試乗インプレッション

トヨタ「マークX“GRMN”」(2代目)、マークXのラストを飾るにふさわしい仕上がり(岡本幸一郎)

エンジンもフットワークも申し分なし。雨の中の全開ドライブも実に楽しい!

4年分の進化と熟成

 復活のウワサがちらほら聞かれた「マークX“GRMN”」の話がいよいよ現実のものとなる。2015年に100台が限定販売された初代モデルはすぐに完売してしまい、欲しいのに手に入れられなかった人が少なくなく、以降ずっと再販を求める声があったという。そこで今回の2代目となる新型は、台数が多めに用意される見込みだ。そして発売に先立ち、千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイで新旧モデルを乗り比べることができた。

 エクステリアデザインは一連のGRシリーズとの統一性を図った「マークX GRスポーツ」をベースにアレンジを加えたものとされたため、雰囲気は従来型に対してだいぶ変わっている。

 インテリアでは、ステアリングやシフトノブ、パーキングブレーキなど手に触れる部分がウルトラスエードから本革巻きに変更されている。評判のよいトヨタ紡織製のスポーツシートはもちろん与えられる。

 大排気量の自然吸気エンジンを積むMTでFRのセダンという、貴重で魅力的なクルマを再び手に入れられるだけでもありがたい話だが、走りについてもGRがニュルブルクリンクで得たノウハウを生かして4年分の熟成を図るべく、主要コンポーネンツをキャリーオーバーしつつも、3点ばかり重要な変更を行なっている。

モータージャーナリストの岡本幸一郎氏がウェットの袖ケ浦フォレストレースウェイで「マークX“GRMN”」に試乗。マークX“GRMN”が搭載するV型6気筒DOHC 3.5リッター「2GR-FSE」型エンジンは最高出力234kW(318PS)/6400rpm、最大トルク380Nm(38.7kgfm)/4800rpmを発生

 1つはスポット溶接の打点を大幅に増やしたこと。先代ではロッカーまわりを中心に16点だったところ、新型はドア開口部やフロアまわりなど実に252点も増し打ちしたというから驚く。なお、車両の生産はこれまでもGRシリーズの高性能モデルを手がけてきた実績のある元町工場においてインラインで行なわれる。

 さらにはリアデフのファイナルレシオが従来の4.3から3.6へと高められた。一般的なチューニングの手法とは逆のアプローチであることが意外なのだが、その理由がドライブしてよく分かった。詳しくはのちほどお伝えしたい。

 3つめが新開発のショックアブソーバーだ。これは2018年秋に発売された新型レクサス「ES」に初採用されたスウィングバルブを用いたもので、ESでもしなやかでフラットな乗り心地が非常に好感触だっただけに、マークX“GRMN”でも大いに期待できる。

 試乗時の天候は雨に見舞われたものの、ウェットだからこそなおのことよく分かった部分もあったことを、あらかじめお伝えしておこう。

1月11日に受注を開始した2代目「マークX“GRMN”」。価格は513万円。「350RDS」をベースとし、ボディサイズは4795×1795×1420mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm
フロントバンパーなど光輝部品加飾のダーク化を行なうとともに、4本出しマフラー(大型バッフル)、BBS製の19インチ鍛造アルミホイール&前後異サイズタイヤ、リアスポイラー、ブレーキキャリパー(ホワイト塗装、対向4ピストンキャリパーのフロントのみGRロゴ付)&スポーツブレーキパッドなどを装着

同じタイヤを履いているとは思えない

 まずは先代で走り感覚を確かめておく。あらためてドライブしても、こちらも十分すぎるほど楽しい。よく回るエンジンとサウンドはゴキゲンだ。コースはかなり滑りやすかったものの、コントロール性もまずまずで乗りやすい。これでも十分じゃないかと思ったりしたのだが、新型に乗り換えて走り始めてすぐに、けっして小さくない違いを感じた。

 クラッチミートやシフトフィールの感触からして、個体の問題もあるかもしれないが、洗練されていて扱いやすい。そして同じ銘柄のタイヤを履くとは思えないほど、しっかりとしなやかに路面を捉える感覚があり、乗り心地もよく、全体的な乗り味がずいぶん洗練されているように感じられた。ステアリングフィールもしっとりと上質な印象になり、操舵に対する応答遅れもなく、中立から切り始めたときの微小舵の領域や、S字の切り返しなどでも操作したとおりに応答してくれて走りに一体感がある。

先代にも試乗

 むろん伝えられた内容以外にも4年分の細かい改良があることだろうが、やはりボディ剛性の向上と優れたショックアブソーバーによる効果は絶大だ。乗り心地のフラット感も増していて、動きが極めて素直であることには感心するばかり。グリップ感が高くてスライドさせてもコントロールしやすく、先の動きも読みやすいので、ウェットでも何の不安もなく走ることができた。スウィングバルブは快適性のためのものという気がしていたが、そればかりではないようだ。先代もよかったが、新型はさらによい。ウェットながら本当に楽しく走ることができた。

3.5リッターV6を味わい尽くせる

 ファイナルレシオを上げた意味もよく分かった。新旧ではシフトポイントがぜんぜん違って、頻繁にシフトチェンジしてガンガン回して楽しむのが従来型の方向性のところ、新型はこのエンジンが本来持つトルクの力強さと吹け上がりの伸びやかさをより体感できて、今や貴重な大排気量の自然吸気V6ユニットならではの味わいを、より深く余すところなく堪能することができる。大小いくつかのコーナーと短いストレートが組み合わされたこのコースで、先代ではすぐに吹け切ってしまうのに対し、新型の方がリズム感のある走りを楽しめたように思う。

 加速性能を高めるにはデフを落とすのが一般的で、ハイギヤード化すると加速は鈍くなるもの。ところが開発関係者によると、ワインディングやサーキットなどいろいろな道を走り込んだ結果、このエンジンを味わい尽くすためにはこの設定がベストと判断したのだという。それには筆者も実際にドライブして大いに納得した次第である。

 とにかくエンジンもフットワークも申し分なく、雨の中を全開でドライブしても実に楽しむことができた。こんな貴重なクルマを再販してくれただけでも魅力的な話のところ、新しいマークX“GRMN”は走りの本質的な部分に本腰を入れて磨きをかけたことがヒシヒシと伝わってきた。マークXのラストを飾るにふさわしい、本当に素晴らしい仕上がりであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛