試乗インプレッション
フォルクスワーゲンの“最小GTI”「up! GTI」デビュー。1.0リッターターボ+6速MT、その乗り味は?
街中では快適に、高速や山道では爽快に、ロングドライブは悠々と
2018年6月8日 00:00
日本でのフォルクスワーゲン最小モデル登場
待ってました! というファンも多いことだろう。フォルクスワーゲンが誇るホットハッチ「GTI」シリーズが、13年ぶりに3モデル揃うことになった。1976年登場の初代から、長きに渡りコンパクトスポーツモデルを牽引してきた「ゴルフ GTI」を筆頭に、新型が登場したばかりの「ポロ GTI」、日本でのフォルクスワーゲン最小モデルとなる「up! GTI」。これは記念すべきホットハッチ3兄弟の誕生だ。
もちろん3台をイッキ試乗する気マンマンではあるが、その機会はもう少し先になるとのことで、待ちきれずに今回は限定600台での初登場となった、up! GTIをひと足先にロングドライブへと連れ出させてもらった。
駐車場に佇むup! GTIと初対面すると、ふいに懐かしい面影が重なったのは、初代ゴルフ GTI。サイズ感といい、フロントマスクの赤いストライプや赤いブレーキキャリパーといい、内側から放つオーラのようなものが同じ刺激を伝えてくる。
聞けばup! GTIの誕生は、レース好きなメンバーが集まって開発した初代ゴルフ GTIのときと、まさに同じ経緯で開発されてきたという。「オシャレなコンパクトカーにパワフルなエンジンを搭載し、運転が楽しく燃費にも優れたクルマを造る」というコンセプトが受け継がれている。
up! GTIのボディサイズは、初代ゴルフ GTIと比べると全長3625mmは80mm短く、全幅1650mmは22mm幅広く、全高1485mmは95mm高くなっているものの、116PSというパワーはほぼ同等。up!として初めて、ガソリンエンジン用粒子フィルターを備えた触媒コンバーターシステムを採用したことで、欧州の最新排出ガス基準「Euro6」にも適合。高速道路やワインディングにおいて、小さなクルマでも大排気量の高級スポーツカーを“カモれる”という、初代ゴルフ GTIが多くのスポーツドライビング好きを沸かせた驚き、そして伝説が、今まさに復活を遂げるかのようだ。
外観からひと目で「GTI」だと認識できるのがGTIの伝統だが、それはこのup! GTIでも変わらない。全てのGTIシリーズに共通して備わっている、フロントラジエターグリルを横断する赤いストライプ、その上に置かれたGTIエンブレム。そしてラジエターグリルには、マットブラックのハニカムパターン。これだけでも、どちらかといえばフレンドリーな印象を与えるベーシックなup!とはガラリと趣を変え、クールで大人びた印象が強まっている。
加えてレーシングスタイルのフロントスポイラーや、ハイグロスブラック仕上げとなるバンパー中央やフォグランプまわりのトリムなど、up! GTI専用の演出が逞しさをプラス。フロントスポイラーの上にエアインテークが増えているのは、今回選ばれたパワートレーンが1.0リッターTSIという、ターボチャージャー付きエンジンの証。分かる人が見れば、タダ者じゃない走りを予感させるものだ。
そしてup! GTIはサイドから見てもなかなかの存在感。幅広のサイドシル上を縦断するダブルストライプは、線の幅と間隔まで初代ゴルフ GTIに倣ったものだし、17インチアルミホイールはフォルクスワーゲンのモータースポーツシーンを支える「Volkswagen R」が開発した特別なデザインで、そのスポークの隙間からはup!初採用となった15インチブレーキの真っ赤なキャリパーが覗く。ちなみにこのホイールには、F1も開催されていたロンドン近郊にある伝説的なサーキット「ブランズハッチ」の名が冠されている。
室内に入ろうとドアを開けると、ドアシルパネルにもGTIのロゴが置かれ、目に飛び込んでくるのはお馴染みタータンチェック柄のシートファブリック。これはポロ GTI、ゴルフ GTIにも採用されており、正式には「クラーク柄」と呼ばれるもの。レザー仕様となったステアリングホイールやシフトノブ、サイドブレーキレバー、ブラック仕上げとなるルーフやピラーの内張り、そしてキラリと赤い輝きを放つ「ピクセルレッド」のダッシュパネルと相まって、室内にいてもGTIの特別感がビシバシと感じられるようになっている。
懐かしさと新しさが共存する現代のホットハッチ
深めに包み込まれるような運転席に座り、キーを挿し込んでブレーキペダルとクラッチペダルをギュッと踏み込み、キーを回せばup! GTIの目覚めは完了。予想より静かなアイドリングなのは、現代のクルマとしての最低限のマナーだろう。握りごたえのある6速MTのレバーを1速へ送り、クラッチをつなぐと穏やかに走り出す。
直列3気筒1.0リッターターボエンジン+6速MTで、2000rpm-3500rpmで200N・mの最大トルクが湧き出すup! GTIは、街中のストップ&ゴーやノロノロ渋滞でも気難しい性格はまったく見せず、滑らかさと落ち着きのある乗り味。深く踏み込んでから丁寧につないでいくクラッチの操作感は、ほかのフォルクスワーゲンのMTモデルに通じるもので、ちょっとラフにペダルから左足を離そうとすると、ガックンとした大きなショックに見舞われる。でも、それさえ気をつけていれば、わりとギヤチェンジの忙しさも苦にならず、慣れてくればいつもの道にもメリハリが生まれて、ATやCVTで淡々と走るよりも楽しくなってくる。
走り始めてしばらくは、時おりディーゼルエンジンみたいなバタバタという音が聞こえるのが不思議だったが、これは私が久々のMT操作で勘が鈍っていたのか、ギヤチェンジのタイミングと回転数がうまくマッチしていない時に鳴っているようだと気づいた。うまくタイミングが合った時にはバタバタ音はせず、加速や減速もよりなめらかに決まる。こうしたコツが求められるところも、近ごろでは新鮮な楽しさだ。
高速道路に入り、さぁ思う存分エンジンを回すぞと、2速から引っ張り気味で3速、さらに引っ張って4速へとつないでみたが、パワフルさは感じられるものの、どこかしっくりこない。パワーのピークは5000rpm-5500rpmとあって、4速までは速めのシフトアップをして、そこから先で引っ張る方がダンゼン爽快。美味しいところが味わいやすいように感じた。よく見るとメーター内のインフォメーション画面にシフトアップ/ダウンの目安が数字で表示されており、それに従って操作するとガツンと加速するような盛り上がりは少ないが、スムーズにつながるような加速フィールが得られてなかなかいい感じだ。
街中では落ち着き感が先行していた乗り心地は、高速道路に入るとややゴツゴツと硬めになった。タイヤサイズは195/40 R17、銘柄はグッドイヤー「エフィシェントグリップ」。横方向へのグリップがシッカリとある印象で、首都高のタイトコーナーではレールの上を疾走するジェットコースターのような高揚感が味わえてワクワクする。シートにはサイドのホールド性があまりないので、自分で姿勢を維持する緊張感が伴うのもまた、めいっぱいまで操る感覚を強めてくれる要素なのかもしれない。
ただ、スポーツドライビングを楽しむ時のスパイスにもなってくれる、音の演出が希薄なところはちょっと残念。up! GTI専用のクロームメッキのテールパイプが装着されているのを見て、もしかしたら“カーン”と高揚感を煽るような排気音が響いたりして、などと妄想したが、そんなことはなく控えめ。
でも、そんな期待はもはや古い考えなのかもしれない。スマートフォンにダウンロードした専用アプリ「Volkswagen maps+more」でup! GTIのインフォテイメントシステムと連携し、好きな音楽を聴いたりナビゲーションを使ったり、パッセンジャーと普通に会話しながらのドライブなら、排気音などジャマなだけ。いつでもどこでも目を三角にして攻めた走りを強いられるのではなく、肩の力を抜いてラクにドライブするのを許してくれるところも、up! GTIの魅力なのかもしれない。
ベーシックなup!との違いを最も大きく感じたのは、高速クルージングだった。もともと全長3.6mほどの小さなボディとは思えない剛性感が、低速から高速域まで続くのが持ち味のup!だが、up! GTIはそれが1.5倍増しになっている感覚。トップギヤの6速に入れておけば、多少の速度変化はおおらかに流してくれるから、ゆったりとした気持ちで走り続けることができるのだった。
あまり気にする人はいないかもしれないが、実用性に関しては2ドアボディのみの設定なので、後席へのアクセスはやはり面倒。座ってしまえば広さは大人でも問題ないが、乗り心地は硬めになる。またドリンクホルダーは4名分が備わっているが、センターコンソールボックスが付かないなど、室内の収納スペースは少なめだ。パワーウィンドウにワンタッチ開閉機能がないのも、駐車チケットを取ることが多い日本ではちょっともの足りないかもしれない。
とはいえ、一度走り出してしまえばそんな細かいことはどうでもよくなるもの。街中では快適に、高速や山道では爽快に、ロングドライブは悠々と、シーンに合わせた楽しみ方ができるup! GTIは、懐かしさと新しさが共存する、まさに現代のホットハッチだ。