試乗インプレッション

マツダの新型SUV「CX-30」に初乗り。一般道&アウトバーン試乗で感じたこと

日本では今冬発売予定

マツダの新型SUV「CX-30」

 ドイツ・フランクフルトで開催された「MAZDA3 SKYACTIV-X 国際試乗会」でのもう1つの目玉商品がこの新型SUVの「CX-30」だった。SKYACTIV-Xよりもこちらの方が興味深い読者も多いことと思います。そこで初乗り1番でボクが感じたCX-30のすべてをお話ししましょう。

日本では今冬発売予定の「CX-30」

 数年前のこと、愚息が家庭を持ちクルマを物色していた。そんな折に「CX-3」のデビュー試乗会の案内が届いた。愚息はCX-3を買いたいので試乗会に同行したい、と言うので連れて行った。彼がCX-3を欲しい理由は、ディーゼルだから(経済的)、SUVだからスペースユーティリティーがあるだろう。そしてデザインがよい、だった。彼は早く子供が欲しいと考えていたのだ。実車を詳細に見るなりひと言こう言った。「あっ! ダメだこのクルマじゃ」。何にダメ出ししたかというとユーティリティー。後部座席、ラゲッジスペースの狭さだった。他にドリンクホルダーの位置にも疑問を投げていた。「これじゃ子供ができたらベビーカーが入らない」。確かにCX-3は「デミオ」ベースのSUVなので贅沢は言えない。かといって上のクラスのSUVとなるといきなり「CX-5」のサイズになる。マツダにはその中間サイズのSUV開発が急務だったのだ。やっとやってきたCX-30。欧州ではこの夏に発売されるが、日本では今冬の予定。もうちょっとの辛抱だ。

CX-30のボディサイズは4395×1795×1540mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2655mm

 全長は4400mm以下、車幅は1800mm以下、全高は立体駐車場の目安となる1550mm以下。このディメンションを目安にCX-30は設計されている。実際のサイズは全長4395mm、全幅1795mm、全高1540mm。CX-3とCX-5の間のサイズとはいうものの、日本の交通事情に合わせたサイズ設定といえる。そのためホイールベースは2655mmとベースとなるMAZDA3よりも-70mm、全長も-65mmと抑えられている。ロードクリアランス(地上高)は175mmとSUVらしくしっかりと確保している。試乗車は最高出力122PS/最大トルク213Nmでマイルドハイブリッドシステムの2.0リッター+6速ATと、最高出力116PS/最大トルク270Nmの1.8リッターターボディーゼル+6速MT。CX-30のベース車両は、前述したように日本でも発売されたばかりのMAZDA3だ。

CX-30は「M HYBRID」を搭載するガソリンエンジン「SKYACTIV-X」「SKYACTIV-G 2.0」と、ディーゼルエンジンの「SKYACTIV-D1.8」をラインアップ。写真はSKYACTIV-G 2.0
18インチと16インチのアルミホイールを設定

 ここで少しMAZDA3のお話を。ボク自身、今年の初めに米国・ロサンゼルス、真冬の北海道試験場、そして今回のフランクフルトで試乗して、改めてそのクオリティ、ポテンシャルの高さに感動。米国とドイツという異なる国で一般道の試乗を行ない、MAZDA3はクラストップのモデルと感じたのです。

 そのMAZDA3をベースにしたCX-30、わるいはずはないとは思いつつもどうなのか? グランドクリアランスは175mmと高くなっている。さらにホイールベースは-70mmと短くなっている。もちろんSUVだから車高は高い。これらがCX-30にどのような変化をもたらしているのか?

 ドアを開けて乗り込んでみよう。ヒップポイントを600mmに設定していて、アジア人と欧米人のどちらもがそれほど力を使わず乗り込みやすい高さにセットしたとのこと。身長163cm(最近は加齢とともに重力に負け縮んでいる)のボクにはそんなの関係ない。どのSUVも同じ。思い出すのは高校1年の部活。何を思ったかバレーボール部に入ったボクは、1学期の夏に高校生の平均身長が伸びたという理由でネットが数cm高くなり、あっさりと退部してバイクに走った。そのおかげで今があるのかもしれないが、CX-30は欧米のデカい奴らがスッと乗り込めるからこれは得点が高い。ボクは不満なかったから日本人には問題ない、と勝手に解釈している。

 インテリアデザインはMAZDA3に準じるものなのでここで多くは省略するが、ヘッドアップディスプレイ、7インチ液晶メーター、遠めにセットされた8.8インチワイドセンターディスプレイと、視認性とドライバーの疲れを抑える設計思想に共感する。

コクピットはドライバーを中心とした左右対称のレイアウトとするとともに、3連メーターの左右メーターやセンターディスプレイをドライバーの方へ向けて角度を持たせることで、クルマとの一体感と対話のしやすさを強めた

 シートに座るとカップルディスタンスは740mmとCX-5と同等とのこと。CX-5の車幅は1840mmなので、CX-30ではより両端に寄せたことになり、側突に対する安全性は大丈夫? と心配になるが、Bピラーを形成するホットスタンプ材と稜線補強材を同時に加工する工法をマツダ初採用とのことだから、マツダの衝突安全性を信じよう。とにかく助手席とのスペースがしっかりあり、また後席もシート座面長をしっかりとりながら足下にも余裕。ホイールベース、全長がMAZDA3よりも短いのにこの余裕感はなかなかのものだ。

 そして、視界がよい。SUVのアイポイントは高いから当たり前だが、リアクォーターのガラス面が縦長なのでMAZDA3よりも解放感があり、で、エクステリアデザイン的にも斜め後方からのスタイルにかなり魅かれる。真後ろにまわるとリアゲートはかなり幅広で、開口幅は1020mmの余裕があり430Lの容量。CX-3とは比較にならず、確かにスッキリと広い。外国製の車輪が大きなベビーカーがすんなり入るとのこと。また開口部下端高も731mmと低めで、女性や高齢者にも優しい設計だ。愚息もあのときCX-30だったら飛びついていただろう。

後席は前席とのヒップポイント間を広めに取るとともに、ヒップポイントとフロアを低くすることで空間にゆとりを持たせ、大きな体格の乗員でも余裕を持って着座できるようにした
ラゲッジスペースはベビーカーとキャリーオンバッグなどを同時に積載できる430Lの荷室容量と1020mmの開口幅を確保

高速走行での直進性の確かさ。自然体で操作できるハンドリング

 では走り出そう。まず走行中の室内静粛性が高い。ドイツには速度無制限のアウトバーンがあるが、160km/h強という速度で巡行できるし、この時の風切り音が背の高いSUV(といっても1550mmを切っているけど)としてはトップクラスの低さ。ロードノイズもしかりで、100km/hを超えても音質の変化が速度上昇に対してゆっくり。このあたりはMAZDA3に準じている。ベースは同じだから当たり前といえば当たり前。ただ、ロードノイズは少しだけCX-30の方が大きいと感じた。この静粛性に関してはガソリンもディーゼルも共通している。特にディーゼルはボディそのものの遮音&遮振動が功を奏している。減衰節という、振動エネルギーを熱エネルギーに変換して収める最新技術が投入されているのだ。

 このアウトバーンでの高速走行で感じたのは直進性の確かさだ。4輪の接地感が高く160km/hレベルでも安心して巡行でき、過剰なステアリングのカチッと感がなく、でも少々路面が荒れていようがしっかりと自立直進する。とにかく、高速での安心感が高い。サスペンションはMAZDA3よりもバネレートを硬くしているもののロールは10%増えているとのことだが、その後の100km/h制限の田舎道で試したコーナリングではまったく不安ナシ。ハンドリングはシャープでもなくスローでもない、ナチュラルなものと表現しておこう。とにかく今あるマツダ車の中でいちばん自然体で何も考えなく操作できる。1番近いのがロードスターの廉価バージョンだろうか。

 このフィーリングにはシートも一役買っている。シートもMAZDA3からの流用だがSUV用に若干手が加えられている。骨盤の上下部、大腿部で骨盤をしっかりと立て、シートバック上部で胸部重心を支えることで脊柱のS字カーブを維持できる構造をとっている。実はCX-30から降りた時に腰痛持ちのボクの腰が軽かった。それもそうだが、レーシングドライバーとしてはシートの優劣がラップタイムに影響することを熟知しているから、このCX-30のシートは優秀だ。自然に感じ、恐怖を感じさせないハンドリングの一部はこのシートのおかげだろう。

 トランスミッションの多段化が進む中6速ATとはどうかな? という心配をしたが、24VのマイルドハイブリッドながらSTOP&GO、低中速加速でしっかりヘルプがあり、10%以上の急坂が続くホテルの周囲も難なくこなしトルク不足は感じない。こちらはATだったこともあり、そのマネージメントもマッチしていた。逆に1.8ディーゼルの方は(6速MT)、極低回転域のアクセル反応にファジーな部分があるのが少し気にかかる。しかし、中速域のトルク感はディーゼルらしい太さで心地よい。今回MAZDA3で試乗したSKYACTIV-Xエンジンもラインアップされる予定だが、売れ筋はこの1.8ディーゼルにATとなるだろう。ATであれば極低回転域の遅れるようなフィーリングはかなり相殺されるのではないだろうか。

 最後に、国産&輸入のどちらでも、コンパクトクラスのSUV購入を考えているあなた、CX-30のデビューを待つことをお勧めします。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/