで増速させてみると、9速のまま巡航を続けることが多かった。試乗した路面が若干の登り勾配になっていたのかもしれないが、9速巡航時にアクセルペダルを全閉し、シフトアップを誘おうにも今回の試乗ルートでは10速には入らず……。その代わり、マニュアルシフトでのシフトアップは受け付けてくれた。

どのモデルがベストバイ?

LS500“F SPORT”

 さて、LS500が持つ乗り味だが、同クラスのディーゼルエンジンをも凌駕する台形トルクカーブが見てとれるように、ともかく実トルクに溢れていてエンジンの存在感がひときわ大きい。ハイブリッドモデルがマルチステージ化でスポーツ性能を全面に打ち出す一方で、ターボモデルはこうしてゆったりとした優雅な印象を強めているのが新型LS最大の特徴である。筆者はここにすべてが集約されていると感じた。

LS500“version L”

 先代LS460が搭載していたV型8気筒4.6リッターの「1UR-FSE」(最高出力288kW[392PS]/6400rpm、最大トルク500Nm[51.0kgm]/4100rpm)も、大排気量ならではのピストンを力強く押し下げる力を駆動力として体感できたが、V35A-FTSは排気量にして約24%もダウンサイジングを図りながら先代のそれを遙かに上まわる力強さがある。その裏付けとして、エンジンのボア・ストローク比では1UR-FSEが88%のショートストロークタイプであるのに対して、V35A-FTSは117%とトルク特性に優れるロングストロークタイプで設計されていることが挙げられる。

 さらに、アクセルの踏み始めからの加速特性を司る「駆動力統合制御システム」の緻密さも後押しし、駐車場や狭い路地で多用するクリープ走行から少しだけ増速させたい時のアクセルワークも難なく受け付け、そこからアクセルをちょっと踏み込んでみてもショックの類いを一切感じさせることがない。オルガン式のアクセルペダルにしても、踏み戻す際に作用するリバーススプリング効果が適切でスッと踏めてジンワリ戻せる。これも人馬一体感を強めた。

LS500“F SPORT”

 この領域のマナーで筆者がNO.1だと感じているのはロールス・ロイス「ファントム」だが、掛け値なしでLS500もそれに負けていない。また、今回も後席の同乗者としてしっかり試乗してみたが(ドライバーも前回と同じ)、ハイブリッドモデルであるLS500hで指摘させていただいた“クルマ酔い”も誘発されず、とても快適だった。正直なところ、170cmの筆者にもヘッドクリアランスは不足気味に感じられるが、こうした走りが堪能できるのであればショーファードリブンとしての役割も十分にこなせそうだ。

 一転して試乗舞台をクローズドコースへと移す。ここでは公道でチェックしきれなかった部分から、各種の性能を使い切る走行シーンまでLS500の持つパフォーマンスを十分に堪能することができた。試乗したのはLS500のFRと4WDの各モデル、そして専用のサスペンション追加機構とブレーキシステムを持つ“F SPORT”(FR)の3台だ。

クローズドコースでも試乗

 まずはFRモデルで60km/hを上限にゆったり走らせてみたが、公道で試乗した時と同様にみっちり詰まった低速域でのトルクと、10速ATの優れたシフト制御によって継ぎ目のないスムーズな加減速が味わえた。ハンドリングにしても、指2本分程度の微小舵角領域からステアリングを大きく切り込むヘアピン状のコーナーに至るまでクルマの動きが一定、かつ連動していて不安がない。とかくボディサイズが大きく車両重量のかさむLSのようなクルマでは、こうした速度域でもステアリングの切り込み具合ではバランスを崩しやすく、ずいぶんと印象が変わるものだ。

 次に4WDでゆったり走らせる。乗り味はFRモデル同様、スムーズさが先に立つ。4WDはFRと比べ車両重量が90kg重くなっているが、これは前輪に対する駆動軸の追加と、新設計となる前輪サスペンションなどの違い(形式は同じマルチリンク)によるもの。後輪サスペンションのベースはFR/4WDともにレクサス「LC」だが、LSでは一部のボールジョイントをブッシュ方式として応力をより“いなす”方向へと変更するなど専用設定が施された。

 2周目は少しペースを上げてみる。ここではV35A-FTSが奏でる高回転域の澄んだサウンドに気持ちが昂ぶる。アクセルペダルを深く踏み込むと4000rpmあたりからV6ビートに高周波音が混ざり合い、同時にどこまでも続くかのような安定した躍度が続く。また、低速域で体感した詰まったトルクフィールは5000rpm付近までしっかり保たれていることも確認できた。それにしても、2t以上の重さがあるボディが加速力を大きく衰えさせることなく増速する様は運転していて気持ちがよい。生身の身体が気持ちよいと感じる加速力には最適値があるというが、LS500のそれはまさに身体にミートする。この連続する安定した躍度をどこかで体感したなと思い返してみると、それは筆者がテストドライブした三菱ふそうの大型観光バス「エアロクィーン」だった。13t近いボディを140kgmの大トルクと8速AMT(シングルクラッチ方式のAT)で引っ張り上げる加速フィールは運転していても、そして乗客として体感しても気持ちがよい。

 この速度域でのコーナリングフィールはFRと4WDで大きく異なる。FRモデルの後輪は、後輪操舵システム「DRS」によってステアリング操作などに応じて後輪が前輪と同じ向きに切れる(同位相)ため、クルマの左右回転方向に働く(ヨー軸)慣性モーメントの質が明らかに違っている。具体的に違いとして、体感できるのは高速域(80~100km/hあたり)でのコーナー進入時。ブレーキングを少し残しながらステアリングをジワッと切ってみると、想像よりもワンテンポ前に鼻先がスッと内側を向き始めるのだ。その素早さは愛車であるND型ロードスター(Sスペシャルパッケージ/6速MT)並で、最初は少し面食らってしまった……。

 そこで気持ちを落ち着かせ、2つ、3つ先のコーナーをこなしながら車体挙動を改めて考察してみると、この動きは前後輪のタイヤグリップ力だけに頼ったものではなく、ボディ全体で曲がろうとしている力強く確実な挙動であることが分かった。さらに細かくみていくと、FRモデルはAWDモデルに比べ微小舵角域においても明らかにヨー軸における慣性モーメントの立ち上がりが早く、その後のステアリングの切り足し対しても従順に反応。結果として車体はグングンと車体がコーナーへ吸い寄せられていく。

 このクローズドコースにおける名物に下り坂のからの左高速コーナーがあり、そこは路面の補修跡でつぎはぎだらけで凹凸も激しく、我々の間では車両評価を行なうポイントになっている。ここは、いわゆる車体がコーナー外側へと吸い寄せられるアンダーステア傾向になりそうな場面なのだが、FRモデルの鼻先はそうした場面でもしっかり左へ向きを変え、間髪いれずに後輪、そしてボディがそれに追従。よって、外乱に左右されないコーナーリングラインをいとも簡単にトレースできる。こうした場面では、外乱や車体の流れをグッと抑えこむLS全モデルが採用するエア式ダンパーの活躍も見逃せない。また、ヨー慣性にしてもボディ自体の反応は早いが、スパッと一気に向き変えが行なわれるのではなく、ドライバーが行なうステアリングの操作量に比例した動きが得られるので、たとえば滑りやすい路面であっても安心感は高いのではないかと推察できた。

 曲率(R)のキツいコーナー出口では、4WDモデルがグンと躍進する。コーナー出口から徐々にアクセルペダルの踏み込み量を深くしていくと、ドライバーが想い描いている走行ラインをそっくりそのままトレースするかのように前輪が引っ張り上げてくれるのだ。興味深いのは、アクセルペダルを踏み込むほどイメージ通りの旋回軌跡を残しながら走行できること。これはFRモデルにあるDRSを有する「LDH」が装着されない分、前/後輪のスリップ率と車体にかかる慣性や遠心力との均衡点が素のままで融合している証であり、故にドライバーの感覚に近くなる。確かにDRSと連動したLDHとともに生み出されるFRモデルの鋭い切れ味は捨てがたい。しかし、その勢いはやや人工的であると筆者には感じられる。「ドライバーはこんなイメージでコーナーを走りたいんですね!」とのクルマ側による判断が少し過剰な演出を生んでいるように感じられるのだ。こうしたことから筆者の感性からすると好みはこの4WDモデルだ。前輪で引っ張り上げる頼もしく安定した旋回力と、各コーナー進入時、意識せずに作り出すことができる自然な“斜め前のめり姿勢”となるダイアゴナルロールは、ドライバーの運転操作を最大限サポートしてくれることから安全な運転環境にもつながる。LS500のターボモデルに乗って初めて、近年のレクサスが目指す奥深いハンドリング性能を実感することができた。

 3台目として“F SPORT”(FR)に試乗。ベースのFRモデルとの機能面における大きな違いは、LSではシリーズで唯一、LDHに車体のロールを積極的に制御する「アクティブスタビライザー」が装着されることと、“F SPORT”共通装備として前後のブレーキが大径化され強化パッドが装着されることだ。インパネ左上部に配置されるダイヤル式の「ドライブモードセレクター」を最もスポーツ走行に適した「スポーツS+」モードへと切り替えると、LDHとアクティブスタビライザーの特性が、よりロールを抑えた特性へと切り替る。反対にこのドライブモードセレクターを対極の「コンフォート」モードにすると、エア式ダンパーとの協調制御により後席での快適性がグッと向上するような特性となる。このように、各種電子デバイスを駆使した走行性能がLS500“F SPORT”の醍醐味であり、その効果はとても大きいが、LSの車格や使われ方を考慮した場合、スポーツ走行に向けた“F SPORT”専用のアイテムを持たないベースモデルがよいと筆者には感じられた。

トヨタのツインターボの歴史

LS500のV型6気筒3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」エンジンと10速AT

 最後にトヨタ(レクサス)との関係が深いツインターボの歴史について。

 日本初の乗用車向け量産型ガソリンツインターボエンジンは、トヨタ(ヤマハ)が今から33年前の1985年に送り出した「1G-GTEU」(直列6気筒2.0リッター/75.0×75.0mm[ボア×ストローク])で、当時トヨタのドル箱であったマークII/チェイサー/クレスタ(マークII三兄弟)に搭載された。現在の“アル&ヴェル”や“ノア&ヴォク”のような存在であるマークII三兄弟は、バブル期の好景気に支えられて月販3万台を超えた時期もあった。人気の秘密は高級車にも訪れていたハイパワー化で、この1G-GTEUも185PS/24.0kgm→200PS/28.0kgm→210PS/28.0kgmへと、登場からわずか3年で25PS/4.0kgmも性能を向上させている。また、同エンジンは現代のLCや一世代前の「SC430」の前身である「ソアラ」、そしてスポーツモデルの「スープラ」などにも搭載された。

 ツインターボ化が目指したのは何もハイパワー化だけではない。ターボが持つ構造上の弱点である応答遅れ(ターボラグ)の抑制など、ドライバビリディとの両立が大きな狙いだ。6気筒ともなると、当時の技術では排気干渉を理由にシングルターボでは過給効果が落ちる傾向にあったことから、1G-GTEUでは3気筒ごとに1つのターボで過給(3気筒×2のツインターボ)する仕組みを採用(V35A-FTS型も同方式)。さらに、現代では当たり前の手法だが、タービンの直径を小さくすることで少ない排気エネルギー(≒低回転領域)でタービンの応答性を向上させる試み(≒ターボラグの抑制)も行なわれている。

 また、当時トヨタの人気コンパクトカーであった「スターレット・ターボ」が搭載していたトヨタ内製の小径ターボを2基用いることで、ベースである1G型エンジンとのマッチングが図りやすくなり、過給圧を向上させることでターボラクの抑制とハイパワーを両立、加えて前述のような短期間での性能向上が現実のものとなった。また、この内製化は現在のトヨタ(レクサス)が得意とする“手の内化”の原点とも言える部分であり、1G-GTEU型の誕生から30年以上が経過した今も、LS500が搭載するV35A-FTSのタービンには内製品が使われている。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:中野英幸

Photo:安田 剛