特別企画

【特別企画】岡本幸一郎の新型SUV「CX-3」などマツダの4WDモデル一気乗り

新世代4WDシステム「i-ACTIV AWD」は優れもの

未発売の新型SUV「CX-3」からフルスカイアクティブ第1弾の「CX-5」まで、同じ仕組みを用いる新世代4WDシステム「i-ACTIV AWD」を搭載している

次元の違うアクティブオンデマンド式のマツダ「i-ACTIV AWD」

 マツダというと「4WD」や「冬道」といったイメージがあまりない気がするところだが、実は最近、かなり力を入れているとの話を開発関係者より聞いたことがしばしばあった。雪国出身の筆者としても、マツダの新しい4WDシステムのポテンシャルがどれほどのものか大いに関心があった。それをなかなか試す機会がなかったのだが、ついに実現した。

マツダの新世代4WDシステム「i-ACTIV AWD」を一気乗りしました

 向かったのは北海道、士別にある交通科学総合研究所。会場には、スカイアクティブ以降の新商品ラインアップがズラリ。「CX-5」「アテンザ」「アクセラ」「デミオ」に加えて、正式発表がまだとなる新型SUV「CX-3」の姿も!

新型SUV「CX-3」
マツダの新世代4WDシステム「i-ACTIV AWD」搭載車のタイヤは、すべてブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX」で統一

 それらに乗り、所内に設定されたいくつかのコースと、周辺の一般道を走って(もちろん未発表のCX-3は所内のみ)試すプログラムが用意されていた。また、このイベントの開催を受けて、これまで独自のネーミングの与えられていなかった同4WDシステムの名前が、「i-ACTIV AWD」と名づけられたことも伝えられた。

 さて、世にある4WDシステムにはいくつかの種類があるが、マツダのシステムは、種類としては前輪駆動をベースとする4WDとして一般的な、アクティブオンデマンド式だ。ただし、すでに世に出ているものとは、センサーの数や制御の緻密さでは圧倒的に上回ると開発関係者は胸を張る。マツダ車でも既存の「プレマシー」や「MPV」の4WDについてもアクティブオンデマンド式に該当するのだが、今回試乗したスカイアクティブ以降の新商品群に与えられたシステムは、それを大幅に進化させたものとなる。

 マツダではクラスやボディーサイズが違っても、コンセプトや性能目標を一括で企画するという思想に基づき、ベストと考えた1つのシステムですべてをカバーしている。少し前に三菱自動車では車種に応じて6種類のシステムを用意していることをお伝えしたが、これはまさしく考え方の違いであり、数の多さで優劣を語るべき問題ではない。なお、前後のトルク分割を行う多板クラッチを用いた電子制御カップリングについては統一し、車両重量やトルク容量によりPTO(パワーテイクオフ、前軸部に設けられたトランスファー)とリアデファレンシャルについて2種類を用意している。

発売前のCX-3に試乗!

 さて、そもそも走ってみてどのようになっていると好ましいのかというと、それは制御の不自然さを「何も感じない」ことだといえる。滑りやすい路面でも操作したとおりに走り、曲がり、止まってくれればよく、それが理想的にできていればいるほど、違和感や不安を覚えずにすむ。そしてマツダのi-ACTIV AWDは、まさしくそのとおりの仕上がりであったことを、まずお伝えしておこう。

 午前中は、場外の一般道でディーゼルエンジンを搭載した「デミオ」と「CX-5」に試乗。例年に比べて雪が少ないという士別界隈を、なんの不安も感じることなく走ることができた。午後は試験場内の各コースで、いろいろな状況におけるi-ACTIV AWDの走りを試した。

午前中は一般道でi-ACTIV AWDの動きを確認した
士別市街は、雪があったりなかったり、突然凍っていたりと変化に富んだ路面。全体的に雪は少なめの印象だ

 まずは直線路で。この時点では未発売のCX-3でパイロンスラロームを走る。i-ACTIV AWDも、普通に流しているときにもよく曲がり、やや攻めた走りを試すと、より積極的に曲げてくれるという印象。やや引き締まった足まわりにより、リアが安定している中で、雪上でも素早いアクションにあまり応答遅れもなくついてくる。運転の仕方によっては、一瞬わずかにオーバーステアのような動きも見せる。積極的にコントロールして走りたい人にとっては、それに応える走り方をするということだ。

CX-3は直線路をパイロンスラローム

 また、トラクションコントロールのON/OFFによる走りの差が小さいように感じられたのは、それだけトラクションが確保されているという基本性能の高さの表れだろう。わずかな試乗ではあったが、ここで乗った限り、CX-3はなかなか好印象であり、期待させるものがあった。

 デミオとの共通性の高いクルマながら、外観はひとクラス車格が上がったような風格を感じるし、インテリアもより上級な雰囲気となっていることも見て取れた。3月には試乗記もお届けできそうなので、詳細はあらためてリポートしたい。

発進の難しい降雪時の登り坂コーナーもラクラク

 続いてアクセラで、上り勾配での発進性を試した。まっすぐで試したあと、難しいといわれる、斜めに停めてステアリングを切った状態からの発進も試した。ここには、2WDと4WDの切り替えができるe-4WDを搭載した旧型デミオが用意されていて、少しだけ乗り比べることができたのだが、結果は驚くべきものだった。

 ミューの低い路面で、斜めに停めてステアリングを切った状態から発進するのは、実はけっこう難しい。まず、荷重がアンバランスで、前輪が滑りやすい状態にある。また、平地ではタイトコーナーブレーキングを避ける制御を入れるべき状況だが、坂道だと接地荷重が抜けるので、駆動力を伝えないといけないと判断する。

ステアリングを切った状態で坂道発進の難しい、e-4WD搭載の旧型デミオ。上り勾配10%
上り勾配15%をラクラク上っていくアクセラ。基本的に現世代のデミオも同じシステム

 加えて、斜めの状態から発進するには横力も発生させないといけない。すると、駆動力でグリップをたくさん使うと、曲がれなくなる。曲がるためには駆動力を減らして曲がれる力を残す必要がある。i-ACTIV AWDは滑りやすい路面で、登坂で、舵角がついているという状況を判断し、それらを緻密に制御しているわけだ。

 そんな厳しい条件でもアクセラではいたって簡単に登れてしまうので、たいして難しくないのかなと思ってしまったのだが、そんなことはない。アクセラが15%の勾配でも楽に行けたのに対し、旧型デミオでは2WDではその場でスリップしてしまい、4WDにしても10%勾配であればなんとか登れるが、15%勾配はちょっと難しい。やや強めにアクセルを踏み込むと、アクセラはそのとおりに素早く加速するが、旧型デミオはかなり掻いてしまった。

 ところで、多くのSUVには、「○○モード」という走破性を高める走行モードが設定されていたりするのだが、i-ACTIV AWDにはそれがない。切り替えスイッチがないことが、あたかもオンロード重視でオフロードには不向きと捉えられがちなのだが、そんなことはまったくない。スイッチを操作する必要もなく、ONでもOFFでも常に最適な制御を行なうのがi-ACTIV AWDのコンセプトになる。

積極的なコントロールにも応える制御

 アテンザではハンドリング試験路を走行し、その走りやすさを確認。最後に、アクセラの2WDと4WDを旋回試験路に設定されたジムカーナのような氷上コースで試す。

アテンザではハンドリング試験路を走行

 まずアクセラの2WDで、普段どおりの走り方(これがポイント!)で反応を確認しておき、感覚がフレッシュなうちにアクセラの4WDに乗り換えて同じ走り方をトライ。するとやはり反応が違う。2WDでも走りにくいことはなかったものの、トラクションのかかり方はいうまでもなく、曲がり方もかなり違う。優秀な横滑り防止装置があれば、曲がり方に小差はあっても大差はないのではと予想したのだが、4WDのほうがずっとよく曲がる。その点でも、冬道を走る機会の多い人は、やはり4WDを選んだほうがよいといえる。

2WDのアクセラ。前輪を駆動して走行する
4WDのアクセラ。雪の跳ね上げ方が異なり、後輪に駆動力がかかっているのが分かるだろうか
前から見たアクセラ4WDと2WD。外観上の違いはゼロ
リアの「AWD」バッヂだけが外観の識別点。i-ACTIV AWDの文字も見当たらない。マツダの奥ゆかしさを感じる

 続いて、4WDで攻めた走り方を試すと、i-ACTIV AWDはしっかり応えてくれる。アクセルOFFにするとテールが流れてノーズがグッと入っていき、まるで後輪駆動車のようにテールスライドを維持しながら曲がっていける。アクセルで曲がり方を自在にコントロールできるところもよい。これは楽しい!

 誤解のないように述べると、最後に2WDでも攻めた走りを試したところ、2WDもよくできていて、リアタイヤの接地性が高く、後輪駆動的にアクセルで曲がり方をコントロールしていける。むろん4WDほどではないが、2WDでこんな走り方のできるクルマは、ドイツ車にはあっても、日本車ではあまり心当たりがない。マツダはそこに踏み込んだことも、お伝えしておこう。

 マツダの4WD車に一気乗りし、その性能の高さをつぶさに体感した1日。難しい状況でも何事もなく走破できる、あるいは攻めたときにはそれにしっかり応えてくれる懐の深さも見せてくれた。

 マツダの4WD、これまでなかなか確認する機会もなければ、原稿に書くこともなかったのだが、冒頭で述べたとおり、大いに力を入れて開発され、非常に優れたものであることがよく分かった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学