イベントレポート

【ジュネーブショー 2019】マツダ「CX-30」開発主査 佐賀尚人氏に聞く、全長4400mm以下を確保するために新型「Mazda3」のプラットフォームを縮小

2019年3月5日~17日(現地時間) 開催

Palexpo

ジュネーブモーターショーで世界初公開された「CX-30」

 ジュネーブモーターショーで世界初公開された「CX-30」。2018年11月のロサンゼルスオートショーで初公開した新型「Mazda3」に続く、7世代と呼ばれる次世代商品の第2弾モデルとなる。

 公開される前は現行ラインアップの「CX-3」や「CX-5」のフルモデルチェンジ版が発表されると思われていたが、ふたを開けてみるとまったくの新規車種となるCX-30が登場した。新たなモデルの登場とともにネーミングに2桁の数字が並べられたことも注目を集めた。

リアゲートにCX-30のロゴが入る

 2012年からスタートした新世代商品群のSUVラインアップにはCXというネーミングが与えられ、これまでにCX-3、CX-5のほか「CX-4」「CX-8」「CX-9」が登場した。CXシリーズの起源となるのは、2006年に発売された「CX-7」になる。

 2006年から始まったCXシリーズの変遷を見るとCXのあとの1桁で残っているのは、「1」「2」「6」になる。CX-30はヒエラルキーとしてはCX-3とCX-5の間に入るモデルで、CX-4はすでに存在するために2桁の数字が与えられることになった。

 では、新型Mazda3に続く次世代商品のCX-30は、どのようなコンセプトや技術が詰まったクルマなのだろうか。開発を取りまとめた佐賀尚人主査にうかがった。

マツダ株式会社 商品本部 Mazda CX-30 開発主査 佐賀尚人氏。1992年に入社し車両実験部 耐候空調実験Grに配属。1996年装備実験Grにてトリビュートの開発主担当となる。2001年にはクラフトマンシップ開発Grで初代Mazda3の開発主担当を担う。2006年にはプログラム開発推進本部に異動し、CX-7の主査スタッフとなる。その後、MNAO(Mazda North American Operations)への出向を経て、2017年より商品本部でCX-30の開発主査を担当する

――まずは、発表されたネーミングに驚かされましたが、CX-30とした理由を教えてください。

佐賀氏:CX-3でもなく、CX-5でもなく、まったく新しいモデルとしてこのクルマを出すにあたって、CXシリーズの基軸モデルに育てたいという思いを込めています。世界的に見ればCX-5が好調ですが、新型Mazda3と並んで軸となる車種に育てていきたいですね。この2桁をいかに定着させられるかが、私の使命だと思っております。

――スペックなどを見るとCX-3とCX-5の中間にあたるモデルだと思いますが、両方で足りなかったところを補っているのでしょうか?

佐賀氏:このクルマの一番のポイントはパッケージングです。コンパクトクロスオーバーは市場ではグローバルで販売台数が伸びているので、そこに追加できたらと思っていました。CX-3のオーナーは女性やシニアが多く、その機動性により都市向けのコンパクトクロスオーバーです。CX-5は幅広いオーナー層を獲得していますが、ファミリー層で郊外型ともいえます。

 CX-30は、CX-3ではサイズが小さく、CX-5では大きいというヤングファミリー向けに開発しました。欧州では、全長が4500mm~4600mmの5ドアハッチバックが多いのですが、CX-30は全長4400mm以下にこだわりました。また、全幅は1800mm、全高は1550mm以下にしています。国内でいえば、都市部の狭い道路でのすれ違いや立体駐車場への駐車など、機動性を併せ持っているサイズになります。そして、室内寸法は大人4人がしっかり乗れるよう、後席も頭上空間を大きくしましたし、室内のドライバーとパッセンジャーの幅はCX-5とほぼ同じ幅をとっています。そこに新型Mazda3の静粛性とサウンドのよさを追加して心地よい空間を作りました

CX-30のボディサイズは、4395mm×1795mm×1540mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2655mmとなっている

――助手席と運転席のディスタンスですが、CX-5は実寸法がCX-30より大きいですよね。どこでそのスペースを確保しているんですか?

佐賀氏:新型Mazda3になってからすべての構造を見直して、パッケージング効率を上げています。ドアトリムの寸法や内張り、アームレストなどの取り方など、色々なところを最適化することで、より効率に優れたパッケージングが可能になりました。

――室内の寸法は新型Mazda3と比べるとどうですか?

佐賀氏:ホイールベースはMazda3より短いです。ただ、座り方を少し変えることで、5ドアハッチバックの頭上寸法よりCX-30は広くなっています。よりファミリーの方には合うと思っています。

――フロントシートからセカンドシートの間隔は新型Mazda3と比べてどうですか?

佐賀氏:ディスタンスは狭まっていますね。新型Mazda3は後席が寝た感じですが、CX-30はアップライトな形にしてスペースを稼いでいます。デザイナーが使い勝手を意識した造形にしてくれました。通常ならばAピラーの後方が高く、リアエンドに向けて高さを下げていますが、CX-30ではあまり高さを下げずに、かつ格好いいラインを見つけてくれました。デザインを優先しつつ、パッケージングも妥協しないという点が一番難しかったです。

インテリアは、新世代商品で採用された横基調のデザインを採用。新型「Mazda3」と基本骨格は似ているが、ダッシュボード上のデザインやパネル類などはオリジナルとなる

――CX-30はいつごろからコンセプトを練っていたのですか?

佐賀氏:テーマモデルができてから、約2年くらいでしょうか。ディメンションは最初から決めていました。ほかのメーカーさんも同じセグメントのモデルを出してくるのは分かっていましたから、寸法は本当に間違えられない重要な軸でした。

――CX-30に使われたプラットフォームを教えてください

佐賀氏:新型Mazda3と同様のCセグメントのプラットフォームを使いました。ただ、今のコンパクトクロスオーバーはB、Cセグメントの区分けはなくなっています。コンパクトクロスオーバーはいろいろな需要で伸びていっていますが、1つとして同じ寸法はないです。なので、お客さまの生活スタイルに合わせて選んでいただけたらと思います。

――CX-5のオーナーとの住み分けは可能でしょうか?

佐賀氏:それぞれの車種の強みをお客さまにしっかりと説明できれば、ラインアップの中で適切なものを選んでもらえると思います。お客さまの選択肢が拡がったと考えていただけたらと思いますね。より多くのお客さまにCXシリーズを楽しんでほしいです。

――冒頭のコンセプトにもありましたが、CX-30はヤングファミリーが一番の狙いですか?

佐賀氏:そうですね。とくに日本のオーナーは、ヤングファミリーが多くなることを想定しています。CX-5、CX-8のサイズは、お子様が大きくなってきたミドルファミリーの方に合っていると思います。一方でCX-30は少しゆったり乗りたい、1人より2人、2人より3人、たまに遠出もしたいし、というお客さまにはピッタリだと感じています。

ラゲッジスペースは、ベビーカーとキャリーオンバックを同時に収納することが可能。容量は430Lとなっている

――ジュネーブで発表したということは、欧州がメインターゲットでしょうか?

佐賀氏:コンパクトクロスオーバーが一番伸びているのが欧州なので、いち早く投入することで認知度を上げていきたいですね。欧州を皮切りにグローバルに展開します。

――エンジンのラインアップとしてはSKYACTIV-G、SKYACTIV-D、SKYACTIV-Xでしょうか?

佐賀氏:そうですね、発表したのは欧州向けのスペックです。同じMazda3のユニットを使いながら、適宜、リージョンに合わせて配置します。欧州ではガソリンは2.0リッター、ディーゼルは1.8リッター、SKYACTIV-Xを想定しています。

――新型Mazda3に対してホイールベースを短くしていますが、アーキテクチャは基本的に同じですか?

佐賀氏:具体的なところは今後開示させてもらいます。性能の出し方は新型Mazda3と同じです。ただ単に、車高を高くしてホイールベースを短縮したわけではないです。使えるところはそのまま使っていて、新型Mazda3のよさとビークルアーキテクチャを上手く活かして、同じ方向性になるようにモディファイしました。

――同じホイールベースを使った方が効率的でコストも抑えられると思いますが?

佐賀氏:ホイールベースを変更するということは、エンジニアリングのハードルは上がります。ですが、ビークルアーキテクチャで同じ性能を出せるように突き詰めているので、相乗効果が出た部分もあるのです。

――新型Mazda3と同じホイールベースだと、全長4400mm以下を実現するのは難しかったですか?

佐賀氏:そうですね。使い勝手を考えると荷室も取らなくてはならないですし、同様のホイールベースだと大きくなっていってしまい、コンパクトクロスオーバーの意味がなくなります。もし、新型Mazda3と同じプラットフォームだとCX-5と何が違うの?と言われるはずです。なので、パッケージングは守り抜きたかったところですね。エンジニアにもこのクルマは機動性を確保するコンパクトクロスオーバーという認識は常に持ってもらいました。

――新型Mazda3と共通しているところはあるとのことでしたが、インテリアやエクステリアなどはほぼ違いますよね。それはCX-30としての立ち位置を確立するためですか?

佐賀氏:CX-30ならではの世界観はしっかり表現したいと思っています。ビークルアーキテクチャや電装系の機構などは同じものを使いながら、お客さまが目にするところや手で触れるところは区別を図りました。

――インテリアは一見すると新型Mazda3のようにも見えますが?

佐賀氏:インテリアに関して新型Mazda3と大きく違うのはインパネの上部ですね。ここがカラー化されています。ベージュとブラックになっていまして、これは今までのモデルにはない表現です。インパネのアッパーはブルーもあり、新型Mazda3にはない世界観を持っています。ウィング形状側でドアトリムからダッシュボードまで連続性を持たせたのもCX-30の特徴の1つです。

――CX-30もNVH(Noise、Vibration、Harshness)はかなり進化していますよね?

佐賀氏:多人数でクルマに乗ったときに後席と前席の会話が聞こえないとなると、いくらオーディオサウンドをよくしても、本質とは異なります。それぞれの性能担当が、各パートを改良させて目標を達成した点が一番大きな進化だと思っています。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。