インプレッション

マツダ「CX-3」(2016年11月商品改良)

弱点や改良点を間髪を入れずに改善

「次の時代のスタンダードを創造する」というコンセプトを掲げて2015年2月に発売された「CX-3」。国内外の各メーカーが導入を推し進めているコンパクトSUVの中でも、エモーショナルなプロポーションや国内ではディーゼルエンジンのみのグレード展開になるなど、個性を発揮しているのがCX-3の特徴になる。とくにフロントからリアクォーターに流れるサイドラインや抑揚あるボディなどのデザインは評価が高く、2016年のワールドカーデザインアワードなど数多くの賞を受賞している。

 マツダでは、現行の商品ラインアップがスタートした2012年よりマイナーチェンジという言葉を使わなくなった。その代わりとして新しい技術や機能、デザインが導入できるようになれば、「商品改良」「大幅商品改良」という名目で仕様変更を頻繁に加えることにしている。

 CX-3は、発売間もない2015年12月に商品改良を実施。発売開始から10カ月での商品改良についての賛否はあるが、新たな機能や技術が導入できるようになれば、タイミングを待たずに即採用するという積極的な姿勢が現れた改良だった。

 この1回目の商品改良では、それまでオプション装備だった「ナチュラル・サウンド・スムーザー」が標準装備され、フロントガラスの板厚向上などにより静粛性を強化。加えてダンパーセッティングの見直しも行なわれた。ユーザーからフィードバックされた弱点や改良点については、間髪を入れずに改善するのが現状のマツダの戦略となるようだ。

 そして1回目の商品改良から1年を経て、2回目となる商品改良が2016年11月に行なわれた。今回は、最上級グレードに特別仕様車となる「XD Noble Brown」の追加をはじめとしたグレード展開の見直しや、さらなるディーゼルエンジンの静粛化に効果を発揮する「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」、2016年7月の「アクセラ」の商品改良から全車種への展開が始まっている「G-ベクタリングコントロール(GVC)」の採用など大掛かりなものとなった。

2016年11月に商品改良が行なわれたコンパクトクロスオーバーSUV「CX-3」。撮影車は6速MT&4WD仕様の「XD PROACTIVE」(ソウルレッドプレミアムメタリック)で、価格は281万8800円。ボディサイズは4275×1765×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2570mm
今回の商品改良では、全グレードにシグネチャーLEDランプを備えるLEDヘッドライトと切削加工の18インチアルミホイール(215/50 R18)を標準装備。「XD PROACTIVE」はハイビームを走行中の基本状態として積極的に活用できるようにする「アダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)」を採用。ALHは以前は片側4分割の計8分割式だったものを採用していたが、最新式では片側11分割の計22分割式とし、細やかな照射でドライバーをサポートする
今回の商品改良でフロントウィンドウ内側に単眼式カメラを追加。このカメラを用いて速度標識、進入禁止、一時停止などを認識してディスプレイに表示させることが可能になったほか、単眼カメラの追加によって衝突被害を軽減する「アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート」の検知対象に歩行者を追加。作動速度域は従来の約4km/h~30km/hから、対車両で約4km/h~80km/h、対歩行者で10km/h~80km/hに拡大
風騒音やロードノイズなどを低減させるため、リアハッチのガラスの板厚を従来の2.8mmから3.1mmに変更。遮音材、吸音材も追加してロードノイズなどのさらなる低減を図っている

 そのほかにも、10Wayのパワーシートやカラー化して表示項目も増えたヘッドアップディスプレイ、リアまわりの静粛性アップ、GVC採用によるパワーステアリングのリセッティング、歩行者も検知するようになり作動領域が従来の約4~30km/hに対して歩行者で10~80km/h、車両で4~80km/hと大幅に性能が向上した「アドバンスト スマート・シティ・ブレーキ・サポート(アドバンストSCBS)」の搭載など、機能性や装備などビッグマイナーと言えるほどの大きな商品改良となった。

「XD PROACTIVE」のインテリア
アテンザと同じスムースレザーの本革ステアリングを採用
メーターパネルに使う字体の見直しを行なうとともに、左右の液晶ディスプレイの高コントラスト化などで表示内容を読み取りやすくした
ヘッドアップディスプレイの「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」はカラー化されるとともに、表示方法を見直して上側に「走行環境情報」、下側に「車両情報」を配置するようレイアウトした
「XD PROACTIVE」では運転席10Wayパワーシート&シートメモリーに、シートポジションと連動してアクティブ・ドライビング・ディスプレイの角度や明るさ、ナビの表示設定なども登録できる機能を追加

リアの突き上げ感やバタつきが収まり、静粛性もアップ

 より快適で機能性も向上したCX-3だが、ステアリングを握ってみてまず進化を感じたのはエンジン音。これまでもナチュラル・サウンド・スムーザーを装備するなどディーゼルエンジンの“ガラガラ音”を消すことに注力してきたが、ある一定の領域以外は消音することが難しかった。だが、今回の改良でナチュラル・サウンド・周波数コントロールを装備したことで、ディーゼルエンジンの搭載位置がまるで前方にずれたかのように遠くで小さくエンジン音が聞こえる程度になった。1年前の改良で吸音材の追加は行なっているが、今回はナチュラル・サウンド・周波数コントロールの採用のみ。なので単純にエンジン音自体が小さくなったことの現れとなる。

 エンジン音の低減により、だいぶクリアになった室内とコクピットまわり。それに合わせて乗り味も上質さを感じさせる仕上がりに。とくにリアの突き上げ感やバタつきが収まり、上級クラスのクルマとも十分に張り合える実力を兼ね備えたといえる。また、フロントロアアームのブッシュや電動パワーステアリングのアシストも見直された。これによってステアリングの感覚はより重厚感のある印象へと進化した。

直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボディーゼルエンジンは、最高出力77kW(105PS)/4000rpm、最大トルク270Nm(27.5kgm)/1600-2500rpmを発生。JC08モード燃費は6速MT&4WD仕様の「XD PROACTIVE」で23.4km/Lをマーク

 初期モデルはそこそこの手応えと反力のある味付けだったが、1回目の改良時にアシスト量を増やして軽くシャープな動きへと変えてしまった。そこから一気に重厚なステアリングへとフィーリングチェンジすることになったわけだ。プレミアムなコンパクトSUVに適したステアリングフィーリングとは何かという定義を毎度の改良で行なっていて、この感覚がよいと落ち着いたようだ。

 個人的にはセンター付近の落ち着きや重厚感は増して、直進安定性も高くなったと感じた。だが、ステアリングを積極的に切る駐車場やUターン時、高負荷でのコーナリング時などではやや重たいような印象を受けた。ステアリングのアシスト量は個人の好みが分かれるところなので、実際にステアリングを握って確かめてもらいたい。

 このように2回目の改良を受け、さらに進化したCX-3。要望の多かったパワーシートや安全装備の充実化、そして静粛性や乗り心地の改良などさらに上質性を増したのが最新モデルになる。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:安田 剛