試乗インプレッション

新型「Mazda3」に搭載される新4WDシステム「i-ACTIV AWD」&「GVC プラス」を雪上で試す

フラットな走り味と、FRのようなドリフト定常円旋回が両立可能!?

 マツダの4WDシステム「i-ACTIV AWD」がこれからさらに進化し、まもなく登場する「Mazda3」から搭載が始まる。これは近年搭載が始まった「G-Vectoring Control Plus(GVC プラス)」との協調を狙ったもので、ステアリング、エンジン、カップリング、ブレーキのすべてをシームレスに統合制御することで、これまで同様に安心・安全はそのままに、限界域まで意のままにコントロールが可能になるという。さらに、接地荷重推定によるタイヤ伝達効率の向上を図ることで、実用燃費の改善にも繋がるらしい。

GVC プラスとi-ACTIV AWD。その制御とは

 すでに搭載が始まっているGVC プラスでは、コーナー進入時にステアリングを切り始めると、エンジンのトルクをわずかに減少させることでピッチ前傾促進を行ない、フロント荷重を生み出してターンインをしやすくしている。一方でコーナーからのターンアウトではフロントの外輪に対し、わずかにブレーキをかけることで急激なピッチ後傾を抑制。ここがGVCからGVC プラスで進化した部分だ。

 新たなi-ACTIV AWDはその間、つまりは定常旋回時をつなぐ技術ということだ。定常旋回時に起こる外乱によるピッチ変動を、前輪の駆動を抜くことで起きるアンチダイブと、後輪駆動をかけることで起きるアンチスクワットを利用することで、ピッチ剛性を高めバランスさせることを狙う。これはサスジオメトリ×制駆動力から起こるジャッキアップ力を利用して、ボディを安定させていこうということ。アクティブサスペンションのような効果を駆動力で生み出そうという考えが根底にある。

車両運動制御技術の進化について
進化した車両運動制御技術
定常旋回中のピッチ安定化

 従来はGVC プラスとi-ACTIV AWDいずれもが独立してドライバーの操作や車両挙動をCAN上から取得し、それぞれがシステムをコントロールしていたが、それらをPowertrain Control Moduleに統合。計算上の矛盾が生じず、また同じ周期でそれぞれのユニットに指示することが可能になり、同じタイミングで動くためシームレスな動きに繋がるという。また、モジュールが1つ減ることになりハーネスも減るため、重量、コストが軽減されるというメリットもあるそうだ。

 進化したのはそれだけではない。駆動系に対しても改良が重ねられている。1つは、フロントのトランスミッションからプロペラシャフトへと出力するパワーテイクオフ(PTO)、つまりはトランスファーにラバー製のダンパーが追加されたこと。これはプロペラシャフトへ出力した際に生じる振動の抑制を狙ったものだ。従来はその振動を抑えるために無駄なトルクをかけていたが、その必要がなくなり実用燃費が向上。加えて、振動している領域はトルク制御ができない領域だったが、新型ではそこでトルク制御を行なえるようになり、コントロール幅を拡大。意のままにコントロールが可能になったという。また、PTOとリアデフユニットにはボールベアリングをさらに追加。低粘度オイルの採用やオイルを減らすことによるオイル撹拌抵抗低減も行なっている。

CANを再構築したことよる統合車両運動制御化
i-ACTIVE AWDの進化ベクトル
i-ACTIVE AWDの進化詳細
抵抗低減技術
GVC協調 操安制御
荷重状態推定~エネルギー損失最小制御
新型「Mazda3」の4WD制御

i-ACTIV AWD&GVC プラス搭載車両の実力を体感!

 今回は北海道の剣淵試験場において新たなi-ACTIV AWDを試した。だが、残念ながらMazda3のi-ACTIV AWD仕様は間に合わず、現行「CX-3」に同様のシステムを搭載した試作車での雪上試乗となった。リアワイパースイッチをON/OFFするだけで新旧の制御を比べられるというこのクルマは、どんな世界を見せてくれるのか? まずは現行の制御を確認した後に、新たなi-ACTIV AWDで走ってみる。コースはレーンチェンジやスラロームが可能な広場。雪上のコンディションは良好だ。

新しいi-ACTIV AWDを搭載したMazda3……が間に合わず、「CX-3」に同様のシステムを搭載した試作車に試乗
リアワイパーのスイッチでi-ACTIV AWDのON/OFFができる。斬新!
雪上コースのコンディションは上々

 比べてみると、新型i-ACTIV AWDはまるでシャシーが改められたかのようにフラットに路面を捉えていくことが確認できる。ハリが出たかのようなこの感触を味わった後に、旧システムにスイッチすると、ピッチ変動を自らが積極的にコントロールする必要に迫られる。だが、新型はとにかく無駄な動きが出ないから扱いやすい。定常旋回中にどれだけクルマがフラフラしていたのか、そのスイッチがなければ気が付くことはなかっただろう。それだけ自然に路面を捉え、フラットに走りつつ、無駄なく一連のコーナーリングを終える様は、空力で路面に押しつけたかのような安心感がある。これはなかなか面白い技術だ。

新しいi-ACTIV AWDは、空力によって路面に押しつけられているかのような安定感で、フラットに走ることができた

 そこからさらに攻め込んでいけば、コーナー立ち上がり時にはFRのように第2の舵が効き出し、旋回を助けてくれる。今回はスタビリティコントロールをONのままにしてほしいというリクエストがあったため、そこから先の動きは解らなかったが、聞くところによればFFベースのAWDでありながらもFRのようにドリフト定常円旋回ができるというから興味深い。このアイテムとMazda3のボディやシャシーが組み合わされたら……。これは相当に楽しいクルマになりそうだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛