インプレッション

日産「エクストレイル」(2017年マイナーチェンジ)

中身の濃い改良を実施

 現行「エクストレイル」の登場当初は、かつての角ばったフォルムを惜しむ声も少なくなく、先代の中古車相場が上昇したほどだが、現行型も発売から3年半ずっと販売は好調で、この新しい姿がすっかり板についてきたように思える。

 そして迎えた今回のマイナーチェンジ。いくつかある変更点の中でも、最大のポイントは「セレナ」に次いで「プロパイロット」が搭載されたことだ。そのほか、内外装のリフレッシュや装備の充実、利便性の向上など、マイナーチェンジとしてはかなり中身の濃い改良が施されていることを、順を追ってお伝えしよう。

 まず内外装デザインについて。エクステリアは日産車を象徴する「Vモーション」を強調したフロントマスクや、プロジェクターを採用するとともにハウジングをブラックにしたヘッドライトなどにより、表情がグッと精悍になった。個人的にもこちらのほうがずっと好みだ。

6月8日にマイナーチェンジした「エクストレイル」。撮影車はハイブリッドの「20X HYBRID」(2列シート/4WD)で、ボディカラーは新色のプレミアムコロナオレンジ。価格は309万8520円。ボディサイズは4690×1820×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm。最高出力108kW(147PS)/6000rpm、最大トルク207Nm(21.1kgm)/4400rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴「MR20DD」エンジンを搭載し、これに「RM31」モーター(41PS/160Nm)を組み合わせる。ハイブリッド車のJC08モード燃費は20.0km/L~20.8km/L
新デザインの17インチアルミホイール(タイヤサイズ:225/65 R17)
ハイブリッド車ではサイドステップ周辺にクロームモールディングが与えられる
インテリアカラーはブラック。20Sを除くガソリン車の2列シート車の後席ではスライド機構とリクライニング機構が新たに備わるとともに、背面分割も従来の6:4から4:2:4に変更された
メーターの表示例

 さらにはボディカラーも、全12色のうち印象的な「プレミアムコロナオレンジ」や「ガーネットレッド」など6色が新色となった。新しくなったホイールのデザインもなかなかよい。18インチは切削加工とのことで、アフター品のように凝っている。

 インテリアではインパネやステアリングホイールなどが変わって、全体的に質感が大幅に高まった印象を受ける。利便性についても、初期型で“もっとこうならいいのに”と思っていたところが、ほぼそうなった。

 20Sを除くガソリン車の2列シート車のリアシートはリクライニングや前後スライドができるようになり、可倒機構は6:4分割から4:2:4分割となった。たとえば4人乗ってスノボなど長尺物を積みたい場合、これまでは誰かが狭い中央席に座らなければならなかったところ、真ん中に荷物を積めるようになったので4人とも快適に座れるようになった。加えて、もともとクラスNo.1だった最大荷室容量がさらに拡大した。

 また、競合車に負けじとリアバンパー下で足を抜き差ししてバックドアを開閉できるリモコンオートバックドアが新たに採用されたのも歓迎したい。

こちらはガソリン仕様の「20X」(3列シート/4WD)で、ボディカラーは新色のガーネットレッド。価格は282万7440円。ハイブリッド車と同様に直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンを搭載し、JC08モード燃費は15.6km/L~16.4km/Lとなっている。足下では新デザインの18インチアルミホイール(タイヤサイズ:225/60 R18)を装着
リアまわりでは精悍なイメージを高めたリアコンビネーションランプ、ワイドスタンスを表現したリアバンパーを採用
マイナーチェンジに伴い、インテリアでは新形状のインストパッドやステアリングホイールを採用するとともに、コンソールリッドのステッチラインやドアフィニッシャーカラーの変更も行なわれた
身長172cmの筆者が2列目および3列目に座ってみたところ。2列目は頭上や足下のスペースが十分に確保されていて快適に座れる。2列目シートがリクライニングできるようになったのも大歓迎だ。3列目はシートのサイズが小さく、ヒール段差もあまりないのでややタイトだが、成人男性でも短時間なら耐えられそう

実は走りもよくなった

 ドライブしたのは、ハイブリッド車が17インチ仕様、ガソリン車が18インチ仕様だが、今回とくに変更が伝えられていない部分も含めて、全体的によくなっているように感じた。

 乗り心地はこれまでもわるくなかったが、微妙にしなやかさが増した印象で、とくに18インチ仕様で路面への当たりのカドがより丸くなった。ステアリングフィールも、初期型は中立付近に曖昧なアソビがあり、応答遅れも感じたところ、ずいぶんリニアになった。切り込んでから戻す側もよりスッキリとした印象になった。直進安定性も向上している。

 動力性能についても、初期型のガソリン車では走り始めの加速にややもたつく印象があったところ、あまりそう感じなくなった。また、ハイブリッド車、ガソリン車とも心なしか静粛性が向上している。

 販売の約4割を占めるというハイブリッド車は今回、アクセルOFF時のブレーキ回生量を増加させて実用燃費の向上を図っているが、初期型ではかなり気になったブレーキの違和感がいくぶん改善されている。これまでは探るように緩やかに踏み増しても、あるところで唐突に強い減速Gが出たり、踏むのをやめても少し遅れてついてくる感じがしたものだが、そのあたりはだいぶ改善された。とはいえ、全体としてはまだまだフィーリングは相変わらずよろしくない。もう少し自然になることに期待したい。

プロパイロットがセレナと別物

今回のマイナーチェンジで、ACC(アダプティブクルーズコントロール)とレーンキープアシスト(車線中央維持支援機能)によって高速道路での単調な渋滞走行、長時間の巡航走行をサポートする「プロパイロット」がオプション設定(「20X」「20X HYBRID」)された。ステアリングのプロパイロットスイッチをONにするとともに、セットスイッチで車速を設定すればプロパイロット機能が作動

 注目の「プロパイロット」は、加速が鈍く、ステアリング制御の介入感が強いなどなにかと気になる部分の多々あったセレナに比べると、モノとしては同じでも感触としては早くも“別物”となっていることをぜひお伝えしておきたい。

 これはクルマ自体のパッケージングが大きく影響していて、背高ミニバンであるセレナでは強く制御しないとクルマが反応してくれない部分もあるというのは分かるが、開発関係者によると、セレナでは意図的に介入感を出すことで制御を分かりやすく表現していた部分もあるのだという。

 ところが、今回のエクストレイルに搭載するにあたっては、既存のソフトウェアを生かしながら、チューニングの部分でより自然なフィーリングになるようにしたとのこと。むろん制御のノウハウがこなれた部分もあり、結果的にかなりよいものになっていたように思う。こうしたADASの仕上がりを左右するのは、制御の技術もさることながら、クルマの基本性能が大きくものをいうことを改めて実感した。これなら高速道路を使って長距離をドライブしたときに、本当にドライバーの負担を大幅に低減してくれることだろう。

 こうした日産ならではの先進技術を用いたスグレモノを得たことで、エクストレイルの“タフギア”としての魅力がさらに高まったといえそうだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一