試乗インプレッション

マツダ、新型「Mazda3」に雪上試乗。走りの秘密は進化したリアサスペンションにあり

人間の身体能力を研究したシートがすごい!!

雪が残る北海道のマツダ 剣淵試験場で、カモフラージュカラーの新型「Mazda3」に試乗

 まもなく登場するマツダ「アクセラ」の後継モデルになると言われている新型「Mazda3」(車名を引き継ぐかは未定)。このMazda3に北海道のマツダ 剣淵試験場で3月初旬に乗ってきた。まだ雪が十分に残っているコンディションではあるが、日中は気温の上昇とともに雪がゆるみ、氷は溶け出す場所が点在している状況。スタッドレスタイヤが苦手なこのシーンをMazda3はどうこなしていくのかは興味深い、というよりむしろ心配だった。それはMazda3に対し、個人的には走りをそれほど期待していなかったからだ。

 その理由はリアサスペンション形式をマルチリンクからトーションビームアクスル(以下、TBA)に変更したからだ。軽量化というメリットを武器に、燃費などの恩恵は予測されるが、走りを考えた場合にはスペックダウンと受け止められるTBAである。日ごろ、あらゆるものはスペックだけで判断できないとは思っているが、やはり先入観はつきまとうのが正直なところだ。

今回試乗したのは北米仕様とサウジアラビア仕様の「Mazda3」。雪道ではちょっとした違いが走りに出るため、Mazda3の実力を確認しやすい

現行「アクセラ」と新型「Mazda3」を、雪上で乗り比べ

雪道で現行「アクセラ」と新型「Mazda3」を乗り比べ。夏は一般道として使われている道路を、剣淵町は冬期限定でマツダに貸し出しており、クローズドでリアルな雪道を走ることができる。これは、剣淵町とマツダの長年の信頼関係によるものだ

 現行「アクセラ」でコースチェックがてらに走り出すと、これはこれでわるくないと思える扱いやすさがあることを確認できる。ステアリングを切り始めた瞬間からクルマが素直に旋回を始め、狙ったラインに乗せやすい。もちろん、路面状況がわるくなれば瞬間的に滑り、狙ったところとは違う場所へとフロントもリアもスライドしてしまうこともあるのだが、今回のようなコンディションではこんなものだろうと思っていた。

 だが、Mazda3で同じシーンを走ると、扱いやすさが段違いで向上していたから驚いた。ステアリングの微操舵域にクセがなく、ジワリとクルマを動かせるイメージがあり、そこから大きく切り込むまで一定した旋回が得られる感覚なのだ。

 アクセラは今考えてみればこれに対して初期こそシャープなイメージがあるが、そこから先はやや鈍い感覚。さらに、ブレーキングではリアの接地が抜けるようなこともあったのだが、同様の場所でMazda3は最後までリアが接地を逃さないのだ。おかげで路面状況が悪化しようとも瞬間的に滑るようなことはなく、ジワリとスライドし始めるから手の内に収めやすい。おかげで気付けばペースがアクセラよりも速くなっていた……。

 ただし、決して走りに振ったクルマというわけではなさそうだ。フラットに走り乗り心地もわるくない。荒れた路面でいつまでもゆらゆらと動くアクセラに対し、入力を一発で納めて目線のブレもない。やはりスペックだけでは判断できない。Mazda3は相当よさそうだとひとっ走りしただけで理解できた。

「Smart Expand Beam」採用トーションビームアクスルがMazda3の走りの秘密

現行のアクセラに続いて新型Mazda3に試乗。滑りやすい雪道でもリアの接地感がしっかりとあり、フラットに走る。乗り心地も良好

 果たしてそのワケとは? さっそく開発陣に秘密を探ると、待ってましたとばかりに資料を出してくれた。それはMazda3が採用する新たなるTBAに関するものだった。新開発のTBAは、「Smart Expand Beam」(以下、SEB)を採用したとある。これはねじり剛性、質量をそのままに、曲げ剛性を大幅に高めたものだそうだ。

 TBAは左右のトレーリングアーム部と、それをつなぐセンタービーム部からなるシンプルな構造のサスペンションだが、今回のSEBはそのセンタービーム部の形を特徴的にしたものだ。従来は直線的な中空の棒だったものを、センター部を絞り込み、トレーリングアームへ向けて拡大していく形状としている。これにより、横方向からの剛性は高めることが可能になった一方で、ねじり剛性はしなやかさを持たせたままにすることができたそうだ。重量に関してはマルチリンクに対しておよそ10kgの軽量化に成功している。ちなみにこのTBAに関してはビーム形状と製造方法を合わせて3件の特許を取得、公開済みとなっている。

リアのトーションビームアクスルの秘密は、センター部を絞り両端に向けて太くなっていく形にあった! さらに、形状と製造方法を合わせて3件の特許も取得している

 TBAのメリットはそれだけじゃない。マルチリンクサスペンションでは横力が立ち上がった瞬間にブッシュがたわみ、トーイン方向、つまりは安定方向にタイヤは動いていたのだが、TBAはその際ほぼニュートラル。ロールを開始していけばイン方向に動くように設計されている。多くのブッシュを使うマルチリンクは、その動きのすべてを手の内に収めにくいというデメリットを持つ。TBAは2つのブッシュしか介しておらず、ダイレクトに動くということだ。ステアリングを切ったら切っただけ旋回していく、そんな狙いがこのサスペンションにはあるのだ。

 ダイレクトに動かそうというこれまでとは違う考え方はそれだけに終わらない。サスペンションの入力のさせ方も従来とは違うそうだ。従来はバネ上へ伝える力の大きさ(ピーク値)を低減させようとしていたが、今はバネ上へ伝える力を時間軸で遅れなく滑らかにコントロールしようとしたそうだ。例えばギャップを乗りえよそうとした時、従来はその入力があった瞬間、フロントサスペンションは前後方向に動き、遅れて縦方向に入力がある。その間はサスペンションのダンピングも減衰力も得られないことになる。そして遅れてきた入力は一気にサスペンションをたわませてバンプストッパーに当たり跳ね返し、また再びサスペンションの減衰力を生み出すという流れになる。だが、新型は前後方向の動きを規制するバルジ構造のブッシュを使い、ストローク方向に即座に遅れなく入力させようとしたそうだ。

 結果的に路面からの入力については「ドンッ!」と大きくなっているが、人間はそれにあまり気が付かない。実は人間の能力を研究した結果、そちらのほうが快適であるという答えに到達したそうだ。視覚情報から人間は路面状況を判断し、身構える。ギャップを乗り越えようとした段階で筋肉が硬直。フロントサスペンションがそれを乗り越える段階では人間はきちんと受け止めてしまう。だが、リアサスペンションが柔らかいといつまでも収束しないように感じることも発見したらしい。人間の能力を最大限に活かし、前後共に「ドンッ! ドンッ!」と入力するが、そちらのほうがかえって快適だという判断だったようだ。

ボディ進化の考え方
多方向の環状構造
現行と新型の比較
4輪対角剛性向上の効果
シャシー進化の考え方
人間のバランス保持能力を最大に
サスペンションの構造

 それを聞くと本当なの?と疑問を持つ方々もいるだろう。だが、テスト車両の助手席を改造し、体幹を鍛える健康器具を搭載したものに着席しながら5km/h程度で走った時、それだけで違いは明らかだったのだ。この健康器具は座面の下があらゆる方向に傾くもので、言ってみればバランスボールのシート版といったもの。これをクルマの中で使おうというのだからマツダもなかなか面白いことを考えるものだ。まずはアクセラで動き出すと、車内で体をバランスさせるのは至難の業である。腰からお尻、そして太ももの両サイドが常に緊張状態で、ちょっと走っただけで筋肉痛の嵐! ウエストが10cmは細くなったのではないだろうか? もちろんそんなことはありませんが(笑)。

 一方、Mazda3で走ると先ほどのような緊張感はなく、ラクに座っていられるから驚くばかり。バネ上に伝わる入力が遅れなく、視覚情報通りに動くから、体もきちんと受け止められるということだろう。ちなみに、この動きはいくらセンサーやコンピュータが優れていても解析不可能な領域らしく、人間が持つ潜在能力そのものなのだとか。ヒトのバランス保持能力アッパレ。人間の体には優れたサスペンション機能がそもそも備わっているということの証といっていい。5km/h程度の実験で何が分かるかとナナメに見ていたが、これは大きな違いだった。

助手席が体感を鍛える健康器具に改造されたテスト車両に乗ってみた。5km/hという低速でも、アクセラではちょっとスリムになりそうだったが、Mazda3では驚くほどラクに座っていられた

人間の能力を最大限に引き出す新型シート

 バランス保持能力を適正に引き出すには何をしたらいいのか? ここをマツダは真面目に考えた。そこで得たことは、シートの取り付け点からシートレール、そしてシートの骨格まで見直しを行なった。さらに人間は骨盤を立たせた状態にしておくことがポイントで、背骨がS字カーブをきちんと描いている時にこそ、バランス保持能力が一番発揮されるということを突き止め、骨盤を包み込むようにシート形状を見直している。

マツダがシート開発にかける想いが伝わるスライドがこちら。人間の骨格から身体能力を研究し、そこで得た結果を開発に活用している

 そのシートで再びコースを走る。1回目は正しい姿勢で、2回目はそっくり返った崩した姿勢で膝を立てながらトライだ。ここではデータロガーで僕の操作を解析していただいたが、2回目の状況ではステアリング操作に粗さが出たり、ペダル操作に遅れが出るなどのデメリットが見えてきた。きちんとした姿勢でないと、バランス保持能力が発揮されず、結果として操作が荒くなってしまうということのようだ。動画で僕の動きも見てみたが、頭部の揺れが若干多くなっており、入力の変化に体がついていけていないことも確認した。入力を感じる体の機能がシッカリしていないと、それに対応する動作も遅れるということだろう。

姿勢を変化させて走ってみた。その結果は、データロガーにしっかり現われた
データロガーのデータより。青が正しい姿勢で走ったデータで、赤がそっくり返って崩した姿勢で膝を立てながら走ったデータ。違いがしっかり出ていた

 Mazda3に対する技術は当然それだけでは終わらない。「G-Vectoring Control+(GVC プラス)」が搭載されたことも走りに大きく影響しているだろう。これはステアリングを切り始めた瞬間、エンジントルクを低減させ、前輪への荷重移動によって応答性を向上。定常旋回時にはそのトルクを戻してリア荷重を与えて安定方向にするGVCに加え、コーナーから脱出する時にはフロントの外輪にほんの少しだけブレーキを与え、復元モーメントを与えてくれるというシステムだ。

 そのON/OFFを切り替え可能な実験車両に乗って違いを感じたが、ターンインではステアリングの操舵角も少なくアプローチが可能になっていることも理解できたし、立ち上がり時もスムーズに復元していることが分かる。ダブルレーンチェンジ時には無駄な動きがなくなり、元のレーンに戻る際にロールも少なくなっていることが理解できる。OFFにすると元のレーンに戻る際にテールが振られそうになるのだが、ON状態ではそんなこともないのだ。スラローム的なことをやってみても、とにかく無駄なくスムーズに走れることは驚きだった。これほどにまで恩恵があるにも関わらず、GVC プラスが介入している感覚が薄いところが好感触。電子制御とも仲よくなれているところがいい。

「G-Vectoring Control+」をON/OFFできる車両でダブルレーンチェンジやスラロームを走り、システムを体感

 このように、Mazda3はこれまでと考え方を変化させて進化させたことが見どころの1台であることが見えてきた。これ以外にも、i-ACTIV AWDなども進化している模様。これについては「CX-3」の実験車両で試したが、それは改めてレポートしたい。

サイドミラーには「OBJECTS IN MIRROR ARE CLOSER THAN THEY APPEAR」という文字が。ざっくり訳すと「見えたときにはもう近いから気をつけて!」というところだろうか
朝から日が暮れるまで、充実した試乗会だった

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛