試乗インプレッション

アルファ ロメオのSUV「ステルヴィオ クアドリフォリオ」は、世界でもっともエキサイティングなSUVだった

510PS、0-100km/h加速3.8秒の加速はハンパない

ニュルのレコードホルダーだった

 速いSUVに興味のある人に、ドイツ勢以外でこんなクルマも存在することをお見知りおきいただきたい。アルファ ロメオ初のSUVである「ステルヴィオ」のハイエンドモデル「クアドリフォリオ」だ。ノーマークだった人にも、ぜひこのクルマだけは押さえておいてほしい。

 なにせクラス最強の510PSだ。ポルシェやBMWやアウディでもこのクラスは400PS台にとどまるところ、今のところ「メルセデスAMG GLC 63 S 4MATIC+(以下GLC 63)」とこのクルマだけが500PSの壁を超えた。そんな2台は2018年に相次いで日本上陸を果たした。

 むろん、上のクラスにはもっと高出力のSUVも存在するが、このクラスは比較的軽量ゆえ運動性能に優れるのでサーキットでもめっぽう速い。独ニュルブルクリンクにおいて、SUVとして初めて8分切りを実現した従来の「カイエン」の記録を実に約8秒も短縮し、当時としては量産SUV世界最速タイムとなる7分51秒7というタイムをクアドリフォリオが2017年秋に樹立した。

 実はその約1年後の2018年秋、件のGLC 63が7分49秒369というタイムを叩き出して2秒あまり更新したのだが、それでも高性能エンジンをはじめ、それを路面に伝える4WDシステムやシャシー技術など、クアドリフォリオに採用された数々の先進技術が、世界最高レベルに到達していることを実証したのは疑うべくもない話。思えば性能の高さをウリにしていた少し前のスポーツカーの多くが、すでに彼らの後塵を拝しているわけだから、タイムを出した事実には恐れ入るばかりだ。

 実車と対面すると、ボディサイズはそれほど大きいわけでもないのに、その存在感の大きさに圧倒される。大胆に拡げた開口部を持つ派手なフロントフェイスや、ワイドでボリューミーなフォルム、両側2本ずつ並べたマフラーなど数々の専用パーツが与えられた見るからに速そうな出で立ちに、クアドリフォリオ専用色の「コンペティツィオーネレッド」がよく似合う。

試乗車はアルファ ロメオの新型SUV「ステルヴィオ」のトップエンドモデル「クアドリフォリオ」。2018年11月から日本でも受注を開始しており、価格は1167万円。ボディサイズは4700×1955×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2820mm
エクステリアではエンジンルームの熱を排出するエアベント付きのボンネットフードに加え、フロントバンパー、サイドスポイラー、リアバンパーなどが専用品。さらにガンメタリック仕上げの20インチアルミホイール(タイヤはピレリ「P ZERO」でフロント:255/45 R20、リア:285/40 R20)やツインデュアルエキゾーストパイプによりスポーティさを高めている

 同じく専用のステアリングホイールやアルカンターラシートなどが与えられ、随所にカーボンパネルのはりめぐらされたインテリアも、精悍で上質、かつ表情豊かな特別感に満ちた空間に仕立てられている。

インテリアではクアドリフォリオ専用のスポーツレザーステアリングホイールをはじめ、専用スポーツレザー/アルカンターラシート、カーボンパネルなどを装備。Apple CarPlayやAndroid Autoに対応した最新世代のConnectシステムも与えられる

510PSの加速はハンパない

 走りは極めて刺激的だ。フェラーリが開発にかかわったという2.9リッターV6ツインターボエンジンの咆哮は、他にはあまりない独特の音質の官能的なサウンドを聞かせてくれる。

 それと呼応するかのように、エンジン特性もいまどきあまりない独特の味付けだ。はじめは控えめながら、踏み増すといきなり加速装置が作動してワープするかのように強烈に加速しはじめる。この加速感はヤバイくらいハンパない。0-100km/h加速3.8秒というのも伊達ではない。おそらくブースト圧は相当に高いことだろうが、2.9リッターで510PSを引き出しているのだから、それなりのことはやっているに違いない。正直、フェラーリのV8ターボよりも面白いエンジンではないかと思えたほどだ。それでいて、低めの回転域からでもしっかりトルクが立ち上がる柔軟性も身に着けていて、決して乗りにくくないことにも感心させられた。

クアドリフォリオが搭載するV型6気筒DOHC 2.9リッター直噴ツインターボエンジンは、最高出力375kW(510PS)/6500rpm、最大トルク600Nm(61.2kgfm)/2500rpmを発生。これに8速AT、4WDシステム「Alfa Romeo Q4」を組み合わせる。0-100km/h加速は3.8秒、最高速は283km/hとアナウンスされている(ともに欧州計測参考値)

 なお、このクルマはアルファ ロメオで初めてシャシー統合制御システム「CDC」と連動して、路面状況や運転操作に応じて左右後輪にそれぞれ最適なトルクを配分する電子制御式ディファレンシャル「ALFA アクティブトルクベクタリング」と4WDシステムの「Q4」を組み合わせたモデルとなる。

刺激的な走り味

「ステルヴィオ」の由来というのは、つづら折りで知られるイタリア北部のアルプス山中にある峠道の名称だ。そんな峠道の名前を車名にするくらいなので、実際にもこのクルマは標準モデルともどもSUV界きってのハンドリングマシンに仕上がっている。

 SUVとしては異例の極めて俊敏なハンドリングはこのクルマならでは。それでいてクイックでありながらどこにも破綻をきたすことなく仕上げた技術力の高さにも恐れ入る思い。不要な挙動を抑えるべく引き締められた足まわりが路面を着実に捉える一方で、この価格帯のSUVに相応しく日常的に使える快適性にも配慮したことがうかがえる。

 また、エンジンやトランスミッション、サスペンションなどの設定を任意に選択できるALFA DNAドライブモードシステムには、そのパフォーマンスを最大限に引き出すことができる「Race」モードが設定されているのも特徴で、選択するとただでさえ刺激的な走りがさらに刺激的になる。とにかく見た目も走りも、世界でもっともエキサイティングなSUVなのだ。

 心機一転し、ブランド再生をかけて立ち上がったアルファ ロメオが手がけた初のSUVのトップパフォーマンスモデルとして据えられたクアドリフォリオは、アルファ ロメオにとってかけがえのない1台として、すべてを惜しみなくつぎ込んで仕上げられた“入魂”の作。実車に触れると、そのただならぬ思いの深さがヒシヒシと伝わってくる。何から何まで非常に刺激的で印象深い、インパクト満点のSUVであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸