試乗インプレッション

トヨタ「マークX“GRMN”」(2代目)、クルマと1つになれる感覚は格別(橋本洋平)

“あのスポーツカー”も追える仕上がり!?

マークX“GRMN”が2代目に

 100台限定車として2015年に発売された「マークX“GRMN”」が進化して再登場する。4ドアセダンながらも、V6 3.5リッターエンジン+6速MTという成り立ちだったそのクルマは、かなりマニアックな1台である。

 ベースモデルとはまったく異なる走りの質感を持ち、グリップ走行もドリフト走行も意のままにコントロールすることができたことで、失礼だがマークXとは思えぬ仕上がりだった。それを今回はさらに改良しようというのだから興味深い。プレゼンテーションではまず「かつてないほどクルマと1つになれる」という言葉が出ていた。まだ先があるのか……。常に改良してよいクルマを提供しようという姿勢が見られるトヨタ系のクルマたち。だからこそ、その成長ぶりには期待が膨らむ。

 GRブランドのフラグシップグレード“GRMN”を掲げるこのクルマは、今回もまた根本となるボディを煮詰め直している。かつてはベースのボディに対してスポット打点を16点増やすことを行なっていたが、今回はそれに加えて252点も増やしたという。フロント&リアのドア開口部やリアホイールハウス合わせ面、そしてステアリングラックまわりやダッシュパネルなど、多くの部分に追加されたスポット打点によって、よりボディを強固にしようという姿勢は凄い。なお、トランク内に備わる専用の補強材はそのまま踏襲されている。

モータージャーナリストの橋本洋平氏が2代目マークX“GRMN”をテスト

 その上で、サスペンションにはレクサス「ES」から搭載が始まったスイングバルブ搭載のショックアブソーバーを採用。ピストンバルブ、メインバルブを備えることは従来と変わらずだが、その間に非着座式のバルブを備えている。このバルブにはオイル流路に蓋をする形になるが、10ミクロンの細い隙間が備わり、ピストンスピードが極微低速の時に減衰力を発生させることで、ボディが大きく揺れる前に動きを収めようというものだ。その先の乗り心地に効く領域は減衰力を落としているという。これらに合わせて、パワステやスタビリティコントロールのセッティングも見直しを行なっている。

 さらにファイナルギヤの変更を行なったこともトピックの1つ。かつては4.083だったが、今回は3.615としている。V6 3.5リッターが発生する太いトルクがあれば、俊敏にふけ切るよりもメリットが多いという見解のようだ。

2代目マークX“GRMN”のボディサイズは4795×1795×1420mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm
エクステリアではフロントバンパーなど光輝部品加飾のダーク化、4本出しマフラー(大型バッフル)といった専用装備が与えられる。足下はBBS製の19インチ鍛造アルミホイールに前後異サイズタイヤ(フロント:235/40 R19、リア:255/35 R19)の組み合わせ
V型6気筒DOHC 3.5リッター「2GR-FSE」型エンジンは最高出力234kW(318PS)/6400rpm、最大トルク380Nm(38.7kgfm)/4800rpmを発生

 実車を見てみると、かつてよりも大人びた感覚のエクステリアになったと感じる。かつてはスポーティな仕上がりを全面に押し出しているイメージだったが、今回はフロントマスクにメッキがあしらわれ、さらに空力パーツも影を潜めたように感じる。そして何よりCピラーに存在していた2本のフィンが廃止されたこともまた、そんな感覚にさせる要素だろう。張り付けではなく、プレスで成形してまで搭載していたフィンを、今回はあっさりとやめてしまったのだ。ボディやシャシーによるチューニングで、それが必要なくなったというのが開発陣の言い分だったが、特別な感覚がなくなったのはやや寂しい。けれども、大人のスポーツセダンとして考えれば正常進化なのかもしれない。また、カーボンルーフもオプション扱いとなってしまった。

 おとなしくなったのはそれだけではない。インテリアに存在していた特徴的なウルトラスエードもまた廃止され、本革巻きに改められていたのだ。他のGRシリーズとの統一感を図りたかったというが、ひょっとして他でのコストアップを吸収するためか? なんてナナメに見てしまう部分もある。正式価格がどうなるかは、これを書いている時点では分からないが、かつての540万円からどれだけ変化するのかも気になるところだ(編集部注:価格は513万円と発表されました)。

インテリアではカーボン調加飾とピアノブラック塗装を組み合わせたインストルメントパネル、ウルトラスエード表皮の専用スポーツフロントシートなどを装備

クルマと1つになれる感覚は格別

 さて、そんな新生マークX“GRMN”を袖ケ浦フォレストレースウェイで走らせる。新型「スープラ」(プロトタイプ)と同時に行なわれた今回の試乗会は、朝まで降っていた雨が路面のところどころに残っているような状況で行なわれた。まだ誰も走行していない朝イチで走り始めることになるから、これはちょっと悪条件かもしれない。

 だが、走り始めてすぐにそんな路面状況のことは気にならなくなった。それはとにかく扱いやすく仕上がっていたからだ。タイヤが滑ったり止まったりを繰り返すような状況であったとしても先読みしやすく、動きの一体感がある。フラットに走り、しなやかであり、けれども一連の動きには連続性がある。ステアリングの切り込みもスムーズで、戻す方向のフィーリングも一定。たしかにクルマと1つになれる感覚は格別だ。

 おかげで、その気になればスライドを意図的にすることもたやすい。前後のグリップバランスが優れているから、あとはドライバー次第でいかようにでもコントロールが可能なのだ。ファイナルギヤの変更でスライドコントロールのしやすさが変化するのではないかと懸念していたが、回転がドロップしても十分なトルクがついてくるため、コントロール性は相変わらず。袖ケ浦ではギヤを頻繁にチェンジする必要がなくなったところもメリットかもしれない。

 ちなみに0-100km/h加速ではギヤチェンジが1回減るらしく、タイムは上がったのだとか。スタンディングスタートは先代の方が俊敏のようにも感じるが、走り出してしまえばこちらの方がマッチしている。

 後に先代にも乗ったのだが、路面状況が良好になりつつあるにも関わらず、操りにくく感じてしまった。初期応答こそキビキビしている感覚があるが、その先がないような感じとでも言えばいいだろうか。急にグリップが立ち上がったり、抜けたりするような唐突な感覚が比べると気になってくる。そこでインフォメーションが途切れ、一体感が薄いのだ。スライドした後のコントロール性についても、やや劣っている。先代が登場したころはこれでも凄いと思っていたのだが、それを古く感じてしまうのは、新型の熟成度合が素晴らしかったからこそ。

初代マークX“GRMN”にも試乗した

 重量級の4ドアセダンであることを言い訳にせず、とことん拘って仕立てた今度のマークX“GRMN”は、クルマとドライバーがシンクロしやすい環境を見事に整えた1台。やりようによっちゃ、“あのスポーツカー”を追えるかもしれない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学