試乗インプレッション
トヨタ「マークX“GRMN”」(2代目)、ずっとハンドルを握っていたいほど楽しかった(日下部保雄)
GRMNの動きは1つのパーツだけでは成り立たない
2019年1月11日 10:00
クルマとの一体感を重視することを目標にリファイン
トヨタ自動車は、量産車からは生まれにくいスポーツモデルをGazooカンパニーの手になる“GRシリーズ”で充実させている。
「スープラ」(プロトタイプ)と同時に試乗に提供された「マークX“GRMN”」もその1台。大排気量/FR/MTは今はほとんど体験することができないが、これをマークXで実現した。
最初のマークX“GRMN”は100台限定で2015年3月にデビューしたが、早いタイミングで完売してしまった。2代目となるマークX“GRMN”も走りの質をさらに上げ、86ショップの流れを汲むGRガレージの専売で行なっていく。2代目のマークX“GRMN”はパフォーマンスはそのままに、クルマとの一体感を重視することを目標にリファインされた。
外観でも違いがある。新型は同じマークXの“GR SPORT”に準拠したものになった。これまでCピラーにあったエアロスタビライジングフィン、通称「おさかな君」が新仕様では外された。フロントサイドの両脇にあった空力パーツも外されて、スッキリした形状になりおとなしくなっている。
テールエンドに突き出している4本出しのエキゾーストパイプも形状が改められ、同じ4本出しながらボディ全体のデザインに合わせて整理された。ボディ下面を流れてくる空気を整流するディフュザー状のアンダースポイラーも合わせて新しい形状になった。
インテリアも質感、デザインなどでGRシリーズの統一感を図り、タコメーターを中心に据えたメーターが新しい。これまでの2眼式からガラリと変わり、いっそう見やすくなった。
主要コンポーネントは初代からキャリーオーバー。エンジンもV型6気筒DOHC 3.5リッターの「2GR-FSE」で共通だ。このエンジンはすでに言い尽くされているが、間接噴射と直接噴射の両方を使い、出力と燃費とのバランスを取った318PS/380Nmの実力を待っている。エンジンはEFI(電子制御燃料噴射装置)の再適合を行なって滑らかさを増した。組み合わされるトランスミッションは6速のマニュアルのみ。標準のマークXにはそのスペックはなく、逆にGRMNではATは選べない。ただし、ファイナルドライブは4.083から3.615と速くなっている。
ハイライトはボディのスポット打点の数を増やし、ボディ補強を図ったことだ。リアホイールハウスの合わせ、ドア開口部下側、ステアリングラックなどがそれだが、特にロッカー部分の16点を筆頭に、スポット溶接はトータル268点の増し打ちになっている。これらを後から行なうのはコストも時間もかかるが、元町工場のマークXが流れるラインで行なっているというのもメーカーチューニングカーならではだ。
また、電動パワーステアリング(EPS)やVSCも見直されており、ドライバーの感性に添ったチューニングが行なわれている。なお、カーボンルーフはオプションで選ぶことができる。装着タイヤは初代と同じフロント:235/40 R19、リア:255/35 R19のブリヂストンの「ポテンザ RE050A」を履く。
新型マークX“GRMN”は滑らかな運動性能を得ることができている
サーキットでの新旧GRMNの乗り比べはなかなか印象深かった。旧GRMNは、開発の血気がそのまま現れているようなドライブフィールで、ハーフウェットではちょっと忙しい。低いファイナルドライブは駆動力があり、アクセルレスポンスも優れている。コーナーの立ち上がりでアクセルを少し強めに踏むとグンと飛び出していくが、それなりにアクセルワークにも気を遣う。新型では適度に緩くなっているので、ギヤリングとしては各ギヤの守備範囲が広がり新型の方が扱いやすい。ちなみに0-100㎞/h加速は新型が少し速く、0-400mタイムは旧型が少し速いという。
ステアリングフィールは遊びが締まって、穏やかに操舵感が上がる設定に変更されているが、この効果でハンドルの操舵量が大幅に少なくなっている。戻し側の路面からのインフォメーションもしっかり伝わってくるので安心感が増している。
安定性はもちろんEPSの効果だけでなく、ボディの剛性アップが大きく貢献しているのは言うまでもない。特にねじり剛性が上がっているのでハンドル操作に対して素直に旋回していく。この違いは圧倒的で、正確なハンドリングはドライバーに余裕を生じさせる。ステア特性としてはアンダーステア傾向が強くなっているが、なまじクイックな反応よりもはるかに扱いやすい。
そして乗り心地がいいのはボディ補強の効果で、サスペンションが正確に反応でき、さらにショックアブソーバーの微低速域のバルブにスイングバルブを使って適合を図った結果、足まわりはしなやかに動く。この両面でバネ上の動きがよりフラットになった。コーナーリング中もホッピングのような姿勢を起こさないのが好ましい。これも4輪の接地性が上がっている効果だ。
GRMNの動きは1つのパーツだけでは成り立たないが、総合的に見て必要なところに手を入れ、ドライバーとの一体感を出すことで、滑らかな運動性能を得ることができている。
劇的に性格を変えた2代目のマークX“GRMN”。路面変化への対応性も高く、コンディションが刻々と変わるサーキットでの試乗でも、さほど汗もかかず、ずっとハンドルを握っていたいほど楽しかった。新しいGRMN、デザインの変更と走りの成熟度でユーザー層も広がっていくことが予想される。