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スバル、「名古屋 ものづくり ワールド 2017」で2025年までを見据えた「スバル・グローバル・プラットフォーム」解説

自動運転時代でも「所有したくなるクルマに」

2017年4月12日 開催

「名古屋 ものづくり ワールド 2017」の展示会場

 ポートメッセなごや(愛知県名古屋市)で4月12日~14日の3日間に渡り、「機械要素技術展」「設計・製造ソリューション展」「工場設備・備品展」「航空・宇宙機器開発展」という4つの技術展示会が集結した「名古屋 ものづくり ワールド 2017」が開催されている。

 この展示会ではクルマそのものはほとんど展示されていないが、細かな部品や計測装置、素材加工技術、製造業向けのソフトウェアなど、クルマにとって重要な基幹装備の一端を担うものが数多く展示されている。

 また、展示会場の一角には広い講演スペースが設けられ、連日に渡って業界のキーパーソンによる特別講演が行なわれている。本稿では、初日の4月12日午後に行なわれたスバル 第一技術本部 本部長 常務執行役員の大拔哲雄氏による講演の内容を紹介する。

「スバル史上最高レベルの総合性能進化」を果たしたSGP

株式会社スバル 第一技術本部 本部長 常務執行役員 大拔哲雄氏

 4月1日に社名を富士重工業からスバルに変更し、“会社として初めての講演になる”と切り出した大拔氏は、2016年10月に発売した新型「インプレッサ」や、5月に販売を開始する新型クロスオーバーSUV「XV」で採用された「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」についての詳細を語った。

 2017年に創業100周年を迎えるスバルは、1958年に初の自動車「スバル 360」を発売しており、その当時から(衝突安全の法規がなかったため)独自の基準で前面・後方の衝突試験や横転試験、歩行者保護の試験などを繰り返してきた。その思想は現代にも受け継がれ、ブランド戦略として「安心と愉しさ」を掲げるとともに、とくに「安心」については「オールアラウンドセーフティ」を標榜する。

 安全にかかわる注力分野をスバルでは4つに分け、運転しやすい視界やドライビングポジション、操作しやすいインターフェースによる「0次安全」、4輪駆動や低重心による「アクティブセーフティ」、先進安全技術を含む「プリクラッシュセーフティ」、エアバッグをはじめとする乗員・歩行者保護の仕組みによる「パッシブセーフティ」としている。そして、その注力4分野を支えるのが、5つのコア技術である「水平対向エンジン」「シンメトリカルAWD」「低重心パッケージ」「アイサイト」「SGP」であり、とりわけSGPが注力分野に与える影響は大きい。

 SGPは、大拔氏いわく「総合安全性をさらに高める新設計プラットフォーム」であり、世界トップクラスの衝突安全性能に、「合理的な骨格レイアウト」による1クラス上の“感性に響く動的質感”が与えられ、新しいサスペンションとジオメトリーによる高い運動性能を誇る。また、「高効率パッケージにより室内空間を最大化できる」ことも特徴としている。

 このSGPは「2025年を見据えたプラットフォーム」であると大拔氏は語る。これは2025年の時点で想定される衝突安全性能にも対応可能という意味合いが大きいが、世界的には同時に「レベル3」「レベル4」といった自動運転車が普及し始めると予測されている時期でもある。つまりSGPは、スバルにとって自動運転時代前の最後の“手動運転車”プラットフォームと言えるかもしれない。

「安心と愉しさを加速させるため、スバル史上最高レベルの総合性能進化を果たした」というSGPは、その後の自動運転時代に向けて基本性能を底上げするだけでなく、改めてクルマに乗ること、運転することの面白さを多くの人に実感してもらうための取り組みでもある。「当たり前のことだが」と大拔氏が前置きしつつ、「まっすぐ走れて、不快な振動、騒音がない快適な乗り心地」というのが、スバルがSGPで目指したことだという。

「まっすぐ走れる」という面では、従来は横風や荒れた路面で挙動が乱れたとき、ドライバーが修正しようとしても微小な操舵ではクルマが動かないため、余計にステアリングを操作して結果的に直進安定性が損なわれていることがあった。しかし、SGP採用車ではステアリング操作の反応でスバルが比較した欧州車と同等以上の水準を達成。微小舵で狙った走行軌道にすぐに復帰できるようになり、「まるでレールの上を走るような圧倒的な直進安定性を実現した」という。

「不快な振動騒音」は、車体の剛性を場所によって70%~100%向上させたことが大きな改善につながっているとする。車体のねじり剛性を70%、車体固有振動数を30%それぞれ改善し、ねじり特性を均一化したことによってボディとそれ以外の部分との共振を低減した。

「快適な乗り心地」には、大きく分けて2つの要因が影響しているとする。1つめはサスペンション取り付け部の剛性を上げたこと。これによってサスペンション本来の性能を引き出すことができ、小さな突起を乗り越えるような場合でも振動がすぐに収束するという。もう1つは、これまでシャシーのクロスメンバーに取り付けていたリアスタビライザーを車体に直接取り付けるようにしたこと。路面の凹凸でクロスメンバー自体が揺れるため、従来はスタビライザーもそれに合わせて揺れてしまっていたが、SGPではその問題を解消している。

 以上の変更により、アクティブセーフティの性能も向上した。パイロンスラロームを用いた危険回避性能の比較で、従来車は84.5km/hで進入できていたところが、SGP採用の新型インプレッサでは92.5km/hで進入できるようになったという。また、パッシブセーフティの観点では歩行者保護エアバッグを装備するとともに、新型インプレッサでは従来車種と比べて車体強度を40%アップさせたことで、乗員保護にも高い効果を発揮するという。

自動運転時代に向けた継続的なプラットフォームの進化

 SGPはインプレッサやXVに止まらず、今後もモデルによって各部を最適化しながらあらゆる車種に採用していくことになる。ただ、自動運転時代に向け、プラットフォームとしての進化は間断なく続いていくようだ。電動化に対応するためには衝突時などにバッテリーを保護する構造も必要で、高張力鋼板やアルミ材の使用比率を上げるなどによってさらなる高強度化や安全性の確保を目指す。

 自動運転車では、運転席のメーターパネルやインフォテイメントのような、いわゆるHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の部分でも、高精細化や大画面化などの劇的な変化が見込まれる。しかし、インパネの大部分を画面が覆うような状態になると、エアコン吹き出し口の設置場所を確保しにくくなり、快適さを保つことが難しくなるとも考えられる。つまり、インパネの全面的な設計変更も必要になるだろう。

 アイサイトについても、現在は対応できていない交差点での横断者とサイクリストの検知・衝突回避を実現するべく開発を行なっている。しかし、自動運転車に向けて進化させるには、さらに多数のレーダーやセンサーとの協調動作が不可欠となる。そのほかの電子制御でも、現在は複数のシステムが複雑に絡み合って1つの修正が多方面に影響することから、「電子プラットフォーム自体も再構築する必要がある」というのが大拔氏の認識だ。

 高速走行の領域での衝突回避など、自動運転車に向けてはまだ多くの課題が残されている。それでも、SGPによって「プラットフォームの価値」を高めることで、自動運転だけでなく、ライドシェア、カーシェアリングのようなトレンドのなかでも「自動運転で走る愉しさ」「クルマを自ら操る愉しさ」を伝えられる。そして「所有したくなるクルマ、買いたくなるクルマを目指す」と大拔氏は語る。合わせて、スバルとしての究極の目標「自動車事故をゼロにする」ことを全世界に広げていくと改めて宣言した。

こちらはフォーラムエイトが展示していた自動運転などのデモンストレーション用ソリューション。高速道路や市街地といったさまざまなシチュエーションを、国土地理院の地図データなどと組み合わせて3D CGで再現する
自動車メーカーや部品メーカーが、自ら開発したADAS(先進運転支援システム)、あるいは自動運転のイメージデモなどを容易に構築可能
天候や昼夜の変更もOK。VRやゲームなどにも応用できる。こうしたシステムが自動車メーカーの自動運転に向けた動きを強力に支援するに違いない