ニュース
トヨタ、FCVの普及加速に向け「名古屋 ものづくり ワールド 2017」で猛アピール
「水素」をキーワードにした技術開発を要請
2017年4月17日 15:49
- 2017年4月13日 開催
ポートメッセなごや(愛知県名古屋市)で4月12日~14日の3日間、「機械要素技術展」「設計・製造ソリューション展」「工場設備・備品展」「航空・宇宙機器開発展」という4つの技術展示会が集結した「名古屋 ものづくり ワールド 2017」が開催された。
トヨタ自動車のお膝元である愛知県のイベントということもあり、車両部品や車両開発に関わる工具、設備なども展示されていた。開催2日目の4月13日には、そのトヨタ自動車の先進安全技術担当者である伊勢清貴氏の特別講演も実施され、およそ3500人という多数の受講者がメイン会場とサテライト会場を埋めつくした。
「もっといいクルマづくり」を目指すためのプラットフォーム「TNGA」
「トヨタの次世代クルマづくり」と題して講演したのは、トヨタ自動車 専務役員 先進技術開発カンパニーの伊勢氏。冒頭で自動車の歴史を振り返り、1910年~1925年の15年間に、馬車などに使われる輸送用の馬・ロバの頭数と自動車の台数が逆転したことを紹介した。その後、米国での油田の発見、ガソリン精製技術の進化、ガソリンスタンドの普及、フォードによる車両生産技術の革新といったさまざまな出来事を経て、現在のようなガソリン自動車のコモディティ化が進んだとした。
翻って近代日本では、自動車の国内生産台数が1990年ごろまで右肩上がりで順調に推移してきた。バブル崩壊による経済低迷でいったん落ち込み、しかしその後は回復傾向にあったところで、2008年~2011年の「試練の時代」を迎える。リーマンショック、米国でのトヨタ車のリコール問題、東日本大震災、タイの洪水というように、立て続けに発生した間接的、直接的な問題で生産台数や売上を大きく落とした期間だ。
こうした“試練”を乗り越えつつある現在、トヨタは安定した経営基盤を元に「もっといいクルマ」「もっといい町・いい社会」を追求する「トヨタグローバルビジョン」を目標に掲げ、その「もっといいクルマ」づくりを実現するために、「TOYOTA New Global Architecture(TNGA)」という新たな“構造改革”に注力し始めている。
新型「プリウス PHV」や「C-HR」に採用されているこのTNGAについて、伊勢氏は「生産効率やコストダウンだけのものではない」と強調する。車両の基本性能の向上、部品・ユニットの共用化、原価の低減、商品力の向上という「もっといいクルマづくり」を目指すためのサイクルを実現するプラットフォームだという。
TNGAでは、車台やトランスミッションなどを再設計し、エンジンについては最適な燃焼効率により高出力と低燃費を目指すべく、バルブ挟角の変更、ボア拡大とストロークの最適化などを行ない、理想的なインテークポート形状にこだわった。その結果、出力トルク特性の向上、大幅な排出ガス低減などを達成し、高い環境性能と「ダイレクト&スムーズなパワートレーン」を実現したとする。
トヨタの環境問題に対する基本スタンスは「省エネルギー」「燃料の多様化」「エコカーは普及してこそ環境に貢献できる」というもので、必ずしも環境問題をクリアするためにガソリンや電気など特定の燃料にはこだわっていないのが特徴だ。とはいえ、環境面を考慮すると、CO2などを排出するガソリン車はどうしても不利な立場にある。ハイブリッドカーもガソリンを使う以上同様の課題があり、EV(電気自動車)は航続距離の問題が大きい。いずれも一長一短あり「1つには絞れない」と伊勢氏。
次世代車開発に向け、「水素というキーワードでの技術開発を」要請
ただ、そんななかでもトヨタが次世代の石油代替燃料として期待をかけるのが、水素燃料電池を動力源にするFCV(燃料電池車)だ。水素の使用過程でCO2が発生せず、水素と酸素を反応させた後に残るのが水のみというクリーンなエネルギーであることが理由の1つ。
また、水素を生み出すための一次エネルギーとして従来の化石燃料を使えるだけでなく、下水汚泥のような本来利用価値のないものや、風力・太陽光をはじめとする再生可能エネルギーを利用可能であるところもメリットだ。エネルギー源を確保するのにガソリンより国費の海外流出が小さいこと、税金がかかっておらず天然ガスと比べてもコストが約半分になるという利点もある。さらに、FCVは環境に優しいこと以上に、パワフルで「走りの楽しさ」が得られ、航続距離が長いなど使い勝手がよく、非常時には大容量の電力供給源としても動作するという点も伊勢氏は強調する。
FCVについては解決すべき課題がまだ数多くあるのも事実で、例えば燃料を供給するための水素ステーションはまだ多いとは言えない状況だ。現在のところ日本各地に計91カ所が稼働中、もしくは設置準備中の段階にあり、2020年には全世界に数百機の水素ステーションが設置される予定であることを紹介したが、かつてガソリン車の普及を促したようなドラスティックな変化が起きるかどうかは未知数と言える。
とはいえ、1月にはエネルギー・運輸・製造業における世界トップ企業ら13社による「Hydrogen Council(水素協議会)」が発足。5月からUAE(アラブ首長国連邦)でトヨタのFCV「ミライ」を用いた実証実験が開始される予定になっていることも報告し、水素エネルギー普及に向けた動きは本格化しそうだ。
トヨタは2050年までに、新車のCO2排出量を2010年比で90%削減するという目標を掲げている。この目標を達成するためにも、ガソリン車を可能な限りゼロエミッションのFCVなどへ移行させていくことが至上命題になっている。次世代車の開発を加速させるため、伊勢氏は詰めかけた来場者に向かって「“水素”というキーワードでの技術開発をよろしくお願いします」と要請した。
“人の感情に寄り添うクルマ”が数年内に登場か
もちろん、それまでの期間に自動運転車の普及も進むことになる。トヨタは現在のところ自動運転につながる先進安全技術の1つとして、車両や歩行者への衝突の可能性が高い場合にブレーキを働かせ、必要があれば回避スペースを見つけて「自動操舵」で衝突を回避する次世代型の「プリクラッシュセーフティシステム(PCS)」の開発を進めているという。
自動運転の実現に向けては、「運転」の知能化、「つながる」知能化、「人とクルマの協調」のための知能化という3つの要素をすべて成立させ、連携させる必要もあるとする。「運転」の知能化については、GPSだけでは困難な10cm単位での位置測定が、「つながる」知能化ではネットワーク経由で詳細な交通情報を受け取ることが、「人とクルマの協調」では人工知能の活用がそれぞれ重要になると述べた。
すでにトヨタでは、クルマの「知能化」という意味で、1月に米国で開催された「CES 2017」で「TOYOTA Concept-愛i(コンセプト・アイ)」というコンセプトカーを発表している。「AIで人の感情を理解し、ともに成長するパートナー」として、ドライバーの“感覚”をサポートする機能を備えたクルマだ。
数年内にトヨタは、このコンセプトカーで想定している機能の一部を実現し、公道での実証実験を開始する予定。「ビッグデータを活用して、遠まわりでも楽しめるルートを提案する」といった、“人の感情に寄り添うクルマ”が近い将来に登場する可能性を示唆した。