試乗インプレッション

アルファ ロメオ「ステルヴィオ」のディーゼルモデルは470Nmの最大トルクで滑らかに加速

いかにも“アルファの作るSUV”

 試乗の前日、アルファ ロメオの「D-Night」が華々しく開催された。DはDynamicのDでもあるし、DieselのDでもある。FCA ジャパンのポンタス・ヘグストロム社長、イタリアから来日したディーゼルエンジンの開発エンジニア、パオロ・パロッティ氏のプレゼンテーション後には懇親会も設けられており、2019年のFCA ジャパンの意気込みを披露する場にもなっていた。

 ディーゼルにフォーカスされた記者会見だったが、翌日から早速、「ジュリア」と「ステルヴィオ」の貸し出しが始まった。この両車には同じ2.2リッターのディーゼルエンジンが搭載されるが、出力は搭載車種に応じて変えており、重量の重いステルヴィオにはハイパワーバージョンが搭載されている。

4月6日に発売されるアルファ ロメオ「ステルヴィオ」の新型ディーゼルターボエンジン搭載車(617万円)にモータージャーナリストの日下部保雄氏が試乗

 ところで、フィアットグループは早くからディーゼルに取り組んでおり、1997年には現在では定番となっているコモンレール式ディーゼルをアルファ ロメオ「156」に搭載した先駆者でもある。イタリアは日本メーカーでも欧州輸出車に搭載するなど知る人ぞ知る“ディーゼル王国”だ。

 新開発のエンジンは軽量なアルミブロックを使った2.2リッター直噴ターボ。圧縮比も15.5:1と最新のディーゼルトレンドに則って低く抑えられており、カムシャフトも中空にして軽量化を図ると同時にプラスチック部材を多く採用するなど、エンジン単体の重量はこのクラスで最軽量の155kgに抑えられている。もちろんディーゼルには不可避的な振動を軽減するためのバランサーシャフトを持ち、低い圧縮比に応じて下がっているエンジン振動をさらに下げている。

 コモンレールの燃料噴射圧は2000barで、1行程で高圧噴射を8回という精密噴射を行ない、ディーゼル酸化触媒、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)、SCR(選択式触媒還元)、そして尿素水溶液のAdBlueを使ったクリーンディーゼルに仕上げている。

「ステルヴィオ 2.2 TURBO DIESEL Q4」。ボディサイズは4690×1905×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2820mm。車両重量は1820kg。ボディカラーは「ストロンボリ グレー」

 ステルヴィオの最高出力の154kW(210PS)は3500rpm、最大トルクの470Nmは1750rpmで発生し、わずか1250rpmで440Nmを発生する大きな低速トルクを持っている。ジュリアの方はもう少し穏やかで140kW(190PS)、450Nmを出す。ちなみに車両重量はステルヴィオが1820kg、ジュリアは1600kgとなっている。

 燃費は一般走行に近いWLTPモードでステルヴィオ16.0km/L、ジュリアは17.2km/L。ディーゼルの高速燃費が優れているのは周知の事実なので、ステルヴィオの実燃費でも期待できそうだ。

 以前に乗ったステルヴィオは「ファースト・エディション」で、大径タイヤを履いたガソリンモデルだった。アルファ ロメオらしく情熱的なSUVで、およそオフローダーとは思えない汗馬のようなSUVで、走りたがるのを抑えるような感覚だった。2.0リッターターボのガソリンエンジンは280PS/400Nmのパフォーマンスを持ち、かつ255/45 R20の大径タイヤもグリップとトラクション重視で、ポイントを捉えて走るといかにも“アルファの作るSUV”と思わせた。

最高出力154kW(210PS)/3500rpm、最大トルク470Nm(47.9kgfm)/1750rpmを発生する「55284529」型の直列4気筒 2.2リッター直噴ターボディーゼル。WLTCモード燃費は16.0km/L
排出ガスの後処理に使う「AdBlue」は燃料の給油口横から補充する
タイヤはランフラット仕様のブリヂストン「デューラー H/P SPORT」で、サイズは235/60 R18 103V
アルファ ロメオのロゴマークが入ったスポーツブレーキを装着

疲れている時でも元気をもらえる情熱はさすがにアルファ

 ステルヴィオ・ディーゼルの最高出力は前述のように210PSだが、最大トルクは470Nmを誇り、低速からさりげなく力を出すので、滑らかな加速を得られる。強烈なパンチ力はそれほど感じないが、スマートにトルクを出してくれるので、アクセルワークも容易。トルクの盛り上がりのコントロールは楽に行なえる。もちろんアクセルを強く踏みこむとグンとした力強い加速が得られるが、エンジンのパンチ力はそれなりなので、総じてガソリン車に比べるとおとなしい。

 さて、気になるディーゼルノイズは車外にいるとエンジンからは慎ましくカラカラ音が出ている程度で、音圧は低く、近くにいるとやっとディーゼルだと認識できる程度だ。まして室内ではゴー音はあるが、ディーゼルらしいカリカリ音はほぼ耳に入らず、静粛性は高い。

 走り出すとアルファの血統らしい俊敏に走ろうとする力強さはあるが、適度に抑えられているので御しやすい。タイヤサイズや性格もあって、グイグイと走っていこうとする感じではなく、穏やかで、直進時もリラックスしたドライブができる。

シート表皮は「スタンダードレザー」で、写真のレッド/レッドステッチングのほか、ブラック/ダークグレーステッチングを用意。ボディカラーごとに標準設定が定められており、逆のカラーをオプション選択することも可能
大型2眼式のメーターパネルやレザーステアリング、大型のパドルシフトレバーなどを採用。スピードメーターは260km/hスケール

 ドライブモードを「d」にすると、グンと前に出るが、それも全域トルクがあるので、日常的なシーンでも使いやすく感じた。大型のパドルシフトも積極的に使いたくなるタッチ感だ。燃費走行には「a」モードが全体に回転が抑えられるので、貢献できそうだ。ドライブモードはそれぞれメリハリがあり、使い分けしやすい。

 タイヤサイズは235/60 R18のブリヂストン「デューラー H/P」のランフラットを履き、しっかりと張っている印象だ。ハンドリングは素直でいながらコーナリングでもクイックな反応を示す。何しろロック・トゥ・ロックはわずかに2回転と5分の1という非常に速いステアリングギヤレシオで、手首の動きで大きなステルヴィオが機敏に反応する。さすがにスポーツサルーン ジュリアの親戚だけのことはある。

タコメーターは4500rpmからイエローゾーンが始まり、6000rpmまで刻まれている
ステアリングでは左側スポークにアダプティブクルーズコントロールやヒルディセントコントロールの操作スイッチとエンジンスタートボタンをレイアウト
右側スポークにはオーディオコントローラーやハンズフリーフォンの操作スイッチがある
8速ATのシフトセレクターはジョイスティックのように前後左右に動かし、表示だけを切り替えるタイプ
センターコンソール左側に「DNA ドライブモードシステム」の操作ダイヤルを配置
パフォーマンスとレスポンスに特化した「D(ダイナミック)」
快適性や燃費性能を追求した挙動が得られる「N(ナチュラル)」
エネルギー消費を最小限に抑え、燃費性能を最大化する「A(アドバンスドエフィシェンシー)」

 チョット疲れている時でも元気をもらえる情熱はさすがにアルファだが、小まわりは得意でなく、最小回転半径は6.0mと比較的大きくなる。

 8速ATとの相性はよく、小気味よくステップアップしていき、低回転を維持しながらディーゼル特有となる持ち前の低速トルクを活かして粘り強く走る。また4500rpmからイエローゾーンの始まるエンジンをそこまで回すことはほとんどないが、もしアクセルを強く踏んだ時には、2.0リッターガソリン車のようなパンチ力はないものの、いつの間にか速度が上がる印象だ。

 乗り心地は段差などではランフラットらしい多少の突き上げがあるが、おおむね許容範囲。路面の凹凸を感じられる路面コンタクトはスポーツカーメーカーらしい。

ドアトリムやインパネにブラックへアライン仕上げの加飾パネルを装着。インパネ中央の8.8インチ大型センターディスプレイはカーナビ機能を備えていないが、スマートフォンと接続することでApple CarPlayやAndroid Autoが利用可能。スマホのナビアプリを画面に表示する
ラゲッジスペース容量は525L。4:2:4分割可倒式のリアシートを全車で採用する

 リアシートはレッグルームも余裕があり、ヘッドクリアランスも含めて大人2人が余裕でくつろげる。ちなみにリアドアのウィンドウも全開できる。ラゲッジスペースも広いのでかさばるものも積めそうだが、ゴルフバッグは横には入らなそうだ。ただ、ラゲッジスペースからリアシートを倒せるレバーが用意されている。

 さて、ファースト・エディションが情熱的なお姉さんだと例えると、今回発表されたディーゼルはスポーツの得意なお嬢さんと言ったところだろうか。いずれにしてもアルファの血統は正確に受け継がれて、他のSUVとは違ったキャラクターが与えられているのは嬉しい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学