試乗インプレッション

新型「Mazda3」の海外ファーストインプレッション

新型Mazda3、その特徴は

 2018年のLAオートショーでワールドプレミアされた「Mazda3」。日本では「アクセラ」の後継車として発売されると見られているが、車名も引き継がれるのかは未定という。というのも、今回のMazda3は2015年、2017年の東京モーターショーで発表された「RX-VISION」「VISION COUPE」のDNAとも言える、魂動デザインを深化させて表現した初めての量産車。ここから何かが変わるかもしれない、という期待も含めて車両ネーミング変更の可能性もあるのだ。

 その新型Mazda3に試乗する機会を、ワールドプレミアされたのと同じロサンゼルスで得た。試乗車は5ドアハッチバックがマイルドハイブリッドシステム(24V)を搭載する2.0リッター。4ドアセダンが2.5リッターエンジン(米国専用エンジン)の2台。試乗コースは、ハリウッドから市街地(これが渋滞)を抜けフリーウェイを走り、エンジェルスクレストという箱根のようなワインディングを走破するコース。エンジェルスクレストは毎年WCOTY(ワールドカー・オブ・ザ・イヤー)で走っているので勝手知ったるワインディングだ。

 まずデザインだが、LAオートショーでデビューしたときのまま。特に5ドアハッチバックはかなり斬新なデザインで、ドアサイドにはキャラクターラインはなく湾曲した独特のエレガンスな印象。Cピラーまわりの骨太感はグラマラスにも見える。見ただけで乗って運転したくなる。このクラスのカスタマーは最近SUVへの流出が多いとも言われ、個性的なデザインにこだわったようだ。

SKYACTIV-G 2.0にマイルドハイブリッドシステム(24V)を組み合わせる5ドアハッチバックモデル(欧州仕様)。ボディサイズは4460×1795×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2725mm
ハッチバックモデルは「色気ある塊」をデザインコンセプトに、ハッチバック車の魅力をしっかり表現することに注力。独創的なリアデザインなど、これまでにない力強い塊感、色気、魅力を表現

 これに対して4ドアセダンは、エンジンルーム、キャビン、トランクという3BOXの構造を持つわけで、特にトランク容量の拡大を狙って腰高な印象のデザインが多く、そこを意識して流麗なデザインを目指したという。個人的には深い系のカラーならセダンの方が落ち着きもあり好み。とは言え、無駄なデザインを捨てた引き算の美学から生まれた魂動デザインゆえに、濃い系のカラーが両モデルとも映えるように感じるのだ。

SKYACTIV-G 2.5を搭載する4ドアセダン(米国仕様)。ボディサイズは4662×1797×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2725mm
セダンモデルのデザインコンセプトは「凛とした伸びやかさ」。3BOXの伝統的なセダンの様式に則ったうえで、マツダとしての美しさを磨き上げることを追求し、エレガンスを感じさせる大人の成熟したセダンを表現したという

 シートに腰かける。明らかに進化した室内。「CX-8」が一番近いデザインエッセンスを持っていると言え、それはウィンドウに映し込むタイプのヘッドアップディスプレイを採用しているためにメーターパネル上部がわずかに盛り上がっていることや、ダッシュパネル上部のフラット感で視認性が向上している点で感じられる。それ以外では8.8インチで横長画面のセンターディスプレイが採用されていて、これまで不満を抱いた小さなディスプレイという印象はない。

 ドアミラーはこれまで通りドアマウントタイプだが、Aピラーとの隙間がやや広がっているのと少し低めにマウントされているようで、斜め横方向の視認性もよい。さらにシートのフィーリングがとてもよくなった。チルト&テレスコのアジャスト量も長くなり、ドラポジはこれまでよりも格段に改善されているのだが、シートは骨盤を立てて運転できるように背もたれ下部をデザイン。座面も太ももの裏側前部をサポートできるよう先端(サイサポート)が体型に合わせて調整できるようになっている。運転中、シートやドラポジに関する不満はなく、それよりもエンジェルスクレストでの強い横Gの中で身体をしっかりとサポートしていたことが印象的だった。

5ドアハッチバックのインテリア。新型Mazda3のコクピットはすべてをドライバーを中心に左右対称にレイアウト。ステアリングスポークやセンターディスプレイなど、パーツ単位で「バニシングポイント」(遠近法で言う収束点)に基づいてデザイン。また、本革にはマツダ独自のシボを採用したほか、シフトパネルにはレーザー加工で柄を刻み込んだ黒のメタリック層と、まっすぐ光を透過・減衰させるカラークリア層からなる2層成形と呼ばれる技術を採用
5ドアハッチバックのラゲッジスペース

 よくあるスポーツシートのような張り出しイメージのないシートなのに、これに関しては満点に近いシート造り。特に“骨盤を立てる”ということはさまざまなスポーツに共通したワードで、運転もスポーツと捉えれば納得できる。そんなところはZoom-Zoomのマツダらしい。インテリア、特にメーターまわりは5ドアハッチも4ドアセダンも共通した作りだ。

4ドアセダンのインテリア。5ドアハッチバックともどもマツダらしくドライビングポジションにもこだわり、ステアリングのテレスコピック量を前後10mmずつ拡大し、合計で70mmの調整幅を持たせることで体格に応じたドライビングポジション調整の精度を高めた。シフト位置は現行モデルに対してAT/MTともに前方・上方に移動させ、ステアリングからの持ち替えのしやすさとシフト操作のしやすさを向上させたという
4ドアセダンのトランクスペース

全ての回転域でスムーズなエンジン

 まずは欧州仕様の5ドアハッチバックに乗る。こちらは2.0リッターエンジンに6速MTという仕様。マイルドハイブリッドを採用するエンジンのフィーリングとしては、市街地からワインディングまでとてもスムーズだということ。スタート時のクラッチ操作については、あまり神経質にならずに低回転域でのミートにもストレスは感じられない。6速MTのシフトストロークは長すぎず、どちらかと言えばショートシフト系の操作感。しかも、各ギヤゲートが鮮明で、どのギヤに入ったのか触感ですぐに分かる。かなり気持ちよく決まるギヤシフトだ。

 エンジンに関しては全ての回転域でスムーズ。エンジェルスクレストの上りワインディングでは少々パワー不足を感じたが、非常にトルクがフラットでどの回転域からのフルスロットルでもスムーズに加速する。しかもトップエンドに至るまで振動感の抑揚がなく、とにかく扱いやすい。6500rpmあたりを維持してコーナリングしても悲鳴を上げているようには感じないのだ。これに関しては米国仕様の2.5リッターの方が排気量のメリットもあり骨太な印象だ。

欧州仕様モデルのSKYACTIV-G 2.0は最高出力90kW(122PS)/6000rpm、最大トルク213Nm/4000rpmを発生。タンク容量は51L
北米仕様のSKYACTIV-G 2.5は最高出力139kW(186HP)/6000rpm、最大トルク186lb-ft/4000rpmを発生。タンク容量は50L

 さてそのハンドリング。エンジェルスクレストのワインディングでは小さな操舵角でコーナーをクリアすることが印象的だった。4ドアセダンはオールシーズンタイヤを装着していたこともあり(5ドアハッチバックはサマータイヤ)、比較的マイルドな味付けのハンドリングだったけれども、それでも方向性は同じ。

 注目は、これまでアクセラではリアサスペンションに独立懸架を採用してきたのだが、新型Mazda3では左右が繋がったトーションビーム式になった。サスペンション形式からいうとレベルダウンだが、実際のハンドリングでは進化している。これはフロントサスのコンプライアンスを見直し、操舵時のアームのズレをデザインし直したことと関連する。コーナリング時に早い段階でタイヤをつぶして(変形させて)フロントの接地を上げ、逆にこれまでの独立懸架式ではリアのトーイン(これによってタイヤグリップが上がる)が早く付くことで前後のタイヤグリップバランスがリア寄りになることでのアンダーステアを防止しているのだ。つまりコーナーへのアプローチが自然で、しかもスムーズ。ステアリングを切り込むに従ってよく曲がる。リアはこれまでよりも剛性感が増した。

 現行のアクセラは、あるところからバンプラバーに頼り過ぎたもったりとした安定感が逆にスポーツ性をスポイルしていたが、新型Mazda3ではそのような印象はない。わりと早い段階からバンプラバーに頼ってロールを抑えている印象だが、不自然さがない。エンジェルスクレストにはずっと曲がり込むハイスピードのコーナーがいくつも存在するが、そこでロールの不安を感じることがなかった。

 最後に印象的だったのが室内の静粛性。室内への音の進入経路や、共振するボディ構造を徹底的に見直したといい、明らかに耳障りなノイズが低減されている。試乗中はアシスタントのエンジニア(米国人)が同乗したが、彼が後席に座ったときの高速道路での会話もとてもクリアだった。これを基に標準装備仕様のオーディオも今回かなり作り込んだようで、驚くほど音がよい。もちろん、よりプレミアムなオプションのボーズサウンドも素晴らしいが、コスパで言うなら標準仕様もかなりのものだった。

 今回、話題のSKYACTIV-Xエンジンを搭載した試乗車はまだ用意されていなったが、このエンジンがなくとも新世代モデルシリーズの先陣を切る新型Mazda3は、エクステリアデザインだけでなく中身もかなりグレードアップされたモデルだった。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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