インプレッション
スバルAWDオールラインアップ雪上試乗会(北海道)
2017年1月25日 16:14
車種に合わせて4つの方式のAWDを用意
2016年に8年ぶりに開催され、2017年も同じく新千歳モーターランドで行なわれた「SUBARU AWDオールラインアップ雪上試乗会」。2015年の世界販売で4WD(AWD)の自社販売比が98%という稀有な自動車メーカーであるスバル(富士重工業)のAWDの優位性を、あらためて体感できるイベントである。
スバルのモノづくりのテーマは「安心と愉しさ」にあり、その原点は「人を中心としたクルマづくり」にある。人間工学だけでなく、生活を豊かにするよき道具でありたいという思いでクルマを作っている。それにはまず、安心して運転できることが何よりも大事。安心して乗れるからこそ運転が楽しくなる。そのためのシンメトリカルAWDである。これとアイサイトの組み合わせで、世界一安全なクルマづくりを目指しているのだ。
現在スバルでは、車種に合わせて
・ACT-4(アクティブトルクスプリットAWD)
・VTD(電子制御LSD付 不等トルク配分センターデフAWD)
・ビスカスLSD付センターデフ方式AWD
・DCCD(モード切り替え電子制御LSD付 不等トルク配分センターデフAWD)
という4つのAWDシステムを用意している。
まずハンドリングコースで、DCCD以外の3タイプを乗り比べ、機構による走りの違いを体感した。
スバルの主力AWDシステムであるACT-4は、前後輪をつなぐプロペラシャフトの間に油圧多板クラッチを配置し、状況に応じて後輪に駆動力を伝える仕組み。前後トルク配分は60:40が基本となる。ここでは「レヴォーグ」の1.6リッター車や新型「インプレッサ」「クロスオーバー 7」を試したが、あまり挙動を乱すこともなく、4輪がグリップして前へ前へと進んでいく。FFベースのAWDらしく、挙動が安定しているのがポイントだ。
これに対し、高性能モデルに与えられるのがVTD-AWDだ。レヴォーグの2.0リッター車をドライブすると、前後トルク配分が45:55とリア寄りであることが効いてか、こうした滑りやすい路面でもノーズの入りが軽く、リアもアクセルで積極的に曲がり具合をコントロールしていける。走りを楽しめるという意味ではやはりこちらが上まわる。1.6リッター車と2.0リッター車でAWDシステムが異なるレヴォーグは、オンロードでも走り味は異なるが、雪上ではより顕著となる。
「フォレスター」では、めったにお目にかかれないMT車が用意されていた。今回ある車両の中で唯一のビスカスLSD付きセンターデフ方式AWD搭載車となるが、ダイレクト感があり、リアに駆動力が伝わる感覚が分かりやすくハンドリングも素直。とても自然な感じで運転できて好印象だった。
それぞれの車種について述べると、印象的だったのはインプレッサの走りが非常によかったことだ。他のモデルと同じ銘柄のタイヤを履いているとは思えないくらいグリップ感が高く、最初のスラローム区間からして印象がぜんぜん違う。切り始めからしっかり舵は利くし、応答遅れが小さく、リアもしっかり踏ん張ってくれる。挙動が乱れにくく、乱れたときでも立て直しやすく、コントロール性にも優れているのだ。
また、けっこう大きな段差を乗り越えても、たとえばレヴォーグは跳ね上げられる感じがするのに対してインプレッサは穏やかで、底付きもしない。すでにオンロードでもその完成度の高さを味わっている次世代プラットフォーム「SGP(SUBARU GLOBAL PLATFORM)」だが、その実力の高さをより一層思い知った次第である。
さらに2WDのインプレッサにも乗ることができたのだが、思ったよりもずっと乗りやすくて驚いた。むろんFFゆえアンダー/オーバーが顕著に出るが、舵はAWDと同じように効き、アクセルコントロールで積極的に姿勢を作っていける。これはリアがしっかり仕事をしていることの表れだろうし、ひいてはSGPの実力の高さを物語る一面であろう。
悪路もより走りやすく進化
続いて悪路コースを、いずれもACT-4を搭載するフォレスターと「アウトバック」で走行し、走破性や安定性の高さを体感した。
両車とも「X-MODE」を備えていて、4~20km/hでは自動的にヒルディセントコントロールが作動し、アクセルOFFにした時点の車速を維持するよう自動調整される。ディスプレイにはタイヤとパワートレーンを模した画面が表示されるのだが、ここでは制御されたタイヤが点滅する。エンジン特性も悪路に適した専用マップとなり、コースの途中にある勾配の急な上り下りでも走りやすい。
また、最新モデルのACT-4では発進時のトラクション性能のさらなる向上が図られている。端的にいうと、ステアリングを切っていてもちゃんと発進できるようになった。これまではタイトコーナーブレーキング現象を嫌って、フル転舵に近いところでは拘束を緩めていたのだが、雪の上では拘束を強めてきちんと脱出できるようにしたという。実際に試してみると、たしかにその新制御の恩恵と思われる走りやすさが感じられた。
アウトバックとフォレスターでは、サスペンションストロークや地上高は基本的に同じ。ただし、同じように走っても、アウトバックでは底付きしても、フォレスターは大丈夫という状況があった。むろん路面にもよるし、スプリングやダンパー、車両重量、スタビライザー、サスペンションブッシュの違いにもよるのだが、今回に関してはフォレスターの方が快適に走れた。
このステージで唯一のターボモデルとなるフォレスター(XT)だけは、ちょっと毛色の違う走りを見せたのも興味深かった。最後のフリーゾーンで、このクルマのみ上の写真のような走りができたのだ。「WRX S4」や、レヴォーグの2.0リッター車(1.6リッター車はACT-4)、かつてのレガシィの高性能版などにはVTD-AWDが搭載されていたが、フォレスターのターボにはSUVという性格を鑑みて、あえてACT-4としている。
ただしAWDシステムは共通でも、スポーティな走りができるようVDCの制御にXTのみトルクベクタリングが入っている。しかも、他の車種ではアクセルOFF時のみ制御していたところ、アクセルONでも制御するようにしているのが特徴だ。これにより回頭性が上がり、それなりに振りまわして楽しめるようになったわけだ。むろんターボパワーも効いているのは言うまでもない。
新しいDCCDに期待!
続いて、いち早くDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)の新旧比較を体験できた。これは年初のデトロイトショーで公開された「WRX STI」に搭載されたもので、日本向けにこれから導入される仕様の試作車と、現行モデルとの乗り比べとなる。
どのように変わったかというと、これまでは電子制御クラッチにトルセンLSDを組み合わせていたところ、新しい方はトルセンLSDを取り去って進化版の電子制御のクラッチのみとしたのが特徴だ。「AUTO」でトラクションモードという同じ条件で乗り比べると、アクセルOFFでのターンインで違いがよく分かる。
従来の機構では、アクセルOFFでどうしても引きずりがあり、初期にプッシュアンダーステアが出ていたのに対し、新しい方は最初からスッと曲がる感じがするし、同じだけ曲がるにも舵角が小さくてすむ。アクセルONでの挙動は変わらない。
そもそもDCCDに機械式LSDを採用したのは、拘束の応答性において若干遅れるという問題があったからだ。ところが、技術の進化によって応答性の問題は解決され、電子制御クラッチの応答性が機械式並みによくなったことから、こうした機構の採用に踏み切ったのだという。これによりDCCDは、より軽く、より高性能で、より低コストになるわけだ。
新型インプレッサ G4の1.6リッターを味見
さらに、やや遅れてデリバリーが始まった新型インプレッサ G4の1.6リッターモデルにも試乗することができた。1.6リッターと2.0リッターのエンジンスペックは39PS/48Nm、車両重量20kgの差がある。この性能差をカバーするため、リニアトロニックの減速比が高められている。なお、SIドライブは装備されない。
今回は限られた状況下でのドライブだったが、いろいろ感じることはあった。2.0リッターが直噴化されたのに対し、直噴ではないが85%を新設計したという1.6リッターもすいぶん改善されているようで、回転フィールがスムーズで振動が小さく、静粛性もかなり高い。
走りについては、出足にやや飛び出し感があるのは2.0リッターと同じで、そこからの加速はさすがに2.0リッターとの差を感じるものの、全体としては大きな不満を感じることはない。足まわりでは1.6リッターにはリアスタビライザーが与えられないが、市街地を普通に走るぶんには、2.0リッターとの違いはあまり感じない。
それよりも驚いたのは、G4の走りが想像以上によかったことだ。ハッチバックのスポーツに比べてフラット感があるし、微妙に操舵応答性も高いように感じられた。これについては、いずれじっくり検証してみたいと思う。外観の差はあまりないが、室内の質感や装備は少なからず違う。これで2.0リッターとの価格差が約20万円と聞くと、かなり迷ってしまいそうだ。
こうしてスバルのAWDが持つ実力の高さとその価値をあらためて思い知った次第。各車種それぞれの素性をより深く把握することができたのも収穫だった。雪上を走ると、本当にいろいろなことがよく分かる。実り多き1日であった。